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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第4章 学院間交流と社交
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164 帝国の技術

わー投稿遅くなっててすいません~!!

ちょっと暫くペース遅いかもしれないですけど、頑張りますねー!



『やぁ2人とも、パーティーはどうだった?』


別邸の談話室に入るなりシリウスはそう聞いた。シリウスの斜め向かいのソファにはシーラも座っている。

カールをこの家に連れてきたのに、2人とも驚きもしない。もちろん芸素で事前に察知していたのだろう。

俺は普通に、カールは綺麗なお辞儀と挨拶をして部屋に入った。


「『列車』、あの発明品がやばいことくらいはわかる。」


俺はそう言ってシーラの隣に座った。カールは再度丁寧に断りを入れてから俺の向かいの1人掛けソファに座った。


「…………あの列車で帝国の()()が変わります。人も、金も、物も、全てが動きます。」


カールの答えにシリウスは頷いた。


『そうだね。きっとこれから物資を始めとして様々なものが輸送可能になる。それも低コスト低リスクでね。』


シーラが紅茶を机に置いて話に参加した。


「列車なら輸送時間も大幅に短縮できるわ。それに馬車と違って季節や天候にも左右されにくいし、列車を繋ぎ合わせれば一度に大量の輸送も可能よ。」


「あぁ。今後一層人や物の流通が盛んになって社会が発展する。そういう意味で、社会が大きく変化する。」


「けれど鉄道に必要な……レール?を配置するのには相当なお金も時間もかかるでしょうし、各国の合意が得られるとも限りません。」


カールの意見に俺も頷いた。あの『列車』は既存の交通事情を一変させる。けれどあの場にいた貴族の多くはあまり列車の凄さを理解していないようだった。帝都に住んでいる貴族には列車の重要性は伝わりづらい。カールのように輸送に携わる仕事をしているなら別だが。


『確かにそうだろうねぇ。なかなか話は進まないかもしれない。けれど君たちのように感じている貴族や王族はいるはずだ。彼らが支援するだろう。それにね、最初の着工場所はもうすでに決まってるよ。』


「「 え?? 」」


俺とカールが共にシリウスの方を向くと、シリウスは微笑んだままシーラを見た。


『シーラがお披露目しただろう?獲るのに大変な宝石を。』


「あ‥‥‥貝!! 海か!!!」


「っ!!」


シーラが社交界で付けた貝の装飾。あの時はオートヴィル公国の沿岸部で獲られたものだったはずだが、帝都の沿岸部でも貝の採取は行われるだろう。同様に各国の沿岸部でも。


『貝を獲るために足場の悪い砂浜でも馬車を使いたい。けど車輪は使えない。そんな時、レールを敷けば使える列車が現れた。』



   そうか…そうか……!!

   繋がってたのか。ずっとずっと!

   ………面白いなぁ!!!



社会は連動している。そんな具体例を間近に見たようだった。


「…………どうして今まで列車はなかったのでしょうか。」


「え?なんだって?」


カールの言葉の意味がわからず俺は聞き返したが、シリウスは満足げな笑顔を見せた。


『実は列車の構想自体は30年前に存在していた。』


「「 え??? 」」


シリウスがちらりとシーラを見ると、意味を察したシーラはシリウスの代わりに説明を始めた。


「最初の列車の開発者はとても優秀だったわ。けれどある日、その人は火事を起こしたのよ。珍しいくらいに泥酔し、暴れて……帝都南部で大火事を起こした。その火事の死者数はおよそ二千。彼自身の家も燃えたわ。」


「に、二千?!!!」


「帝都内での火事………か。」


カールが苦々しい顔をして説明を加えてくれた。


「帝都での火事は一段と罪が重い。帝都は人口密度が高く住宅も密集しているだろう?その分、火の広がりも早く、大事故に繋がりやすいってことだ。」


「そ、それで……その人はどうなったんだ?」


俺の質問にシリウスが変わらぬ笑顔で答えた。


『とりあえず処刑されたよ。遺体も数日公開された。帝都の法では最も重い処罰だった。一応ね。』


「一応って、なにが?」


俺の質問にシリウスは綺麗な笑顔をみせた。


『処刑されたのは別の人なんだ。カモフラージュだよ。実際の彼は今、海園島(かいえんとう)に収監されてる。』


「はぁ!!?まず海園島って何?!!」


聞き馴染みのない言葉だ。


『海園島はオートヴィル公国近くの海にある。黒の一族が以前住んでいた島みたいに、大陸から少し離れてるんだ。その島全体が監獄で、重度犯罪者が収監されてるんだよ。』


「へぇ!!そんな場所あったのか!……って違うだろ!なんで別の人が処刑されてるんだよ!!」


シーラは俺とカールをしっかりと見据えながら告げた。


「彼は犯人ではないのよ。」


「え、どういうことですか?」


カールは身を乗り出してシーラに質問した。


「火の広がりが不自然だったの。なのに……ろくに調べられることなく、帝国共通教会から帝国に対する反乱罪として処刑命令が出たわ。」


帝国共通教会・・・天使の血筋の記憶を封じている教会だ。その教会が処刑命令を出すなんてのは異例中の異例。歴史上でも数えられるほどしかない。


シリウスは笑顔のまま告げた。


『その技術者が火事を起こしたとは言い難い。そして()()()()くらいの不確かさで処刑するには惜しい人材だった。』


「…………は?」


シリウスは肩をすくめて仕方なさそうに言った。


『まぁ端的に言っちゃうと二千人の命よりも彼の頭脳の方が価値が重かったんだよね。』


「…………じゃあ誰を代わりに殺したんだ?」


誰かがその技術者のカモフラージュになって処刑されてる。その人物のことが気になり質問したがシリウスは弁解するかのように早口で言った。


『あぁ!代わりに処刑された人からはきちんと了承得てたよ?テキトーに殺したり代わりを見つけてきたわけじゃないからね?』


さっきからずっと疑問だったことがある。


「そんで…シリウスもシーラも……この話の裏側に関わってるんだな?」


2人ともずっとさっきから『自分の行動』として、見てきたものを語っている。人伝の話をしている様子はない。


窓の外から風が入ってきた。


その風に美しく揺れる2人の髪は、俺の質問に頷いているようだった。



『君たちが考えるべきことは、どうして帝国共通教会は技術を広めたがらないのか、だよ。』






・・・





その日は夜遅くなってしまったのでカールは別邸に泊まることになった。


そして朝、



「カールおはよう!」


「ああ、おはよう。………シリウス様とシーラ様はどちらに?」


朝食を食べる場に2人の姿はなかった。けど意外とこういうことは多い。


「シリウスはどっかふらついてる。公爵邸の中に芸素を感じない。シーラはまだ寝てるんじゃないか?」

 

俺とルシウスは以前シリウスに言われた通り、帝都全域に自分の芸素を拡げて芸素探知をし続けている。

クィトを見張るためという名目で行っているが、正直予想以上にしんどい。これを始めてからというもの通常の倍、8時間くらいは睡眠をとっている。あ、けど寝ている間の芸素探知はシリウスに免除してもらったからまだよかった。


ぶっちゃけこんなんをずっと続けなくちゃいけないくらいなら、クィトには悪いけど一刻も早く刻身の誓いをマスターして契約を結びたい。


「ずっと考えてたんだ、昨日のことを。」


カールは俺の向かいの席に座り真っすぐにこちらを見た。


「帝国共通教会が技術を広めたくない理由は教会の威信を守るため、そして天使の血筋の記憶が封じられていることを悟らせないため。その他の理由は……」


「理由は…?」


ごくりと喉を鳴らしカールの次の言葉を待つ。


「移動技術が発達することを避けるためだ。」


「………ほぉ?つまり?」


よくわからない理由だ。カールも俺が腑に落ちていないことに気づいたのだろう。一層前のめりになって説明を続けた。


「移動技術、今回発表されたのは『芸車』と『列車』だ。つまり人や動物の力では到達できない速さ、距離を移動できるようになるんだ。」


「おう、そうだな。」


「……我々地上の人間が、到達できない場所があるだろう?」


「え?………まさか!!!!」



天空には国がある。


空を飛ぶことのできない多くの人間にとって、空は未知であり神の領域だ。

それが技術の発展により、覆る。


「教会は我々が空を飛ぶ技術を得て天空に辿り着くことを恐れているんだ!」


カールの言葉に胸が大きく高鳴った。

以前カールと考えた仮説が頭に蘇る。


2,000年前、天空人同士の闘いがあったとする。そこで勝った方が天空に、負けたほうが地上に追放されたとする。

この仮説に今回の仮説を繋げると……地上に追いやられた天空人が復讐のために再び天空へ上がってくるのを防ぐために、天空にいる人たちが記憶と技術を封じているのではないか。

帝国共通教会は天空の民の指示を受けているのではないか。


「………よし。一度、シリウスにこの仮説をぶつけてみよう。」


理屈は破綻していない。可能性としては十分あり得る。


「わかった。」


カールも真剣な眼差しで深く頷いた。


ガチャ・・・


「んんー……ふぁあ……ん、あら?」


ダイニングにシーラがやってきた。今起きてきたのだろう。パジャマとして着ている絹のローブは大胆にはだけており、ギリギリのところで胸は隠れてはいるが、爆発的な大きさのそれは今にも服の外に出ちゃいそうだった。普段はあまり見ることのない太もももローブの隙間から見えてしまっている。


そして………残念ながらその見た目から目を逸らす強さを俺らは持ち合わせてはいない。ただただガン見するだけだ。


シーラは俺らの目線に気づくと妖艶に笑ってみせた。


「いやん、えっち。」


「#$%+*!&!!? シーラ様おはようございます。」


カールが一瞬とんでもない声を出しつつあわあわしていた。しかし次の瞬間、何事もなかったかのように普通に挨拶をした。こんなカール初めて見たぞ。


「シーラ!胸が見えそうだよ…っいてぇ?!!!」


俺がシーラに注意しようとしたらカールが頭をはたいてきた。たまに出るこいつの一撃はわりかし重い。

しかしそんな俺らの様子を気にすることなく、シーラは大きく伸びをして席についた。


「2人とも、もう朝食は食べちゃった?」


「いいいいいいいいえ、まだです。」


「まだだよ。」


「あらよかった。それじゃあ3人で食べましょっか!」





・・・・・・






シリウスは結局朝出かけてから森の家に行ったらしい。芸素を探るとわかった。なので俺ら3人は森の家へと向かった。


「よ!クィト、ルシウス!調子はどう?」


俺の質問にクィトは少し照れ気味に、ルシウスは泣きそうな顔で言った。


「あ……まぁ……楽しい…です。」


「頭がパンクしそうです~!!!!」


とりあえずクィトは勉強を楽しめてるっぽい。今日は公爵家で働く技術師が教えにきていた。イサックに教えてもらう時は図書館とか別の場所に行くらしい。


『それで2人はどうしたんだい?』


居間にある窓際のソファに座っているシリウスがにこやかに聞いてきた。俺とカールは互いに一度アイコンタクトをしてからシリウスに言った。


「考えた仮説を……聞いてほしい。」




・・・





「これが俺たちの仮説だ。」


先ほど話し合ったことをシリウスに伝えた。なかなか間違っていないと思う。十分可能性のある推察だ。


けれどシリウスは冷めきった瞳で笑っていた。

シリウスは芸素がブレない。つまり心からの気持ちが掴みにくい。そんなシリウスの真意を探るには表情を深く読むしかない。

そしてその表情を見るに……俺らに失望しているようだった。


『よく考えたね。けど……まだ足りないよ』


「……足りない?何がだ?」


『この世の知識が。もっと深く、もっとよく見てみなさい。結論を出すには情報不足だよ。』


確かに…今の俺らは与えられたピースをそれっぽく並べているにすぎない。もっとこの世にはたくさんのピースがあるはずだ。


『焦ることはない。過去は消えない。ゆっくりと考えていきなさい。』


そう言ってシリウスは立ち上がった。廊下へと向かう途中、シリウスはシーラの肩にポンと手を置いた。


『今日は僕が公爵邸にいるよ。』


「えぇ、わかったわ。」


シリウスは一度こちらを振り向いたが、特に何かを発することなくそのまま森の家を出ていった。






そろそろ今年一大きい夜会が開かれる予定です。わ~楽しみ~

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