25 大会練習
衝撃的な告白から一夜明け、
今はシリウスと共に街を少し離れた平原にきている。
4日後に武術大会があるのでその練習だ。
『いやぁ~。昨夜はよく眠れましたか?シュネイさん?』
「図太いのでよく寝れましたよ、シリウスさん」
俺の「天使の血筋」の方の名前で呼んで揶揄う。
しかし俺はもう決めたのだ。
そう。
もう気にしない、と!!!
『昨日貰った要項用紙を見るに、剣は自分のものでいいらしいよ。けどもちろん芸石が取り付けてある武器はだめだって。』
「俺の付いてないから、そのままこれ使うわ」
俺自身が鍛冶をして作った剣を持って答える。
『うん、いいと思う。それで君が最も気を付けなくちゃいけないのは、大会中芸を使わないことだ。』
俺は「天使の血筋」であった。
つまり芸石がなくても芸ができる。
大会参加者はみんな芸石が取り上げられるから芸を出しようがないけど俺は出せてしまうのだ。
つまりミスって芸を出した瞬間、十中八九、反則だと思われてしまうだろう。…きっと「天使の血筋です」って言っても信じてもらえないだろうし。
「大丈夫、そんなミスはしないよ」
そう言うと、シリウスは顔をしかめて言った。
『君…けっこう意図せず使ってるよ。走るときとか無意識に風の芸でスピード上げてたりするからね?』
「へ?!!まじで??」
『まじまじ。おおまじ。』
それは知らなんだ……
まずいじゃん…!
『と、いうことで!この4日間は、芸を使わない対人戦の練習をしたいと思います!』
「うわ~助かります!」
『君の武器は片手でも持てる直剣だけど、大会では好きなものを持てる。だから僕はそれぞれ直剣、斧、槍、短剣、弓で相手をするよ。全然戦い方が違うから自分でコツ掴んでね』
うわ~。「自分でコツ掴んでね」って投げられたわ。
けどすげぇな!全部使えるのかよ!
「うーん、まぁ頑張ってみます。俺はもう対人戦は油断しない」
『とてもいい心がけだね。君がもっと油断しなくなるように、最初は布で相手をしようかな〜』
そう言ってシリウスは荷物の中に入っていた、細長い汗拭き用の布を出してきた。
いや……相当だな!!
けどシリウスは勝てないようなことはしない、なぜならあいつ自身、対人戦を油断しない奴だから。
つまり……
「めちゃくちゃ自信あるじゃねぇか…」
『ああ。 最初はこれで十分だよ 』
・・・・・・
ああああ~………ちくしょう。
言葉通り、十分だった。
俺の剣が縦に振られるタイミングで、歯の付いてない脇から布を通されて剣ごと横に引かれた。同じように俺が横に剣を薙ぐと、縦に剣を引かれた。
そのうちの一回は、柄部分を布で縛られ動かせなくなった。実践なら即アウトだ。
『さ!じゃあ、そろそろ武器でも持とうかな~〜』
シリウスは鼻歌を歌いながら、持つ武器を選んでる。
俺は汗だくで死にそうなのに。
こんにゃろう……
その後、弓では走り回らされ、短剣では速さについていけず、槍では吹き飛ばされ、斧では潰され、直剣では文字通り殺されかけながらも・・・練習を積んでいった。
そして4日後・・・・・・。
「『さぁ~始まりました!シリアドネ公国主催、武術大会~!!」』
芸石で音を増幅させた会場アナウンスが聞こえる。
今はたくさんの人と一緒に大部屋にいる。
この後、番号順に数組ずつ競技場に呼ばれて、そこでそれぞれ試合をする勝ち残り戦だ。
『アグニ、きちんと油断せずに、頑張りなさい』
「おう!行ってくる!」
俺の番が来て、片手に剣を持ち競技場へ進む。
よっしゃあ、行くぞ!!!
「よろしくお願いします!」
『…よろしく。』
おっと?試合前は挨拶しないのか?
20歳くらいの茶髪茶目の青年が相手だった。
手には俺と同じ、片手用の直剣を持っている。
あぁ〜けどたぶん俺より年下なんだなぁ…
なんせ俺、64年は生きてるらしいし?
あ、なんか悲しくなってきた……
俺が1人で様々なことを考えていたら、向かい合った青年は剣を構えた。試合が始まる時間だそうだ。
俺もゆっくり深呼吸をして剣を構える。
意識が青年のみに注がれる。
油断は しない。
さぁ、 戦おう。
アグニさん、シリウスに扱き倒されました。
大会スタートです!