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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第6章 名はシュネイ
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225 "グーデュリューン"



俺は一応『貴賓』扱いなので、正式な移動には警備がつく。

だがしかし俺は「恐縮ですぅ!!」を押し通して、なんとか警備人員を2人に抑えた。

しかも現地に一緒に向かってくれるのはヴェルマンと、ヴェルマンの腹心の部下だ。


「オンリと申します…!て、天使の血筋に…あの、お目にかかれまして……!!」


軍服を着てオンリと名乗った男性は、わかりやすく緊張していた。歳は20くらい。茶の髪に茶の瞳。髪が短すぎてツンツンしている。体も締まっており色々な芸石をつけているので、複数の芸を操れるのだろう。


「シュネイです。よろしく!けど俺のことは『アグニ』って呼んでくれ。周りもその方が困惑しないだろうし。」


『私はヨハンネよ。よろしく♪』


まぁ、もちろんシリウスも付いてくる。治癒師として。


「はっ…ははー!!!アグニ様、ヨハンネ様!い、命に換えましてもお護り……」


「命に換えないで?!!!!」


オンリは初めて天使の血筋と喋ったようで、めちゃくちゃ緊張していた。ヴェルマンはそんなオンリを優しく見守っていた。


ヴェルマンは辛うじて軍部に席を置いているが、もう隊長ではなくなり、実務も担っていない。

一方のオンリはヴェルマンの直接の部下ではなかったものの、平民から軍部に入り隊長まで登り詰めたヴェルマンのことを慕っていた。


「へぇ〜そうなんだ!だからオンリはヴェルマンに敬語を使ってるのか。」


俺らは馬で湖に向かった。

ヴェルマンもオンリも身体強化を使えるが、部分的な身体強化は使えないし、走る速度も馬に乗るのと変わらない。なので今回は騎乗して移動する。

たぶん夜通し走って、明日の朝に着くだろう。


「もちろんです!年齢も功績も実力も、僕の全てがヴェルマン隊長より劣ってますもん!」


「こら、もう俺は隊長じゃないぞ。」


「あ、失礼しましたヴェルマン中尉!」


ヴェルマンは階級が3つ落ちて中尉になった。オンリは大尉なので、ヴェルマンより1つ上の階級だ。この戦争で階級が逆転したらしい。


「メディア湖には明日の昼には着くでしょう。オンリ、本日の移動記録を報告しておいてくれ。」


「はい!」


俺らは小さな町で一泊することになり、オンリが今日の移動記録を通信用芸石でシモン達に報告しようとした時、


『え?メディア湖?』


シリウスが湖の名前を聞き返した。

ヴェルマンもオンリも不思議そうな顔でシリウスを見た。


「はい、シ…ヨハンネ様、現在はメディア湖に向かっております。」


『あれ?いつからそんな名前になったの?』


「「 はい?? 」」


『あの湖は "グーデュリューン" だよね?』


「「「 グーデュリューン???? 」」」


ヴェルマンとオンリは互いに顔を見合わせて首を横に振った。


「いいえヨハンネ様、この湖はずっとメディア湖という名前でしたよ?」


「はい、私もその名は聞いたことがありませんが……。」


『え?みんな、グーデュリューンって呼んでたよね?』


ヴェルマンもオンリも困った顔をした。本当にその名前を聞いたことがないのだろう。


「……村の人に聞いてみるか!現地の呼び方とかなのかもしれないし。」


「そ、そうですね。あ、お二人はこちらでお休みください。私とオンリで聞いてまわります。行くぞオンリ。」

「はい!!」


2人が宿から去り、その間に俺らは風呂に入った。この町1番の宿だけあって、風呂が大きい。

風呂から上がったら俺らは併設されているレストランで食事をとった。


「お待たせいたしました、こちらはメディア湖産貝の葡萄酒蒸しでございます。」


『ねぇ、メディア湖ってグーデュリューンって呼ばれてなかった?』


「は、はい??」


料理が運ばれた途端にシリウスは店員に質問をした。店員さんは困惑した様子で首を横に振った。


「も、申し訳ございません。その名を伺ったことはありませんが……。」


『……他の店員にも聞いてくれる?』


「おいシ、ヨハンネ!すいません、時間があればで大丈夫なので…!!」


「か、かしこまりました……。」


店員さんは首を傾げながら去っていった。シリウスは食べもせず黙って貝を見続けていた。


「………シリウス、これ食べてな。俺も他のお客さん達に聞いてみるからさ。」


『………うん。』


俺がそういうとシリウスは素直に従った。

俺は各テーブルを回り、グーデュリューンって名前に覚えがないかを聞いていった。


しかし、誰もその名を知らなかった。



「アグニ様、ヨハンネ様!すいません、お待たせいたしました!」


「あ、ヴェルマンとオンリ!お疲れ様〜どうだった?」


俺らがコース料理一式を食べ終わるころに2人はレストランに戻ってきた。

2人はぎこちない表情をしており、聞かずとも答えはわかった。


「申し訳ございません、グーデュリューンという呼び名を知っている者は見つけられませんでした……。」


「そっか。だってさ、シリウス。」


『 そっかぁ………… 』


途端、シリウスから芸素がじんわりと漏れ出た。

その芸素から伝わるのは……『寂しさ』。

遠慮がちに溢れ出た芸素のくせに、心に刺さるような鋭さを持っていた。


「………ヴェルマン、オンリ、時間がある時で構わないから過去の軍事記録を調べられるか?」


『………もういいよ、アグニ。』


「でも…!」


『いいよ。』


いいよと言う割に、シリウスは淋しそうだった。


「………何がいいよだよ。全然よくないだろ……」



   そんな辛そうに笑ってるのに



「………アグニ、ヨハンネ様、僕が責任を持って調べます。約束します。」


ヴェルマンが優しい声色で俺らに言った。シリウスはそれでもなお、弱々しく笑うだけだった。

その表情に、俺も辛くなった。


「………今日はもう遅いです。とりあえず、休みましょうか。」

   



        ・

        ・

        ・




俺は夢を見た。

久しぶりに、過去に戻った。


俺はまた女性だった。いつもの姿だ。


そしてやはり、その世界は驚くほど美しくて、こんな幻想的な場所は地上にはないと断言できた。



夢の中でも夜だった。

俺は何人かの天空人と一緒に地上を見ていた。今日は特別な夜だった。


『ねぇ、シュネイ、まだ?』


「あともうちょっとですよ。」


「月がもうあんなに近いわ!」


『ほんとだ!ねぇ、あとどれくらい??』


「もう少しですよ、もう少し。」


「まったく……本当にシュネイに甘えっぱなしね。」


そばにいた天空人が笑顔でそう言った。

俺は困ったように笑っていたが、全く困っていなかった。


『シュネイは嫌なの?』


この小さな小さな宝ものは、意地悪そうに笑ってそう聞いた。

"私"は愛しいこの子を少し抱きしめて答えた。


「何を言ってるの? もう、意地悪ね。」


『えへへ。でもね、』


その子は周りにいる他の天空人を順々に見て言った。


『僕はシャカも、シンも、シャノンも、シシリーも、みんなみ〜んな大好きだよ!』


「「  んもぉ〜〜〜!この子ったら!! 」」


途端に周りの天空人達は、その子を抱きしめる"私"ごと抱きしめた。


『あははは!苦しいよ〜!!』


「ははははっ!……あ!下!見てみて!!」


「「「『 うわぁ……! 』」」」


 地上の湖が光っていた。

 月が水の中に飛び込んだみたいだ。


『うわぁ!すごいすごい!!』


「何回見ても綺麗ね〜」

「そうだなぁ」


月明かりを反射し、まるで湖自体が発光しているように見えるのだ。

空には変わらず月が出ていて、月明かりが優しく世界を包んでいる。それなのに地上にも月があった。


『ねぇシュネイ、あの湖に名前はあるの?』


小さな天空人が、天使のような笑顔でそう聞いた。

幸せに満ちた世界で、"私"はその子の頭を撫でながら答えた。





        ・

        ・

        ・





『アグニ、アグニ、起きて。』



シリウスの声がする。

俺は夢現のまま、目を開けた。



「朝………?」



『そりゃあそうだろう?夜が来たら次は朝だ。』


少し離れた場所にヴェルマンとオンリが立っていた。寝ている俺を起こせず、代わりにシリウスが起こしにきたのだろう。オンリが一歩前に出て敬礼した。


「アグニ様おはようございます!朝食は……」


「 シリウス、 」


「……え?シリ…ウス…?」


「あ、こらアグニ……!!」


ヴェルマンが俺を咎める声をあげたが、俺は全く気にしていなかった。


シリウスは既に髪を隠していた。

まだ陽が昇ったばかりなのに。

あの世界じゃあ、こんなことしなくてよかったのに。


俺を見つめる金色の瞳だけが、この世界でもまだ生き残っていた。


「………思い出したよ。あの湖は……"グーデュリューン"だ。」


「「 ………っ!! 」」


ヴェルマンとオンリは黙って俺たちのことをみていた。


「思い出したんだ。グーデュリューン……俺たちの言葉で、"月の雫"って意味だ。」


俺はたまらない気持ちになった。

感情が溢れ出てしまう。それを抑えようとして、代わりに涙が溢れ出した。


「俺が……俺がお前に教えたんだろ?」


あぁ、どうして今まで気づかなかったのだろう。

どうして今まで、忘れていたのだろう。


「 あの子は……シリウスなんだろ………?」


いつも一緒で、俺を慕ってくれていたあの小さな天空人



 あれは、シリウスだ。



「皆んなと一緒に……夜を待ったのに……」



   あぁ、涙が止まらない。

   悔しい。どうして忘れていたんだ。

   どうして思い出せなかったんだ。



しゅるる………


「「 っ……!! 」」


シリウスは髪を覆っていた布を取った。


部屋に差し込む陽の光は、きっとシリウスに祝福を与えたのだろう。

白金の髪は光を含んできらきらと輝いていた。



   あぁ、やっぱり綺麗な色だ……

   かつての俺が、大切にしていた色だ



シリウスは俺に近づき、目線を合わせた。


『久しぶりだねぇ、シュネイ……』


「っ………!!」


その顔は、あの子のものだった。

あの……夢の中でしか会えない子と、同じ表情をしていた。



   よかった、また逢えたんだ

   死んでいなかったんだ



「……シ、シリウス………う、うぅああぁぁ……!!」




俺はいつの間にか、声をあげて泣いていた。











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