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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第4章 学院間交流と社交
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178 夜明け前の謀



「上官はほとんどが貴族です。ブガラン公国の首都にある学院を卒業してすぐに軍部内で役職を持つ、いわゆる『エリート』です。対して私のような平民上がりは『成り上がり』と言われています。」


ヴェルマンが俺の部屋に来て、現在の軍部について教えてくれた。ここでいう貴族というのは辺境貴族のことだろう。


「………学院って帝都以外にもあるんだな。」


『学院は各国にあるよ、第1〜第4が帝都にあるだけでね。各国の学院は基本的に辺境貴族や商人の子女が通うんだ。帝都の()()()()の学院に通う辺境貴族は何か特別な理由があるか、身分が良いごく一部だけなんだ。』


コルネリウスの説明に納得する。ユリーは帝都の第一学院に通っていた。それは当時からシルヴィアの護衛としての教育が始まっていたからなのだろう。


「軍の設備投資によって国から補助金が出るんです。それが相当な額らしくて……。だから軍部は施設の建て替えを頻繁に行なっていて……」


「だからあんな綺麗だったのか。」


設備が整っていて綺麗だった理由は国から与えられる補助金目的のための度重なる建て替えが原因だったらしい。


「その……ほじょきんって、国はどこから出すんだ?金のことだろ?」


エッベの質問に俺も同じ疑問を抱いた。しかしヴェルマンは申し訳なさそうな顔をして首を横に振った。


「わかりません。私は平民上がりなので、お金に関わる業務がないんです。」


「え、平民から軍に入った人ってそんな制限があるのか?」


俺の質問にヴェルマンは頷いた。


「平民上がりは頭が悪くて計算ができないため、お金に関する事項は全て『エリート』の仕事です。」


「……実際、平民上がりの軍人は計算できるのか?』


ヴェルマンは俺の問いに対し、特に不快な様子を見せず頷いた。


「私はブガランの首都にある『学校』に通っていたので読み書きと簡単な計算はできます。しかし、平民上がりで計算ができる人は半分程度ですね。あ、学校は十数名規模の小さな学院だと思ってもらえれば。」


『…………………え? 計算ができないって、足し算とか引き算とか、そういうこともできないってことですか?』


「えぇ、まぁ、できない人の方が多いですね。」


コルネリウスが呆気に取られて黙っていると、俺とコルネリウスの後ろに座っていたエドウィンがつぶやいた。


「……俺もできないけど。」


『えぇ?!!』


コルネリウスが振り返ってエドウィンの顔を見ると、エドウィンは少しむっとした様子で言った。


「硬貨はわかるし文字も読める。けど地図はわかんないし、ちゃんとした計算もできねぇよ。裏町の誰も知らねえんだから教えてもらえないし。」


エドウィンの説明に対しヴァルマンは少し感心した様子をみせた。


「裏町の方で文字の読み書きができるなんて……相当頭の良い方が近くにいたのですね。」


エッベはにっと笑顔を見せて胸を張った。


「俺らの親父は頭がよかったからな!!」



「みんな、話を戻すぞ。」


その後ヴェルマンから聞いた話では、基本的に軍部は日常訓練を行っていない。しかし仕事をしているというデモンストレーションは必要だ。そこで各隊ごとに定期的に国内を巡回する業務は残っている。

もちろんその時に芸獣と遭遇することは多い。だからヴェルマンは隊長として、隊員たちに対芸獣の訓練を施していた。


しかしそれは『みんながしないと決めたこと』に反対する、反抗的な態度とみなされた。

そして『そんなに仕事したけりゃくれてやるよ』と、ヴェルマンが管轄する隊は一年間無休で仕事を行うことになった。もちろん給料は変わらなかった。そして仕事をしていない他の隊の軍人らは変わらず給料を貰っていた。

そこからずっと長期の巡回業務ばかりを任され、隊員らは過重労働で体調を崩し始めた。


「本来の仕事をしたいと言ってはいけない空間なんですよ、あそこは。」


ヴェルマンは眉を寄せながら悔しそうに呟いた。

本来やるべき仕事をしてる人ほど疎まれていく。それが今の軍部だと、ヴェルマンは言った。


「一方で、警備隊は毎日毎日……何十もの国民を捕らえています。盗みや殺しをしなければ明日を生きられないと訴える人々の数の多さに疑問を感じていました。」


それが2年前。


そして、ブガランの軍部組織の改革を一つの選択肢として考え始め「成り上がり」同士で結束を固め始めたのがつい最近。


「あなたたちとの巡り合わせは天空神がお与えになったチャンスであると感じました。だからこそ私はこうして、あなた方に会い、悪夢から抜け出せる方法を導かれにきたのです。」


ヴェルマンは意志固く、まっすぐに俺らを見ていた。


『聞いていると軍部以前に国の予算管理とかに問題がありそうですけど……。』


コルネリウスが遠慮がちにそう言った。はっきり「ブガランの国に問題があるのでは」とは一貴族であるコルネリウスには言いづらいのだろう。

そしてヴェルマンをここまで来させた張本人であるシリウスは何かを考え込んでいるようで、コルネリウスの問いかけには無視した。しかしすぐにまた笑顔を作るとヴェルマンに言った。


『君は新しい軍部を作りたいわけだよね?そしてそのためには軍部内の浄化と、ブガラン公国全体の浄化も必要だ。わかるね?』


「は、はい……。」


『君はどうすればいいと思う?君自身は、その浄化のために何ができる?』


「えっ……。」


ヴェルマンは答えを詰まらせた。その方法がわからないから、シリウスの答えにすがってここに来たのだから。


「そ、そうですね……えっと……事実、軍部の中で実践的な動きができる部隊は私の管轄下のみです。他の隊は仕事をしていないわけですから。なので………えっと、あの…」


『言ってごらん?』


「……裏町の人間と我々で、革命を起こすのは、どうかって……」


「「『「 っ……!!!!! 」』」」


それは全く予想していなかった言葉だった。同じく、コルもエドウィンとエッベも目を大きく見開いて驚いている。


「そ、そんな簡単に革命ってできるものなのか??」


俺の問いにシリウスが笑顔で答えた。


『革命自体はできるよ。力勝負で勝てばいいんだから。けど最終的に国の中枢に入りたいのであれば、やっぱり質のいい教育を受けた貴族の力は必要になる。結局新体制をとっても上手く回らないで、帝都から干渉が入るか、再度革命が起こるのがオチじゃないかな。』


「…………っ。」


ヴェルマンは悔しそうな顔でうつむいた。しかしこれはヴェルマン自身も薄々感じていたことだったのだろう。


『ただ君は運がよかったね。』


「……はい?」


シリウスは窓際の椅子に座り足を組んだ。


『契約をしないかい?』


「契約…ですか?」


突然の流れに理解できず、みんなきょとんとした顔でシリウスを見ていた。


『ブガラン公国の情報を定期的に教えて。もちろん報酬も出す。週に1ウェンだ。』


「「「 週に1ウェン?!!!!! 」」」


ヴェルマンはもちろん、エドウィンとエッベも大声をあげて驚いた。

平民が週に1ウェンを稼ぐことなんてまずない。

ここで俺は気づく。



   ああ…この金、公爵のだな。

   また勝手にお金使うよこの人。



『また情報収集等でかかった経費は別で請求していい。報酬の1ウェンは君たちの軍資金に使ってもいいし、エリートと同じように遊んで暮らしてもいい。』


「な、なぜ…?その情報をどうするおつもりですか?」


ヴェルマンはできるだけ冷静を装っているが汗が溢れ出ている。目前の大金に動揺しているようだ。一方のシリウスは爽やかなまま笑顔を見せている。


『大丈夫だよ。僕は天使のように性格がいいからね。』


「し、しかし……国の情報を売れということですよね?それは国家反逆罪になってしまいます。」


『ん?君たちがしようと考えてるのってなんだっけ?』



   うおう!確かにブーメラン!!!



今さっき、革命を視野に入れていると言ってた人が国家反逆罪を恐れるなんて鼻で笑ってしまう。


ヴェルマンはブガランが嫌いなわけじゃない。好きだからこそ国をもっとよくしたいと考えている人間だ。だからシリウス個人が信頼できる人間か否かを判断したいのだろう。


シリウスはわざとらしく眉を八の字にして困った顔をして見せた。


『僕は国外の…それも貴族ですらない人間だし、君たちの情報を使ってやれることなんて限られてるから安心して。そして僕みたいな人がやれることなんて……お金の支援くらいなんだ……。あ、けれど一つだけ、お願いしたい……。』


「な、なんでしょう?」


喉をごくりと鳴らし、シリウスの口にする「お願い」に覚悟していると……


『裏町の人も、救ってあげてね。』


「「「 っ………! 」」」


この言葉はヴェルマンにも、エドウィンとエッベの心にも刺さった。まるでシリウスが心からこの国の平和を望む善良な市民のように見えたのだろう。


「……商業契約を、結んで頂けますか?」


ヴェルマンが意を決したようにシリウスを見た。そしてシリウスはヴェルマンのゴーサインを聞いてゆっくりゆっくりと口角を上げ、綺麗に微笑んだ。





・・・・・・






商業契約とは芸素を含んだ紙に互いの名前を書き、契約を行う。その用紙自体が一種の芸石のようなもので、それゆえに信頼度の高い代物だ。


ゆえに、シリウスはその用紙を使えない。というか()使()()()()()使えないのだ、俺を除いて。

そのためシリウスの代わりに俺がヴェルマンと契約を行った。黒髪であり苗字がない俺のことをヴェルマンはすぐに信頼した。


そしてエドウィンとエッベにも仕事が与えられた。彼らは冒険者としてカペー公国に行くことができる。そこでカペー公国での出来事を報告するよう頼んだ。

彼らは週に一度ヴェルマンと会い、情報を共有し、その上で俺らに教える。


『これが通信用の芸石ね。』


「「「 ほぉ~………なんですかこれは。 」」」


という会話と説明がまたしばらく行われ、気がつけば明け方になっていた。




・・・





「では、またお会いしましょう。」


ヴェルマンは綺麗に敬礼をして薄暗い街の中へ去っていった。その後ろ姿を見ていたエドウィンとエッベも心なしか晴れ晴れした様子だった。軍の中に自分達のことを考えてくれている人がいるとわかっただけでも嬉しいのかもしれない。


『僕たちもそろそろ帰りましょう。』


コルネリウスの言葉に俺とシリウスが頷く。エドウィンとエッベはこの後また裏町に帰り、久しぶりにルグルと顔を合わすらしい。


「あの……その…ありがと な。」


エドウィンがぎこちなく礼を言った。その様子を見ていたエッベも居心地悪そうに頭を掻いた。


「まぁ、ほんとに、まさか国外に出られる日が来るなんて思ってもなかったからさ。まじで感謝してる。」


お礼を言い慣れていない二人の様子に可愛らしさを覚えつつ、俺も笑顔で言った。


「またすぐ会おう。芸石越しだけどな。」


「「 ああ! 」」



風向かう2の週3の日、

俺らはブガラン公国を出て帝都へと戻っていった。



今日もまた、陽は昇る。









きれいに話をまとめた…つもりです。

これからどうなっていくかな?

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