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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第5章 年は暮れて また明ける
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182 フラッシュバック



「アグニさん、少しよろしいですか?」


「うん?なにクルト?」


園顕祭が終わり、俺はルシウスとクィトと一緒に森の家に帰ることになった。そして馬車に乗り込む直前でクルトに声をかけられたのだ。


「ブガラン公国のヴェルマン中佐から連絡が入りました。」


「っ!!!」


合宿でブガラン公国に行った時に出会ったヴァルマン大中佐・・・高額な報酬の代わりに週に一度エドウィンらと会い、近況を報告し合うよう伝えてある。そして重要事項があればそれをこちらにも共有するようにと。


「……ヴェルマンは、なんだって?」


「………まずエドウィンからの報告を伝えます。カペー公国で出会った知人が、亡くなったそうです。原因は栄養失調のようで、急に倒れられてそのまま……。」


「 ………は?」


じっとりとした汗が額から滲み出る。脈拍が上がって心音が耳にまで届きそうだ。


「……落ち着いてください。それ自体は大して重要なことではありません。ブガランの裏町ではよくあることです。」


「は?落ち着いて?よくある??……なに言ってるんだ?」


人が、エドウィンとエッベの知り合いが1人死んだんだ。その場に居合わせた2人はどう思った?それが日常だろ、やり過ごせというのか?


「問題はその人がカペーの裏の人間ではなく、表で普通に生きている市民だということです。裏の惨状が表にも手を伸ばしている。2人はそのことを伝えているのです。」


ゆっくりと(絶望)が手を伸ばす。

その手から誰もこぼさないよう、丁寧に丁寧に、絡めとって殺していく。


「その現状を知っていただいた上で、ヴェルマンからの報告です。ブガランが再びカペーに圧力をかけています。軍事面でも、資金面でも。」


「っ…!!!!!」


今そんなことをしたらカペーは・・・


「そしてブガランは……戦争準備を始めているようです。」


「なっ!!!!!なんだって?!!!」


クルトは一切芸素を動かさず、淡々と俺に告げた。


「戦争が始まります。カペー公国と、ブガラン公国で。」





・・・・・・






クルトにこの話を聞いてすぐ、俺は校舎内に戻ってこのことをコルネリウスとカール、そしてシルヴィアに告げた。合宿参加者の2人はもちろん、様々な意見を持ち秘密を共有するカールも知っておくべきだと思ったのだ。


コルネリウスとカールは明日、詳しい話を聞くために森の家に訪れることとなった。シルヴィアは公女として参加しなければならない会があるため自由な時間がないらしい。そのため来週の1の日の朝、学院内の小屋で詳しく教えてほしいと言われた。



「よう、2人とも。よく来たな。」


「………俺は合宿に参加してないけど、教えてくれてよかった。」


『僕もずっと気になってたから……。というか、こちらは?』


今日は森の家に集合ということで、もちろんルシウスとクィトもいる。


「あれ?2人ともまだ会ってなかったっけ?こちらはクィト!来年度から第4学院に入学するんだ!そんでこちらがルシウス!ルシウスは実は・・・」


ルシウスは俺の説明の途中、勇気を振り絞って髪を隠していた布を取り、目を隠していた色付き眼鏡を取った。


紫の髪と赤い瞳が姿を現した。



『っ 』

『彼は、れっきとした人間だよ。』


シリウスがコルネリウスの腰にある剣の柄を押さえていた。よく見るとコルネリウスはわずかに剣を鞘から抜いている。

今の一瞬でコルネリウスはルシウスが芸獣であると判断し、剣を抜こうとしたのだ。そしてそれをシリウスが察し、対処した。


「…………コル、お前ほんと瞬発力あるな!俺まったく目で追えなかったよ。」


俺は素直に驚いた。こんなにも早く、そして迷いなく行動に移せるというのは自分の判断に絶対の自信があるということだ。


カールは今になってやっと何が起きたのかを理解したようで、コルネリウスから一歩身を引いて強張った表情を浮かべている。


「瞬発力というよりも野性的なカンじゃないのかそれ……」


コルネリウスは押さえられた柄をじっと見た後、シリウスと目を合わせてニコリと笑った。


『ご機嫌いかがですかシリウス様。……芸獣そっくりの目と異様な紫の髪で、()()ですか?』


シリウスはコルネリウスそっくりの笑顔を返した。


『目立つ髪色だと大変だよね。僕も、君も、彼も。』


『…………失礼いたしました。紹介を中断させてしまいましたねルシウスさん?』


「ひぇえぇ?!!!!!!! あ、ひゃい………」


ルシウスはコルネリウスの貴族然とした立ち居振る舞いと初っ端の敵意にすっかりビビってしまった。せっかく対人恐怖症克服のための一歩を踏み出したと思ったのに!!


「ごほん!では改めて……こちらはルシウス。芸獣だった人間だ。」


「『 っ!!!!!! 』」


コルネリウスもカールも俺の説明を聞いて大きく目を開いた。

芸獣は人を殺す自然発生の殺人兵器だ。そんな兵器がこの家の中で、人の形をして存在している。


「けど、()芸獣だ!今は普通に人として生活してる。けど髪と目の色はそのままだからこの森の家で保護してるんだ。」


「い、いるんじゃないかと考えたことはあったが……まさか本当に芸獣の人間がいるとは……」


カールの呟きにコルネリウスも反応した。


『しかも突然変異種と同じ紫色……え、あれ?ルシウスさんは……生まれた時ってどんな姿だったんですか?人?』


「あ、あ、あ、はいぃ。ひ、人として……生まれ育ちました……」


「途中で芸獣になった……身体が変化していったってことですか?」


「そ、そうです……な、なんか……徐々に?」


「『 ほぉ………。 』」


ルシウスの説明に2人は驚きながらも感心したように頷いていた。


『ルシウスの能力は君らと比べて格段に高い。突然変異種と同じ強さ、そして人と同じ賢さを合わせ持つからね。』


『っ………!』


今のシリウスの一言にコルネリウスは無言で反応を示した。そして右手を胸にあてて綺麗な仕草で礼を取り、不敵に笑ってみせた。


『へぇ……もしよろしければ僕と一戦、しませんか?』


「 え…? 」


ルシウスがコルネリウスの言葉に固まった。そしてどうして良いのかわからなそうにコルネリウスと同じ位置まで頭を下げていた。


「ルシウスルシウス、コルネリウスがルシウスと戦ってみたいんだって。」


俺が間に入ってルシウスにそう告げるとやっと意味を理解したようで、両手を振って拒否を示した。


「ええぇぇ?!!いや、いやいや!ぼ、僕はもう誰も殺しませんって……!」


「おいルシウス?!殺しちゃだめだぞ?!!!!ちょっとした試合だ!」


長年生きてきた特殊な環境下のせいか、対戦は片方が死ぬまで行うものだと思っていたようだ。そして当然のように『ルシウス(じぶん)が殺す側』だった。

この台詞にコルネリウスは一層闘志を燃やした。


『ははっ、ルシウスさんは面白い方ですね。是非、お願いします。』


コルネリウスの中ではルシウスと剣を合わせることはもう決定事項らしい。

まぁ俺はルシウスがいいと言うば特に異論はないし、もちろんシリウスもない。


「ルシウス、最近あんま外に出て戦ってないだろ?久しぶりに体を使ってみたらどうだ?」


「え、うぅ〜〜〜〜〜〜ん……………」


ルシウスは迷いに迷って、やっと頷いた。





・・・






「確認な。片方が剣を離す、もしくは体勢を大きく乱したらその場で試合は終わりだ。両者おっけ?」


「はいぃ……」 『はい!!』


対照的な2人の様子が面白い。

ルシウスはまだ解名が使えない。しかし解名の威力を芸でも出せるほど強い。

一方のコルネリウスは解名も使えるし武術にも長けている。

コルネリウスが握るのは長剣。ルシウスは以前俺があげた戦斧(せんぷ)だ。付属のチェーンは左手に握っている。



『さて、どうなるかね?』


シリウスが近くにあった切り株の上に座り、足をぶらぶらさせている。


「どうだろうな。……それでは、試合はじめ!!」


最初に動いたのはコルネリウス。真っ直ぐにルシウスに向かって走っていく。距離を詰めるということは武術で勝負するつもりなのだろう。ルシウスは斧をしっかりと握りなおし、真っ向からコルネリウスの攻撃を受けるつもりでいた。

コルネリウスは剣を下段に構えていたがルシウスの目前でそれを大きく振り上げた。


「っひ!!!!」


「ルシウス?!!!」


ルシウスはコルネリウスの剣を前にして身をかがめ、斧を手放した。その様子に驚きつつもギリギリのところで剣を止めたコルネリウスのおかげで両者に怪我はなかった。


「ルシウス?!どうした?」


「う、うぅぅうぅ………」


ルシウスは頭を抱えて唸っていた。コルネリウスも何が起きたのかわからず困惑した表情で立っている。


『フラッシュバックだね。』


「え?フラッシュバック??」


シリウスは切り株から飛び降りてルシウスに近づいていった。


『3人とも、今すぐここから離れなさい。』


「『「 え?? 」』」


次の瞬間、ルシウスの芸素が爆発した。

俺には爆発したように見えたのだ。あまりの芸素の多さに。


「うっ………」


「カール!!!」


カールが芸素の波にあてられ意識を飛ばした。しかしルシウスの芸素は止まない。未だ頭を抱えて唸っている。


『っ!! 芸獣に戻ったのか!!!?』


カッキィィィィィン…………


『っ!!!!!!!!!』


再び剣を構えたコルネリウスだが、次の瞬間にその剣は折られていた。

ルシウスは片手で頭を抑えながらもう片方の手を上下に一度振った。その手に風の芸を起こし、剣をも破壊する強さを一瞬にして作り上げたのだ。芸組み立ての速さもさることながら威力も桁違いだ。


「ぼ、僕は……ずっと一緒にいたじゃないか……ル、ルシウスだよ?ど、どうして……そんなものを向ける……?し、死んじゃうよ………殺したいの…!?」


意識が困惑している。過去の村にいた時と混同しているようだ。


「ど、どうして殺したの…!? ぼくは、人間だって言ってるだろ!!!!!」


ルシウスの周囲にいくつもの雷が落ちた。ルシウス自身が作った、自分を守るための攻撃だった。


『シリウス様危険です!!離れてください!!』


「おいルシウス!聞こえないのかルシウス!!」


懸命に呼びかけるが一向に反応してくれない。


チュン・・ドォォォン!!!!!


シリウスが大きく後ろ向きに跳んだ。そしてその直後、シリウスの元いた位置に巨大な雷が落ちた。


『まったく……あぶないなぁ。』


シリウス自身の様子は変わらなかったが、俺らには大きな衝撃だった。


『シリウス様に攻撃?!!!………アグニ、あの芸獣人間にはもう理性がない!討伐しないと危険だ!』


「そんな………! おい!ルシウス!ルシウス!こっちを見ろ!!」


ルシウスは未だ頭を抱えて呻いている。そもそも俺らの方を見てくれないのだ。しかも近づこうとすると雷の攻撃をしてくる。


「どうして…?…こ、こんな村……滅んじゃえばいいんだよ!!!!!」


バリリリリ!!!!


眼の前に雷が落とされた。倒れているカールにもう少しで当たるところだった。



   ……あまりにも危険すぎる。



「っ……コル、カールを頼む。」


『アグニ?!!』


俺はカールをコルネリウスに預け、前へと出た。



(「1つ……お願いがあります。」)


(「ん?なんだ?」)


以前、ルシウスを森から連れ出す時に約束していた。


(「もし…俺が飢えて暴走したら……人を食べる前に…殺してほしい。」)


あの時、ルシウスは泣きそうな顔をしていた。けれどあの赤い瞳はしっかりと俺を見つめていた。覚悟をもって俺にそう頼んでいた。


(「わかった。もしルシウスが暴走したら、俺が必ず止める。人に被害は出させない。必要ならばお前を殺す。……けど、そんなことにはならないよ。俺、技術には自信あるからな。」)



   あぁ、そうか。悔しいなぁ。

   

   技術だけで人は助けられないのか

   技術だけでは、人は救えないのか



ルシウスに必要なのは飢えへの対処だけではなかった。人と接し、共に過ごし、人との関係を結ぶ。そんな対処も必要だったのだ。

それを俺は知っていたはずだ。園顕祭でも、そして今日も、ルシウスが人と話す時に怯える様子を見ていたはずだ。


それなのに俺は、そのことを重要視しなかった。


そして今、フラッシュバックに苦しむルシウスへの対処の仕方すらわからない。俺は何も学んでこなかった。俺自身がルシウスに歩み寄っていなかったんだ。


けれど俺がルシウスを森の家に連れてきた。一緒に乗り越えようと言った。


ルシウスに対しての責任は、俺にある。


「ルシウス………きっとお互い、怪我をするぞ。それも大怪我だ。」


「ヴゥ……ぐっ…………」


「それでも、俺はお前の動きを止める。これ以上暴走させないから、いいな?」


「う……うぅぅあぁ………!」



目の前で呻いているルシウスから、返事は返ってこなかった。









なんかお笑い番組で、「肘ガンガンガンガンガンガンガンガンガーン!」みたいに始まるのありますよね?なんて番組かわからなくて、けど検索(検索:『お笑い ひじガンガンガンガンガンガンガンガンガーン』)で探しても出てこず………。

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