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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第7章 第3学年
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234 第3学年初日 ~*カールの覚悟~



3年生の授業内容は2年生のものと近い。

違いがあるとすれば、たまに実習が入ったり、1年生を指導する『合同練習』の時間があるらしい。

あと座学が減って武芸や技術の時間が増えた。


『シュネイ様、おはようございます。今年度もともに学べますこと、我々一同大変嬉しく、身の引き締まる思いです。』



   コルが……話しかけてきた?

   


3年生最初の日の朝、俺が教室に入るとすぐにコルネリウスが話しかけてきた。

一昨日のパーティーでの態度とは全然違う。

あの日は俺のことをバカにしていた。けれど今は、俺のことなんか気にしてませんよ〜って態度に見える。



   なんでた?

   この2日間でどんな心境の変化があった?


   あ、けどとりあえず答えなきゃ



俺はあわあわしつつも必死に頷いた。


「あ、ああ……!俺も!俺も嬉しい!今年もよろしくな!!」


コルはニコリと笑って無言で去っていった。

コルが挨拶をしたからか、クラスメイトも次々と俺に挨拶をしにきてくれた。


「よろしくね………()()()。」


「今年もよろしくね、アグニ!」


セシルとバルバラの挨拶は気軽で以前のようだった。


「あの、まぁ、武芸の時間とかは俺もたくさん学びたいし……その、変わらずよろしく…お願いします!」


パシフィオも挨拶にきた。

随分と久しぶりに喋るなぁと思いながら、俺は出来る限り笑顔で答えた。


「アグニ、」


「カール!」


「今年度も、引き続きよろしくお願いします。」


カールはずっと変わらない。

今のように人前であえて距離をとる時はあるが、カール(の芸素)が俺を遠ざけることは決してなかった。



   あれ、そういえば刻身の誓い……

   あれってもう無効じゃね??



カールはシリウスと刻身の誓いを交わしている。

それは俺が天使の血筋だと世に公表する前に、バラさないように縛る目的で行われたものだ。

けど帝国中に公表された今、あの契約はもう必要ないはず。


「……なぁカール、夜少し時間あるか?」


俺の質問に、カールは一拍置いてから頷いた。


「もちろん。夕食後、アグニの寮に行くよ。」


「え、いいの??」


カールはフッと笑った。


「天使の血筋様に来させるわけにはいかないだろう?」



   うそ、、寮まで来てくれるんだ……!!

   え、どしよ。なに準備しとこうかな…!!



お菓子とか紅茶とか……あとでカイルに用意してもらおう。

あ、どこで喋ろうかな。ダイニング?俺の部屋?いや、温室の方がいいかな。あ、やっぱ2階の応接室にしよ!


友達が夜に来るというだけでワクワクする。



それほどまでに、以前のような交流は途絶えていた。





・・・





「カール!!いらっしゃい!!」


「ははっ、元気だな。お邪魔します。」


夕食と入浴を済ませたタイミングでカールが寮にきた。


「この寮は24時間ずっと警備、ドアマン、侍女がいるのか?」


「うん!ずっといる!」


「……さすがだな。」


前の寮には寮母さんしかいなかったが、今は入り口に警備2名、ドアマン2名、そして侍女・侍従、シェフがいる。その代わりに寮母さんはいない。


エントランスにいた侍従がカールのコートを受け取り、別の侍女が2階の応接室まで案内した。


「カール、何か飲むか?」


「ん〜……少し酒が飲みたいんだけど、あるか?」


「え、お酒??」



   カールがお酒?

   いつの間にそんな大人になっちゃったんだ? 


   まぁ俺もお酒好きだから全然いいけど

   紅茶の用意しちゃってたな



「あ!じゃあ夜だしさ、おすすめの飲み方があるんだけど、、、」

 

俺の言葉にカールは挑戦的な笑みを浮かべた。


「ほぉ?」


俺はカイルに紅茶とウイスキーと砂糖を用意してもらい、甘くなりすぎない程度にそれらを混ぜた。


「……なんだ?」


「これはシーラから教えてもらったお酒だよ。夜寝る前にいいんだってさ。」


度数は高い。

けどだからこそ、この一杯を楽しめば良い眠りにつける。


俺は紅茶ウイスキーをカールに渡した。

カールは恐る恐る口をつけ、、、ほっと大きなため息をついた。


「さすがシーラ様だ……美味い……」


カールの表情が先ほどよりも柔らかい。

どうやらけっこう気に入ってくれたようだ。


「おぉ、よかった!あ、カイルも同席していいか?」


「ああ、もちろん。カイル久しぶり。」


「たしかに話すのは久しぶりだな。」


実はカイルとカールはタメ口で喋る仲だ。

一緒にリュウちゃんの背中に乗ったからだろうか。


同世代の男3人で酒を飲み、穏やかに流れるこの時間はとても気持ちがいいものだった。


「それで、何か話があったんだろう?」


「あ、そうそう!」

   

うっかり本題を忘れていた。

俺は一旦紅茶ウイスキーを机に置き、カールをまっすぐ見た。


「カール、シリウスに刻身の誓いを解いてもらおう。」


俺の言葉にカールは驚かなかった。予想していたのかもしれない。

カールは先ほどと変わらない様子で紅茶ウイスキーを飲み続けた。


「ありがとうアグニ。だけど俺は、この誓いを解くつもりはない。」


「え……なんで?」


この誓いは、シリウスに自分の心臓を渡しているようなものだ。一瞬で殺される可能性もある。

この誓いがある以上、カールはシリウスに利用され続けるということなのだ。


カールは俺の問いに少し考えて、ちらりとカイルを見た。そしてその後に俺を見た。



「この誓いは、共犯者である証だからだ。」 



共犯者・・・それは刻身の誓いをした時、シリウスがカールに言った言葉だ。


俺は犯罪を犯した覚えはない。

けれどもカールは今、自身を『共犯者』だと言った。


カールはいったい何を見たのだろう。何を知ったのだろう。

自身を共犯者だと言ったカールの瞳は、どうしていつも以上に強く、まっすぐで、優しいのだろう。



   ……いつまでも遠慮してたのは、俺の方か



俺もカールも巻き込まれていくだろう、シリウスの思い描く未来に。

けれどカールはすでに覚悟を持っていた。


「そっか……うん、わかった。」



俺は笑顔を作った。


「俺たちは、これからも共犯者だ。」




俺の言葉に、カールは一層優しく笑った。







・・・・・








アグニは、知らない。



自身が共犯者にはなれないことを。


シリウス様が、アグニの未来を思い描いているということを。

俺が忠誠を誓っているのは刻身の誓いをしたシリウス様にではなく、アグニだということを。



 けど、これでいいんですよね?

 


俺は心の中で、あの人に話しかけた。

言葉では伝わらないが、『よくやった』と言われた気がした。

こうして意思疎通を常に取り合い、シリウス様が一緒にいられない時は俺が護ることになった。



アグニ、お前は知らないだろう。


お前のためなら何千人をも犠牲にして、戦争を起こす人がいることを。

こんなにもずっと護られているということを。

お前の未来が光り輝くようにと、闇を請け負う人間がいることを。


どうかこのまま、何も知らないでくれ。


知らないまま、綺麗なものだけをその瞳に映してくれ。

闇を知らず、誰もが惹かれる王道を歩んでくれ。




でなければ、シリウス様が報われない。




暖かくて明るい、大勢に護られている寮を背にし

俺は自分の場所へと帰っていった。 










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