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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第6章 名はシュネイ
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216 街に必要なもの

すいま千円!遅れマンタ!!



大宴会の次の日、午前中はその片付けをして終わった。

そして昨日燃やして灰になった木材は畑の肥料として再利用するらしい。よく考えられているな。


灰をちびっ子たちとかき集めていると、目と髪を隠したシリウスがやってきた。


『アグニ、近くに湖があるらしいから見に行こう。』


「え、湖?」


湖が近くにある……もしそこから水が湧き出ていれば、畑に水が引ける。旧カペー公国に位置する畑まで水が引けそうなら、水不足は解消される…!


「行く。けど今、ちびっ子達の面倒見てるんだよ。」


この子達は家事や仕事、街の片付けをしたいという親達のために、掃除がてら一時的に預かってるのだ。今は俺がこの子達を見てないといけない。


『そんなのエッベにさせればいいじゃん。』


「え?エッベに??」


エッベはヘビースモーカーだし、裏町の住人だ。子どもの面倒を見てもらうには親達からの信用度が低い。

けれど、いい機会かもしれない。

エッベはたぶん、子どもが好きだ。復興作業の時は率先して子どもの相手をしていた。

裏町の住人というかつてのレッテルがなければ、エッベは任せるに足る男だ。


「………そうだな、ありかもしれない。すまんシリウス、エッベを呼んできてくれるか?」


『え?なんで僕が?嫌だよそんなの。』


「……………。」


こいつはこういうやつだ。

キョトン顔で俺を見つめるシリウスを、俺も無言で見つめ返す。


「2択だ。ここで子ども達と灰をかき集めるか、エッベを呼んでくるか。」


『どっちもいやだ。』


「……………。」


わがままかよ。


「アグニ!っと、シ…リウス様!?」


ヴェルマンとカミーユが俺たちの前に現れた。シリウスは驚いていない。芸素で2人が来ていることを知ってたのだろう。


「おおおおおおお!!ちょうどよかったよヴェルマン!!」


「ん?なにがだ??」


俺は2人に子どもたちの面倒をお願いし、エッベを呼びにいった。

エッベは「はぁ?!!俺にガキの子守りなんてできるわけねぇだろ!!」と叫んでいたが、ちゃんとついてきてくれた。




・・・・・・・




子どもの面倒をカミーユとエッベに任せ、俺とシリウスとヴェルマンで湖を見に行くことにした。

湖は冬だが凍ってはおらず、大きさもそこそこのものだった。


「この辺に中型以上の芸獣がいないか、確かめてみる。」


俺は自身の芸素を拡げ、芸素の反射を探した。以前、闇の森でサソリの芸獣を探す時に使った技だ。

水の上に波紋が拡がるように、全方位に芸素を薄く拡げていく・・・


「……いないみたいだ。」


『そう。ヴァルマン、この湖は旧ブガラン側には水を引いてるよね?水源があるってことかい?』


「はい。軍が所有する地図には水源の記載がありました。確か……南西に位置していたかと。」


『アグニ、シモンに技術部の人間を派遣するよう伝えて。この距離なら旧カペーの西側の畑までは水が引ける。水をどう引くかは専門家に任せよう。』


「ああ!!」


よかった。少しでも水不足が解決されるなら、本当によかった。


俺とヴァルマンはそのまま城に行き、シモンに湖のことを報告した。

シモンからは感謝の言葉を告げられ、すぐに技術部の人間を派遣すると約束してくれた。


「そういえばアグニ、学院の方は大丈夫なのか?」


「あ。」


シモンの執務室から出た後、ヴェルマンにそう問われて思い出した。いつのまにか水の月6週目5の日になっている。つまりもう2週間近く学院には行っていない。


「やべぇ……!!ち、ちょっとシモンともう一回話してくる!!!」


「おいおいおい、本当に大丈夫なのか?!」


俺はすぐにまたシモンの執務室に戻った。


コンコンコン・・・


「失礼します!」


『おや、シュネイ。どうしましたか?』


俺の慌てた様子を見て、シモンは面白そうだと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。


「シモン!俺、最近学院行けてない!!ちょっと一旦、帝都に戻ってもいい??」


俺の発言にシモンはふふっと軽く笑って、頷いた。


『ええ、もちろん。あなたの政策は理解できていますし、それを引き継げる人材もいます。学院で同級生と社交するのも、学生の本分ですからね。』


「ありがとう、助かる!!………あれ、この地図なんだ?」


シモンの机には先ほどまでなかった地図が広げられていた。しかも、旧ブガランの首都・メンベル(つまり今現在いるところ)と似ているようで、少し違う。


『そうか、あなたは地図が読めますものね。』


シモンは俺にも見えるように地図を置き直した。


『これは新しい「メンベル」ですよ。』


「新しい…メンベル?」


その地図のメンベルは、城を中心として街が綺麗に放射状に延びていた。


『計画都市といい、最初から街をデザインし設計するのです。私は、街自体を観光地化したいと思っています。』


「街自体を……観光地に??」


『ええ。そういう国や都市はあるでしょう?』


たしかに、シュエリー公国は小さな島国で、昔ながらの伝統的な美しさを見に観光客が訪れる。また、「教会国家」として信仰深い帝国民も毎年必ず訪れている。

フォード公国やシャルル公国もその国特有の建物が数多く並び、砂漠や温泉やらを見によく足が運ばれる国だ。シルヴィア公国やシャノンシシリー公国は最大の湖と世界樹を見るため、また別荘地としてよく訪れられている。

都市を観光地化すると人と観光収入が入る。経済が回る。維持費はかかるかもしれないが、現在の特別区の評判を一掃できるチャンスにもなる。


「なるほどな!!!!」


すごい。そんな方法があったのか。


『加えて、街の建設が終わったら当分の間、通行料を無料にしようと考えています。』


「む、無料に?!!!」


どの国・都市に入るにも通行料というものがかかる。それらが免除されるのは、貴族や冒険者登録をしている者のみ。つまり、通行料はその都市の安定した収入源でもあるのだ。その他にも通行料は都市に流入する人数の調整を行う機能も果たしている。

わずかな間、通行料を無料にすることで「今のうちに行ってみようか」と思い立つ人は必ずいる。その時に、この新しく観光地化された街を見てもらえたら……


「可能性しかない…!」


『ええ。元々、潜在能力はとても高い国です。地理的環境に恵まれていますから。』


特別区はシュエリー公国に行ける唯一の国でもあり、西側諸国に行くにも必ず通らなければならない。シャノンシシリーやシルヴィア公国ともそこそこ近いし、フォードやシャルル公国、帝都ともまぁまぁ近い。


『それと……旧カペーの首都も同様に、計画都市として生まれ変わらせるつもりです。特別区の首都は旧メンベルに置きますが、カペーの方も観光地化できたらと考えています。「この二都市を回れば特別区がわかる」というような、両方訪れたいと思わせる仕組みを考えていかなければなりません。』


「………すげぇな!!」


さすが、宮廷文部官。シモンは経済に強いと評価を受けている。観光地化してお金の流れが顕著になれば、もう特別区は大丈夫だろう。


「やっぱ……すげぇよ。俺は……目先のことしかできなかった。」


知識、シモンと比べると俺に圧倒的に少ないものだ。

シモンは、問題に対処する方法をまずできる限りたくさん考え、それらを一つずつ試し、最善を選ぶ。知識がないと、全員が納得のいく最善策を思いつかないのだ。そしてそれができないということは、結局、人々を救えないということになるのだ。


「やっぱ、学院に戻るわ。俺はまだ、学びきれてない。」


学生に戻り、同じ年齢の子たちと喋り、授業に出て基礎的な学問を一から学ぶ。それが今、俺が一番にすべきことなのかもしれない。


『……シュネイ、あなたは十分に頑張っていると思いますよ。』


「………え?」


シモンはまっすぐに俺を見ていた。眼鏡の奥から優しい瞳が見えた。


『私が市民に一番与えたいもの、それは希望です。』


「希望……」


シモンは窓際に立ち、外を見ていた。この部屋からは街が一望できる。その街を愛おしそうに眺めるシモンは、すでに王の風格を兼ね備えていた。


『希望…それは国民の心に勇気の炎が灯り、未来は輝くだろうと信じられる国家でなければ、与えることはできません。』


シモンは俺の方を向いて、笑顔を見せた。


『あなたの近くにいた人は皆、笑顔でした。将来のために、今動こうとしていました。あなたは確実に、この国に希望を与えていましたよ。』


「っ………。」


嬉しかった。俺はちゃんと、見てもらってたんだ。俺はちゃんと、皆のことを見れていたんだ。


『……さぁ、未来のために、今は学院に戻りなさい。種まきの時期までに湖から川を引いておきましょう。また、雷の月にいらっしゃい。』


「……はい!!!」





・・・・・・




7週目1の日の朝になんとか帝都に辿り着き、俺はすぐ学院に向かった。


「あっぶね~!セーフ!!みんな、おはよう!」


寮に戻って少しカイルと話していたら遅刻しそうになったのだ。しかし身体強化をして教室まで走り、滑り込みセーフをキメてみせた。

そして以前のように挨拶をしたら・・・


「「「 ……………お、おはようございます、シ、シュネイ様…」」」


「あれ????」


おかしいな。たしか敬語と敬称はなしって決めたはずだ。それなのにどうして皆、元に戻ってるんだ??


『天空のお導きに感謝いたします。』


遠くの席から声が聞こえた。聞き馴染みのある声だった。


『お久しぶりですね。』


それは、仲のいい友人の声のはずだった。


「………コルネリウス。」


『シュネイ様。』


けれどその声は、あまりにも冷たかった。







コル……さん…?

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