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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第5章 年は暮れて また明ける
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191 少年たちの事情




ある日、家の前に数名の男が現れた。

西陽が強く、じっとりと暑い日だった。


「はっ…! こんな貧しいところで、君たちは生活できているのか?」


「………誰だよてめえ。」


男たちは人の家をジロジロと見て、蔑むように笑った。


「いい仕事があるんだが。」


「………そんなん興味無いから去れ!!」


ドサッ・・・ チャリン!


男は地面の、ちょうど水たまりができている場所に袋を落とした。その袋が落ちた音から中身が何なのかはすぐわかった。


何十枚もの1セン硬貨。

俺たち家族は1センあれば1週間は生きられる。つまりあの袋1つで……当分は生きられる。


「まだ、興味ないのか?」


男たちはにやにやと笑いながらこちらを見ていた。両親の顔を見ると、彼らの目は硬貨に釘付けになっていた。


『お兄ちゃん……』


妹だけが俺の顔を見ていた。

俺の上着を掴んで不安そうにこちらを見上げている。


俺は泥水の中からその袋を拾った。

袋から泥の水滴が落ち、俺の靴に染み込んでいった。


「………この銀貨で、何をしてほしいんだ。」


俺の質問に、男たちはまたニヤリと笑った。





      ・・・・・・・・・・・・





「その男らは俺らみたいなカペーの農民に声をかけていたらしい。」


リーダー格の少年が静かにそう告げた。


『ブガランの王を軽く襲えば何十枚もの銀貨を与えてやる、と。自分たちはブガランの軍部の者だから、捕まってブガランに引き渡された後に解放してやれるって言ったんだ!』


「何十枚もの銀貨? たったそんだけのお金のためにお前らはこんなことをしたのか?!お前らのせいで……カペー公国はどれだけのお金を支払うと思ってるんだ?!」


呆れた。

こいつらはカペーとブガランの現状を知らないのか?いや、知らないはずがない。

農民は生産した農作物を売って収入を得る。であればブガランが高い関税をかけてる事実を知っているはずだ。

農民は戦争に関する情報にも敏感だ。いざ戦争が始まったら、自分の農地が戦場になるかもしれないからだ。


それなのにどうしてこんな無責任で、後先考えない行動を取ったのか。意味がわからない。


「ははっ!!!!なんだ、お前もブガランのやつらと一緒じゃねぇかよ。」


リーダー格の少年が俺のことを睨んだ。


「お前のセリフは金に飢えたことのない、守るもんがない奴の言葉だ。たしかに戦争は明後日起きるかもしれねぇ。来週起きるかもしれねぇ。けどな、俺らは()()生きるための飯がないんだよ!!金もくれねぇ自国か、泥のついた金をくれる他国かなら………選ぶのは一択だ。」


「っ…………!」


少年たちは強い覚悟を持っていた。

彼らは知っていたのだ。知っていて、カペー公国のためにならないことをしたのだ。彼らは自分が生きるために、家族を生かすために精一杯だったのだ。


この少年たちの行動は間違っているのだろうか?

この少年たちの行動を否定すれば、彼らが生きようとしていること自体を否定してしまわないか?


わからない。どうすればよかった?

どこを正せばよかった?



「……最後の質問だ。ブガラン王を襲った時、王の様子はどうだった?」


ブガランにいる反政府派・ヴェルマン中佐が王を暗殺しようと企てた可能性もまだ残っている。

もしそうであれば王はこの計画をもちろん知らないだろう。襲撃時、王は少年らに驚き、慌てふためき、王を守護する護衛騎士らは懸命に応戦したはずだ。

しかしブガラン軍上層部とブガラン王が戦争の引き金となるようにと考えた自作自演ならば・・・


気弱そうな少年が首を縦に振った。


「ぶ、ブガラン王を襲う時……王が『あぁ、そなたらか』って言った。ま、周りにぐ、軍人が何人もいたんだけど誰も止めなかったし、王は進んで左腕を出して………。だから、王も襲われることをし、知ってた……はず。絶対に言うなって……言われたけど。」



そうか  自作自演の方か。

このことを証言すれば多少は変わるだろうか?


「そのことをどうして軍に証言しなかった?」


俺の質問に1番年上っぽい少年とチャラそうな少年が答えた。


「だって……そんなことしなくても俺らはふつーに解放されると思ってたし、それに言わないことが取引の条件だったし。」


『取引前にお金を半分もらったが、もう半分は俺らが捕まった後、逮捕が確認できたら家まで送り届けてくれるんだ。』


「え?お金って全額貰ってないの?しかも家族に届けるっていってんの?」


「そ、そうだよ………?」


気弱そうな少年が肯定した。ここで俺には1つの疑問が浮かんだ。


「……うーん。 なぁ、というかさぁ」


「なんだ?また説教垂れるつもりなら大声出して、お前がここにいるってばらすぞ。」


リーダー格の少年は不機嫌な声を出した。


「ちげぇよ!あのさ、()()()()()()()()()()()()()?」



「「『「 …………………え?? 」』」」


4人は目を開いたまま固まっていた。


「だってさ、たまたま向こうの計画が狂ったから良かったものの、お前ら騙されて処刑されるとこだったんだぞ?お前らの家族もその計画知ってるんだろ?」


軍人がわざわざ家に来たのは、使える『駒』の家族構成と居場所を正確に知るためなのではと思ったのだ。


こいつらは謎の女の子の助言がなければ死刑になっていた。死刑されればブガラン王殺人未遂の真相は葬られる。けどこいつらはあんな騒ぎを起こした後でも普通に家に帰れると思ってた。もちろん彼らの家族もそう思っているのだろう。

じゃあ少年らが本当に死刑されていたら、彼らの家族はどうする?

きっとブガラン軍部に殴り込みに行くだろう。「本当はこういうことだったんです」と大声で真相を語ろうとするだろう。


それを阻止するために、軍部は彼らを殺すだろう。



『お、おいおいやめろよ!!半分のお金はくれたんだ!しかも契約だって結んだし……』


「その契約は商業契約か?」


「しょ、商業契約……?」


「互いの芸素を込めて、きちんと紙に書いたのか?」


俺の言葉に、誰も頷かなかった。


「か、紙なんて…書いてねぇ。俺らは…ただ、ただ…頼まれただけで……。」


契約じゃないから物的証拠もない。

契約じゃないから軍側はいくらでも嘘を言える。


「この騒動の後に、軍人らがお前らの家族を口封じのために殺すとは考えなかったのか?」


「「『「 っっ!!!!! 」」』」


4人は息をつめ、こぼれ落ちそうなほど目を見開いた。



   あ、やっべぇ。不安にさせたかな?



「まぁまぁ!どうだかわかんねぇけどな!!ただほら、ブガランの軍部ってえげつないからさ!普通に大丈夫なのかな〜って思って・・・」


   ガシャーーン!!!!!


「お、おいお前!!ア、アグニ!!!!た、頼む!!!俺らをここから出してくれ!!!今すぐ家に帰らないと!!!!!」


「どどどどどうしよう…!!!母さんが…父さんが……!!」


『アグニ頼む!!!家に帰って家族が無事か確認したい!!!それだけでいいんだ!!!』


4人は一斉に暴れ出し大声をあげた。檻の中から懸命に願いを伝えている。


「え、いやここからは出せないよ。そんなに気になるなら俺が見に行ってあげようか?家の場所教えてくれ。」


「い、今の話の流れでお前に家の場所を教えるわけねぇだろ?!!!まだお前のことも信用しきってないのに!!!けどもうアグニしかいないんだ!!!お願いだから……俺らをここから出してくれ!!」


そんなこと言ったって……

帝国一の軍隊がいる本拠地から脱獄しようとするなんてそんなの俺だけでも無理だろう。それなのに芸石を持たない4人を同時に逃がせって?ここはそんな甘い場所じゃない。

頼まれたところで叶えられない。


『アグニ……お願いします……みんな家族のためにこんな騒動を起こしたんだ……!確認だけさせてくれれば大人しくまたここに戻る。家族が無事なら処刑だってされていい!!!』


「ア、アグニにだって家族がいるだろ?!その家族のためにお前も同じことをしたはずだろ?!!!」



   え?かぞく? 

   あははっ! え、家族???



何十年も前の記憶が、一瞬 蘇った。

   

「 ………お前らが持ってるもんを俺も持ってると思うなよ 」

   

「……え、なに……?」


「あぁ…いや、なんでもない。」


こんな呟きは、聞こえなくていい。


「家族の無事か確認できたら、その後は一生お前の命令に従う。お前の下で一生働いてもいい。だからどうか……お願いします………!」


リーダー格の少年が直角に頭を下げ、残りの3人も合わせて頭を下げてきた。



   そう言われても……

   俺だけの力じゃあどうにも……





『 やぁアグニ、久しぶりだねぇ 』


「え、シリウス?!!!!!」


ふわりと優しい風が吹いた。


突然現れた明るい髪色の持ち主は俺の両肩に手を置き、顔を覗き込むように後ろから顔を出してきた。


「「『「 えっ…… 」』」」


4人は驚いた顔でシリウスを見ていた。たぶん初めて『天使の血筋』に会ったのだろう。

多くの『天使の血筋』に初めて会った人は、最初動きが固まり、自分の目を疑うように不思議そうな顔をする。そして彼ら自身も気づいていないだろうが、その光のような存在に目が釘付けになっているのだ。


「どこ行ってたんだよシリウス!」


『色んなところ。さっき帰ってきたんだ。そしたらシーラから君がここに向かったって聞いてね、追いかけてきたの。』


シリウスは檻の中の4人に目を向けて笑った。


『初めまして、君たちが噂の4人だね?』


4人はシリウスから目を逸らさぬまま黙っていた。


「この4人が家族の無事を確認したいから脱獄したいんだって。」


シリウスは驚いた顔をして頷いた。


『家族の?それは大変だ。アグニ、手伝ってあげなきゃね。』


「…………そう、だな……。」


俺一人じゃ無理だが、シリウスが協力してくれるのならきっと脱獄はできる。


『ほ、ほんとですか……!!! あ、ありがとうございます……!!』


「あぁ、おう………。」



この時、俺はもうあまり脱出の心配はしてなかった。


さっき、少年たちの「家族に会いたい」という想いを、シリウスは当たり前のように理解した。


シリウスは、俺とは違って温かい家族の中にいた人なのかもしれない。

 


ならば……その家族は今、どこにいるんだろう。


シリウスの家族は、どうなったのだろう。


      







意外と長引いちゃってますね……。

次は公爵邸に戻りますよ!!

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