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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第4章 学院間交流と社交
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160 暇から生まれた出会い



「おいおいおいおい!!!お前……学生のレベルじゃねえぞ!」


グリッドはそう言って槍を構えたまま俺に近づいた。


「……え?なんで…???」


ただのクモの芸獣、学生でも倒せるはずだ。しかしグリッドは分断されたクモの死体を槍で小突きながら言った。


「お前、知らないのか?!こいつは紫の個体……つまり上位種だ!紫色の芸獣は速さもパワーも硬度も上がる。加えて他の個体より獰猛で、攻撃的だ。それをお前……花でも斬るみてえに切りやがって…!!」



   おおおい!!なんだその後出し情報!?

   なんで俺の相手だけ上位種なんだよ!!

   というか紫の個体って上位種だったのかよ!?

   教えてもらってないぞシリウス!!!



俺は急いでシリウスの座っているところを見たが、シリウスはこちらを指差して大笑いしてる。隣にいるカールの顔色は真っ白だけど。だめだこりゃ。


たしかによくよく考えてみると紫色の個体は強かった気がする。けどそれは()()だと考えていて、()()()なんて認識をしていなかった。


俺の行動がどこまで不自然なのかすらわからない。どうしよう。


「ふむ、見事だ。疲れただろう、下がって早く休みなさい。」


声をかけてきたのはコルネリウスの父ちゃんだった。俺の肩に手を置き、労をねぎらってくれた。そして小声で「大丈夫だ。このまま下がってなさい」と言ってくれた。


「はい、ありがとうございます…!」


俺はすぐ指示に従い、とりあえずシリウスを殴りに客席に行くことにした。






・・・





その後、客席でカールとシリウスと3人で隊長格の試合を見学した。


フィリップは中型のイグアナが相手だった。やはり剣技の腕は一流で美しい。けれど嫌な言い方をすると、模範的すぎる。


リオンは中型のイノシシに相対した。やはり経験の差なのか、興奮して突飛な行動を起こすイノシシにも冷静に対応していた。

  

「へぇ〜!やっぱ強いんだな!!」


『当たり前でしょ!僕のお兄様は2人とも凄いんだ!』


途中からコルネリウスも客席の方に来て4人で試合を見ている。やはりお兄ちゃんが好きなようで、ずっと応援の声を演習場に向かってかけている。


『ところで、シ…様、今度はいつまた練習を付けてくれますか?また一緒に海に行きたいです!』


コルネリウスは周りの人の様子を伺ってシリウスの名を出さずに話した。シリウスはいつも以上に笑顔を見せて言った。


『え~じゃあ君も一緒に合宿行くかい?』


『合宿…とはなんですか?』


コルネリウスの質問に対し、なぜか顔が真っ赤になったカールが答えた。


「合宿とは!勉強しながら旅をすること~!ですよね?」


『そう!』


カールが酔ってる。


『軍の遠征のようなものですか?是非参加したいです!!その合宿とやらはいつどこに行くのでしょうか?!』


『風向かう2週間の間だね~ブガランとカペーに行こうかな。』


『すぐに予定を開けます!』


「というかそれってシルヴィアも一緒にいくやつだろ?シルヴィアに確認取らなくていいのか?」


『「 え。 」』


コルネリウスとカールが固まった。シルヴィアも一緒に行くことは知らなかったらしい。というかそもそもシルヴィアが一緒に行くなんて想像しないだろう。


「え、シ…様、そうなのですか…?」


カールの顔色が元に戻った。一瞬で酔いが覚めたようだ。


『そうだよ~ん。』


「『 えぇ?! 』」


2人の声にシリウスはけらけらと笑いながら答えた。


『あとでシャルトに伝えといてもらうから大丈夫だよ~』


『……僕がシルヴィア大公家に直接お願い申し上げるには家格が離れすぎていますので……是非、シャルト公爵のお力をお貸し願いたいです。よろしくお願いします…!!』


『いいよ~ん、じゃあとりあえず火の月の10週目7の日にうちんち集合ね。』


こうしてシリウスの独断で、また公爵の仕事が一つ増えたのだった。






・・・・・・






7週目、今週はフェレストさんのところに通い詰めた。あとシリウスにバレないように帝都北西にいる情報屋、ラウルやバートのとこにも言った。


カミーユに関する新たな情報が入った。火事の時に金の髪を持つ人間がいたことは確からしい。

火事の時、現場から2組のグループが去っていった。1つ目のグループは火事のすぐ後、よく連携の取れた動きでその場から去っていった。2つ目は火事の途中、燃えた家の中から出てきた。そしてその中の一人が金の髪色だったらしい。


俺はバートに引き続き調査を頼んだ。そしてフェレストさんのとこで稼いだアルバイト代がまるまる消えた。もうそろそろ自由に使える金が尽きそうだ。


再度フェレストさんのとこに行って鍛冶を行っていると昼過ぎにシリウスが遊びに来た。家で暇だったらしい。仕方がないので今日はシリウスと街を歩きながら屋敷に帰ることにした。


「ちょっと屋台寄っていい?腹減っちゃった。」


『あ、じゃあ僕の分も。』


「おー。串焼きでいいか?」


『わーい!』


俺は屋台で2本の串焼きを買い、財布を腰のポケットにしまった。


「ほい、おっと……」


シリウスに串焼きを渡す時に小さな男の子にぶつかってしまった。けどその子はよろける様子もなく、そのまますたすたと歩いていった。俺は特に気にすることなく串焼きを食べ始めたがシリウスがずっとその子のことを目で追っている。


「ん?なに?知り合いだった?」


『え?いや全然。』


「じゃあなんでそんな見てるの?」


シリウスは当然のように言い放った。


『君の財布がどこに行くのかなって。目で追ったらおかしい?』


「……………はぁ?!!!!!!」


俺は急いで自分のポケットに手を当てた。そしてそこにあるはずの膨らみが消えていることに気づく。



   まずい!!俺の稼いだバイト代!!

   バートにまだ渡してねぇ!!!

   まずい!取られるわけにはいかない!

   というか…



「伝えろよ!!!!!!!」


『あははははははっ!!!』


「おい!そこの男の子!!俺の財布返して!!」


俺が男の子を追いながらそう叫ぶと、その子は驚いた顔をして振り返った。そして猛烈な勢いで走っていった。わざと人混みに紛れるようにして走っているようだったが、残念ながらこちらは身体強化ができる。絶対に見失わない。


「こらぁ!止まれ!!!」


俺が首根っこを掴んでその子の動きを止めると悔しそうに俺を睨み返した。


「俺の財布、返して。っと、あぶねぇな。」


その男の子は手で俺の顔を殴ろうとした。しかし武術も習っていない子どもに殴られるわけがない。


しかし


「ぶっ!!!!」


「うえ?!きったねぇ!!!あ、こらぁ!!」


俺に攻撃が当たらなかったことを知るや否やその子は俺の目に唾を吐きかけてきた。俺が飛んできた唾液を拭っていると、もう片方の服を掴んでいた方の俺の手をチョップして、その子はまた走り去った。


『アグニ、今暇でしょ?あの子、どこに住んでるのか追ってみようよ。』


シリウスが楽しそうな顔で新たな提案をした。なんでそんな面倒なことをとも思ったが、まぁ俺も暇なのだ。


「………よしとしよう。」


俺らはその子と距離を保ちつつ追跡を始めた。いくら走ったとしても所詮帝都内だ。各国を横断する俺らの持久力を舐めないでもらいたい。


その子は帝都の北部、北門近くの裏路地へ入った。

しかしどこかの家に入るということはなく、そのまましゃがんで財布の中を見始めた。


『……あぁ、あの子家ないんだね。』


「え。そう…なのかな?」


『うん、たぶんない。……ん?』


シリウスが目を細めてその子の方を見た。その子は俺のお金を自分の太ももに付けていたポーチに移し替えてた。

しかしそのポーチが不思議な物だった。どうやら芸石が取り付けられているらしく、持ち主の芸素を感じないと開かないような仕組みになっているっぽい。


「………なんであんなの持ってんだ?」


『そうだねぇ。孤児が持てるようなものじゃない。盗んだか…あるいは元々持ってたのかな?』


不思議に思いつつ観察を続けていたらシリウスが唐突に言った。


『どうする? 殺しとく?』


「な?!!殺さねぇよ!返してもらうだけだって!」


『ほーん、そうなのか。じゃあせっかくだからあの子のポーチも貰う?』


「なんでだよ!あのポーチはあの子のもんだろ!しかもどうせお前ポーチ貰ったって使わないだろ!いらないものは拾わない!」


『ほーい。じゃああの子ごと貰おうかな。』


「…え?なんだって??」


シリウスはその子のいる裏路地へと向かった。身体強化で見ていたため、その子との距離はまだ離れている。シリウスが向かってきているのにまだ気づいていない。


「おいシリウス…! あっ……。」


その子の頭上に透明の水の膜がゆっくりと形成された。水は徐々にその子の周りを覆い、まるで意志を持つかのように動いて陣を築く。背後、足元、頭上・・・目の前と両脇を除き、その子は水の陣に囲まれてた。けれどまだその変化に当人は気づいていない。


『 こんにちは。 』


パキィィィン!!!!!!!!!


「っ!!!!!」


シリウスの言葉で水の陣形はその子に飛び掛かり、そして一瞬で氷に変わった。小さな裏路地でその子は地面や壁に氷で繋がれ、身動きが取れない状況になった。


『今日も暑いよね。』


「だれか…オボッ!!」


シリウスはその子の口に小さめの氷を詰め込んだ。


『しーっ。うるさくすると殺されちゃうかも。静かにしとこうよ。』


その子は恐怖を感じているようで、芸素も痛いほど怯えているのが伝わってくる。しかしシリウスは構わずに言った。


『君、家族は?住んでる家ある?』


その男の子は首を横に振った。


『ずっと孤児?それとも家族が死んだりして孤児になった?』


その質問で、その子は攻撃的な目になった。しかしシリウスは特に構うことなく告げた。


『まぁそれはどっちでもいいや。要するに暇なんだよね?じゃあちょっとおにいサンと場所変えてお話しようよ。』


「うっ…!!………」


シリウスはその子の首を一度叩き、気を失わせた。意識がなくなったのを確認してから、シリウスはようやく俺を振り返った。


『アグニ、()()運んで。森の家に行こう。』



「…………ほんとにお前の行動は唐突だな。」




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