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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第5章 年は暮れて また明ける
210/281

197 暗躍

12月!!

今年は数億年ぶりに凧揚げがしたいかもしれない。




「じゃあなカール!!」


「カイル、気を付けて帰れよ。」


「この森はよく知ってるから大丈夫だ!またな!!」


「ああ!また!」


飛び去っていくシリウスさんとカールを見ながら改めて「俺、今まで空飛んでたんだすげえ」と思った。

でけぇ竜……あ〜神獣? あれもまじでかっこいい。


見慣れた森。

このまま左に行けば俺んちの農地。西に行けば家がある。

森は異様なほど静かだった。真冬だから生き物は少ねぇし、木に葉が付いてないから風で鳴ることもない。静かなのは当たり前だ。


なのに・・・ものすごく緊張感がある。


俺は家まで走って帰った。

家の前には誰もいなかったがバケツと箒が置きっぱなしになっていた。なのに枯葉がたくさん落ちている。つまりここ数日は掃除していないってことだ。


ここ数日掃除してないのに、掃除道具であるバケツと箒が置きっぱなしになっている。


嫌な予感がする。身体が震える。家に帰りたくない。家に今すぐ帰りたい。気持ちがその狭間で揺れている。


俺は口に溜まった唾液を飲み込み、再び走り出した。


バタン!!!


「おい!じじい!ばばあ!帰ったぞ!!おいミシェル〜!!」


誰の反応もない。


「おい……だ、誰もいないのか?まだ寝てる? おーい!!俺やっと帰って来れたぞ〜!」


なんの音もしない。

俺は急いで2階に駆け上がった。


「おいじじい!ばばあ!おーい………お〜い………?」


両親の部屋が 少し空いていた。


ギイィィィィ・・・



「  あ……あ ああ 

      あああああ゛!!!!!」



俺の違和感は あまり外れたことがなかった。





部屋に転がる3人は、綺麗な服を着ていた。身分のある人が我が家に来て、家族はその人を接客しようとしたのだろう。だからこんないい服を着ているんだ。

軍人が家に来たんだ。俺の家族は約束の金を貰えると思ってわざわざいい服を着て、その軍人らを・・・


「もてなそうとしてくれたのか………」 


服は切られて破けており、流れ出た血はすでに乾いていた。窓が開かれていて、外の冷気が部屋に入ってくる。この寒さのお陰で死体からはまだ臭いはしなかった。


「こんな寒いところで………俺が帰るのをずっと待っててくれたのか……?」



父ちゃん、母ちゃん、ミシェル

ごめん。ごめんな。ごめんな。本当にごめん。


俺、こんなことになるなんて思ってなくてさ。


ごめん。


本当に、ごめん。

頼むから生き返ってくれ。


頼む。お願いだ。

もう一度、話をしよう。


「ごめんな父ちゃん…母ちゃん…ミシェル…!!」


思い出が溢れてくる。

3人の笑顔を思い出す。家族みんなでご飯を食べて、畑を耕して。

つい……ついこの間までそうやって過ごしてたじゃんかよ。

なんで俺だけが生きてんだよ。


「頼むよ……頼むよ……死なないでくれ……!!!!」


部屋は凍えるほど寒くて


3人は物音一つ、立ててくれなかった。




   ブガラン王は 絶対に殺す。



俺は窓を締め、両親と妹の上に毛布をかけ、家にあった唯一の剣を倉庫から取り出して外に出た。


(『戦場とブランド王がいる首都はここから東の場所にある。逃げるなら西へ。』)


シリウスさんがそう言ったのを思い出した。


「東に………ブガランの王……」



俺の呟きは誰の耳に入ることもなく、ただ静かな冬の中に溶けていった。





・・・・・・





『ど、どうして……こんなことを……!!!!』


農民姿の男が殺された仲間を見ながら必死に声を上げていた。盗賊とシリウス様はその男になんの感情も向けていなかった。


『神は……神というものは……我々地上の人々を救うのではないのですか…?!!!』


その男の台詞を聞いたシリウス様はふふっと軽やかに笑われたが、やはりなんの言葉も返さなかった。


「て、天空王よ……どうか我々に慈悲を…!!!」


『慈悲を!!』


「慈悲を!」『慈悲を!!』


『慈悲を!!!!』「慈悲ヲ!」「慈悲を!!!」『慈悲を!』「慈悲を!!」『慈悲を!!』「慈悲を!」『慈悲を!!』『慈悲を!!!』「慈悲を!」「慈悲ヲ!!!」『慈悲を!』「慈悲を!!」


壊れた機械人形のように、全員が同じ言葉をシリウス様に投げていた。


「っ…シリウス様……!?」


シリウス様が・・・彼らのことを一瞬だけ、とても気持ち悪そうに見ていた。しかしその表情はすぐに消え、シリウス様は彼らから目を背けて神獣の頭を撫で始めた。


『ねぇ、タトル。』


『なんでしょうか。』


シリウス様と先ほど会話していた盗賊が返事をした。


『彼らは……天使の血筋?』


タトルと呼ばれたその男は頭を掻きながらため息を吐いた。


『いや、違いますね。』


『そうだよねぇ…。』


次の瞬間、シリウス様の瞳に猛烈な光が宿った。


『 それで君はいつまで突っ立ってんの。 』


『っ……!!!失礼しました!おいお前ら、()()だ。』


『『「「『   おお〜〜〜 』」」』』


タトルは頭を下げ、他の盗賊に指示を出した。周りにいた盗賊らは武器を持って動き出す。


「ひ、ひぃ!!!!か、神よ!!!どうかお助けくださいいぃぁぁ!!」


ガシュ・・


『ぎぃやああああぁぁぁぁあ!!!!』


ザクッ!!


「ひぃぃぃ!!!か、天!!!天空おオぉおあ!!!」


ブシャア・・!


「どゔじでえぇ゛え!!!!?!??」


ベキッ バシュ・・


絶叫の響く中、

シリウス様は一度も『絶望』の方には目を向けず、ただただ静かに神獣に喋りかけていた。


『みんな神、神って……いったい誰に祈っているんだろう。』


赤い川が また流れ始める。


『僕は神じゃないから、僕にじゃないよね。』


死体が また焚き火の前に積もっていく。


『彼らは天使の血筋でもないからどうでもいいし、』


神獣はじっとシリウスのことを見ていた。シリウス様と神獣の雰囲気は穏やかで、目の前の惨状とはまるで別世界であるかのように美しかった。


『 ほんとうに、低レベルな人間相手は疲れるよ。 』


()()雪が、また降り始めた。





『それじゃあカール、帰ろうか。』


「……………………は、い?も、申し訳…ありません……き、聞いておりませんでした……」


灰白色の雪、鮮烈な赤色

死の匂いが鼻から脳を侵していく。

耳鳴りがし、呼吸も浅くなっていた。俺はシリウス様の言葉を聞ける状況ではなかった。


『どうしたのカール?具合悪そうだね?』


心配そうに俺のことを見つめるシリウスが視界に入った。


「どうした……?どうしたもこうしたもないですよ………!!今、目の前で………何人死んだと思ってるんですか?!!!!!!」


声が抑えられない。感情が止まらない。

この人はなんだ?

人を、人間の命を、こんなにも簡単に切り捨てられるというのか?!天使の血筋ではない人間なら火の粉を振り払うのと同じ感覚なのか?!!


荒い呼吸でシリウス様のことを見続ける。しかしシリウス様はへにゃりと眉を下げて困ったように笑われた。


『え?よく考えてみてよ。さっきの、可哀想なのは僕でしょ?』


「な、なにを………」


『だってそうでしょ?僕は盗賊の様子を見に来たんだ。なのに勝手に神だ神だと騒いで勝手に自分たちの味方だと決めつけて、願いを他人に放り投げそれが受け入れられると信じ込んでいる。僕が無視したら悲劇の主人公ばりに騒いで、人のせいにして、呪いの言葉を吐くんだ。どうして僕が彼らの味方だと考えるんだろう?僕にとっては農民も盗賊も等しく変わらないのに。』


「っ………だ、だって……あなたは天使の血筋…ではないですか………。」


『天使の血筋って常に誰かの味方なの?』


「っ…………」


天使の血筋は……神の子孫だから……

常に正義の味方……だから……


でも先ほどの状況。

もし俺がシリウス様と同じものを見ていたら………


「っうっ……!!」


ゾッとした。あの表情を、目を、言葉を、何千回と投げかけられる人生に。


シリウス様の発言はおかしい。天使の血筋としての義務は必ず存在するから。

けど、シリウス様がどうして気持ちの悪い顔をしたのかは理解できてしまった。俺は天使の血筋じゃなくてよかった。


「っ…?!!!」


 ()使()()()()()()()()()()()()()?!!


こんなこと、今までに思ったことがない!けれど俺は今確かに、()()()()()


待て、待て待て!

天使の血筋は羨ましい存在だ。生きてるだけで世界から全肯定される。貴族の中においても多くの特権を持ち、誰からも敬われる至高の存在。


 なのに、天使の血筋じゃなくてよかった……?


 この気持ちは、なんだ?


俺が得た新たな視点は、天使の血筋であるシリウス様と一緒にいればより深めることができるかもしれない。この気持ちの行き着く場所がどこかを知りたい。シリウス様が至った境地を知りたい。


俺は、この人についていこう。


『カール、君はこのことをアグニに伝えるかい?』


「っ…………この酷い状況を……ですか。」


もうわかった。

シリウス様はシド公国からの援軍が来ないよう、裏で盗賊に頼んで人の流れを止めていたのだ。そして動けないシド公国の代わりにアグニが単独で動くことになった。きっとアグニは戦争を止めるために大勢の前で自身の能力を見せるだろう。アグニが天使の血筋であるとみんなにバレてしまうだろう。


それこそが、シリウス様の目的だったのだ。

シリウス様は何十、何百もの命を犠牲にし、戦争を利用して、アグニお披露目の場を作っていたのだ。


アグニはこの戦争が自分のために仕組まれたこととは知らずに、シリウス様の目的を果たすだろう。


「………アグニは人として、師として、あなた様のことを慕っています。アグニを絶望させたくない。傷つけたくない!だから……ここでのことは私の心の内に留め、アグニには伝えません。」


こうする方がいい。

汚い話をアグニは知らなくていい。俺だけ知っていれば十分だ。

アグニを、傷つけたくない。


シリウス様はにっこりと俺に笑みを見せた。


『君が賢い人間でよかった。』





・・・・・・






『ん?あれれ?』


「どうしましたかシリウス様?」


再び上空を飛び、今はブガランに向かっている。ブガランまではすぐ着くため、シリウス様の解名『水曲』で神獣ごと姿を透明にして低空を飛んでいた。

するとシリウス様が地上を指差して言った。


『あれ、カイルだね。』


「え、本当ですか?!まぁ髪色は一致していますが…」


上空からだと人がいることはわかるが、個人を特定するのは難しい。しかしシリウス様がカイルだと断定したのであればそうなのだろう。


『降りてみよう。』


シリウス様の言葉で神獣はすぐに地上へ向かっていった。


「おーい!カイルー!!おーい!!」


「………あ、カール。シリウスさん。」


カイルは無表情のまま、俺たちが降りてくるのを黙ってみていた。数時間前に別れた時はあんなに笑顔だったのに、明らかに様子がおかしい。


「カイルどうした?なんでここにいる?家はどうだったんだ?」


カイルは魂が抜けているのかと思うくらい、無表情だった。


「……………あー…………みんな、殺されてた……。」


「なっ……え?!!! こ、殺された………?!」


家族が全員殺された……と、カイルは言った。その言葉を俺が反復すると、徐々にカイルの瞳から涙が溢れ出した。そしてその涙は止まることがなかった。


「あーあ………ほんとに殺されてたよ。もう冷たい、死体だった。父ちゃんも、母ちゃんも、ミシェルも……」


「そんな………!」


『それで?君はどう思った?君はどうしてここにいるんだ?』


シリウス様の質問で、カイルの表情が劇的に変わった。


憎しみ。怨み。怒り。悔しさ。


様々な強い感情が一斉に溢れ出していた。



「俺は、俺は絶対にブガラン王を殺す!!!!!!!!!!!」


カイルの瞳は獰猛な光を宿していた。俺は芸素感知ができないからわからないが、きっとカイルの身体からは物凄い量の芸素が溢れ出ているだろう。


『ならどうしてこちらに向かっていたの?他の3人はブガランの首都に向かってるんじゃないか?』


「っ……俺も、向かおうとしたさ。」


カイルは手を固く握りしめていた。カイルの握りしめた手からは血が、瞳からは涙が流れていた。


「けど俺は、()()()ブガラン王を殺したい。でも俺だけじゃあブガラン王の元までたどり着けない。」


特に武芸を学んだわけでも特別な装備を持ったわけでもない平民が一人で戦闘のど真ん中に行って王を叩くことなどまず不可能だ。


「だから俺はシリウスさん……あんたに会いに来たんだ。その方が確実だと思った。」


カイルの迫力は凄まじいものがあった。


「シリウスさん、俺をブガラン王のとこまで連れて行ってくれ。そこにアグニもいるんだろ?あんたも今から向かうんだろ?!王を殺すのは俺だ!俺がいくらでも手を汚す!!もう死んでもいいから!!!俺に復讐させてくれ!!!!!!!!」


シリウス様はブガラン王が東にいるという情報とともに、『全員を降ろした後にカペーの北西まで様子を見に行ってるからね。』と言っていた。カイルはその言葉を思い出してブガラン王のいる東ではなく、シリウス様のいる西に向かっていたのだ。


カイルの心からの頼みを聞いたシリウス様は、天使のように美しい笑顔をしていた。


『いいよ。君を送り届けてあげるよ、宿敵のもとへ。』





おおっと~………シリウス様………


次、ブガランでのアグニ登場です。

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