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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第5章 年は暮れて また明ける
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180 授業⑭



その日の午後は技術研究会に行き、園顕祭(えんけんさい)のことを話し合った。俺は宣言通り、新しい剣を作ることにした。ついでに以前作った作品も装飾として展示しようと思う。


セシルとイサックは映像記録ができる芸石を開発している。これは世紀の大発明のため、セシルは改めて何かを準備する必要はない。その代わりこの芸石に関する発表会が設けられている。

セシルは顔を青白くして嫌がっていたが、第4学院ではイサックも発表会をしているはずだと先輩に言われ、覚悟を決めたようだった。


その後しばらくは変わり映えのない日々を過ごした。



・・・




音楽の授業、火の月はリュウの笛を扱っていたが氷の月ではチェロを扱う。初めての楽器だ。チェロもリュウ同様、公爵から借りている。

おかしなことに俺以外の学生はすでにチェロを弾けていた。


「授業で習うってわかってるから、みんな夏までに弾けるように練習しとくんだよ。」


カールが優雅にチェロを弾きながらそう言った。


「なんでそれ俺には教えてくれなかったの!!!」


「言ったからな?!!!!」


「それ本気で言ってる?!」


なんて不毛な会話はあったが、夏にたくさん練習したのにほとんど弾けていないパシフィオ君のおかげで孤立感を感じることはなかった。



そしてダンスの授業、氷の月は座学らしい。踊りに関する歴史と、各国のダンスの特徴を習うのだ。

期末試験にテストが1つ増えると知った時の絶望感。

けれど俺と同じくパシフィオ君もその絶望感を感じているようで、「あ、こいつは仲間だ」と再び思うに至った。


武術の授業では短剣での戦い方を習い始める。

俺は短剣での近接戦が苦手なので、この授業は正直助かる。

そして改めて思ったことだが、コルネリウスは本当に剣術全般に強い!!なので俺はコルネリウスに教えてもらいながら剣術の腕を磨いていこうと思う。


歴史は火の月で習っていた続きを習う。

この月は授業中寝ないように気をつけたいと思っているが、さっきから欠伸が止まらない。


礼法の授業では「自分より低い爵位の人に対する礼儀」を習う。爵位が上の人に無礼を働いてはいけないように、下の人にも決まった礼儀がある。身分に関係なく相手に不快感を与えないようにすることが『礼法』なのだ。

そしてこの授業では、『対貴族』と『対平民』での対応の差も習う。基本的に皆すでにマスターしているが、細かいところまできっちり復習しましょうねっていう感じらしい。


「けどさぁ、俺平民だし、貴族で俺より身分が下の人なんていないんだから俺は習う必要なくね?」


「あーたしかにな。俺の家は男爵位だけど、辺境貴族とか騎士爵とか下の爵位がいるからな……というか今更だけどアグニって平民だったな!忘れてたわ!」


パシフィオが笑いながらそう言った。

絶対的な身分制度が存在するこの社会で、平民の俺に対してこんな気がさねなく接してくれるクラスメイトがいて、俺は恵まれていると思う。


『わからないよ? もしかしたらアグニがそのうちに叙爵されるかもしれないしね!』


コルネリウスが笑いながら冗談を言うとカールの表情が一気に変わった。そしてカールはしばらくコルネリウスの様子を伺っていた。


「どうしたんだよカール?」


「……いや、今の言葉は、その……コルネリウスは()()()()のかと思って……」


カールの言った『知ってる』というのは俺の秘密のことを指しているのだろう。


「いや、言ってないから知らないはずだ。」


「そ、そうか…」


『ん? 2人ともどうしたの?』


今度は俺とカールの様子に疑問を感じたコルネリウスが質問してきた。カールは見るからに取り繕った笑顔で急いで首を振った。


「いや!なんでもない! あはははは!」


『?? ……そう?』


カールは意外と嘘をつくのが下手なのかもしれない。それか突発的な対応が苦手なのかもしれないな。



放課後は技術構造研究会に全振りしている。新しい剣の構想に取り掛かるのだ。それと同時に、研究会の他の生徒たちから受注した工具や金具類も製作しなければならない。意外とやることは多いのだ。


「アグニは……どんなものを…作るの?」


セシルが鍛冶場に来ていた。発表の練習をしたくなくて逃げているらしい。


「ん~今まで剣身がまっすぐなものしか作ってこなかったからなんか丸まったような……曲がった剣を作ってみたいんだよな。」


「……それ、使えるの?」


「わっかんね!実戦向きじゃないかもしれないけど、まぁ展示用だし、使えるかは実際に作ってみないとわかんないけどそもそも作れるかわかんねぇし。たとえ評価が悪くても学生が作ったおかしな剣って言えばまぁ平気だろ。」


初めての挑戦は、残念だが大概失敗する。失敗ありきで何度も挑戦し続けることが重要なんだ。


「……いいね、その考え。」


「何言ってんだよ、セシルもだろ?」


「……え?」


「セシルもあの映像記録芸石作る前は何度も失敗して、修正して、失敗して、修正してって重ねてきただろ?俺ら技術者は失敗あってなんぼなんだから。」


「………。」


挑戦者は、挑戦に必要な基礎知識の吸収も大事だが、なによりも挑戦し続ける強いメンタルがなければやっていけない。


「…………そう、だね。」


セシルはふわっと柔らかく笑った。そして立ち上がりドアへと向かう。


「私も…そろそろ……頑張ってくる、逃げずに。」


「おう!頑張れセシル!」


「うん…!」





・・・・・・






1~5の日は学院での授業、6・7の日は帝国大図書館で鍛冶の本を読みつつフェレストさんのとこで練習を重ね、気が付けば5の週の7の日になっていた。



学院に戻る前、俺とシリウスとシーラは森の家に行き、みんなで夕食を取っていた。


「あ、知ってるかもだけど来週は園顕祭があるんだ。」


『もちろん知ってるよ、そういえば君は何をするの。』


シリウスがフォークで俺を指しながら聞いてきた。


「え、アグニまさか武芸大会出るんじゃないでしょうね?」


シーラの言葉にシリウスが爆笑した。


『あっははは!いいね!君が自分より弱い相手にどうやって自然に負ける演技をするのか見てみたいなぁ!腕の見せ所だ!』


「でねぇよさすがに。何かしらに参加すればいいってことだから、俺は技術構造研究会で剣の展示を出すことにした。あ、クィト!せっかくだから第4学院の園顕祭の方、行っとけよ!」


「あぁ、はい。」


『なぁんだ、つまらないの。』


「え?アグニさん、武芸大会があるのに出ないんですか??」


ルシウスがきょとんした顔でそう聞くので俺は素直に頷いた。


「ああ。めんどうだからな。」


『武芸の授業選択組は基本的に出るんだけどね。でもシャルルやシルヴィア……天使の血筋は参加しないし、まぁいいんじゃない?』


シリウスが魚料理を口一杯に含みながらそう言った。

去年は第4学年にいたシドが優勝したらしいが、今年はすでに卒業していてもういない。シャルルとシルヴィアは今年も出なくてリカルドとアルベルトはまた出る。そして今年はコルネリウスも出場する。第2学院のオズムンドもだ。きっと大盛り上がりになるだろう。


「………なんか残念ですね。アグニさん武芸の練習きっちり積まれてるし、身体を動かすのも戦うのも好きなのに。」


「……………え??」


ルシウスの言葉を思わず聞き返してしまった。俺が・・・身体を動かすのが好き?戦うのが好き?


「えぇ、そうでしょう?アグニさん、いつもすごくいい笑顔してますよ。」


その言葉は、予想外だった。身体を動かすのが好きだと言った覚えはない。戦うのが好きだと考えたこともない。笑顔でいる自分が想像できない。

けれどルシウスは至極当たり前のようにそう言い放ったのだ。


「…………シーラ、ほんとう?」


「そうね。いつまでも楽しそうな顔をしてるわ。」


俺は俺自身に驚いた。そして先日視た過去の記憶の中での会話を思い出した。


ーふふっ、おかしいわね。 互いに自分自身のことがわからないなんてー


そう言って笑ったのは自分だったのに。


『自分の趣味嗜好考えなんて、いつまでもわからないものさ。指摘されて初めて気づくことも多い。いい歳した大人になって、ようやくある種の仮説を自分の中で立てられるようになるくらいだ。』


シリウスが喉に詰まった魚を葡萄酒で流し込み、安心したように息を吐いていた。


『それに自分自身のことをわかりきってる人生ほど、つまらないものはないだろう?』


「…………直前に魚を喉に詰まらせてなきゃ響くんだけどな。」


『え?! 見てたの?!!!』


「わかるわよバカ。」


「僕も見てましたよ。」


「僕も……」


『ええ?!』



下らない時間、明日には忘れる会話、特別じゃない今日

そんな日々の中で、『自分』を手探りで見つけていく。



「………結局、みんな技術者なんだな。」


「え? なんですか?」


ルシウスの声で我に返る。


「ううん、なんでもない。」


もう俺は自然と笑顔になっていた。





授業の話を書くのがとても久しぶりでした…!

ふぃ~!!!

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