表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第6章 名はシュネイ
228/281

215 シーラ、家を買う。

皆さん、夏はいかがお過ごしでしょうか?


自分は、白神山地に行きたいです。




瓦礫の片付けは芸でいくらでも手伝える。

俺は身体強化も使えるから、大きな資材を割って運びやすくすることもできる。


少しずつだが、街は綺麗になっている。



「え?シーラ、家を買うの?!」


「そうなの~!」


シーラはこの特別区に家を買うそうだ。今、クルトがシーラの代理で商業契約を結んでいる(実は今朝クルトが特別区に来た)。まぁ家といっても、二階建ての一軒家とかではない。きちんと『天使の血筋の伯爵邸』サイズだ。


実はシーラも爵位も貰った時に貴族街に屋敷を与えられている。しかしそちらはほとんど使用していないらしい。俺も今まで行く機会がなかったからそのうちに行ってみたいな。


「なんでわざわざ特別区に??」


シーラは特にこの土地や国に縁のある人じゃない。なんなら今回の一件で曰く付きになってしまった分、人気が下がり地価は下がっただろう。


「別荘地が欲しかったのよね〜。それにアグニだって、これからお城に上がる機会が増えるんだからいいじゃない!」


「それが理由かーい。」


シーラは城に一番近い区画を選んだらしい。つまり最高級な土地だ。



「じゃ2人とも、頑張ってね~♬」


「では僕も失礼します!シリウスさん、アグニさん!」


シーラは家の買い付けだけして、クルトと一緒に帝都に戻っていった。


「シーラは自由だなぁ~」


『またね~』


俺らは手を振りながらクルトが運転する馬車を見送った。クルトの滞在時間はたぶん2時間ほどだった。


『さてアグニ、食料が足りてない。けど戦争で畜産業は壊滅的だ。だから芸獣を狩って来ようと思うんだけど。』


「俺も行く!」


『よし、じゃあ森に行こう。街に降りてくる芸獣の数も減らしたいからね。』


「わかった!」


俺らはすぐに準備をし森に入っていった。




・・・・・・





「腹減ったな……」


旧ブガラン王国王城、一階。

多くの避難者が身を寄せ合い、寒さを凌いでいた。

しかしこの寒さを痛感させるのが、空腹であった。


「ああ…減っただな……」


このホールで知り合いとなった北区に住む洗濯屋の息子と俺は喋っていた。


「足りねぇよな、この量じゃ…」


『最近、豆しか食ってねぇよな…』


左に座るおっさんも話に入ってきた。このおっさんは南地区で肉の卸業者をやっていたらしい。


「文句言うなよ…毎日食えてるだけありがたいじゃねぇか……」


そのまた左に座る、北区で宿屋をやっていた中年のおっさんがそう言った。俺ら三人は反論の余地もない。


「『「 ………だな。 」』」


ガラガラガラガラ・・・


大きな荷台の音。

荷台で運ばれてくるのは食料物資が多い。

全員が荷台の音がする方を向いていた。


「き、きゃああああああ!!!!?」


「な、なんだ?!!!」


ホールの外がざわつき、驚きの声が聞こえる。


 いったい何があったんだ?


全員がホールのドアを見ていると・・・


「みんな~~!!遅くなったな!お肉の山だぞ~!!!!!」


ホールの外から入ってきたのは……いつも元気いっぱいの黒髪の(あん)ちゃんだった。

ここに俺ら一般市民を入れようと上の人間を説得してくれたのがこの兄ちゃんらしい。それを俺らも知っていたから、この兄ちゃんの言うことには皆素直に従っていた。


「え、おい(あん)ちゃん……こりゃあ一体……どういうことだ…?!」


ホールの住人の一人がその黒髪の兄ちゃんに聞いた。兄ちゃんは透き通るような笑顔で恐ろしいことを言った。


「家畜が足りないからな、芸獣の肉を食うんだよ!」


「「「「 え、ええええ?!!!! 」」」」


芸獣の肉は……食わない。

それが一般常識だ。芸獣の肉を食う野蛮な民族がいることは知ってるが、俺らは食わない。


しかしその兄ちゃんはキョトンとした顔で普通に言ってのけた。


「でも、飢えるよりましだろ?てか知らないだろうけど芸獣の肉って上手いんだぞ?芸素が回復するのも早いし……」


俺は皆の顔を見た。

よかった、みんな「この兄ちゃん頭おかしいのか??」って顔している。俺だけじゃなかった。


けど兄ちゃんは平然と笑っていた。もはやサイコパスなのかもしれん。


「えーっと、あ、いたいた!おっちゃん!」


黒髪の兄ちゃんは先ほどまで俺と喋っていた、元・南区の肉の卸業者のおっさんに手を振っていた。


「おっちゃん!たしか肉屋さんだったよな?肉、捌くの手伝ってくれよ。」


『え、え、俺…か…?』


「そう!俺!」


兄ちゃんは荷台の巨大な芸獣を片手で卸しながらおっさんと話していた。このサイズの芸獣はそもそも見たことがない。これが所謂、大型の芸獣なのだろう。見ているだけでちびりそうだった。


それなのにこの兄ちゃんは平然とその死体を扱っている。

え、というか・・・

この大型の芸獣を十数体も狩れるほどの実力なのか……?


 だとしたら………


「っ…!!」


ぞわっとした。

この(あん)ちゃん、得体が知れない。


何者なんだ…?


「えーっと、あとは……ああ、いたいた!なぁ、そこの兄さん!」


黒髪の兄ちゃんは……少年のように純粋な笑顔を俺に見せた。


「たしか料理人だったよな!こっちきて一緒に料理してくれ!!」


あの兄ちゃんは……目が綺麗なんだ。

たった一瞬、目が合っただけで吸い込まれそうになる。

圧倒的に人を引き込む力がある。


あれは、天性の才能だ。


『あの兄ちゃん何者なんだ?』

「ここにいる全員の職種を覚えてるのか?」

「あの兄ちゃん、本当に何者なんだ…?」


皆があの人の方を向いている。皆がそっちに吸い寄せられる。


恐ろしい。けど、美しい。

この感情は両立するものだったのか。


「もしも~し、聞こえてるか?」


「あ、ああ…!!今行く…!」


俺は黒髪の…そんな謎の兄ちゃんの方に向かって走っていった。





・・・・・・






俺はシリウスと一緒に街の掃除をしたり芸獣を狩ったりしながら過ごしていた。

シーラの家の工事も進んでいる。元々あった中古の屋敷を改修し直すだけなのだが、その大きさ故にどうしても時間はかかる。

そして1週間が経過したころ、とりあえず屋敷の内装は整ったようで、その確認のためにシーラは再び特別区に来ることとなった。


ドコドコドコ ドゴ・・!


「な、なんだこの馬車の数は?!!!」


街の一画…城とシーラの屋敷の前に馬車が溢れかえっていた。


「アグニさん!」


「お、クルト!!」


クルトはこの寒い中、馬車の荷物を確認しているようで、コートを着て外に立っていた。


「クルトも来たのか!シーラは?」


「屋敷の中で休んでおられますよ。」


「そっか!それでクルト、この荷物はいったい……」


「あ、こちらはですね、」


クルトは手を大きく広げて端から端まで馬車を見た。


「全部、新居祝いです!!」


「え……はぁああああ?!!!」


クルトはニコニコ笑いながら再び荷物の精査をしていった。


「この他に、他国の王族から船や馬、馬車、農地なども貰っていますよ。」


「マジカヨ?!!!!!!」



   シーラさん?!!!

   物貰いすぎじゃね?!!!!



俺が呆然としている間にもクルトは手を動かし、荷物をチェックしていた。


「そんでクルトは……シーラのお見舞い品の仕分けと同じことをしているのか?」


俺が学院に入る前にシーラが「暫くパーティーを休む」と宣伝したら、シーラが病気なのだと勘違いした多くの貴族が見舞いの品を大量に公爵邸に送ってきたのだ。


「ええまぁ、それと似ているのですが……これらは特別区に寄贈するのですよ。」


「え、寄贈??」


「これらの贈物はシーラ様へのお祝い品という名目で、実は特別区への支援のために贈られているのです。」


特別区…旧ブガランと旧カペーは政治的な問題が原因で戦争になった。そのため「政治」に巻き込まれたくない貴族たちにとっては沈黙を貫く方がいい。まぁつまり、大っぴらには援助ができないのだ。

しかし実のところ旧カペーはまだしも、旧ブガランと商業的な取引が全くなかった貴族というのは少ない。援助は回り回って各家の事業の手助けに繋がる。


そこで、シーラが動いた。


シーラは独身だし、天使の血筋・初代『シーラ』だ。シーラをずっと保護しているのは帝国一の大金持ちであり権力者でもあるシャルト公爵。シーラが特別区に家を買っても、シャルトの足を引っ張ることはない。


だからシーラは家を買った。

貴族が家を買えば、その貴族に『新しい土地で使ってくださいね』という意味を込めてプレゼントを贈る。わざわざこのタイミングで、シーラが特別区に家を買った意味をわからない貴族はいなかった。(俺以外)


「………お、俺…わかんなかった……。」



   貴族、むっず~!!!

   なんだその暗黙の了解!!



屋敷に入るとシーラは契約関連で席を外しているようで、談話室にはシリウスだけがいた。 

シーラの家の談話室はクリーム色をベースとしており、温かみのある雰囲気だった。そこに、美しい内装と木材を使用した家具、アンティークなシャンデリア・・・俺はすぐにこの部屋が気に入った。


『貴族社会には暗黙の了解がたくさんあるから慣れて覚えるまでが大変だよ〜ん。』


今回のお祝い品についてシリウスに喋っていたのだ。一応、シリウスは俺を慰めてくれているらしい。ところでもうすでにシリウスはソファに寝そべっているのだが、くつろぐの早すぎないか?


「さっきクルトが、贈物で貰った食料、保存食、植物の種や家畜、酒、芸石、文具、家具、馬車とかを特別区に渡すって言ってた。」


きっとその大量の贈物をシモンが次々と仕分けていくのだろう。


『そうだね。これからまだまだ来ると思うよ。支援だけでこの冬は越せるだろう。』


シーラの人脈が、人々の命を繋ぎ止めたのだ。


「俺も……貴族にならなきゃだな。」


貴族同士で仲良くなることで救える命が増えるのならば、俺はきちんと人脈を作っていくべきだと思った。これは俺が今まで気づかなかった、貴族の新たな価値だった。


『こんな言葉がある。「利用できるものは、利用するといい。」』


シリウスは紅茶を飲みながらそう言った。さっきシーラ宛に贈られた茶葉をもう使ってんぞこいつ。


『「しかし貴族ならば、与えることも覚えなさい。」と。』


「なに急に?」


『第1学院の一年生が習う教えだよ。』


シリウスはクスッと笑って再度紅茶を口に運んだ。


『庭を見てみるかい?』


「あ、行きたい行きたい!!」


俺とシリウスは裏庭に向かった。

シーラは庭にとても拘ったようで、冬で草花が少ないにも関わらずとても丁寧に作られたことが伺える、いい庭だった。ここも森の家と同じように、どの季節でも花が咲くようにしているらしい。


「季節が違っても『藝』の解名で花を咲かせればいいじゃんな。」


『……君は無粋だねぇ。』


シリウスは草の間をかき分けて、奥の方に咲いていた小さな白い花を摘まんだ。シリウスは必ず花を摘むのは自らの手で行う。


『それでは、花の名前は一生覚えられないだろう?』



「シリウス、アグニ。」


シーラが来た。

純白のコートの上を流れる豊かな黄金の髪と宝石のように輝く青の瞳。冬が擬人化したならば、もしかしたらこんな姿かもしれないと思わせるほどに綺麗だった。


『 おかえり 』


それは、この屋敷で初めて使う言葉だった。シリウスはそう言って先ほどの白い花を手渡した。


「……ふふっ、ただいま。」


シーラはその花を受け取り、朗らかに微笑んだ。




・・・




その日の夜は大宴会だった。

シーラが貴族たちから貰った物資を街に配ったのだ。


街の中央の空き地となった場所には戦争で壊れた家の木材が山のように積まれていた。

シモンの部下が「もうこのような悲劇は繰り返さないようにしよう。我々も生まれ変わろう」的なことを言って、皆がしんみりしていた。

そしてその木材の山に火をつけて……キャンプファイヤーが始まった!!!!

先ほどまでの神妙さはなんだったのかと突っ込みたくなるくらいの盛り上がりを見せ、大量の酒が飛ぶように無くなっていった。


(あん)ちゃんよぉ~ありがとなぁぁぁあ」

『兄ちゃんが来てくれてよかったよおお』


俺はおじさん達に肩を組まれながら酒を注がれていた。葡萄酒と麦の発泡酒を同時に入れられた、最悪だ。


向こうの方で軍人が踊っている。その中に笑顔のヴェルマンも見えた。


「これ食べてーって!」


小さな子ども2人が俺たちにチーズと干し肉が乗った皿を渡してくれた。


「おお、ありがとな。」


「「 お兄ちゃん、ありがとう! 」」


2人の子どもが小さな声で「せーのっ」と言い、声を揃えてそう伝えてくれた。少し離れた場所で、この子らの母がこちらを見て微笑んでいる。この家族は戦争で軍人だった父を亡くし、今は城内のホールに住んでいた。


「こちらこそ。お前たちもたくさん食うんだぞ。」


「「 うん!! 」」


子どもらは元気な笑顔でまた去っていった。


まだ寒い季節だ。

けれどこの場は、温かかった。



傷は徐々に…本当に少しずつだが、かさぶたに変わってきている。




川とか入りたいかもな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ