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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第5章 年は暮れて また明ける
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203 確認

すいません更新遅くなりましたー!!






アグニが急に自身を天使の血筋だと言い始めた時、僕は慌てた。


急にどうしたんだろうと。

そんな嘘、こんな大勢の前で言ってしまったらもう取り返しがつかないぞ、と。

僕はちゃんとアグニの心配をしていた。


けれどカールが現れた。

いつものカールとはどこか違っていた。カールはこの場の誰よりも落ち着いており、この状況を誰よりも理解していた。


カールがアグニに笛を渡したのを見て、確信した。


あぁ、カールは知っているんだ…と。


アグニは城壁の上で吹いた曲をまた奏でた。あの時に見た景色を嫌でも思い出してしまう。


そしてまた、

花の匂いが満ちるように、金色の芸素が会場中に広がっていく。


アグニの瞳に光が宿り・・・


『…っ!?!?』


今回はそれだけではなかった。

アグニの髪が……金色に見える?!


 なんで………!!?


しかし理由はすぐにわかった。光が強すぎるんだ。

アグニの周りに漂う芸素が()()見せているだけで、アグニ自身が変化しているわけではない。けれど光が溢れているせいで、まるで髪色まで変化したように見えてしまう。


アグニが視線を上げた。そこには変わらず金色の瞳がある。


この世界は色が薄いほど尊いものとされる。アグニは今、誰もが欲しがる極上の色を持っていた。そこに金の瞳も加わって・・・


今のこの姿は、疑いようもなく…天使の血筋。

それも、最も高貴な姿……



 ……くそ。

 くそ! くそっっ!!!!!





アグニは この社会に認められる。


その血を継ぐ者として。







・・・・・・





裁判は延期になった。

俺が天使の血筋であるかどうか、その結果次第で結論が大きく異なるからだ。だからまずはそこからはっきりさせなければならないらしい。


『………名・アグニは自身の血筋を証明するため、帝国にその身を捧げ、我々の調査に全面的に協力することを誓いなさい。』


最高官が裁判の終わりにそう言った。


「………はい、わかりました。」


俺が返事を返したら最高官は大きく頷いた。そして一度深く呼吸をしてから全体に聞こえるよう大声で宣言をした。


『最高官の名の下に、三公(さんこう)会議の実施を申請します。』


ざわっ・・・!!!!!!!


会場中から動揺の声が聞こえた。しかし三公会議なるものを俺は聞いたことがない。何かやばいもんなんだろうか。


「なぁカール、さんこう会議ってなんだ?」


俺が質問をすると、カールは丁寧に答えてくれた。


「帝都で公爵位を持つお方は3人いる。一人はアグニもよく知っているシャルト公爵だ。」


「え?!!!!帝都に公爵位って3人しかいないの?!!!!」


各国を治める王は全員公爵位だ。だから国の数だけ公爵位がいることは知ってたが、帝都にはもっとたくさんいると思っていた。まさか3人しかいないとは……。


「ああ。そのお三方で行われる会議を『三公会議』という。高度に政治的な問題や、天使の血筋関連の問題は三公会議で判断されることが多い。最高官は三公会議の実施を願い出る権利を持っている。……が、実施するかは別問題だ。」


「え、三公会議の実施を……申請するだけ?じ、じゃあその三人がやりたくないって答えるのもアリなのか?」


「もちろん。そうなったら三公会議は行われない。」


「ファ?!!!!!!」


えげつないな三公会議!!帝国の中でも屈指の権力者である最高官のお願いを断れるのか。なるほど皆がざわつくわけだ。どうなるか見ものだもんな。



『そして、アグニ。』


「は、はい!!」


最高官から再び呼ばれ、俺は急いで返事を返した。


『あなたはすぐにシュエリー公国へ向かっていただきます。』


「……え、 え??」







・・・・・・







シュエリー公国には帝国全土にある教会を統べる天降(てんこう)教会(別名・神殿)がある。


天降教会は天空王、天空人、そして現人神である皇帝のための『地上の仮屋(かりや)』として作られた場所だ。

その『仮屋』を守るため、シュエリー公国は帝国最高峰の軍事力を保持している。また教会の特性上、珍しい施設が多く存在している。


『アグニ、よくここまで行きましたね。歓迎します。』


「シュエリー大公、お久しぶりです。」


長くまっすぐに伸びる金色の髪と宝石のような緑色の目。少女のように可憐なシュエリー大公が俺に歓迎の言葉を送ってくれた。


聖女のような微笑みを浮かべる彼女は神々しく美しいが、実際は口も態度もクソ悪いことを俺は知っている。彼女は大勢の前ではこう取り繕うのだ。


『本日、あなたの血筋を検討するにあたって共にいくつかの教会を巡ってもらいます。』


「いくつかの教会?」


シュエリー大公から説明を受けながら神殿の中を歩いていく。ちなみにシュエリー大公の周りには6人も騎士が付いているから俺と隣り合って喋っているわけではない。そして俺の後ろには帝都軍の人間や技術師、文部官とかがいっぱいいる。超大勢で移動中だ。


『天降教会は複数の教会が集まって、一つの神殿の形をとっているのですよ。帝国民全員に開放されている教会、神官のみが入れる教会、貴族のみが入れる教会、そして天使の血筋のみが入れる教会など…』


以前シュエリー公国に来た時に俺はうっかり天使の血筋しか入れない教会に入ってしまった。しかしそこに俺が入っていたおかげでシュエリー大公はすぐに俺が天使の血筋であることを信じてくれた。もしかしたら今回もあの時の教会に向かうのかもしれない。


『まずはこちらの教会へ。』


「え?」


案内されたのはこの前と違う場所だった。中規模サイズの教会だ。あまり装飾をこだわっていないから帝国民全員が入れる場所なのかもしれない。


『他の者はこちらでお待ちなさい。アグニ、あなただけ私についてきなさい。』


「「 なっ…?! 」」


周りの騎士や軍人らが騒ぎ出した。


「シュエリー様、この者の素性はまだ明らかではありません!お一人で接するのは…」

「それに我々は全ての工程に同行するよう最高官から命じられています。」


騎士と文官が大公に食い下がった。しかし大公は美しく、誰も寄せ付けない笑顔を放った。


『不必要ですわ。どうぞこちらでお待ちを。』


「「「 っ……!! 」」」


大公に何度も食い下がれる身分の者はこの場にいない。しかしここでシュエリーが勝手に最高官の命令を無視してしまうとシュエリーの印象が悪くなる。そもそもこの場は何をするところなんだろう。


「失礼、シュエリー大公。こちらは何の教会なのでしょうか。」


俺は一礼をしながら質問した。シュエリー大公は少し言いよどんだ。


『洗礼式の……確認を……』


貴族は生まれてすぐ洗礼式を受ける。それは天使の血筋も例外ではない。

そして天使の血筋はその時に過去の記憶を封じられる。しかしこの事実を知ってる者は帝国にほとんどいない。


血筋や芸素量の確認よりもまず先にこれを確認するということは、もし洗礼式を受けていない…つまり記憶を封じられていないと判断されたら、俺は一生天使の血筋と認められることはないのだろう。

そして後に、帝都共通教会関係の者に暗殺されるのだろう。()()()な記憶を持つ異常者として。

シュエリー大公は、俺が記憶を封じられていないと思っている。だから俺と2人だけで入って、結果を誤魔化そうとしてくれているんだ。たぶんシーラの時はこうやって誤魔化したのだろう。



   なるほど……

   だから親父は俺の記憶を封じたのか



俺は洗礼式を受けていないが、父親の判断により過去の記憶を封じられているらしい(その割によく夢を見るけど)。きっとそれは、()()なった時に俺の身を守るためだったんだな。


「シュエリー大公、大丈夫です。」


『……アグニ?』


俺はシュエリー大公に一度大きく頷いた。


「ご心配には及びません。最高官の命令通りに、事を進めてください。」


『……わかった。では必要な者だけ、後ろからついてきなさい。』



教会の内部は外と同程度の装飾。白い大理石の道を進むと祭壇があり、その祭壇に顔一つ分くらいの大きな透明の球が置いてあった。

シュエリー大公はそれを手に取り芸素を込めた。するとすぐにその透明の球の中に白い靄がかかり始めた。


『……洗礼式を受けているとこのように白い靄がかかります。この水晶を両手に持って芸素を込めなさい。』


「わかりました。」


『アグニ……その、っ……』


シュエリー大公は不安そうな顔で俺を見ていた。意外と優しい人だな。


「大丈夫っすよ。俺、()()()受けてるんで。」


『え……』


大きな透明の球…水晶に芸素を込める。すると、水晶の中に白い靄と金の粒が漂い始めた。


『っ…!!』


「ほ、本当に洗礼を受けていたのか……」

「まさか……本当に貴族なのか…?」


様々な声が聞こえる。普通、洗礼式を受けているということは貴族の家に生まれたということと同義になる。


「大公、これで俺は証明されましたか?」


大公は呆然と水晶を見続けていた。しかし俺が声をかけると大公はすぐ我に返り、皆に大きな声で伝えた。


『今、アグニが洗礼式を受けていることが証明されました。文部官、しっかりと記しておきなさい!』


「は、はっ…!!」


去り際にシュエリー大公がコソっと俺に聞いてきた。


『アグニ、お前一体いつ……』


「……昔、父が勝手にやってたみたいです。」


でも、俺の親父は帝都共通教会で俺に洗礼式を受けさせたわけではないだろう。つまり実際に確認されると洗礼式をしたという記述も証拠もない。

しかし帝国が重要視しているのは「実際の洗礼式の有無」ではない。「天使の血筋が記憶を封じられているかどうか」。それが最重要なのだ。


その部分を俺は今クリアした。


『次の教会へ移ります。ついてきなさい。』


「はい!」





・・・・・・






次に通されたのは以前シリウスと勝手に入ってしまった教会だった。


「ああ、ここね!」


『ここは天使の血筋のみが入れる教会。中にはすでに他の天使の血筋がおります。』


「え?!」


帝都貴族のうち、伯爵位を持つ天使の血筋全員がここに集められているらしい。俺が本当に教会内に入れたかどうかを確認するためだ。


『アグニ、芸素を出し続けながらこの道をまっすぐ歩きなさい。』


「あ、はい!」


俺は以前と同じように透明の膜を何度も通り過ぎていった。そして最後の膜も無事に通り、俺は教会の中に入ることができた。


「うおっ?!」


天使の血筋10名ほどが俺を凝視している。この人たちが帝都に住む伯爵位の天使の血筋なのだろう。


「アグニ、お疲れさま。」


「あ、シーラ!」


そうだ。考えてみたらシーラも伯爵位の天使の血筋だ。知っている顔があるだけで安心感が違う。


「お、おい……」

『ほ、本当に君は天使の血筋なのか?』

「どうやってここを通った…?」

「きちんと芸素出してた?」

『どうしてこんな黒髪なの?』


シーラを皮切りに、天使の血筋たち各々勝手に喋りかけてきた。しかしすぐに話しかけてきてくれたことが俺は嬉しかった。嫌煙されるだろうと予想していたからだ。


「初めまして皆さま。アグニと言います。天使の血筋の名はシュネイです。自分が黒髪である理由はわかっていないので、これから理由がわかればいいなと思ってます。よろしくお願いします!」


俺はできる限り明るく誠実そうな態度を示した。第一印象は大切だからな。


『皆の者、アグニはこの教会の中に入ることができました。』


シュエリー大公は急に厳しい顔つきに変わった。


『そして……この「取捨(しゅしゃ)の膜」が本当に機能していることも確認しておきましょう。』


シュエリー大公は俺たちに入口の方を見るよう促した。

膜のせいで見えにくいが、教会の入り口に軍人が立っていることがわかる。シュエリー大公が大きく手を挙げるとその軍人が教会めがけて解名を放った。


ゴゥワァァァァ!!!!!


『「『「 っ!!!!!! 」』」』


炎の解名だ。けれど炎は膜に阻まれ、教会内部に入ってこなかった。強力な結界なのだろう。


『………そして、次。』


シュエリー大公が再び手を挙げた。すると解名を出した軍人が去り、手錠をつけられた別の男が教会の前に連れてこられた。



   ・・・?

   どうするんだろう?



『……あの者は、芸のできる死刑囚です。』


「っ?!」


死刑囚だという男が教会に向かって歩き出した。


「ええ?!!」


ドン・・・


男は膜に阻まれ、教会内に一切入ることができなかった。


『……このように、芸石を持たず芸素を外に放てない…天使の血筋以外の者は教会に入ることすらできません。そして・・・』


シュエリー大公が再び手を挙げた。すると先ほどの軍人が死刑囚の首に芸石のネックレスを付けた。


「な、なにを…!?!?!」



死刑囚は……物凄い恐怖の色を顔に浮かべ、笑うかのように泣いていた。


俺はこの表情を、一生忘れないだろう。



ガ ガガ ガガガガガガ ガ ガバチギィィィン !!!!!!!!!!!



ドスン・・・




その亡骸は悲惨だった。

皮膚は溶け落ち、皮膚の下の肉と血は沸騰した液体のようにぐじゅぐじゅに変わった。髪や舌、目は一瞬で焦げて黒い炭へと変貌した。



その過程を、全て見ていた。



シュエリー大公の声が教会内に響く。


『………芸石を使用して侵入しようとする者は……このように命を失います。今、この「取捨の膜」が正常に働いていることを確認しました。』






話を進めるために説明とか会話の流れとかを省いてしまっています。もしわかりづらかったら言ってくださいね~

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