167 最大級のパーティー3
ひぃ~!!投稿結構久しぶりだぁ!
冒頭は第三者目線です。
「はぁー……」
「頼むから会場でため息なんか吐かないでくれよ?」
「もちろんわかってます。けど……兄さまだけ参加なさればよかったのになと。」
兄と二人の馬車。私の言葉に兄はやれやれという顔をした。
「そんなことできるわけないだろう。宰相閣下・シャルル公国・シルヴィア公国・フォード公国が主催するパーティーだぞ?一族総出で参加しなくては。」
「ですよねぇ……」
私はしがない帝都の男爵家の長女。そして次期男爵である兄と父・母(両親は別の馬車)とともに「女神の楽園」へと向かっていた。
今日はここ数年で最も恐ろしい日でしょう。なんせこの世の権力者4名が主催を務めるパーティーに行くのだから。こんな気の抜けないパーティー、参加したくなかった。
そもそも私は画家を目指している。本来ならばこの時間も絵を描いていたい。ではなぜ私がパーティーに来ているかというと、最初に述べた通り、我が家はしがない男爵家だからだ。
けれどもう一つ理由がある。それは……
「今日のパーティーではシーラ様を拝見できるかしら……」
「はぁ…お前はいつもそれだな……」
兄が呆れたようにため息を漏らすが、仕方ないと思う。シーラ様こそが私の発想の引き出しになっている。あれほどまでに美しく妖艶で、同じ女性として少しも微塵も全く悔しく思わない。完璧なまでにひれ伏せる相手だから。
「あ、しまった!」
「なんだ。どうした?」
私の声に兄が素早く反応した。しかし本当に一大事だ。
「キャンバスを持ってくるんだった……!」
「…………。」
・・・
入場された時のシーラ様はそれはそれは美しかった。
新緑の若葉が雨に濡れ光るように、緑の生地を何枚も重ねたドレスには細かな芸石が十分に付けられている。
そして何より……「レディ・ピンク」。
私は過去の絵画で見たことがあった。あれは間違いなく本物。輝き方が他の宝石とは段違いだった。
国宝級の宝石を所有している公爵家。その公爵家が全力で護っている女性。そしてその女性は、そんな宝石を付けてもなお、凛として揺るがなかった。
「なるほど……これが天使の血筋……」
これだけの宝石や財力を惜しげもなく使えて、この場にいる貴族みんなが首を垂れる存在。
そうね、これが天使の血筋なのね。
「ん?どうした?」
私の口から洩れた言葉に隣の兄が反応を示した。
「………兄さま、今日パーティーに来てよかったです」
「絵の参考になったか?」
「はい、とても。」
「……それはよかった。」
・・・
なななんと。シーラ様に対し不敬を働いた方がいらっしゃった。ブガラン公国の王子。私にはシーラ様を見続けるという使命があるので、その場の会話は全て聞いていた。
シーラ様に対し随分見下した態度を取られていた。けれどまぁ相手も一国の王子。私からすると雲の上での喧嘩なので、本当に遠巻きに、息を殺して自体を見守るしかできない。
けれどこの事件をきっかけにパーティーの雰囲気は悪くなった。それにシーラ様が休憩室に戻られ、私の使命はなくなった。
「はぁ……そろそろ帰りたいです……」
「こら!!姿勢を緩めるな!微笑め!そして文句を言うな!聞かれでもしたらどうする?!」
「そんなこと言ったって兄さま、シーラ様がいないんじゃあ私はなんのためにここにいるのでしょうか?」
「一族のためだ!!」
隣の兄はいつまでも元気だ。私はもう雰囲気の悪さと大勢の人間と足の疲れで帰りたさMAX。そろそろ静かな場所で座って絵を描きたい。
そんなことを思っていた直後、遠くからざわめきが聞こえた。そしてシャンデリアの光が抑えられ、急に会場が暗くなった。
「ん?なんですかね?」
「おい、暗闇に紛れて帰ろうとするなよ?!」
「ギリしてませんってば。」
宰相閣下が一段上の会場を見渡せる場に立った。もちろん私達はすぐに頭を下げ、そのままの姿勢で話を伺う。
『今宵は皆の夜だ。今日の祝いに、我がパートナーが皆に踊りを捧げたいと言っている。』
ざわあぁぁぁ………!!!!!
会場が一気にざわめいた。宰相閣下のパートナーってことは、つまりシーラ様。そのシーラ様が……………踊りを披露される?!!!!
『しばし皆の時間を頂戴する。』
反対を許さない宰相閣下の物言いに、もちろん否と答える者はない。誰もが浮足立ち、シーラ様がいらっしゃるのを待っていた。
そしてすぐ、その場に静寂が訪れた。
まさしく我々が想像する天空人のお姿をしていた。
天空人が着ていたとされる艶があり軽やかな無地のドレス。胸下に金地の紐が三周のみ。しかしそれでシーラ様の抜群のウエストラインが際立っている。
布と紐、誰でも手に入るもの。芸石も宝石も、何も付けていない。さきほどのドレス姿と比べるとあまりにも低廉な装いだった。
なのに……たったそれだけなのに、その姿こそが「本物」だった。
豊かに波打つ黄金の髪、青空を閉じ込めたような瞳。
それらが十分に宝石の役割を果たしている。
そう、天使の血筋にはこれだけで十分なのだ。
私達、ただの市民は芸石がなければ何もできない。芸石こそが我々の命を守る最大の盾であり、プライドであり、品格である。芸石を付けずに行動するなんてあり得ない。
けれど天使の血筋は本来どんな石もいらない。必要ない。
シーラ様の通った道には金色の芸素が舞っていた。歩きながら芸素を出していらっしゃるのだろう。まるで蝶の鱗粉のようだった。
そしてそんな蝶に惑わされ、会場中央の噴水へと向かっていくその一挙手一投足から目を離せない我々がいる。
シーラ様は軽やかさに噴水の円周へと上り、我々に一度大きくカーテシーをした。
静かに、曲が流れ始めた。
「……これが天使の血筋なのね……。」
思わずひれ伏したくなる。シーラ様の操る芸はあまりにも美しかった。噴水の水に芸素を混ぜ水滴自体を発光させる。
曲の盛り上がりでハープの音が幾重にも重なり奏でた。そしてその音に合わせてシーラ様が風を操り、我々に音色を響かす。
曲調が変わり、太鼓の重低音が加わった。シーラ様は氷と炎を操り、まるで戦の女神であるかのような力強さを見せた。
そしてリュウの高い音が一気に場の空気を変える。
シーラ様の動きも止まる。
光も音も動きも消えた場で、我々は月明りに気づいた。
この会場の上部はガラス張り。頭上から自然の光が舞い降りる。
そしてそんな月明りの下で、シーラ様は跪き、両手を合わせて月に祈りを捧げるポーズをとった。祈りを、自身の祖先である天空の神々に届けているようだった。
空に伸ばした腕を胸元まで戻し、ゆっくりとその手の平を広げる。すると、両手から零れるように月の光が流れ落ちた。
「うわぁ……!!!!!」
シーラ様の手の平から月明りが広がり、会場中に光が舞う。
それは今まで生きてきた中で最も美しい景色だった。
会場のシャンデリアが再び灯る。
暫く誰も喋ることができなかった。見事すぎたのだ。
シーラ様は再度我々にカーテシーをしてそのまま去ろうとなさった。
そこでやっと皆の意識が戻ったかのように、会場中から大歓声が沸いた。
わあぁぁぁぁぁ………!!!!!!!!
『う、うそ……うそ!!!!!』
「なんと……なんということだ…!!!!」
『すごいすごいすごい!!!…う、うぅぅ…!!!」
皆が興奮を隠しきれず目を見開き、笑顔で賞賛の言葉を綴っていた。泣いている者も、言葉を失っている者も少なくなかった。
当の本人は宰相閣下の隣まで歩き、閣下にも軽くカーテシーをして再び休憩室へと戻っていった。しかし本人がいなくなってもなお歓声は鳴りやまず、残された我々はパーティーが終わるまでシーラ様に感謝の言葉を述べていた。
「………ね、兄さま。」
「……………あ、ああ? な、なんだ…?」
兄と二人の帰りの馬車
どうやら兄さまは凄いものを見たら放心なさるタイプらしい。しかしどうしても今伝えたい。
「私………今すぐに絵を描きたい。」
「………わかった。今日だけは夜更かしを許そう。」
「っ!! ありがとうございます!」
この後、私が描いた「楽園の女神」の絵は帝都中で話題となり、私は貴族出身画家として華々しいスタートをきれたのだった。
・・・・・・
「ほ~……やっぱシーラすげぇな!」
『でしょでしょ?さすが僕の子!』
「お前の子じゃねぇだろ。」
俺はシーラの踊りを2階の隠し部屋でシリウスと見ていた。隠れて会場を見渡せるスポットなのだがこの部屋の存在は誰も知らないらしい。
シーラは見事だった。
登場する前から会場全体に幻影をみせる解名『宵の夢』を出していた。そのうえで数々の芸を出し、噴水の水を使ったり、光を手に持つような演出を行ったのだ。
芸石を持たず、あれだけの夢を見せられることこそが「天使の血筋」にしかできない踊りであり、自身が唯一無二の踊り子であることの証明だ。
結果的にパーティーは大成功で終わり、次の日から「招待してくれてありがとう」の手紙と、「シーラへのありがとう」の贈り物が公爵家に大量に届いた。
別邸に贈り物が全部入らないので本邸のホールを1つ丸々使うほどだった。
そしてもちろんそれを処理するのはクルト。
「………さすがに手伝おうか?」
文字通り山のように積んであるプレゼントを見ながらクルトに問いかけると、初めてクルトが弱気な顔を見せた。
「……………………お願いしてもいいですか?」
「もちろん!!」
これで俺とクルトの数日は溶けた。
ちなみに公爵もここ数日はシーラ案件でずっと忙しくしていたが、シーラはシリウスと一緒に森の家に行き、のんびり過ごしていたらしい。
・・・・・・
次の社交の予定はシルヴィアが主催するガーデンパーティーだ。6の日のお昼に行われる。
「これって場所どこでやるんだ?」
俺は招待状をひらひらさせながらシリウスに聞いた。
『シルヴィア家の屋敷だよ。第1学院の近くにあるやつ。』
そうだったっけと思いつつ記憶を辿るが、よくわかんない。第1学院にはいつも馬車で行くし、寄り道もしないから周囲に何があるか知らないのだ。
『前にシド家の屋敷に行ったでしょ?あの並びにあるよ。』
「そういえば前に双子とシドんち行ったな!そうかあの辺か。……今更だけど俺って参加していいのかな?」
『え?どうして?』
シリウスは不思議そうな顔をしてこちらを見た。
「だって、俺は貴族じゃないし別に勲章を貰うような凄い人間ってわけでもないし……髪だってこんな黒髪だし…」
一国のお姫様が主催するパーティーに何も取り柄がない俺が行っていいのか。俺が行くことでパーティーの品格が落ちる……とか…そんなことは…ほんとにないだろうか。
俺のせいでシルヴィアの名が傷つくことはないだろうか
『ふ〜ん、君もそんなこと気にするんだね。』
シリウスは意外そうな顔をしていたが、すぐに笑顔で切り捨てるように言った。
『そんな下らない遠慮はいらないよ。彼女が招待したんだから、君は普通に参加すればいいんだよ。』
「……たしかに今更考えたってもう遅いか。今から「やっぱ参加しません」なんて、余計失礼だもんな。」
『そういうこと!あ、それとガーデンパーティーの時に合宿のこと、もう一度言っときなさいね。』
俺はシリウスとシルヴィアとコルネリウスと、風向かう2週間でブガラン公国とカペー公国に合宿しに行く予定だ。その確認をもう一度取っておいた方がいいだろう。
「おお!そうだったな!」
『それと……お昼のガーデンパーティーなんだから少し色のある洋服を着ていった方がいいね。明日、既製品でいいからハーロー洋服店で数着見繕ってきなさい。』
「へ?!!!また服買うのか?!!!」
遅くなってしまってすいません!パーティー最後!あとはガーデンパーティー2つだけ!
まだもう少しスローペースになると思いますが、変わらず読んで応援してくれると嬉しいです!