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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第4章 学院間交流と社交
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143 エッセン町、その後



「ヨハンネ!!!おぉ〜!!元気だったか?」


「また来てくれたのね!!うわ〜嬉しい!あ、え、もしかして…」


ヨハンネはシリウスの顔をチラチラ見ている。


「ああ、シリウスのことも覚えてるか?前も一緒にいたんだけど」


俺がそう言うとヨハンネはすぐに荷物を地面に置いて四つん這いのような格好で謝罪した。


「い、以前の無礼は……!あの、お許しください!!」


「おおぉい?!どうした?!」


「だって……て、天使の血筋……!!!!!」


前に会った時はそんな素振りは見せなかったが、ヨハンネはシリウスが天使の血筋だと気づいてたらしい。今シリウスはフォード公国の民族衣装で目と髪を隠しているが、きちんと顔も覚えていたようだ。


『いいよ別に。この前は君も大変だったからね。』


以前、俺らがこの町で出会った時、

ヨハンネは自殺をしに来ていた。


家族が全員病死し、氷の世界に閉じ込められることを望んだのだ。


ヨハンネは薄く笑顔を作って頭を下げた。


「はい……。ありがとうございます…。」


「ヨハンネ、今の町はどうだ?」


ぱっと見る限りだとこの町は活気に満ちている。お店が並び、花が植えられ、噴水からは綺麗な水が出ている。


「全員が戻ってきたわけじゃないけど、また元のようになったわ。それにね、新しく移住してきてくれた人も大勢いるの!」


「へぇ!!それはよかった!!」


「実はね、それで……」


ヨハンネが下を向いて、少し恥ずかしそうにする。



「紹介したい人がいるの……。」


「………うん?」





・・・







「お邪魔しま〜す。」


『へぇ……小さいけど可愛らしい家だね。』


俺とシリウスはヨハンネのお宅に招かれた。町の中心を通る大通りから一本外れたところだ。

シリウスは小さい家だと言うが、二階建てで普通に大きい。机や椅子を家の材木と一緒にしており、カーテンやカーペットは薄ピンクで統一している。


家の中にある柱にはヨハンネと誰か知らない男の人が親しげにしている絵が引っかけられていた。


「ん?誰だこれ?」



   ヨハンネには家族がいないはずだ。

   新しくできた友達かな?



「私の(かれ)、よ。」


「彼?」


『今一緒に住んでいるのかい?』


「はい、そうです……!!!」


シリウスの質問にヨハンネがまた恥ずかしそうにした。俺は恥ずかしがる理由がわからずシリウスの方を見ると、シリウスは大きくため息を吐いて応えた。


『ヨハンネとこの男は愛し合ってるんだって。』


「なぁんだと?!!!」


「そ、そんな!愛してるだなんて…えへ。」


俺は再度その写真の男を見た。見覚えのない人だ。


「だ、誰だこいつ?!信用していいのか?!」


「彼の名前はロティ。あの後にね、」


そう言葉を始めるヨハンネの顔は幸せそうだった。そして俺とシリウスが町を出た後のこと、ロティと出会った時のことを話してくれた。


「ロティは行商人なの。この町の近くを通っていた時、巨大な芸獣に襲われたんですって。なんとか芸獣は退治したらしいんだけど、怪我人も多かったから休める場所はないかとこの町に来たの。」


行商とは店舗を持たずに物を売り歩く、移動式商店のようなものだ。大きい街で仕入れた物を小さな村々で販売する。行商の大きさにもよるが大体10人前後で行動することが多い。


『へぇ…よかったね、ヨハンネ。』


「あ、ありがとうございます…!」


ガチャッ・・・


「あれ?ヨハンネ、お客さんか?」


家に入ってきたのは先程の絵に描かれていた男…ロティだ。茶色の短髪と瞳の色で、筋肉がついた浅黒い肌。


筋肉が付いているということは身体強化ができないということ、芸はあまり得意ではないこと、逆に武術が得意だということに繋がる。


「はじめましてロティさん。俺はアグニ、こっちはシリウス。以前この町に来たことがあって、その時にヨハンネと知り合ったんです。」


俺が簡単に自己紹介をするとロティは一瞬普通に頷こうとしたが、すぐに固まって俺とシリウスを交互に見た。


「……え? シリウス…?」


シリウスの名前で天使の血筋だと気づいたようだ。

シリウスは頭の布を取り、ロティに微笑んだ。


『初めまして。シリウスだ。少し世話になるよ。』


シリウスが再び挨拶をするとすぐにロティは四つん這いのような姿勢になって頭を下げた。


『気にしないで普通にしてくれ。村の話を二人から聞きたい。』


「……………は、はいぃ。」





・・・







「へぇ〜それで看病を続けてるうちに2人は仲良くなったのか!」


「そうなの!結局、彼の仲間の人達もこの町に住むことになってね。この町にもたくさん人が増えたの。他にもカップルはいるわ。」


「へぇ!!!」


幸せそうに微笑み合う2人を見ていると少しこちらが恥ずかしいくらいだった。けれど安心した。



「それで今は剣を振る仕事をしてるのか?」


「………………え?」


ヨハンネが不思議そうな顔をした。


「違う?ロティの手の(あと)、剣を握ってできるやつだ。それに筋肉のつき方も身体を動かしてる人のものだ。」


俺の言葉を聞いて、ロティの芸素は一瞬だけ強く出た。けれどすぐに大声で笑った。


「あはははは!違う違う!これは行商用の引き車でできた痕だよ。身体も、村や町を移動してるから筋肉がついただけだ。まぁたまに芸獣にも遭遇するから剣を振る時もあるよ。」


「そうなんだ。じゃあ今も行商を続けてるのか?」


「ああ、そうだ。もうみんな怪我は治ってるしな。」


「怪我したって…結構大きい芸獣だったのか?どんなのと戦ったんだ?」


「…………サルの芸獣だったよ。たくさんいたから大変だったんだ。」


ロティがハーブティーを飲みながら言った。寒い高地でしか取れない植物で、揉むと果実のように甘い香りがするのだ。


「へぇ〜けどそもそもどうしてこの辺にいたんだ?この辺りには村も町もないだろ?」


実はずっとそこが疑問だった。

このエッセン町は最南端の高地。少し遠いところにしか別の村はない。行商が通るような場所ではない。


俺の質問で、ロティの芸素がまた強く出た。けれどすぐに頭を掻きながら穏やかな笑顔を見せた。


「ここに町があるってのは知ってたから、少し興味があったんだ。それでせっかくだから行こうかと話してた矢先に芸獣に遭遇しちまってな…。」


「けど、今となってはその芸獣にも感謝ね。あなたに出会えたもの。」


ヨハンネがロティに優しい笑顔を見せる。その表情にロティも笑顔になっている。幸せオーラがすごい。


「しかもね、この町がまだ立て直しの途中だと知ったら、色々な食べ物やら材料やらを持ってきてくれたのよ!本当に助かったわ。」


「え?無料(タダ)で??」


「ええ!それに何度も何度も持ってきてくれたの!村のみんなも彼らには感謝してるわ。」


「その分のお金と商品って…どうやって賄ったんだ?そんなことをしたら行商は大損だろ?」


俺の言葉にまたロティの芸素がブワッと広がった。


「………怪我の手当をしてくれて、命を救ってもらったんだ。俺たちはその分を返しただけだよ。」


「ふ〜ん、偉いなぁ…。ところでみんなどれくらい怪我してたんだ?」


「なんだアグニ?さっきから随分と質問が多いな。何か気になるのか?」


ロティが少しだけ物騒な気配をした。急に変わった態度に俺は急いで首を横に振った。


「え?違う違う!俺とシリウスは治癒ができるから、その時この町にいればみんなをすぐ助けられたのにって思ってるだけだ。深い意味はないぞ?逆にあるのか?」


俺の言葉を聞いてロティは一瞬シリウスをちらっと見た。


「……すまねぇな。行商人って案外信頼されづらいからさ。またそういう風に見られてるのかと思ってよ。………茶、飲み終わったから淹れてくる。」


ロティは席を立ち、俺らのコップを見た。俺のコップにはまだお茶は残っていたがシリウスのは空だった。


「お茶、もう一度淹れましょうか?シリウス様。」


シリウスはニコッと笑った。


『ありがとう。このハーブティーは好きなんだ。』


「それはよかったです。…では一度コップを預かりますね。」



ロティが席をたったタイミングで俺はヨハンネに告げた。


「良い人みたいで良かったな!」


「ええ!……私、あの時死なないで本当によかったと思ってる。これも全て、あの時助けてくれたアグニと天使の血筋様のおかげ。本当に、ありがとう。」


ヨハンネが丁寧に頭を下げた。

その様子を見ていたシリウスはヨハンネの頭にポンっと手を置いた。


『今度は彼と、いい家族になるんだよ。』


ヨハンネが驚いてシリウスを見ている。俺もシリウスにしては珍しい行動に驚いてる。


けれどその後、ヨハンネはとびきりの笑顔を見せた。


「はいっ!!!!」






・・・







俺らはその後、村の中を見て周ってから宿屋に泊まった。


「ヨハンネ幸せそうで良かったな!」


俺が明日の準備をしながらシリウスに話しかけた。シリウスは先程町で買ったハーブティーをいそいそと淹れている。あのお茶を結構気に入ったらしい。


『そうだね、新しく家族となる人ができて嬉しいだろうね。』


「…………なんか意外だな。シリウスはもっとロティに質問すると思ったし、今日はなんか静かだったな?」


いつもはだいたいシリウスが質問担当なのだ。けれど今日シリウスはロティに全く質問しなかった。


『そうかな?ちょっと疲れたのかも。』


「そんなわけねぇだろ。……というかロティもヨハンネも意外とシリウスにビビらなかったな。」


『見慣れなさすぎてどういう態度を取るべきかわからなかったんだろうね。』


「ヨハンネは天使の血筋様って呼んでたもんな。けどロティはシリウスをそのまま名前で呼んでたよな?」 


『そうだっけ?』


シリウスがハーブティーを口に含んで嬉しそうに笑った。


シリウスは天使の血筋様と呼ばれることを嫌う。しかし初対面は大体、天使の血筋様と呼ぶので、呼び方を訂正する必要があるのだ。


『アグニ、明日は朝ごはん食べたらもう移動するからね。シーラを待たせると怖いよ〜〜』


シリウスが身震いしている。どんだけ怖いんだよ。


「俺まだ眠くないんだけど」


ベッドに横になるがまだ寝れる気配はない。何回も言うが俺は睡眠時間が短いんだ。


シリウスが少し意地悪な顔をして俺のベッドに腰掛けた。


『子守唄、歌ってあげようか?』


「え、歌えるの?聞きたい!歌ってよ!」


『………嘘でしょ?』


「え?嘘なの?」



   こいつ…人を上げて落とすの本当に得意だな。



シリウスはため息をついて、やれやれと首を振った。


『子守唄で寝むくなんてならないでしょ?』


「………俺、子守唄とか親父のしか聞いたことない。」


『それ別に普通だよ。』


「え〜〜〜歌えるなら歌ってくれてもよくな〜い??」


俺が歌え歌えと何度も言うとシリウスは俺の口の中に氷をぶち込んだ。


「ンゴッ!!!!! っは…!危ねぇだろ?!」


『ガキは氷でも舐めてな。……代わりに僕が視た過去のシュネイの話をしてあげる。』


「え、…………まじ?」


シリウスが夢の内容…つまり過去の記憶の話をするのは初めてだ。今までどんな夢を見るのかと聞いても『暖かかった』とか『遊んでた』とか『寝てた』とかそんなことしか教えてくれなかった。


シリウスは窓の方を見ていたが、部屋の窓よりもずっと遠くを見ているようだった。


『僕の方が幼くて、シュネイを姉のように思ってた。』



 僕の芸素がまだ足りなくて、空を飛べなかったんだ。

 だからシュネイのおんぶで移動してた。


 けどね、着地の時にシュネイが石の段差に躓いて、

 けど僕をおんぶしてるから手を前に出せなくて、

 結局、シュネイは顔から転んだんだ。


 僕は謝りながら一生懸命治癒をして、

 けどシュネイは笑ってて・・・



『そういう…少し間抜けで、優しいところがあったんだ。…………眠いでしょ?』


「………うん、眠ぃ。」


シリウスの話し声が優しすぎて子守唄のようだった。


俺が目をしばしばさせていたのをシリウスはくすりと笑い、俺の頭に手を置いた。


『また天の端から新しい陽が昇る。今日にさよなら。明日のために、今は暗い夜の上で寝てしまおう。』


シリウスのその台詞にはどこか聞き覚えがあった。



俺は意識が遠くなり、そのまま眠りに落ちた。








・・・・・・








「じゃあヨハンネ、元気でな!!みんなも!」


町の手前まで見送りにきてくれた2人………とその後ろにいる町人全員に俺は最後の挨拶をした。後ろの町人達はみんな立膝になり、おへその辺りで両手を合わせるポーズを取っている。天使の血筋が来ていることは昨日のうちにバレてしまい、町の人が総出で俺らを送り出してくれているのだ。


「またこの町に来てくれてありがとう、アグニ、天使の血筋様。」


『頑張ってね。ロティ、ヨハンネをよろしくね。』


シリウスの言葉にロティが姿勢を正し、緊張気味に答えた。


「は、はい……!!!」



「それじゃあ、また!!!!!」



こうして俺とシリウスはエッセン町を出発し、妖精の森へと向かった。






13〜17話に以前のエッセイ町とヨハンネが出てきてますね。久しぶりの登場でしたけど覚えてましたか?


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