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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第6章 名はシュネイ
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219 フェレスト→ブラウン商会

おぅぅいつのまにか10月も終わるんだが……?

どういうことだ…?


しゃーせん!!

更新遅くなりやした!!



今日は朝から予定を詰め込んでいる。

なので朝から動かねばならない。


ギィィ・・・カランコロン


「………久しぶりじゃねぇか坊主!」


「久しぶりになっちゃった、フェレストさん!」


朝、まだ街が青く静かな時間に俺はフェレストさんの家に行った。


「剣の磨き作業が死ぬほどあるんだが、やるか?」


「やるやる!」


フェレストさんに案内され、俺は奥の鍛冶場へ行った。いつも何か手伝いする代わりに鍛冶場を使わせてくれるのだ。けど今日は何も素材を持ってきてないので、単純に手伝いにきていた。


「………結構な量だね。」


鍛冶場の一区画に大量の木箱が置いてあった。


「そうだろう。この時期は来年度入隊する軍人や警備隊のために、使ってなかった『金属類』の磨きの依頼が入るんだ。」


金属類と括った理由は短剣、長剣、槍、盾などの武器類以外にも靴の金具などの磨き作業が必要だからだ。


「何時までいるつもりだ?」


「昼までかな。あと5時間くらい?」


「十分だ。」


フェレストさんは俺に磨き粉や布など必要な道具一式を渡し、自分も磨き作業に入った。


フェレストさんは、俺が天使の血筋であることを知らない。

もし知ってしまったら、もうここには来られないだろう。


変わらぬ態度に安心する。

そして同時に、フェレストさんの態度が変わらないのは、俺自身が変わっていないからだと悟る。

俺は天使の血筋と認められる前と後で変わっていないということだ。


そのことに、少し安心した。





・・・





フェレストさんの奥さんが俺の分のお昼ご飯も作ってくれたので、有り難く頂戴した。

森の家で食べるつもりだったけど、別にニ食分くらい入る。食べ終わり次第、俺はさよならをして街を歩いた。


今朝は時間が早かったから人が少なかったが、今はだいぶ賑やかになっている。

あらゆる場所でお昼ご飯の匂いがし、物の売り買いが行われている。街を見て買い物を楽しむ者もいる。とても平和で、活気があり、笑顔が溢れる街なのだ。


俺はこの街の中を、普通に歩けた。


この外見だと、誰も俺のことを天使の血筋だとは思わない。



裁判が終わった直後。

新たに『シュネイ』という名の天使の血筋がこの世に現れたという情報が新聞や街の掲示板等で大々的に報じられた。その報道は瞬く間に帝国中に広がり、一時期はこの帝都でも大きく騒がれていた。学校や学院では、一般教養や時事として取り上げられた。

つまり、国中が俺の『もう一つの名』を知っていた。


けど俺の外見は報じられなかった。

というか、シーラの時も外観は報じられなかったらしい。それも当たり前だろう。だって、天使の血筋の条件の一つが、『金色の髪であること』だったから。

俺の外見を知っているのは、一部の貴族だけだろう。



「まぁ、そのおかげでこうやって普通に遊びに来れるんだけどね!よっ!カール!!」


「あああぐにぃぃ!?!?!何やってんだよ!?!?!」


俺はせっかくなのでカールのお店に立ち寄ったのだ。


カールのお店は入り口が貴族用と市民用で分かれている。俺は一応、貴族用の扉から入り、奥のカウンターにいるお兄さんに第一学院の紋章入り芸石を提示して「カールの友達なので、呼んでもらってもいいですか」と言った。


そのお兄さんは見かけたことがなかったので新人なのだろう。俺のことを果てしなく訝しんでから、渋々といった様子で店の奥へと入っていった。

そしてすぐ後、ドタドタと足音がたくさん聞こえ、カールを含め偉そうな方々が次々と出てきた。


「なにって……遊びに来たんだよ、学院で全然喋れないからさ。よっ!元気?」


「ああああああ遊びにって……!!お、まえは天使…!!!」


カールは店をぐるりと見渡した。店内には2名ほど貴族の令嬢がおり、他の店員と楽しそうに会話していた。


「〜〜っ!!!!アグニ…!奥に入ってくれ…!」


「え?ただ顔見せに来ただけだからここでいいよ。」


「俺が良くないんだ!頼むから!!」


「ええ〜〜……?」


俺はカールに案内され、店の奥へと入った。その間、偉い立場だろうと思われる紳士たちはずっと頭を直角に下げていた。彼らは俺が天使の血筋であると知っているようだ。


バタン・・・


2階にあるカールの仕事部屋へと案内された。カールの仕事部屋は全体がダークブラウンの木目調で、布地は全て紺色に統一してある。窓際の一番奥に大きな机が一つ、その手前に2名掛けのソファがテーブルを挟んで2つ置いてある。しかしソファに座るよりも早くにカールが声を荒げた。


「アグニ……自分が天使の血筋になったという自覚はあるのか?!」


「え!?あるある!だからちゃんと貴族用の入り口から入ったじゃん!」


「それだけ!?!?」


カールは大きなため息をつき、俺にソファに座るよう促した。しかしすぐに外からノックが聞こえた。


コンコンコン・・


カールは音に瞬時に反応し、ソファから席を立ち上がった。


「天のお導きに感謝申し上げます。お久しぶりでございます、ブラウン家当主、ダグラス・ブラウンでございます。」


「あっ!カールのお父さん!お久しぶりです!」


以前、リシュアール伯爵家主催のガーデンパーティーに呼ばれたら際に、ブラウン子爵が一緒に手土産を考えてくれた。会ったのはその時が初めてだが、ブラウン子爵は俺と握手をしてくれた。

黒髪で名字もないただの平民だった俺を、対等な立場で見てくれたのだ。


「アグニ様…改めましてシュネイ様、先ほどは我が従業員が大変失礼をいたしました…!!」


カールの父ちゃんは頭を深々と下げて謝罪した。


「え?!な、なにがですか?!俺何もされてませんけど!!え、カールまで?!」


あわあわしながらカールの方を見ると、カールも頭を下げていた。


「先ほど、シュネイ様を最初にご案内した従業員は……解雇いたします。その者の上司は平民用の商品入荷部門に異動させます。どうか、シュネイ様に対し随分な態度を取ったと聞き及んでおりますが、こちらでご容赦を……!!」


「え??随分な態度?!!え、俺何もされてないっすよ?!」


カールは頭を上げ、説明を加えた。


「いいや、そもそも貴族用の入り口から入ってきたお客様で、しかも第一学院の紋章を提示したにもかかわらず、訝しみ、すぐに俺に報告を上げなかったことが間違いなんだ。」


「ええ〜……でもそれは俺が貴族に見えなかったからじゃないのか?」


俺の質問にカールが首を横に振った。


「貴族に見える見えないの判断を一従業員がしていいわけがない。ましてやきちんと証拠を提示していた人相手に、独断で間違った行動をしたんだ。俺たちは従業員をそのように教育していない。」


カールの父ちゃんが付け加えた。


「………それに、シュネイ様が黒髪であったから誤解したと、彼は言いました。黒髪の貴族は大勢おります。そのような危険な思想を持つ者を、表においておけません。」


「き、危険な思想……」


なんだか……ものすごく極端な判断のように思えた。ただの一度のミスなのにそこまでしなくても…と正直思った。けれどカールとブラウン子爵が言いたいこともわかった。


「……わかりました。では彼に直接謝罪をさせてやってくれませんか?」


「「 なっ?!! 」」


カールもブラウン子爵も驚いた顔をしていた。

これはブガラン王とカイルらの時にもあった話だが、貴族が『謝罪を聞く=謝罪を受け入れる』という意味になる。


俺は彼やその上司をどうこうしようとは微塵も思っていない。

そしてできれば、この感覚は無くしたくない。


ブラウン子爵はなんだかスッキリしたような、安心したような顔をしていた。


「…………あのような態度を取られた貴族は……もちろん私もですが、あの従業員を許すことないでしょう。解雇ならまだまし、鞭打ちも妥当な話です。」


「………シュネイ様は、アグニ様の時とお変わりなってないのですね。」


そうか。

俺の爵位は伯爵、子爵よりも上の立場だったんだ。

だから子爵も、俺自身が変わっただろうと考えていたのか。


「俺は、()()()()()()()()変わらなくていいと思ってます。」


不敵に笑ってみせた。

必要ないんだ、余計な変化なんて。


だからできれば、周りの人にも変わってほしくなったけど・・・


「ブラウン子爵、どうかこれからも一緒にお土産を選んでください。」


俺はそう言って手を差し出した。

ブラウン子爵は驚いた顔をしていた。差し出した手をじっと見つめた後、彼はやっと笑顔を見せた。


「はい、是非…!!」


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