168 合宿スタート!
ひゅ~!また投稿が遅れたぜ!
シルヴィア公国は帝国最大の湖・イミタラッサと世界樹と言われるリノスペレンナに面している。シャノンシシー公国もそうだが、あの辺一帯の国家はそのことをとても誇りに思い、湖と世界樹を崇めている。
なので帝都にあるシルヴィア公国の屋敷でも自国の雰囲気を出すために大きな湖を作っていた。
そしてガーデンパーティーはその池の周囲で行われた。夏に咲く涼やかで美しい花々が湖畔を彩り、パーティーに彩りを加えている。
シルヴィアは社交界の主催を初めて務めるのであまり規模は大きくないらしい。うん、500人くらい。あはは。でっけぇな。
『あ、アグニ!』
「おおコル!!カールも!」
第1学院の同学年の生徒40名は全員招待されていた。見慣れた顔ぶれに少し安心する。
『アグニ、シルヴィア様にご挨拶はした?』
「いや、まだだ。2人は?」
「僕らはもう終えた。」
「そっかぁ。」
2人と一緒に挨拶に行きたかったが致し方ない。タイミングを見計らって俺1人で行くか。
「あの……!」
「『「 ん? 」』」
知らない声の方を見ると、やはり知らない女の子3人が立っていた。女子らの放つ緊張と期待の様子に、俺は「これはコル案件だ」と思い一歩身を引いた。しかし3人は俺に声をかけた。
「あ、あの…!第1学院所属で…宰相閣下の屋敷にお住まいのアグニ様でいらっしゃいますか?」
「へ?俺?!あ、はい。そうですけど…」
3人の女子はそれぞれカーテシーをして自己紹介を行った。
「シルヴィア公国エディオン辺境侯爵が長女、ユリーでございます。」
「アトロス伯爵家が次女、ヘレナでございます。」
「シャノンシシリー公国コニーチ辺境侯爵家が長女、マーシェルでございます。」
「………え、あ、えっと……アグニ…と申します。どうぞよろしくお願いします?」
なぜ急にこの3人が俺に話しかけてきたのか全然わからない。
しかしその答えはすぐに示された。
「私達、先日の女神の楽園の夜会に参加致しました。忘れることのできない、とても神聖な夜となりましたわ…!」
「ほんとに…!本当は直接シーラ様に感謝申し上げたいのですが……お時間を取らせるわけには参りませんので…」
「なのでアグニ様に少しでも感謝の気持ちをお伝えしようと思ったのです。」
「ほぉなるほどそうでしたか!いやぁ~シーラ綺麗でしたよね!あとで本人に伝えときますね。」
「「「 まぁ…!!!!!!! 」」」
3人は心から嬉しそうな顔をしてどんどんと喋り始めた。
コルとカールはニタニタしながら去っていき、俺が3人とずっと会話することになった。
どうやら3人とも19歳で、元第1学院の生徒で同級生同士らしい。まさか先輩だったとは。
「シーラ様のお屋敷でのご様子をほんの少しでも構わないので教えてくださらない?」
「どういったものを召し上がってらっしゃるの?」
「お好きな食べ物や飲み物は?」
どうしよう…3人と仲良くなれたけど、彼女らはシーラに夢を持ちすぎている。通常のシーラは基本的に昼前に起きてきて、横になりながら食べ、酒を飲み、シリウスとだらだらするか公爵の邪魔をしている。彼女らの期待像とは結構違う。
「あ~いや~う~んシーラは~……幸福度の高い生活を心がけてる…かな?」
「「「 なるほど…!!! 」」」
3人ともどこかから出したメモを片手に俺の話を聞き始めた。しかしすぐに3人がはっとした様子で立ち上がり、別方向にカーテシーをした。
シルヴィアだ。
『アグニさん、こちらにいらっしゃったのですね。お3方とも、顔をあげてください。』
シルヴィアの言葉で3人が姿勢を戻した。俺は軽く礼をした後にシルヴィアに喋りかけた。
「ごめん挨拶が遅くなって。本日はお招きいただきありがとうございます。」
『こちらこそ、ようこそいらっしゃいました。………ユリー、同級生との気楽な会話を楽しみたいので皆さんをあちらにお連れしてくれますか?』
3人はすぐに礼を取り、ユリーが代表して言葉を発した。
「もちろんでございます。それでは御前を失礼いたします。」
ユリーを先頭に、シルヴィアの後ろにいた護衛も全員去っていった。そんな彼女らを俺はぼーっと見ていたらシルヴィアがぽつりと言った。
『私の……護衛騎士の一人にユリーの兄がいます。久しぶりに兄妹2人きりでの会話ができるでしょう。』
ユリーは通常はシルヴィア公国にいると先程会話の中で言っていた。兄がシルヴィアの護衛騎士ならば、兄はずっと帝都にいてあまり会えていないだろう。
「そっか。兄ちゃんがいるなら大切にした方がいいな」
俺には兄弟がいない。だからどうしても兄弟なるものに憧れを抱いてしまう。
シルヴィアも俺と同じ意見なのかもしれない。ほんの少しだけ羨ましそうにユリー兄妹の後ろ姿を見ていた。
『そういえば、どうして3人と会話されていたんですか?』
「あぁ、この前のパーティーに来てたらしくて、そんでシーラのことを聞かれてたんだ。」
シルヴィアは俺の言葉に小声で『なるほど…』と呟き、わずかに笑顔を見せた。
『食事はとられましたか?』
「あ!まだ食べてない!!」
『ふふっ。今日はアグニさんがいらっしゃるから少し多めに軽食を用意したのですよ。ご案内しましょうか?』
「ほんと?!嬉しいな!じゃあ一緒に食べようぜ!」
シルヴィアは俺の半歩前を歩きながら食事の場所に案内してくれた。
『……ふふっ、いつもと逆ですね。』
確かにいつもは俺が食事のカウンターを見つけて案内している。
「ははっ、だな!今日はどんなのがあるんだ?」
『シルヴィア公国の特産品を多く使用した料理です。私のお薦めも紹介しますね。』
「おお~楽しみだ!」
・・・・・・
シルヴィアのガーデンパーティーではたくさん料理を口にできて最高だった。合宿のことも話せたので満足だ。
次の週は第3学院のアイシャさん主催のガーデンパーティーだ。こちらは「ブリッジ子爵家」としてではなく、アイシャさんが同年代を中心に集めたちょっとしたパーティーなので肩肘を張らずに参加できた。
交流会の時と同じように、第1学院と第3学院の女子が一緒に本について語りあっていたり、それぞれの友達を紹介したりと、気楽な場になっていた。
文学研究会のメンバーが恋愛小説の話をしている時に俺も呼ばれ男性側の意見を求められたりもした。まぁ喋りやすい子たちなので全く問題ない。
こちらでもシーラの話題がでたが、俺が口を出せるようなスピードの会話ではなかった。爆発的速度で進む会話をなんとか耳に入れていた感じだ。
そしてシーラが飲む紅茶…つまり俺が淹れた紅茶を飲みたいという話になり、30人くらいに紅茶を淹れて俺の一日は終わった。
うん、疲れたね。
まあ楽しかったけど。
そしてその日の夜、火の月最後の週、最後の日
公爵邸にリシュアール家とシルヴィア公国の馬車が揃った。2台とも紋章は付いていない。目立ってしまうから家門がわかる馬車は使わなかったのだろう。
『うんうん、2人とも時間通りに来たね。良い子だ。』
本邸のエントランス、髪と目を布で隠し、旅人の格好をしたシリウスがシルヴィアとコルネリウスに近寄った。2人も準備万端のようで、高そうだが動きやすそうな恰好をしている。
『シリウス様、お久しぶりでございます。突然なのですが……彼女も連れて行ってよろしいでしょうか?』
シルヴィアの後ろに……ユリーがいた。
「あ、ユリー?!」
シリウスの後ろから俺が話しかけると、群青の瞳が笑顔を作り騎士の礼をした。
「シルヴィア公国騎士団所属、ユリー・エディオンでございます。いつもはシルヴィア公国におりますが、長期の旅…それも女性がシルヴィア様のみのため、同じく女性であり騎士団所属の私が護衛騎士として同行したいと考えています。」
この間のドレス姿とは打って変わった姿だ。青が混ざる黒髪をポニーテールにし、ラフなシャツとズボンの格好をしている。しかし清潔感がある美しさだった。
『あぁ、そういえば最低一人は連れて行きたいって言ってたもんね。』
シリウスはユリーとシルヴィアに対し笑顔を見せ、そのまま外へと向かった。
『構わないよ。それじゃあ、5人で仲良く行くとしようか。』
……ちょっと意外だ。
シリウスは意図的に貴族社会に属していないため、自分の存在を貴族に知られるのは好まない。ユリーにも『僕のことを誰かに喋ったら殺すよ』くらいの脅しはするかと思った。
「シリウス………口止めとかしなくていいのか?」
『口止め?そんなのしないよ。』
俺がシリウスの隣を歩きながら聞くとシリウスは先ほどと変わらぬ笑顔を見せた。
『口止めっていうのはある意味、優しさだよ。殺すのがめんどうな相手にわざわざしてあげるものなんだから。』
「殺すのが面倒?お前なら誰でもすぐに殺せるだろ?」
『めんどうっていうのはその人が死ぬことで社会的に不便が生じる…まぁ他のめんどうごとが増えるってことね。』
「………なるほど、お前にとってユリーが死ぬのはどうでもいいことだから、口止めしないんだな。」
シリウスは少し申し訳なさそうに笑った。
『そんなことないよ。死んでても生きてても、どっちでもいいってだけさ。』
後ろを振り返るとシルヴィア、ユリー、コルネリウスが各々準備し、周りにいる各家の騎士も最終準備に協力している。
今回、合宿にはシャルト公爵家の「邸番」を護衛として連れていくことを約束している。そしてそれはシリウスのことだ。
もちろん各家は不安だろう。たった1人しか護衛役がいないんだから。
なのできっとリシュアール家は帝都周辺の国々まで隠れて護衛をするだろうし、シルヴィア公国の騎士とは行く先々で会うだろう。
だから俺とシリウスはそいつらを……絶対に撒く!!
その方法も練っている。
『アグニ、君の役割は頭に入ってるね?』
「ああ。もちろん。」
『そこにもう一つ加えよう。僕はユリーに一切関与しない。真隣で芸獣に喰われようが、死にかけようが、一切助けない。』
「え、まじ?」
『まじまじ。彼女の管理は君に全部任せるからね。』
「まじすか……!!!」
・・・
「じゃあ、行ってきます!!」
俺が公爵に声をかけると公爵は一度俺に頷いてから全員に向かって声をかけた。
『皆、楽しんで行ってきなさい。シリウス、頼むぞ。』
『うんじゃあねー』
シルヴィアとコルネリウスは公爵に対し返事を返し、ユリーはその場で騎士の礼をした。
『行ってまいります。』
『行ってきます!!』
俺らは公爵家西の門から馬車で出た。帝都の北門までは馬車で行くことになっている。そこから先はコルネリウス、シルヴィア、ユリーは馬車で、俺とシリウスは走って進む。
北門を出て陣を作り移動する。シリウスを先頭に、右にコルネリウス、左にユリーで三角形の陣刑を作り、その後ろにシルヴィア、一番後ろに俺、という並びで、上から見ると矢印のような陣だ。
まず向かうはブガラン公国。馬だと1週間かかる。直線距離で進めないし馬を休ませなければならないからだ。しかし合宿は2週間しかないから移動にそんな時間はかけられない。
『なので丸1日馬を走らせたら、どこかの村に馬は置いていくよ。』
シリウスが先頭を走りながら告げる。風の芸で陣内周辺まで盾を張っているため走ってても声が聞きやすい。不意の攻撃にも対応できるし、風で顔や喉が乾燥するようなこともない。
『え、ではその後はどうするのですか?!』
コルネリウスが馬を走らせながら聞くと、シリウスがとっても楽しそうな声を出した。
『僕とアグニで3人を順番におんぶして走りまーす!』
「うぇ~い、交代交代な!」
そう。いくつか事前に言われていた役割の一つがこれ。皆を交代交代でおんぶして走るのだ。シリウスと何か別の方法はないかと考えたが、シリウスが『みんなが絶対に嫌がりそうな方法にしようよ。』ということだったのでもちろん話に乗った。
『な、な、な…!!!』
珍しくシルヴィアが衝撃を受けたような顔をしている。
『まずはコルネリウス、君に僕たちと一緒に走ってもらうからね。身体強化ってできる?』
シリウスが尋ねるとコルネリウスは自信なさげに頷いた。
『あ、はい……父に教わったことがありますが…正直、使い慣れていませんし長時間もできません…』
『さすが総司令官殿だね。じゃあ頑張ってみようか!』
夜に帝都を出て次の夜まで走り続け、着いた村で馬を置き、宿屋で明け方まで眠る。起きたらすぐに朝食を口に詰め込み、村を出る準備を行った。
もう風向かう1週目2の日になっていた。
合宿スタートだ!




