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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第6章 名はシュネイ
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228 ハイセン村の事情



ハイセン村は小さいが、平和な村だった。

村で育てた野菜は隣の村と交換し合い、協力しながら生活していた。


しかし、大規模な水害にあい、村へ辿り着く唯一の道路も封鎖され、隣の村に助けを求めに行くこともできなくなった。

明日の食糧すらない絶望の中、俺とシリウスが現れた。


俺たちは随分と役に立ったようだった。

シリウスが解名の『藝』を2回施し、その年の実りは例年の倍になった。


そして俺が「灌漑(かんがい)」を作ってしまった。

俺は……今後の生活が楽になる道具を、提供してしまった。


同じレベルで苦労しあった隣の村はどう思うかなんて、そんなこと微塵も考えていなかった。


ハイセン村は復興予算を国から貰い、経済的にはむしろ裕福になった。

隣の村は腹を立てた。「なぜ水害にあったハイセン村の方が裕福なのだ!」と不満を言うようになったのだ。

しかしハイセン村もそれに腹を立てた。実際、苦労した事実があり、絶望も経験した。そんな重大な時に助けにも来なかったくせに、なぜそんな無情なことを言えるのか、と。


これまでの「助け合い精神」から、「蹴落とそう精神」へと変わっていった。


そして、ハイセン村の中でも諍いが生じた。


それは彼ら彼女らが『シリウス』を知ってしまったからだった。

()()技をまたしてもらえば・・・今年もまた来てもらえば・・・あの芸さえあれば・・・

農業なんぞせずとも、我々は生活できる。苦労せずに、生きていける。


明日を憂うことなく、我々は生きていける。


まぁそんな意見はごく一部で、多くの者が堅実に農業をしていこうと思っていたが、それでも村人たちの『絆』は分裂した。


そんな折、ハイセン村の若者が喧嘩になった隣の村の老人を突き飛ばし、その老人は打ちどころが悪く亡くなってしまった。

物々交換にきていたその老人を「こんな物と交換できるか」とあざ笑い、追い返したらしい。一昨年までは普通にその品物で交換していたのにも関わらず。


灌漑によって収量が安定しただけでなく、品質も向上した。ハイセン村の作物は品質がいいと評判になっており、貴族が立ち寄ることもあるレストランに農作物を卸すほどになったそうだ。

だからもう、隣の村と物々交換などせずともよかった。


そこから一気に事態は動いた。隣の村は完全なる戦闘態勢でハイセン村まで押しかけてきたのだ。


そして、この村の中で戦闘となり・・・


「ご覧の通りだ。」


お爺さんは自虐的な笑みを浮かべていたが、声は沈んでいた。


「……なぁ、それって、さ………」



   俺とシリウスのせいってこと?



『それは災難だったねぇ』


シリウスは眉を下げ、同情しているかのような表情をした。


「あなた様にそんなこと言っていただけるなんて……ありがとうございます……!」


お爺さんはシリウスの表情を純粋に受け取ったのだろう、泣きそうな顔で礼を言った。俺はそれに違和感を感じた。



   ……どうしてだ?

   今のシリウスの表情は本気じゃなかった。

   なのにどうして、そのまんま受け取った?


   けど、とりあえず・・・



「あ、これ……とりあえず今はこんだけしかないけど……」


若者が複数人亡くなり、畑の仕事が滞っている。食料も隣の村に持っていかれたらしい。

今日を空腹で過ごさないためにも、今俺が持っている1人分の干し肉をとりあえず渡そうと思った。

目先の人を助けたかった。


「………やめてくれ。………っ。」


お爺さんは酷く顔をしかめ、悔しそうな、泣きそうな顔をして俺から顔をそむけた。


「………そんな同情は、惨めになるだけだ…!」


「っ…!!!!」


俺は、何か対応を間違ったのかもしれない。

・・・シリウスの対応が正解だったのか?


訳が分からなかった。俺はそのお爺さんに理由を問うべきだったのかもしれない。

しかし、目の前にいるこの人は、もう俺と話したくないようだった。


「そ、そっか…………。」


「あ、アグニ…!おい!!」


俺はカールの呼びかけを全て無視して、逃げるようにその村から出ていった。




・・・






『 どこまでいくの? 』


「…………まぁ、追いつくよな、お前は。」


一刻も早くあの村から離れたくて、俺は山中を走って逃げた。

そして今、止まったタイミングでシリウスが後ろから声をかけたのだ。


シリウスはまっすぐ俺のことを見ていた。俺はその目に耐えきれなくなり、思わず目を逸らした。


「なぁ、あれって、さ……俺らのせいかな?」


『…………。』


「俺らが芸をしたり、灌漑を作ったりしたせいで、隣の村と争いになったのかな。」


『………ねぇアグニ、覚えてる?以前、あの村を救済した時に僕が言ったこと。』


「 ……。」


シリウスがあの村で『藝』をした直後の会話。

  

    ・

    ・

    ・


(『いいかい?アグニ。すぐに結果が出る答えなんて本当は結構少ないんだ。何日後、何か月後、何年後、下手したら何千年後にやっと出る答えもある。僕のとった態度の答えは、今じゃない「いつか」に結果が出る。』)


(『その結果を見て、君が「人」を判断するんだ。』)


    ・

    ・

    ・


シリウスはじっと、興味深そうに俺の表情を伺っていた。


『 君は、「人」をどう思った? 』



「っ…………俺……」


「……ア… アグ… アグニ~~~~!!!!」


遠くからカールの声がする。

しまった。うっかり置いてきてしまった。


「カール!」


俺はカールの芸素を感知し、そちらに走っていった。

カールはすぐ近くまで来ており、息を切らしてヨタヨタになりながらもこちらに走ってきていた。


「ごめんカール!俺、つい……」


「はぁ、はぁ、はあ・・・だ、だい…大丈夫……し、シリウス…様が……場所を教えてくれて……」


カールはシリウスと刻身の誓いを結んでいる。その効果なのだろう。


『やれやれ、君はすぐに周りが見えなくなるね。あのままカールを置いてって、芸獣に襲われでもしたらどうするつもりだったんだい?』


「あ……!カール、ごめん、俺……」


「いい、謝るな。はぁ、はぁ、はぁ……森の中を走ってくれてよかった…。空を飛ばれていたら、無理だった……はぁ、はぁ…」


「………カール、ほんとごめ 」

「アグニ、」


カールは息を整えながら、俺にはっきりと言った。


「戻ろう。ちゃんと理由を知ろう。」


「っ……!!!」



   ……いやだ。

   


「アグニ!!俺も背負うから!俺も一緒にいるから!だから、ここで逃げるな!!!」


「っ……でも、俺……」


俺はシリウスの方を見た。けれどシリウスは、まるで劇でも見ているかのように、自分は関係者ではないような様子で俺たちのことを見ていた。


「アグニ…!!行こう、一緒に。」


「………………。」


俺はカールに手を引かれながら、またハイセン村へと戻っていった。



・・・




もし俺がこの村を壊してしまったのだとしたら、俺が直すべきなのだろうか。



   そんなこと、できるか?



洪水から救ったとばかり思っていた。皆が俺に感謝していた。ありがとうってたくさん言われた。だから、俺は正しいはずだった。


なのに・・・


「ああぁあ!また戻ってきやがったぞ!!」

「帰れ!帰れ!!!!」

『ちょっとやめろ!!アグニさんは俺たちを救ってくれたじゃねぇか!』

「どうしてくれるのよ!人の村をこんなにして!!」

『天使の血筋様もご一緒だ!おいみんなやめろって!!』


「………カール、」


「………。」


カールは俺の呼びかけに答えなかった。顔を真っ青にして、呆然と立っていた。


「………どうやらこれが、答えらしいな。」


理性が飛んだ声で、目を剥いて人を怒号する様は、縄張り争いをする芸獣に似ていた。


「帰れこの……疫病神!!!!!」


「あっ!!」


「うわあぁ!?!?」


パリィィ・・シュワアァァァ・・・!!


俺らに一つの瓶が投げられた。その瓶はシリウスの方へと飛んだが……シリウスの1メートルほど前で細かな粉へと変化した。今のに驚いてカールが尻餅をついてしまった。


「『「「『 っ………! 」』」」』


村人は驚愕の眼差しをシリウスに向けた。『天変乱楽』『藝』、両方とも普通なら一生見ることすらない大技だ。それをあんな簡単に成し遂げてしまうシリウスはレベルが違う。

ガラスの瓶を細かな砂に一瞬で変えるなんて芸当、ここにいる「普通」の村人にはできない。


「なんなんだ……なんでこの村を構うんだぁ!!!」


先ほど瓶を投げた村の男性が泣きそう声でそう叫んだ。


「お前のせいで……お前が余計なことをしたから……!!」



   お前……?

   お前()、じゃなくて……?



「消えろ!!消えろ!!!!」

『ねぇあんたどうしたのよ!?やめなさいよ!』

「お前のせいでこんな目にあったってのに!!」

「天使の血筋様もいらっしゃるのに、なんてことを……!!」


様々な声が聞こえた。この村の人たちの意見は一つにまとまっているわけではないみたいだ。

けど、村人が俺らに瓶を投げたのは事実で、非難の声が多いのも事実だった。


俺はこの村に利が生じると思って灌漑を作った。少しでも助けたくて、頑張った。けれどそれは、どうやらいけないことだったらしい。



   あぁ・・・悲しいなぁ。



俺は最初から、この村には必要のない存在だったんだ。


『ふふっ……』


シリウスの軽やかで慎ましい笑い声が聴こえた。


『…疫病神か。その名は初めて言われたなぁ。』


シリウスはなんだか嬉しそうだった。


『けれど、あらゆる神の名の中で、それが一番しっくりくるかも。』


今までの怒号や叫びを一切耳にしていなかったのではと思うくらい、シリウスは澄んだ綺麗な表情で笑っていた。

いや、実際彼らの吐く言葉など気にはならないのだろう。

シリウスは村人らの方には目もくれず、俺とカールの方を見た。


『アグニ、もし今のがカールに直撃して死んでいたら、君は自分を責めない?』


「っ……!!!!」


そうだ。今のはシリウスが庇ってくれただけで、シリウスがいなければカールに直撃していたかもしれない。もしそうなったら・・・・


俺の目の前で友達が死んでたかもしれない。


ギガァァァァァン!!!!!!


「『「『「 ひゃああぁぁぁぁ!!!! 」』」』」


俺は、俺らと村人らの間に雷を落とした。


「………ありがとう、シリウス。」


『どういたしまして。』


シリウスはずっと冷静だった。そして俺が守るべき・大切にすべき優先順位を改めて気づかせてくれた。


「………ごめんなさい。」


「『「『「 …っ!!!! 」』」』」


俺は村人らに頭を下げた。


気付いてしまったのだ。村人たちが最初から憎んでいるのは、俺だけだった。

シリウスのことは、憎んでいないのだ。


俺はカールに手を差し出して立たせ、改めて皆の方を見て問うた。


「………俺らに、どうしてほしい?」


「『「『「 ………。 」』」』」


村人らは無言で互いの目を見合った。きっと各々の答えが違うからだろう。

しかし、先ほど俺らに事情を教えてくれたお爺さんが奥から一歩出てきて、言った。


「…………もう我々と関わらないで欲しい。」


 その答えは 予想できていた。



「…………………うん、わかった。」


この村が大変な目にあって、そこから一緒に頑張れた時、

俺は少なからず嬉しかったよ。

不謹慎かもしれないけど、楽しかったよ。

一緒だから頑張れたよ。


けどもうここで、さよなら なんだな


「………もし何か、もし何か俺にできることがあったら、以前伝えた家に手紙を送ってくれな。」


「『「『「 ………。 」』」』」


「…………じゃあな。」


俺は一度ちゃんと村人らに笑顔を見せた。これ以上悲しく惨めな別れにはしたくなかったからだ。


そしてこの村を去っ・・・



『よし、じゃあシュネイは終わり。次は僕の番ね。』


「……………………え?」



去って行こうとした時、

シリウスが両手をパンと鳴らし、まるで次なる段取りがあるかのようにはっきりとした声で告げた。


『まさか天使の血筋でもない人間が、僕らに対してこんなことをして、このままで済むなんて思ってないよねぇ??』







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