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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第5章 年は暮れて また明ける
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206 重くても背負ってもらわなきゃ

花粉症……これはきてるのか……きてないのか……どっちなんだい。



『おかえり、シーラ。』


「………ただいま。」


最近、やっと春の陽気が感じられるようになってきた。


穏やかな木漏れ日が入る森の家

シリウスは窓際に座り、陽のぬくもりを感じていた。

その場に喧騒はなく、争いもなく、豊かで、小さな平和があった。

そしてその場にふさわしい天使のような男女が会話をしていた。


シリウスは無防備に垂らしていた金の髪を後ろへ放り、シーラを見た。


『おや、疲れてそうだね?』


「…………疲れたわ。」


シーラの言葉でシリウスは立ち上がった。台所へと向かい、乾燥させてあったハーブを細かく手でちぎっていく。


「結局、死刑囚を1人使ったの。」


『 そう。』


「アグニ、私の顔を見ながらボロボロと泣いてた。声も出さず、目も逸らさないで。」


シリウスはやかんに水を入れ、火をつけた。本来なら一瞬でお湯を作り出せるはずだった。しかし部屋中にコトコトと響く音にシーラは心地良さを感じていた。


「あの子……泣き方を知らないのね。」


『 ……君も知らなかったじゃないか。』


「ええ。でもあなたは知っていた。」


湯をポットの中にいれる。華やかで落ち着く香りが部屋に広がった。


『じゃあ今度は君が教えてあげればいい。』


カップに注ぎ、シーラへと持っていく。シーラはそのカップを受け取って口をつけた。


『……緊張が解けたようだね。』


「 あら、そんなに張りつめているように見えた?」


『 見た目ではわからなかったよ。』


シーラはソファに座り、シリウスはまた窓際へと戻った。


「あの子は、これからどうなると思う?」


『……さぁ?』


シーラはシリウスの台詞に眉を顰めた。

 

「……なによ?あの子が背負うものの重さはあなたが1番よくわかっているでしょう?」


『ははっ、もちろん。』


シリウスはふわっと笑い、窓の外を見た。

外では草花が風に吹かれ、軽やかに揺れていた。


『でもアグニには僕がいる。君もいる。シャルトも、コルネリウスも、カールも、シャノンも、カイルも、ルシウスも、クィトも、シャルルも、アルベルトも、シルヴィアも……過去も、未来も、一緒にいる。』


シーラはシリウスの語る言葉をじっと聞いていた。


『重いだろうよ。けれどアグニにしかできないんだ。頑張ってくれないと。』


シリウスは愛おしげに春の空を見上げた。



『 でなくちゃ、僕の一生が 浮かばれない。』







・・・・・・





『名・シュネイは新たなる神の子孫として、この世に光をもたらすでしょう。そしてその生命は第一に優先すべきものであり、現時点から天使の血筋としての権利を有するものとする。』


最高官のこの言葉で、俺の名前はアグニからシュネイに変わった。

そして状況もすべてひっくり返った。


映像記録芸石に映っていた、俺が火の球をブガラン王に当てようとしていた行動は、もう問題にされなかった。

逆に俺を背後から刺したブガラン王は天使の血筋殺害未遂犯となった。帝国基本法に則ると、爵位に関係なく極刑となる。

しかし俺が天使の血筋だと公に認められる前の行為だったため、ブガラン王は海園島での生涯軟禁に減刑となった。


がしかし、


『カペー国民を利用し戦争を誘発させたこと。また戦争に乗じて自国民の虐殺を行い、加えてその行為をカペー公国の責任へと転嫁しようとしたことは一国を治める王として許されるべきものではない。』


ゆえに判決は……


『第78代ブガラン公国王、エジン・ブガランは死刑とする。』



ブガラン王の血を引く王子・王女らは貴族としての身分を剥奪され、シュエリー公国にある教会で強制的に聖職者となることが決まった。子どもらが預けられる教会は「直接的な罪はないが、一生表社会に出てこれない貴族」が収容されるので有名なところらしい。


しかしここでエベルについて、議題に上がった。


「彼は以前、シュネイ様に対しあらぬ罪を着せ、退学させようと企てておりました。奇しくもエジン・ブガランと同じようなことを息子である彼もしていたのです!」


カールが雇った法廷弁護人が高らかに演説を行った。

学院間交流会の時、エベルがカミーユを利用して、まるで俺がカミーユに暴行を働いたかのようにみせたことがあった。その際、同じ場所にいたセシルが映像記録装置を起動させてくれたお陰で俺は難を逃れることができた。


「私はそんなことをしていない!!」


参考人として召喚されたエベルは悲鳴のような声でそう言い続けた。


「こちらには罪を被せようとした時の映像証拠がございます。どうぞこちらを!」


弁護人がセシルから預かっていた映像記録芸石を裁判官に提出した。そこには第3学院にいた少女・カミーユがセシルを殴り、自分自身の服を破く様子が映っていた。


「この少女の行動はエベル・ブガランの指示によるものです。しかしそのことを証言する前に彼女は帝都にある実家ごと、焼かれたのです!彼女の家族は全員死亡しました。」


会場がまたざわついた。帝都での火事は一発で死刑になる重罪だからだ。しかも数名の死者が出でいる。これが真実だと証明できるのならば、エベル王子も死刑になる。


「ば、馬鹿なことを申すな!!だいだい先ほどの映像に僕は映っていないではないか!!その上、火事だと?!その証拠はどこにある!」


エベルは叫びながら自身の罪を否定した。


「嘆かわしいことに映像に映っていた少女はすでに死んでおります!死人の代弁はいくら弁護人でもできますまい!!それにこの私に対して不敬であり、あまりにも不快だ!!」


「いいえ、エベル殿。いくら私でも死人の言葉を勝手に語ることはしませんよ。」


「な、なに…?!」


弁護人はにやりと笑った。


「最高官、ご本人を召喚してもよろしいでしょうか。」


「……………え?」



コツ


コツ コツ コツ・・・



「エベル王子……大変、お久しぶりでございます。」


「っ…!!!」


「カ、カミーユ!!」



法廷の場に、左手と顔の左半分に火傷を負ったカミーユが現れた。







パワー!!!

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