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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第6章 名はシュネイ
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208 前と違う


カーンカーン カーンカーン


 カーンカーン カーンカーン



二度ずつ 鐘の音が響く。

この世に新しい天使の血筋が誕生したことを知らせる音だ。


鐘の音は帝国中に響き、世界が一人を祝福する。



『 天使の血筋・シュネイ 様 

  この世に新たな光をもたらす者なり 』

  

この一行とともに、金の装飾が施された掲示物が帝国中の教会や役所に貼られた。

帝都の新聞社はすぐに【10年ぶり!絶世の美女シーラ様の次は?!】という題の新聞を出した。彼らはまだシュネイという名を持つ者が、男なのか女なのかも知らない。しかし新聞は飛ぶように売れ、街中は大騒ぎになっていた。



・・・



『シュネイ、君には天使の血筋として必要な教育を施す。』


公爵邸の本邸、公爵の私室。

公爵がそう俺に言った。


「天使の血筋としての教育……」


『そうだ。……入れ。』


公爵が小さな鈴を鳴らすと、腰の曲がった小さなおじいさんが部屋に入ってきた。今まで何度も公爵邸に出入りしてきたが、このおじいさんには出会ったことがなかった。


「……こんにちは…?」


『………シュネイ様、お初にお目にかかります。』


おじいさんはとても綺麗で聞きやすい声をしていた。程よく低音で、活舌もいい。おじいさんは目に皺を寄せて微笑んでから、軽く息を吸い込んだ。


『改めてマズは自己 紹介を させてくださいなワタシの 名はブジナ先々代の頃よりこの公爵 テイにて話術の指導をしておりましてイツもは公爵邸北一角にオリ代 々の公爵様に関わる事柄を歴史として記す「書筆係」ナル も のをして おりマスが本日 シバシその任から離れ僭越ナガラシュネイサマ にご指導 をさせていた だきたく存 じマス。』


「 え、え…?はい???」


先ほどの話し方と全然違う。まったく聞き取れなかった。

なんだか意味のわからないアクセントが付いていたし、不思議な箇所に言葉の()()があった。文章であれば句読点が全て間違った箇所についているような感じだ。


そのおじいさんは笑顔のまま告げた。


『今私は、この帝国に存在している20の方言を使って自己紹介を行いました。どうでしょう、聞き取れましたでしょうか。』


また先ほどの大変聞きやすい言葉に変わった。なにがどうなっているのかわからない。


『この者はブジナ。公爵家に代々仕えている「言葉」の専門家だ。方言、言い回し、会話内での間の取り方、立場の違う者との会話方法、はたまた交渉術、そして解名で使用する単語についても研究している。』


公爵がブジナと呼ばれた男を紹介した。ブジナは変わらず笑顔を保っている。


『学院から帰ってきたら定期的に彼から授業を受けなさい。』


「………すげぇな!」


驚いた。そもそも俺は「方言」というものを知らなかった。しかもそれが帝国内に20個も存在するなんて。

たしかに帝都から遠い場所に住んでる人達はなんだか特殊な喋り方したり、不思議な語尾の人がいたりした。しかしそれが方言というものであると知らなかった。


神というのは、万能な存在。

天使の血筋は神の子孫。

つまり天使の血筋には、いかなるは弱点も許されない。


天使の血筋は間違った発言をしないし、会話をリードされることもない。相手が何を言っているのか聞き取れないなんて、もってのほかだ。

その第一歩としてブジナがいるんだ。


『20の方言の特異性と単語、その上で宮廷貴族、辺境貴族との対話練習を私としていただきます。よろしいでしょうか。』


ブジナは笑顔のまま、じっと俺を見ていた。


「……はい。」


もう覚悟はできている。


俺のせいで死んだ、あの死刑囚。

あの人の命を俺は一生背負う。


俺に力を貸してくれた、大勢の人々。

その人たちを今度は俺が守りたい。


守れる力がほしい。知識が欲しい。

だから俺は、この血筋を受け止める。


「どうぞよろしくお願いします!」




・・・・・・





『あれ、アグニは?』


『シリウス……』


シリウスはいつものように、シャルトの私室に窓から入っていた。シャルトもそれに驚くことはなく、当たり前のようにシリウスに答えた。


『先ほどブジナと会わせ、今は別室で授業を受けさせている。』


『ふーんそっか。アグニ、たぶん1時間後、身体検査のために技術部に呼ばれるよ。』


シャルトは鼻で笑った。


『ああ…あの()()()()か。』


『……ふふっ。強制だなんて、可哀そうにね。』


シリウスは窓から降り、ドアの方へ向かっていった。


『シャルト、アグニには帝王学…特に戦時下での主導力を学ばせて。まぁ君がアグニと定期的に語る時間を設けてくれれば問題ないよ。』


『わかった。』


『それと…』


シリウスはシャルトの方を振り返り、氷のような冷たい笑みを見せた。


()がもう増えてきてるよ。』


蛾・・・それは光に群がる害虫を指す。シャルトはなんの感慨もなさそうにシリウスに聞いた。


『処理が大変ならば人員を増やそうか。』


『いいや、問題ない。』


シリウスはドアを開けながら今度は無邪気に笑った。


『そろそろアグニにも手伝ってもらうからさ!』





・・・・・・




水の月 4週目1の日 早朝

今日、やっと学院に戻れる。本来ならば授業は4週間前から始まっていたが、裁判やらなんやらでそれどころではなかったのだ。


久しぶりにみんなに会えることが嬉しかった。


 ー アグニ、よく考えて。ー


……皆は俺のことをどう思っているだろうか?


俺が天使の血筋であるということを皆はすでに知っているだろうか。皆は前と変わらず接してくれるだろうか。もし接してくれなかったら、俺から「以前のようにしてくれ」と頼めばいい。そしたらきっと皆も「わかった」と言って、元通りに戻るだろう。



   あぁ、嫌だなぁ。

   無駄に緊張する。



人間関係というのは、こんなにも心かき乱されるものだったのか。


俺はクルトに頼んで、陽が出るよりも前に寮に送ってもらった。みんなと会う前に少し散歩をして心を鎮めたかったからだ。けれども散歩をしても北側にある小屋に久しぶりに行っても、心休まることはなかった。



そして、1時間目が始まる時間


「……ふう。よし…!」


俺は一度、深呼吸をしてから教室のドアを開けた。


ガラッ・・


「お、おはよう皆!久しぶりだな~、元気…だった……か……」



全員が明らかに動揺していた。

そして互いに目配せし合って、ワンテンポ遅れて一斉に頭を下げたのだ。


「『「「『 っ……………。 」』」」』」


気まずそうに、

どうしたらいいかわからないと言いたげに、全員が頭を下げていた。



   ああ……


   ああ、ああ……!!!



   やはりこうなるのか。



甘い理想を抱いていた自分が途端に情けなくなった。


「お、おい皆……な、なぁ!あ、なんか色々あったけど…その…あ、まず頭をあげてくれ……」


『「「『 っ……………。 」』」」』


皆は無言で頭をあげた。しかし目線は合わせてくれない。


「あ、あの、その……え~っと、あ、み、皆にはその…前と同じように…接してほしくて…」



   あぁだめだ。

   全然ちゃんと喋れない。

   口が震えてしまうんだ。



みんなと同じように、俺も動揺していた。どうすればいいか、わからなくなってしまった。



   そうだ!コルとカール!

   あの2人なら…



「な、なぁ!コルネリウスとカールってまだ来てないのか?」


俺がドアから一番近い場所に座っていたクラスメイトの女の子に声をかけた。その子はびくりと体を震わせ、再び直角まで頭を下げた。


「て、天空の神々のお導きに感謝申し上げます。コ、コルネリウスは…本日から1週間、リシュアール伯爵家の所用によりお休みする、と。カールに関しては…存じ上げません…。」


「あ、ああ……そうなんだ…ありがとう…」


「と、とんでもございません…!」


天使の血筋に対してする挨拶をされた。喜ばしいことのはずだ。しかしなんだか、胸に重い釘を打たれたような気分になった。


ガラッ


「あ、カール!!!」


教室に入ってきたのはカールだった。カールは俺のことを見ても動揺せず、普通に教室のドアを閉めた。しかし・・・


「天空の神々のお導きに感謝申し上げます、シュネイ様。」


「………っ!!」


カールも、こういう態度を取るのか。



どうしよう、どうしよう、どうしよう……


ああ、前にもあったな。こういう時。

頼りたいときに、シリウスはいなかった。


俺は結局、一人で考えていかなければならなかった。


ああ、どうするのが正解なんだろう。

どうして誰も、教えてくれなかったんだろう。


どうして、どうして、どうしよう・・・




ガラッ


『あ、アグニさん。お久しぶりですね。』


「シルヴィア……!!」


今度はシルヴィアが教室に入ってきた。そしてまた、みんなは一斉に頭を下げた。

シルヴィアはそれを一瞥しながら『頭を上げてください。』と簡単に告げ、俺に近寄った。


『そういえば、アグニという名前ではなくなったのでしたね。せっかくですから、もう一度全員に自己紹介をされてはどうです?』


シルヴィアはキリっとした顔つきだった。けれど青紫の瞳は優しかった。


「あ、ああ…そうだな……じゃあ、えっと……シ、シュネイ…と名前が変わりました。えっと…でも、アグニと呼んでくれても全然いいから!そんで…」


俺は全員を順番に見ていった。


「俺はまた、皆と仲良くしたい。前と同じように、喋りたい。すぐには無理かもしれないけど……徐々に、慣れていってほしい。どうか、よろしく頼む。」


俺はそう言って頭を下げた。

すぐにシルヴィア以外の全員が頭を下げた気配がした。


『シュネイ…シュネイ……アグニ…シュネイ…』


シルヴィアが何度か俺の名前を小さく呟き、わずかに口角を上げて言った。


『仲間が増えて、嬉しいです。これからはクラスメイト、そして同じく血筋を継ぐ者として、よろしくお願いします。』


やっと、少し緊張が解けた。

シルヴィアが場を作って、俺に話しかけてくれたからだ。


「……ありがとう、シルヴィア。」


俺は心の底から感謝の言葉を発した。

シルヴィアはわずかに目を細めて笑っていた。



『……ええ。さあ、席に着きましょう。』








頑張れアグニ〜!あ、シュネイか。

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