200 戦後処理
みなさ~~ん!メリークリスマスで~~す!!❅
腹が立つ
人の頭上を平気で飛び回る姿に
アグニは東門の城壁から西の方角へ向かっていった。
きっと地上の騒音は聞こえないだろう
アグニを追いかけている途中、火事の現場を見た。近くで見る炎は恐ろしく熱かったし、悪臭とともに焦げた遺体も複数見た。血も流れていた。
ねぇ、気づいてよ
僕は道を走っている。アグニは空を飛んでいる。
アグニはまっすぐ直線に進めるのに、僕は建物や馬車などの障害物を避けて回り道をしながら進むしかない。
『っ……う!!!!』
また、遺体。服装から市民だとわかる。
『うわぁ!!!?』
道を曲がった直後に、また複数の遺体。軍服を着ている。察するにこっちの6つの遺体がカペー軍、あっちの7つの遺体がブガラン軍。
血を踏んでしまった。
『きっ……』
汚い。
空を見上げると、そこには先ほどと変わらず舞うように飛ぶアグニの姿があった。
『ははっ………』
下と上は、別世界のようだね
アグニは下とは隔絶した上の世界で輝き、
俺は……下の世界で血を踏んでいる。
『ほんとさぁ……』
僕は空を見上げてまた走り出した。離れていく背中の行く末を推測しながら懸命についていった。
『はぁ、はぁ、はぁ・・』
軍人が大勢いる。ここだ。ここが中心地だ。そしてアグニが目指していた場所だろう。それなのに・・・
なにこれ?どういうこと??
カペー軍は剣を片手に持ったまま呆然と立ち尽くしていた。一方のブガラン軍は卒倒しているのか、地面に伏したまま一切動かない。
『あっ!!!』
アグニだ。
アグニがいる……けど……
『血だらけじゃないか……!』
アグニは口から血を吹き出し、腹部も真っ赤に染まっていた。よく見ると手も怪我している。
アグニの足元には剣が落ちていた。そしてその剣には血がべっとりと付着している。
もしかして……あの剣で刺されたのか?!
アグニが全身金色の装備を身につけた男に詰め寄っていた。金色の装備だからてっきり相手は天使の血筋かと思ったが、よく見るとブガラン大公だ。
『っ……!!』
アグニが何か言葉を発していた。
そしてまた、
『あの目だ……。』
「う、うぎゃあああああ?!?!!!」
ブガラン大公の叫び声が耳に届いた。アグニはそれに構わず、自身の左手に巨大な火の塊を創り上げたのだが・・・
『な…に……あの炎……』
美しかった。
そして恐ろしかった。
この2つの感情が拮抗し、脳が警鐘を鳴らす。
赤、黄、黄緑……白……水色……金色……どうしてたかが炎にそんなたくさんの色がついている?!
あれはただの火の塊ではない。部分ごとに火の温度が違うんだ。だから複雑な色が重なり合って見えているのか?
……いや、本当にそれだけか?
アグニの芸素が炎と混ざり合っている?
アグニは火の芸が1番得意だと言っていた。
でもあれは……得意とかそういうレベルではない。今までにあんなものを見たことなんてないのだから。
なんというか……
あの『火』はアグニのものだった。
そしてその『火』は、1つの生命体のような輝きを放っていた。
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アグニはその美しい火をブガラン大公の頭にぶつけようとしていた。
っ…だめだ!相手は大公!公爵位!
『アグニ!!!!!』
「…っ……」
アグニがこちらに顔を向けた。
僕を見たアグニの目からは獰猛な光が消え、ただの金色に戻っていった。
「………コル…!!」
あ、よかった……
アグニが戻ってきた。
たまにアグニの意識はどこか遠くへ行ってしまう。しかし僕が声をかけるとアグニは我に帰る。
そのことに少しばかり優越感すら感じていた。
「なっ……!コルネリウス?!何をしている!!!!」
『あ、兄……リオン副隊長……!』
この度の出兵で特別編成した全5班のうち、総指揮を任されたのがリオン兄様だった。兄がここに着いたということは、帝都軍がここに集まるということだ。
「っな?! どうして全員倒れている……!え、あれ……あれはアグニか?!」
リオン兄様と後ろの帝都軍人たちはブガラン軍が血も流さず地に伏している様を見て驚いていた。
しかし結局、アグニに目が集まるんだ。
『………ほんとうに、』
帝都軍が両軍の間に流れ込んで戦闘を阻止する。兄様がアグニを抑え、数名の軍人がブガラン大公を保護する。アグニはなぜか近くにいた平民の少年に必死で逃げろと叫んでいた。しかしこの特殊な状況の説明を聞くためにも、あの少年はアグニと一緒に保護されて帝都に連れていかれるだろう。
あーあ、戦争って
こんな下らなかったのか。
『 ……冗談じゃない。』
・・・・・・
「1班は首都の外にいる救護班を迎えに行け!2、3班はブガラン軍兵士の容態を一人ずつ確認!4、5班は治安部隊として首都を巡回しろ!」
ブガラン大公の保護は行った。いつもパーティーで大声を上げている姿とは打って変わって閣下は放心状態だった。
そして・・・
「アグニはなぜここにいるのだ……?」
アグニは先ほどまで近くにいた少年……カイルと呼んでいた少年に必死で逃げろと叫んでいた。
しかし逃すわけにはいかない。
我々がカイルという少年を囲むとアグニは殺気を込めた芸素を溢れさせ、威圧を発動した。
しかしその時、弟のコルネリウスがアグニに近づき、必死に『大丈夫だよ、悪くは扱わないはずだから。大丈夫。』と何度も声をかけることでようやく落ち着きを取り戻したのだ。
カイル……その名と姿を見て思い出した。彼はブガラン大公襲撃事件で帝都に投獄されていた少年の一人だ。
アグニが彼と一緒に逃げたことはすでに知っている。なにせ対応したのが俺自身だから。
そしてそのことはシーグルト隊長もご存じであるし、『特務案件』として処理された。だからアグニにもカイルにも罰則がかかることはないだろうが・・・アグニはそのことを知らなかったのだろう。
『……リオン副隊長!北門を守備していたブガラン公国の軍人がお話したいことがあると……』
「ん?」
部下の言葉に後ろを振り返ると、実直そうな軍人が教科書の手本のような敬礼をしてこちらを見ていた。
「お初にお目にかかります、ブガラン公国軍大隊長のヴェルマンと申します。対カペー公国軍戦闘において北門の守備を任されておりました。」
戦闘からは最も縁遠い配置……出世頭か左遷組か。この者に苗字がないことを考えると後者だろう。
ヴェルマンという男は何かを探すように少し辺りを見渡した。
「あの、こちらにアグニと呼ばれる少年はおりませんでしたか。」
この者、なぜアグニを知っている?
「……アグニと呼ばれる少年の保護は済んでいます。案ずることは何もありません。」
少し突き放した言い方を敢えてしてみた。しかしこのヴェルマンという男は特にそのことに不快な様子を示すこともなく、逆にどこか安心したような表情を見せた。
「失礼だが、アグニのことはなぜ知っている?」
ヴェルマンはこの質問に少し戸惑う様子を見せたが、すぐにキッと表情を戻した。
「………アグニ殿と通信用芸石で連絡を取り、この度の戦の状況も報告しておりました。」
「っ!!!!」
この者が原因でアグニはブガラン公国にいたのか?!
「なぜ……!いや、今はそのことを聞く余裕がない。ヴェルマン……役職はなんだ?」
「あ、中佐でございます。」
「ではヴェルマン中佐、共に帝都まで来ていただけるか。この度の戦争に関して、帝都にある貴族院裁判所で裁判が行われるだろう。その際に参考人としてあなたに召喚がかかるかもしれない。」
「さ、裁判……ですか…!」
ヴェルマン中佐は驚いたように目を見開いた。しかし何も驚くことはない。貴族同士のもめごと、たとえそれが国家を巻き込むものであっても、結局最後は裁判所にて判決が下る。今回我々帝都軍がここまで来たのは戦争を止める目的もあったが、同時に参考人や証拠になりそうなものを集め、帝都に持ち帰るためでもある。
「あの……あ、帝都へ同行することは構いません。アグニ殿は…捕縛、されているのでしょうか。」
この者は自身よりもアグニの方が心配なのか。
こういう優しさは、あまり貴族内では見ないものだった。
『あぁ、あの少年は捕縛も拘束もされていません。あなた方と同じように参考人として馬車で移動してもらいます。』
部下がすぐにヴェルマン中佐の質問に答えた。彼には荷物管理を任している。もちろん、この「荷物」に人も含まれる。
部下の言葉にヴェルマン中佐は驚きと不思議そうな表情を見せた。
「………失礼ですがどうして、でしょうか。」
ヴェルマン中佐と同じ疑問を私も持った。我々帝都軍はアグニがブガラン大公に攻撃しようとしている場面を目撃してしまっている。私はアグニと直接の面識があり、彼が宰相閣下の保護下の人物であると知っているが、部下は知らない。現場だけ見た部下はアグニを拘束し、縛り上げた状態で帝都へ移動させる方法を取るだろう。
そして私は部下に、アグニを貴族と同じように扱えと言い損ねていた。それなのになぜ部下はアグニを拘束せず保護したのか。
私とヴェルマン中佐の疑問に反して、部下は至極当たり前のように言い放った。
『え?だって雑巾の山の中に一つだけベルベットの布があったら、違うと気づくでしょう?』
「「 っっ……! 」」
部下は貴族を見慣れている平民だ。その彼から見て、アグニには平民とは違う、貴族的な気品があるということなのか。
ー僕、髪の毛が黒い天使の血筋を初めて見ました。ー
そんなヴイの言葉を思い出す。
アグニ、君は本当に………
「リオン副隊長!少々よろしいでしょうか!」
遠くから別の部下が俺を呼んだ。
「あ、ああ……ではヴェルマン中佐、また。」
「あ、はっ!お心遣い、感謝申し上げます。」
ヴェルマン中佐はまた隙の無い敬礼をした。俺も同じように敬礼を返し、部下のところへ向かっていった。
・・・・・・
貴族院裁判所
それは宮廷や宮殿、第1学院や各王族のお屋敷が立ち並ぶ『島』の中にあり、貴族同士の争いや問題を解決するために存在している。貴族院の裁判官は全員が貴族、そして帝都もしくは各公国の文部での職務経験が10年以上必要だ。その上で3次まである裁判官試験を全て突破し、裁判所での事務・経理等の経験を5年以上積んだら裁判官になれるのだ。
ゆえに裁判所勤務というのは貴族の中でも一目置かれた存在となる。
特にその中で最も位の高い「最高官」は皇帝陛下以外の全ての人間を裁判所に召喚できる特権を持ち、そこにはもちろん王族や宰相も含まれる。
貴族院裁判所内の法廷は歌劇場のような構造である。
歌劇場の舞台にあたる部分に裁判官らとその裁判の当事者らが集う。裁判と直接関わりのない貴族や王族も裁判を見学でき、その者らは歌劇場で言うと客席部分にあたる各ボックス席から傍聴する。
中央……歌劇場であれば一般席がある場所に侍従や騎士、裁判見学の許可を受けた一部報道陣、そして参考人らが座っている。
この度のような国家間での裁判は観衆の目を覆いに惹きつける。傍聴席は貴族や王族でほぼ満席状態になっていた。
「カペー公国大公陛下はブガラン公国への侵攻をお認めになりました。」
カペー公国側の代表者として、法廷には妙齢の淑女が立っていた。彼女の言葉に場は一気にざわついた。
帝国基本法に則れば、国家侵略罪は相当な重罪。公爵位の王族ですら極刑の可能性がある。それを、カペー大公は認めたのだ。
「しかし、」
その女性はキリリとした目でブガラン公国の代表者に告げた。
「戦闘時、とある少年が『ブガラン大公を襲撃したあの事件の首謀者たちは、あなた方が自ら指示を出して仕組んだことだ』と言っていたそうですね。」
「違う!そんなのは事実無根だ!!ブガラン大公陛下を襲撃し、暗殺未遂を起こしたのはお前らの国民だ!!」
『静かに。』
最高官の指示が飛び、また静寂が戻る。
『………カペーの大使、その少年とは誰ですか。また、その者と面識があるかどうか、そしてその少年の証言を誰が聞いていたのかを答えなさい。』
最高官の指示に対し、カペーの代表者が一度頷き、答えた。
「名はアグニ、黒髪の少年です。私はその者との面識はありませんが、襲撃を行った少年グループは面識がある様子です。少年はブガラン公国首都・メンベルでの戦闘時にカペー軍とブガラン軍の間に立ち、その証言をしたそうです。正確な人数はわかりません。」
『ふむ………』
最高官は他の裁判官を一度見回し、告げた。
『名・アグニを参考人として召喚します。』
さぁてこれからやっと正月だぜい!
もし31日までに次話をアップできなかった時のために……
よいお年を!!笑




