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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第6章 名はシュネイ
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220 たった半日の武芸練習

皆さんのお住まいの地域は寒くなってきてますか?

こちらは現在、喉が死にましたところでございます。


その後、

先ほど俺に訝しげな顔をした男性と、その上司と思われる女性が俺に謝罪をしにきた。


部屋に入った瞬間、男性の方は地面に手をついて謝罪し始めた。そしてボロボロと大粒の涙を流しながら何度も感謝の言葉を俺に言った。

上司はそんな彼を制しながらも、その男性と同じくらい丁寧に謝罪と感謝を伝えてくれた。


やっぱこれでよかったんだと思った。



「よし、じゃあ帰るわ!じゃあな、カール!さよならブラウン子爵!」


「「  え?!?! 」」


「え?なに??」


子爵とカールはやはり親子だ。呆然とした顔がよく似ている。


「アグニ……君、徒歩で来たの?」


「おう!街を歩きたかったしな。そんで今から森の家に行こうと思ってて。」


「な、何を言ってるんですか!?な、なにを、何を言っている…何を仰ってるんですか!?我が家の馬車をお使い下さい!!」


子爵、慌てすぎだって。

カールも実父の驚き方が面白かったようで、若干口が歪んでいる。しかしできるだけ真面目な顔を保とうとしているのが伝わる。


「え、いらないっすよ〜」


「「 そういうわけにはいかない! 」」


頼むから馬車を使ってくれと声を揃えて言われてしまったので、仕方なく俺は馬車を借りることにした。

別に誰も俺のことを天使の血筋だと思っていないし、全く問題ないのだが・・・。


しかしすごい心配されてしまうので、これからは「近くに馬車が待機してる」って嘘をつこうと思う。




・・・・・・





バン!!


「クィト!ルシウス!元気か!!」


「アグニさ〜ん!!」


俺が元気よく扉を開け居間に突入するとすぐにルシウスは両手を広げて俺に向かってきた。


「あれ、アグニじゃん。そっか、今日だったっけ。」


一方のクィトは本を読んでいたようで、随分と呆気ない対応だった。


「はい!これお土産だぞ〜」


俺は先ほどカールから貰った焼き菓子の小箱を机の上に置いた。


「うわーい!中身はなんですか??」


「……甘いものだったら、お昼の後で食べる。」




・・・




クィトとルシウスがお昼ご飯を作ってくれているうちに、俺は森の中でハーブを採集した。ハーブティーを作るのだ。

2人は、堅パンに野菜、お肉、チーズや野菜の酢漬けを入れた大きなサンドイッチと、芸獣の肉と葡萄酒を使った煮込み料理を作ってくれた。そこに俺が余分に採ってきたハーブを加え、味に深みを足す。


「ん!!美味しい!!」


「美味しいですね!」


「……まぁね。」


俺ら(主に俺とルシウス)は美味い美味いと言いあいながら昼を食べ、ハーブティーと焼き菓子を食後のデザートに食べた。

クィトはちゃんと第4学院でうまくやっているらしい。最近は整備屋の息子とよく一緒に行動しているとのことだ。


「クィトは第4学院では家族のことをなんて言ってるんだっけ?」


クィトがこの森の家に住んでおり、シャルト公爵の保護を受けていることは内緒にしている。なぜならシャルト公爵の庇護下ならば第1学院に行かざるを得ないからだ。


「帝都の北東で両親が配達の仕事をしてる設定だよ。」


「あぁそっか!そうだったな。」


この嘘を本当のように見せるために、公爵は該当する地区に家を一つ買った。もちろん、別の人の名義で。

そしてそこにマルガやエメルのような『その家を管理する人』を男女1人づつ設置している。偽装工作はばっちりなのだ。


「そういえばアグニさんはこの後どうされるんですか?」


「あー公爵邸に戻るよ。今日はシーラと芸の練習しようって約束してんだ。あ、なんなら一緒に来るか?」


ルシウスにそう声をかけると、ルシウスは少し迷った様子だったが笑顔を見せた。


「はい!僕も一緒に行きます!解名を覚えたいので。せっかくだからクィトも一緒に行こう。」


クィトは少し戸惑った様子を見せた。

しかしクィトが来て困ることはない。むしろ公爵やシリウス、シーラやクルト含め全員クィトと会いたいだろう。


「来いよせっかくだから。顔出して、元気だよ〜って言うだけでいいんだから。」


「・・・わかった。行く。」


クィトの芸素が元気に暴れている。表情も嬉しそうだった。

クィトは、今はちょっとツンツンしてる時期だけど、なんだかんだシリウスのこともシーラのことも、クルトのことも好きなのだ。




・・・・・・




「あら、ルシウス、クィト、いらっしゃい。2人がこっちに来るなんて珍しいわね。」


「シーラさん!お久しぶりです!」

「シーラはよく森の家にきてくれるよね。」


別邸に入ると、ローブを着たシーラが2階から顔を出していた。今さっき起きたばかりなのだろう。芸素で俺たちが来ていることに気づいたようだ。


「シーラ!練習、できる?」


「ええ、いいわよ。すぐ着替えるわ。」


シーラは俺らに手を振って部屋に戻っていった。


「っ!!!」

『クィトは第4学院でも楽しくやれてそうだね?』


「うわぁぁ!!!!?」


急に後ろからシリウスが現れた。俺は一瞬前に気づけたが、クィトは喋りかけられるまで気づかなかったようでとても驚いていた。


「ちょっとシリウス~そんな風に急に声かけるなよ~心臓に悪いだろ?」


『じゃあもっと精度の良い芸素感知用の芸石を付ければいい。それよりも…アグニよりルシウスの方が先に僕のこと気づいたね?』


「シリウスさん!僕にもか、解名を教えてください!」


ルシウスはシリウスを見るや否やすぐに練習のお願いをした。

そんなルシウスの態度が良かったようで、シリウスはにっこりと笑っていた。


『いいよ、暇だし。君ももう少し芸を学ばなきゃだからね。』


「あ、ありがとうございます!!!」


「準備できたわよ~」


シーラは、首元と足元、手首に純白のふさふさした毛が付いたワンピースを着て現れた。あの恰好ならば寒くはないだろうが、動けるのか?


「まぁいいか。じゃあ皆で演習場に行こう!」



・・・




俺はシーラから「宵の夢」を教わった。

ルシウスは元々雷系が得意なようなので、今日は「雷刺(らいし)」や雷獄(らいごく)」を教わっていた。


途中でクルトがショウガの入ったクッキーと紅茶を持ってきてくれたので、皆で少し休憩し、また引き続き練習をした。

その後いつの間にか数時間が過ぎており、クルトが夕ご飯を演習場に持ってきてくれたので、また皆で休憩がてら食べた。休んでる間も夕飯の時も、ずっと芸や解名の話をしてた。俺の知らない知識や経験を無遠慮に教えてくれる人がいるというのは、こんなにもありがたいことだったんだと、改めて感じた。


「アグニさん、そろそろ寮に戻りませんと…カイルさんも心配しますよ。」


「あ!いっけねぇ!!」


時間を見ると、もうすぐ深夜になる頃だった。めちゃくちゃ遅くまで練習してしまっていた。ルシウスとクィトは夕飯を食べ終えた後に森の家に帰ったので、ここには俺とシーラ、シリウスとクルトしかいない。


『えぇ~~!!まだ、まだだよ!まだ芸素は余ってるよ!?!?』


シリウスの目がバキってる。白熱した武芸を長時間したせいでハイになっちゃったんだ。


「カイルが心配する!まじで戻らなきゃ!」


カイルは「学院に早く慣れたいので」という理由でこの週末は寮に残っていた。なのに日付が変わる頃に帰るなんて…絶対心配される。


「僭越ながら、アグニさんの荷物はすでに準備してあります。」


「うっわぁ~!まじでクルトありがとぉぉ!!!!」


俺は軽く汗を拭いた後、使っていた木剣を戻し演習場を出ようとした。


『ねぇ、まだまだこれからだろう!?今戻るなんてつまんないよ!!!』


「うるっさいわね~。わーかったわよ私が相手するから!アグニを行かせてあげなさい。」


「ごめんシーラ!頼むな!!」


ハイになっているシリウスの世話をシーラに任せ、俺は公爵邸を出た。




・・・



「今日は楽しかったですね。」


「え??」


馬車で寮に向かいながら、クルトがそう声を掛けてきた。俺とクルトは御者の位置に2人で座っていた。まぁ俺の荷物が馬車の中にあるので、ある意味2人で荷物を運んでいるともいえる。


「久しぶりでしょう、ゆっくり芸を学べたのは。」


わずか半日の練習。学院に通う前は、毎日が今日のように練習の日々だった。


たったの半日。

比べてしまうと、あまりにも短い。けど・・・


「・・・ああ。今日は、とても濃い時間を過ごせた。」


「ええ。良い日、でしたね。」


「ああ。良い日だった。」


今ならわかる。今だからわかる。

あの時間は貴重なものだったと。


わかったから決意できる。

次の「今日」を無駄にはしないと。



俺は、自分の過去が、未来が、周りが、

どんどんと大切なものになっている。





さよなら、さよなら、さよな~ら~

もうすぐ喉は死亡だね~♬

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