211 あえて
更新遅くなりましたー!!しゃーせん!
「ん、んんー……」
朝だ。まだ暗い。しかし十分に疲れは取れている。
最近また睡眠時間が短くなった。
ガチャ・・
寝室から出てメインルームと通り、カイルの部屋を開ける。
スー・・スー・・スー・・
よく寝ている。昨日この寮に来たばかりだから疲れているのだろう。そもそも俺の起床時間がこんな早いこともきっと知らない。
俺はカイルを起こさないよう気をつけながら寮から出た。
外はまだ暗くて寒い。
しかしこの朝の空気感は嫌いじゃない。
俺はいつものように鍛冶をしに行った。
・・・
ガチャ・・
「ただいま~……」
スー・・スー・・スー・・
カイルはまだ寝ていた。もう陽は昇っている。これから着替えて朝食を食べたら通学時間になる。
起こした方がいいのかな?
んーでもなぁ……
昨日は疲れただろうし、朝の仕度は自分でできる。朝食もダイニングに行けばシェフが作ってくれる。カイルを起こさなくても済む話だ。
とりあえず、まだいっか。
俺は再び部屋から出て、朝食を食べに行った。
・・・
ガチャ・・
「カイル?起きてる…?」
朝食を食べ終わり、いよいよ通学時間だ。
カイルは変わらず寝ていた。そういえば昨日は学院内も少し案内したから、それで疲れているのかもしれない。
以前、寝そうになっていたシリウスに声をかけた時、シリウスは少し不機嫌になった。だから俺は寝ている人は起こさないほうがいいのだと学んだ。
でも、一度学院に行ってしまったら放課後まで会えない。そうなると、さすがにカイルは心配するだろう。
ん~… 起こすかぁ
「カイル、カイル……」
俺はカイルの身体を少し揺らした。
「ん、んん~…?」
カイルは寝ぼけ眼で俺のことを見ている。
「カイル、俺今から学院行ってくるな。ダイニングにいけば朝ごはん食べられるから、ちゃんと食べろよ。」
カイルは半目で俺のことをじっと見ながら言った。
「………今って、何時。」
「えっと、授業開始10分前。」
「うわあぁぁぁぁ?!?!?!」
「うお!?どうしたカイル!?」
カイルは飛び起きて時計を見た。そしてすぐに俺の方を振り返り、大声で言った。
「なんで起こさなかった?!」
「え?!だから今起こしたじゃん!」
「違う!アグニが起きた時に俺も起きるべきなんだよ!」
「え?!そうなの?!」
「うわぁ…でもそれはアグニのせいじゃなくて単純に俺が悪い話で……というか主人に起こしてもらう従者なんていないし……」
カイルは頭をゴシゴシと掻きながら何やら呟いていた。
「えっと……ごめんな?」
「うぅ……明日からは、俺も起きるから。」
「うん、わかった。」
「ちなみにアグニは今日何時頃に起きた?」
「俺は三時半。」
カイルは口を開けたまま俺のことを凝視した。
「……それは、朝の…だよな?」
そりゃあ、昼の三時半は学院にいるからな。
「うん。」
「………早くね?」
「うん、だから無理して起きなくていいよ。」
カイルは少し迷ったように目を下に向け、再び俺の方を向いた。
「少し、検討します。」
「あ、はい。わかりました。」
「ほら、もう時間ねぇんだろ?とりあえず……学院いってらっしゃい。」
カイルは急いでベットから降りてメインルームのドアの前までお見送りしてくれた。俺は慣れない「いってらっしゃい」に少し気恥ずかしさを感じつつも、しっかりとカイルに手を振った。
「いってきます!」
・・・・・・
学院はいつも通りだった。
いつも通り、俺と話してくれる生徒はシルヴィアだけだった。
けど………
うん。やっぱりそうだな。
カールは、周りに合わせているだけで俺に緊張はしていない。そもそもカールは俺が天使の血筋であることを知っていたんだから、緊張や恐怖を感じるわけがないんだ。
そのため、俺は放課後にある作戦を決行した。
コンコンコン・・
「アグニ、連れてきたぞ。」
俺は以前の寮に荷物を取りに行くテイで、カールの帰りを待っていたのだ。カイルには寮の前でカールを待っててもらい、そのまま俺の部屋に連れてきてくれと頼んでいた。
「あぁ……これはシュネイ様。」
カールはわざとらしく丁寧に頭を下げた。
「………カイル、ドアを閉めてくれ。」
「はい。」
「ギフト…… 水曲。」
俺はカイルがドアを閉めたことを確認してから、ドアの前に解名の水曲を張り、防音効果を高めた。これでやっと、カールが喋れる。
「カール、教えてくれ。なんでそんなに俺と距離を置くんだ?」
俺の問いにカールはしばらく沈黙した。そして溜息を吐き、ようやく態度を崩した。
「アグニ……俺へのコンタクトが遅すぎだ。」
カールはネクタイを少し緩め、人差し指を上げた。
「言いたいことは2つある。まず1つ目、俺は距離を置いているわけではない。現在の距離感は『天使の血筋』に対する正式な態度だ。」
「なんでお前まで皆と一緒の態度なんだよ。」
「仕方ないだろ?俺だけ態度を変えれば、俺が図々しい奴に見えてしまう。商売やってる人間として、信用度が落ちるのはまずい。」
カールの家はブラウン商会のオーナーだ。市民にも貴族にもビジネスを展開している。家の看板を背負って歩く人間として悪評を避けたいのだろう。
「けれど、こちらの方が深刻な理由だ。」
カールは2本目の指を上げ、前のめりになった。
「コルネリウスだ。」
「……コル? コルがどうしたんだ??」
コルネリウスは今週学院を休んでいる。なのになぜ今、コルネリウスが理由になるんだ?
「コルネリウスは俺らの統率役だ。そのコルネリウスが……アグニが休んでいる間に皆に伝えたんだ。裁判の結果も、カペーやブガランの王族がどうなったのかも。今後の接し方も。」
「っ……。」
コルネリウスは裁判の場にいた。それにあの時、ブガラン国内にもいた。
「俺も今までずっと……ずっと気づかなかった。お前と仲良くなった後だから、違和感に気づいたんだ。」
カールの芸素は乱れていなかった。けれども、ひどく真面目な顔をしていた。
「コルネリウスが、言ったんだ。」
・
・
・
コルネリウスはシルヴィア様を除いた同級生全員の前でこう言った。
『アグニはもう、以前の性格とはまるで違うものになってしまった……。』
俺はコルネリウスの言動に違和感を覚えた。
それは2人の仲を知っているからだと、後から気づいた。
『アグニは冷酷に人を斬ることも、王族を処刑することも簡単にできてしまうんだ。なのに彼は優しいフリをする。』
コルネリウスはさぞかし悲しそうに、さぞかし深く傷ついたかのように語っていた。
『だからね皆んな、以前と同じような態度を取ってはいけないよ。君自身と、君らの家族のためにもね。』
アグニは王族をも処刑させる。
もし同級生が不敬な行動を取ったら、一家諸共処刑させるかもしれない。
聞いている人がそう考えるように、コルネリウスは言葉を選んでそう喋っていた。
コルネリウスの言動には、最初から最後まで違和感があった。
・
・
・
「………なんで…そんな…」
コルネリウスが何を考えているのかわからない。あの裁判の場で、コルネリウスにはそう見えたのか?
「……本当はみんな、今週アグニとコルネリウスがどう接するかを見て、各々がアグニへの接し方を決めるはずだった。けどコルネリウスが今週は休みだから、皆どういう態度を取ればいいのかわからないんだ。」
俺がコルネリウスにどう接するか、逆にコルネリウスが俺に対しどう接するか。
クラスメイトはその様子を見て、俺のことを判断しようと思っていたようだ。けれどもコルネリウスが不在のため、統率役を失った皆はどうすればいいかわからなくなってしまった。
「………コルネリウスは、あえて休んだんだろうな。」
「?? どういうことだ?」
「いや、なんでもない。」
カールの発言の意味がわからず聞き返したが、笑顔で首を振られてしまった。
何か誤解がある。それは確かだ。
ならば……直接聞いてみればいい。
「………カール、」
「ん?」
俺が声をかけるとカールはすぐに顔を上げ、俺のことをまっすぐに見た。
「一つ、お願いがある。」
あれ……コルネリウスさん……?




