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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第6章 名はシュネイ
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229 僕の番ね



『よし、じゃあシュネイは終わり。次は僕の番ね。』



「……………………え?」


去って行こうとした時、

シリウスが両手をパンと鳴らし、まるで次なる段取りがあるかのようにはっきりとした声で告げた。


『まさか天使の血筋でもない人間が僕らに対してこんなことをして、このままで済むなんて思ってないよねぇ??』



   …………んんん??


   もしかしてこいつ……

   めっちゃ怒ってないか???



シリウスはケラケラと、とても楽しそうに笑っていた。

けど違う。これ、楽しがってるんじゃない。めっちゃ怒ってる。


俺がハイセン村の人たちを見ると彼らの顔は既に青かった。すごい、俺よりも察しがいい。


シリウスはずっと冷静だった。そして俺が守るべき・大切にすべき優先順位を改めて気づかせてくれた・・・なんてのは大間違いだった。


『僕ってさ、ほら、神?だからさ、寛大なんだよね~。』


先ほど村人が「疫病神」だと言ったのはたぶん俺に対してなんだけど、シリウスはその話を持ち出した。


『だから君たちの学の無さは僕の寛大な心を持って、決して国には告げず、僕個人の懲罰に抑えることとしよう。』


「「『「「『「 え……? 」』」」』」」


「っ……!!!」


カールは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに険しい表情になった。芸素からは焦りを感じる。

けど俺は今の状況がよくわからなかった。


「なぁシリウス、チョウバツってなに?」


そもそも単語の意味がわからなかった。初めて聞いたし、授業で習ったこともない。


「懲罰とは……定められた規則に反する行為を行った者に対し、罰を与え懲らしめること。そしてこの場合の規則とは……帝国基本法を指す。」


カールが代わりに答えてくれた。


「ほぉ……それで??」


「………天使の血筋は……侮辱行為や傷害未遂以上の行為を自身や周囲が受けた場合、法を代行し適切な懲罰を行使することができる……とされている……。」


「………え。」


天使の血筋は、神の子孫。

一般市民が通常の貴族に対して侮辱行為や傷害未遂をしても、相当な罰を受ける。

もしそれが天使の血筋相手だったら・・・その処罰はどれほど重くなるのだろうか。


『君たちは~、侮辱もしたしぃ、物も投げたからぁ、傷害未遂?いや、頭に当たれば死んでたかもしれないからぁ、殺人未遂かなぁ?』


シリウスは楽しそうに懲罰の度合いを考えていた。


「な、なぁカール、天使の血筋への傷害未遂って……ど、どうなるんだ……?」


俺の問いに、カールは険しい顔のまま深くため息を吐いた。


「まず、シリウス様が殺人未遂だと仰ったのだから殺人未遂だ。そして、カイルらがブガラン王を襲撃した時の結果を覚えているか?」



   ・・・あ。 これ、まずい。



「…………死刑……だった。」


「帝国基本法上は……天使の血筋は皇帝の次位にあたる。王族よりも地位は高い。つまり・・・」


「……………ここにいる皆、死刑……?」


  ひゅっ……!!


誰かの細く息を吸いこむ音が聞こえた。

村人全員がその場で硬直していた。


「いや……え?? いやいやさすがに……しないって!!なぁ?!」


俺は笑い混じりに、シリウスにそう呼びかけた。シリウスが俺の方を向いて笑い返してくれると信じて。

しかしシリウスは残念そうな顔で村人らに言った。


『たとえ僕とアグニがいなくてもね、子爵家嫡男への殺人未遂でどうせ主犯格は鞭打ち100回……つまり死刑だったんだよぉ。数名か数十名かなんてそんな変わらないでしょ?』


「え、そうなの??」


俺がカールに聞くと、カールは頷いた。


「………アグニ、貴族と平民は……明確に()()んだよ。その中で、貴族と天使の血筋はさらに()()んだ。」


村人らはもう動くことができなかった。呼吸すら止めてしまったのかと思うほど、静かに息を殺してその場に立っていた。


「し、知らなかったんだ………!」


その沈黙の中、一人の男性が声を上げた。


「そ、そんなこと、俺らは誰も知らない!き、聞いたこともない…!だから……」


『許してくれ?』


その男の声を遮って、シリウスが言った。


「そ、そう…です……そんな法律……俺ら知らなくて、」

『僕はとてもとても寛大だからね、君たちに教えてあげよう。』


シリウスはまたその男の声を遮った。


『法律ってね、立場の弱い者のためにあるんだよ。』


シリウスの言っていることは矛盾しているように聞こえる。だって、その法律によって今現在この村人たちは殺されそうになっているのに。


『社会を法律というもので縛ることで、君たちの命を守っているんだ。』


「『「「『「 …………。 」」』」」』


無言の村人たちに、シリウスは同情の眼差し向けた。


『可哀想に……難しい話はわからないか。よし、それじゃあ!もし今ここで、帝国基本法がなくなったとしよう! ギフトを全員に、双極磁体。』


バタ ドサ・・・

たった一言、たった一瞬で村人全員が両手と膝を地面に付けた状態になった。


「えぇ!?!?!?!?!」


これは以前セシルから教えてもらった固有技だ。シリウスはもう既にセシルよりもはるかに広範囲・大人数を相手にこの解名を出せている。


「お、おいシリウス!?」


俺とカールは双極磁体の範囲外だったようで何の影響もなかった。カールは初めて見た解名に驚いている。


『そして僕が、命を弄ぶことに快楽を覚えていたとしよう。』


シリウスは首を垂れたまま動けない状態の村人たちの間を縫うように歩いていった。


『そしたら僕は、どうやって君たちを殺すと思う?』


シリウスは『みんな、地面が好きなの?』と言いながらくすくすと笑っていた。


ヒィィン・・ブル・・!


村の外れの方にいた馬が鳴いた。偶然のタイミングだ。けれどその馬は、シリウスの視界に入ってしまった。


チュゥゥン・・・ドッ バシャアァァ!!!!


「「『「「  ・・・え? 」』」」』


瞬間、馬は細かな肉塊となり、村人たちの上に飛び散った。


「ひ、ひぃぃぃ!!!!!」

「きゃああぁぁぁぁ!!!!!!」

『うわぁあぁぁぁ!!』

「う、うえ、オエッ!!!」

「いやぁぁぁぁぁあ!!!!!!」


叫び声が拡がった。当たり前だ。自分達の大切な馬が、破片となってぶつかってきたのだから。

もちろんシリウスはその時には既に俺の隣まで戻ってきており、シリウス自身に血の雨が降ることはなかった。


散らばる肉の間で村人たちは血の雨から逃げようと懸命に体を動かす。しかし手と足が地面から動かない。


『あははははっ!!!見てみて、赤い芋虫みたい!!あはははは!!!!』


シリウスは子どものように無邪気に笑っていた。

俺とカールはシリウスの行動の意味がわからず、その場から動けなかった。


「え、ふえぇぇん……ママぁ……」


小さい女の子が助けてと言わんばかりに、隣にいる母親の方を見ながら泣いていた。しかしもちろん、隣の母親は姿勢一つ変えられずにいる。


シリウスが、その子を見た。



   あ、まずい!!!!

   シリウスが標的を変える!!



俺はすぐにその子のとこへ走り寄ろうとしたが、俺よりもシリウスの方が速い。

シリウスはその子の前にちょこんと座って、視線を合わせて喋った。


『あのお馬さん、死んじゃったね。好きだったの?』


「う、うぇぇぇん……いやだ、ママぁ!!」


「すいませんすいませんごめんなさい!!お願いしますこの子には何もしないで!!」


子どもはシリウスを見て大声で泣き始め、母親は懸命に身を動かし拘束から逃れようとしていた。

シリウスはその様子を微笑ましい様子で見ていたが、すぐにその女の子の方に視線を戻して言った。


『そんなに好きなら、君もあのお馬さんと同じようにしてあげようか?』


「い、いやぁぁぁぁあやめてえぇぇぇ!!!!」


母親はボロボロと涙を流しながら大声を出していた。しかしその声はシリウスには届かない。



そう、シリウスには届かないのだ。彼らの声は。


「おいシリウス、十分だ。」


けど、知ってる。俺の声は届く。

俺はシリウスの肩に手を置き、立つように促した。シリウスはすんなりと従ってくれた。


『君たちに法律があってよかったねぇ。アグニのように止めてくれる誰かが、この社会にはいるんだから。』


シリウスの言いたいことがわかった。

もしここが無法地帯で、シリウスに加虐性欲があったなら、きっとこの場にいた人たちはあらゆる残酷な方法で殺されていただろう。

しかしこのディヴァテロス帝国は法治国家であるから、シリウスは法に則った正当な裁きを与えようとしているということだ。



   ……ん?

   いや、それはおかしいな?



「シリウス、お前自身は社会に属してないんだよな?」


『え?うんそうだよ。』


シリウスはきょとんした顔で俺を見返した。


「そうだよな。なら、お前が社会とか法の話を持ち出すのはおかしいんじゃないか?だってお前自身が社会に『いない』存在とされているのなら、この村の人たちは『いない』存在を傷つけたことになる。」


「あ、アグニ……?」


カールが遠慮がちに声を掛けてきたので、俺はカールの方を向いて同意を求めた。


「だよな、カール。例えば・・・そうだな、空気を傷つけたら死刑になる法律なんて、帝国基本法にはないよな?」


『空気???』


「あ、ああ。ないけど……シリウス様は空気ではないぞ。」


「でも、社会に属していないシリウスが、都合よくここで社会の法律を持ち出して懲罰を与えるのはおかしくないか?」


都合よく社会を、法律を使おうとしているのはシリウスの方ではないか?と疑問を持ったのだ。


「カール、お願いがある。今回のことは水に流してくれ。頼む!!」


村人達の行為をなかったことにしてほしいと、カールに頼んだのだ。するとカールはすんなりと頷いてくれた。


「え……あ、ああ、わかった…。」


「助かる、ありがとう。」


今の様子にシリウスは少し驚いた芸素を出した。


『……アグニの言う通り、僕は社会の中にいないから法律に則った懲罰はおかしい。つまり、僕の独断と偏見でここの人達をいかようにもできる……ってことだよね?』


いや、眼の前で殺されそうな人たちを俺がただ黙って見ているわけないだろ。


「まぁそうだけど、もしシリウスがこの人たちを殺そうとするなら、俺が俺の命に代えても阻止するぞ。それに・・・」


俺には確証があった。


「……俺の知るシリウスは、そんな簡単に人を殺さない。」


シリウスは彼ら全員を殺すくらいなら、全員と『刻身の誓い』を結んで行動を縛る道を選ぶだろう。

人の命って、そんな軽いもんじゃない。

シリウスはそのことをよくわかっている。いや、そのことを教えてくれたのがシリウスだ。


『ふぅん?』


シリウスはちらりとカールの方を見たが、すぐに俺へ笑顔を見せた。


『・・・・よくわかってるじゃん。』



   ………た、耐えたぁ。

  


とりあえずシリウスの興が削がれる言葉を口に出したが、上手くいったようだ。

それにシリウスがこんなに怒っているのは、村人らの俺への態度が悪かったからだ。要するにシリウスは俺のために怒ってくれたんだ。

そんな人に…いくらシリウスがやりすぎだとわかっていても、やっぱ酷いことは言いたくなかった。



   けどさぁもしかして俺、

   シリウスの扱い上手くなってねぇ!?

   ひゅーっ!やっるぅぅ~!!!



ちょっと自信が出た。

俺、こいつのことちょっとずつ理解している。

シリウスを御そうとは思っていないが、一生扱いに困るのは嫌だもん。


「………そろそろ、行きましょうか。」


カールはそう言って村の外に身体を向けた。カールも、シリウスをこの場から離した方がいいとわかっているっぽい。

馬の血で赤色になっていた村人たちが徐々に立ち上がり始めた。どうやらシリウスが解名を解除したっぽい。


俺は改めて、全員に頭を下げた。


「………ごめんな、ほんとに、ごめんな。」


「行こう、アグニ。」


「………ああ。」


俺は謝罪以外の言葉が出ず、そのまま村をあとにした。





・・・





「あぁ……自分が人に慣れていなくて嫌になる。」


「………そんなことないよ。」


「ありがとう、カールぅぅ…」


ただ謝って去るなんて……あの血まみれになった道くらい一緒に片付けてやればよかった。

謝罪以外に何か気の利いた一言も言えたはずだ。


『最近の子は優しいよねぇ。』


シリウスがため息交じりにそう言った。


「ほんとに……肝が冷えましたよ……」


カールは胸に手を置いて呼吸を整えながら呟いた。

それには同感だ。さすがにシリウスがキレてる時は俺も焦った。


『それよりもさぁ、アグニ?君は何も感じなかった?』


「へ??何を???」


『うんっとね、』


シリウスはまた村の方角を向いた。


『なんかね、ルシウスと似た芸素を感じたんだよね。』





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