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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第5章 年は暮れて また明ける
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183 ルシウスの理性



正直、ルシウスを抑えられるかどうかわからない。けれど人に被害を与えることをあれほど怖がっていたルシウスのために、俺は止めなければならない。



『 クィト、こっちにおいで。 』


「…………………え……?」


遠くに立っていたクィトに、シリウスはこちらに来るよう言った。

しかしシリウスの近くにはルシウスがいる。今なお膨大な芸素を撒き散らしているルシウスの近くに行けるわけがない。


『はぁ……それじゃあ仕方ないね。』


ドスッ


「 うっ…!! 」


シリウスは目に見えぬほどの速さでクィトの後ろに回り込み、首筋に手をかけクィトを気絶させた。


「お、おい!シリウス何してんだよ?!」


シリウスは気絶し倒れるクィトを抱えてルシウスに近づいた。シリウスの笑顔はとても華やかで綺麗だった。


『ルシウス、これ……クィトをここに置いておくよ。』


「は?!?!?!?!?」


ルシウスの前にクィトを置いた。あまりにも危険な場所だ。しかし下を向いて呻くルシウスの視界には必然的にクィトが映り込む。


『君が誰かを攻撃をしたいのならば、まず最初はこの子にしなさい。この中で一番弱く、幼く、戦場では助かりにくい存在だ。君の最も近くにいた子ではあるけれど、君は誰彼構わず攻撃したいんだから別に構わないね?』


「……………クぃ………ク……クィト。」


『雷1つで簡単に死ぬから、ほら早くしなさい。』


「…………………クィト。」


『あぁ、けれど君は後悔するだろうね、幼い友人を自らの手で殺めてしまったことに。でもほら、仕方ないよ。君には理性がなかったんだから。感情を取り乱して、泣きわめいて、その結果クィトが死ぬんだから。』


「っ………………こ、これは……クィトだ。」


ルシウスの芸素が徐々に収まっていく。そして横たわったクィトの身体に触り不思議そうに呟いた。


「なんで………倒れてるの…………?」


『君が殺したんだよ。』



   うぇぇ?!!

   なに大嘘ついてんの?!!

   え、なにどゆこと?!!!



「ぼ、ぼくが………ころした………?」


ルシウスの芸素が収まっていく。そしてそれに反して理性が戻ってきているように見える。

しかし目の前に倒れるクィトを見てルシウスは表情を大きく崩し、しわくちゃの顔になった。


「僕が……殺したの…?」


「あ、ルシウス!クィトは 」


「僕が、今……殺してしまったんですか………?」


ルシウスは動かない身体を前に涙を必死に抑えていた。シリウスは感情の消えた顔でルシウスのことを上から見下ろしていた。


『肝に銘じておきなさい。君が理性を保てなくなると、こういうことが起こるのだと。君のあの攻撃の先にこの未来は待っていた。君自身が、望んで得た未来だ。』


「ク、クィトが死ぬことを………望むわけがない!」


『ならばどうしてこんな結果になった?』


「…………ぼ…僕が、馬鹿だったからだ…。自分の感情を抑えられなかったから……!!!」


ルシウスの目から大粒の涙があふれた。

落ちる涙が地面の色を変えていく。


「クィト………クィト…クィト!クィト!!!」


ルシウスはクィトの身体を揺すりながら何度も何度も呼びかけていた。涙を流しながら、懸命に何度も何度も。



「ん、んン……っ」


「え………ク、クィト!!!!!!!!!!!!」


当然だがクィトは死んでいない。

クィトは顔を顰めながら起き上がった。


「んん……あれ、ルシウス…?」


「クィトぉぉぉあああああ!!!!!!!」


ルシウスは先ほどとは比べものにならないくらい表情を崩し、何倍もの涙を流した。


『はぁ〜本当に信じたんだねぇ。芸素を感知すればわかることだろうに……馬鹿だなぁ。』


1を言って10を察せないことに驚くように、シリウスは目を見開いて感心したように言った。


「シ、シリウス……嘘ついたの…ですか?」


『嘘じゃなかったよ、あのまま君が暴れればね。』


「けどぼ、僕は暴れなかったじゃないですか…!」


『それは生死不明のクィトの身体を見たからだろう?』


「っ……! なら、ぼ、僕が聞いた時に……殺したって言わなくてもよかったじゃない……ですか!」


シリウスは片手で眉間をぐりぐりと揉みながら言った。


『じゃあ君はどうやって理性を取り戻すつもりだったんだい?村で全員殺した後に君の理性は戻ったんだろう?それじゃあ遅いんだよ。』


「で、でも!!!!」



バチィィィィィィン!!!!!!!


遠くから放たれた雷の矢がルシウスの首に刺さった。

ルシウスは目を大きく見開き自分に刺さった矢を見ていた。何が起こったのかわからないのだろう。


「な、なに…………」


矢から身体に雷が伝わり、ルシウスは不気味に身体を震えさせるとそのまま気絶した。



『………久しぶりだったからかな?』


シリウスは矢が放たれた方向に話しかけた。


『アグニ!だ、誰か来るよ……!』


コルネリウスは柄に手を当て、いつでも抜剣できる姿勢をとった。しかしわかる。この芸素は・・・


「シーラ……!!」


森から現れたのはシーラだった。確か今日は公爵邸にいたはずだ。それなのにどうしてここにいるのか?


『随分とのんびりだったね。』


「…………言い訳はしないわ。」


『無い方が問題だよ。』


シーラは肩で息をしていた。それほどまでに急いでこの場に来たということだ。



   どういうことだ?

   どうしてシーラがここに来た?

   しかもこんなに急いで………



「シリウス……どういうことだ?」


シリウスはゆっくりと俺の方を振り返った。


『帝都で一定以上の芸素量を感知したらその場に急行するよう、シーラに伝えてある。』


「一定以上の芸素量……」


『そう。ルシウスの発した芸素量はその基準を上回った。しかも()()()芸素だ。』


「………っ!! そういうことか!」


シリウスの言わんとしていることがわかった。基本的に芸獣は芸素を渇望している。ゆえに芸素量のある人間・動物を見境なく襲う。そして芸獣は芸素感知に長けている。縄張り争いをするほどに。


「………ルシウスの芸を感知した周辺の芸獣が帝都に集まってくるってことか?!」


俺の言葉を聞いて、コルネリウスも驚いたように息を詰めた。


『ほぉ、よくわかったね。』


『そ、それはまずいよ!!帝都にいる人口を考えると万が一にでもカペー公国のような事態を起こすわけには……!!』


コルネリウスの言葉で、カペーでの出来事が脳裏によみがえった。

逃げ惑う人々、肉片となった警備隊・・・軍はまだかと泣き叫ぶ声が聞こえてきそうだった。


あれが……帝都でも起こる?


『アグニ!!ち、父上に伝えないと!!』


顔色を悪くしているコルネリウスにシリウスは頷きながら告げた。


『今日の見回りは人員を倍にするよう伝えなさい。まぁ大型か突然変異種が現れたら……シーラが対処する、よね?』


シリウスは綺麗な笑顔をシーラに向けた。シーラは気まずそうに頷いた。


「……えぇ。万が一のために控えておくわ。」


『いい子だね。』


シリウスは再度、地面に転がるルシウスに視線を向けた。


『君は()()()()()()()()()()()()()()。君の暴走が天災になり得ることをいい加減理解しなさい。』


その声は気絶しているルシウスに届いているのだろうか?

ルシウスに言っているように見せて、本当は俺に言っているのかもしれない。ルシウスをきちんと管理しろ、と。


『アグニ』


「あ、はい……!」


シリウスは呆れたように笑っていた。

   

『 いつまでも僕が前にいると思わないようにね 』


ドキっとした。

心の内を見られたかと思った。


「は、はぁ?!俺別にそんなこと…!!」


『あれ、シーラ靴はどうしたの?』


シリウスはすでにシーラに話しかけており、俺のことはもう見ていなかった。

俺もシーラの足を見ると、靴を履いていないことに気がついた。


「………そんなに急いで来たのか?」


驚いた。シーラは靴を履く間も惜しんで急いでこの場に現れたのだ。

今ここで起こったことはそれほどまでに重大なことだったのか。


『足が汚れてるじゃないか。まったくしょうがないなぁ。』


シリウスは立て膝をついてシーラの足についた土や汚れを落とした。そして『少し大きいだろうけど』と言いながら自分の靴を履かせた。


「………いいわよ、別に。」


シーラは拗ねたように言ったが、シリウスはその様子を見て愛おしそうに笑った。


『家に戻ろう。アグニ、ルシウスを運んで。コルネリウスはカールを運びなさい。』


「『 あ、はい! 』」


シリウスはシーラの腰に手を回しそのまま森の家へと帰っていった。俺らも急いでルシウスとカールを背負い2人の後を追った。




・・・・・・






本題に戻る。


ブガランがカペーに圧力をかけている。今まで以上に。

そしてブガラン軍は戦争準備を整え始めた。カペーが攻め込んできても返り討ちにできるように。


『国家間の戦争は……僕たちが生まれてこの16年のうちには一度もありませんでした。』


コルネリウスが眉を寄せながら不安そうに言った。カールもそれに同意するように頷いている。


「カペーはブガランに攻め入ると思うか?」


俺の問いにシリウスはあっけなく頷いた。


『思うよ。ブガランはそうなるように今まで動いてきたんだから』


「そもそもなんでこんな回りくどいことをブガランはしてるんだ?ブガランの目的はなんだ?」


帝都軍総司令官の息子であるコルネリウスが説明してくれた。


『公国は帝国の一部だよね?帝国には帝国基本法があって、公国はそれに従わなければならない。帝国基本法っていうのは、例えば「天使の血筋は伯爵位以上の爵位が認められる」とか、世界全体で共有されている法律のことね。そしてその帝国基本法の中に「国家的武力を用いての他国への侵入や侵攻は帝国基本法に違反する」とされている。だからもし、カペーがブガランを攻め入れば帝国基本法に違反することになる。そうしたらブガランは正当な理由の下、カペーに対抗し軍事行動を起こすことができるんだ。』


自分たちが戦争の火種とならないように、他国から責められないように、ブガランからは攻撃を始めないのだ。


「目的……は………領土拡大?率直に言ってしまうならば、カペーには恵まれた資源はありません。だから土地以外にこれといった魅力な無い……ように思えますけど……」


カールがシリウスの方を見ながら言った。シリウスはそれにも頷いて答えた。


『まぁそうじゃない?ブガランはいい場所にあるけど、領土自体は小さいからね。』


「そんな……!ただ土地が欲しいってだけで……何十万もの人間の生活を苦しめることができるのか……!」


生活が厳しくなり、食べられるものがなくなり、死んでいったエドウィンとエッベの知人。その人に「土地が欲しかったからなんだって」と言って「そうか、なら仕方ないね。」と納得してもらえるとでも思うのか。


「ブガランの王子……エベルは……どれくらい知ってるんだろう。」


ずっと気になっていた。エベルはこの事実を知っているのか。もしかしたらずっと帝都にいるエベルは知らないかもしれない。他国との問題なんて見えていないかもしれない。知らされていないかもしれない。そう思ったのだ。


しかし誰も、この問いには答えなかった。





シリアスな感じになってきましたね~

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