141 学院間交流会後のパーティー
実は昨日誕生日だったんです。いえ~い。
時の人と同じ誕生日だってことを、昨日報道を見て思い出しました。
場所も時間も交流会前のパーティーと一緒だった。流れもほぼ一緒だが、最初にあった学院の総長たちの挨拶が最後にあるらしい。
学院を跨いで生徒同士が会話している様子が見られた。その様子が見られただけで、この場の雰囲気が明るく感じられた。
そして俺もこの学院間交流で仲を深めた生徒と時間を共にしていた。
「セシル!アグニ!良い夜ね!」
『アグニさん、セシルさん、ご機嫌よう。パーティー楽しんでいらっしゃいますか?』
セシルと食事が置かれている箇所に向かっているとバルバラとアイシャに声をかけられた。2人は文学研究会繋がりで仲良くなったのだ。
「おー!バルバラ!アイシャもこの前ぶりだな!」
「ご機嫌よう。良い夜ですね。」
俺とセシルが返事を返すとバルバラがあたりをきょろきょろと見渡した。
「まだあまり第1の生徒とも喋れてないのだけど、どこにいるかわかる?」
「ん?誰を探してるんだ?」
誰かを明言してくれたらその人の芸素を辿ることができるから場所を教えてあげられる…と、思ったがこの質問はよくなかったらしい。
「な、別に誰をってわけじゃないの!第1の同級生全員の場所よ!」
『ふふっ…』
「えぇ‥?」
どういうことだ?
まじで全員の場所を知りたいてのか?
『アグニさん、コルネリウス様とはもう喋られましたか?』
アイシャが大人っぽい笑顔で俺に聞いた。まだパーティーは始まったばかりだからもちろん会ってない。
「いや、まだっす。あとで話に行こうとは思ってるけど…。」
『そうですか。私もご挨拶申し上げたいのですが、どこにいらっしゃるかわかりますか?』
「あ、はい。えっと………あっちの端の方っすね。あ、そこに他の第1の生徒もいそうだ。」
俺は右手奥を指差していった。アイシャはその方向を確認するとにっこりと笑ってお辞儀した。
『ありがとうございます。今から挨拶をして参りますね。アグニさんもお話したい様子だったとコルネリウス様に伝えておきましょうか?』
「あ、そう伝えといてくれると助かります!」
『かしこまりました。ほらバルバラ、参りましょう。』
「ちがっ!別にそういうことじゃないのよ?!」
『なにが違うのです?ほら、行きますよ。』
アイシャの方が1つ上の学年だからかもしれないが、とてもお姉さんらしかった。そしてバルバラのあの会話はなんだったんだ?
俺は答えを求めるようにセシルの方を向いたが、セシルは嬉しそうに笑うだけで何も教えてくれなかった。
『アグニ!久しぶりだな!』
「あら、バルバラ行っちゃったわ。久しぶりねアグニ。それと、セシル・ハーロー様。」
今度はリカルドとデボラが来た。デボラはあまりセシルと面識がないようで騎士の礼を行なっている。
「姿勢を解いてくださいませ。……デボラさん、でしたよね?…ご機嫌よう」
セシルがデボラに声をかけるとデボラは再度カーテシーをした。
「ありがとうございます。覚えてくださって光栄に存じます。」
『ふむ。セシル殿も息災で何よりだ。今年の交流会はどうだった?』
リカルドの言葉でこの3週間を振り返るが…うん。大変だったよな。第2の時は常に喧嘩腰だったし、第3の時は……
「学びも多く、大変充実した交流会でした。」
黙ってしまった俺の代わりにセシルが答えてくれた。俺も急いで首を縦に振り同意を示す。俺の様子にリカルドは多少不思議そうな顔をしていたが特に追及することなく話を続けた。
『アグニにはたくさん手間を取らせたからな。改めて礼を言う。』
『アグニはどんなことをしたんだい?』
「おぉ!シド!!」
横から声をかけてきたのはシドだった。シドの後ろにオズムンドもいる。セシルとデボラとリカルドはすぐさま礼を取り、俺もワンテンポ遅れて頭を下げた。
『姿勢を戻してくれ。アグニ、今までそんな態度を取ってなかったじゃないか。どうしたんだ?』
「礼法の授業で習ったんだよ。」
『なんだか寂しい気もするが……』
「なんならまた履修し直した方が良さそうですね。」
シドの後ろでボソッとオズムンドの声がした。最初に俺がシドの名前を呼んでしまったことが気にいらなかったらしい。
第2学院でオズムンドとは真剣勝負をして、完璧に打ち負かした。そのおかげなのか、前よりは言葉に棘がなくなっている。
『オズムンド、シド様に第2学院でのことを報告していないのか?』
リカルドの質問にオズムンドは気まずそうな顔をした。
『何も聞いてないんだ。リカルド、後日君から話を聞かせてくれ。』
『かしこまりました。』
「え!?私が報告します!!」
オズムンドが食い気味にシドに言い寄るがすぐにリカルドが反論した。
『お前はシド様にアグニの活躍をお話するのが嫌なだけだろ?そんな下らん私情で報告を怠るようなことをするな。』
「違います…報告する内容を精査してただけで…別に」
『リカルド、頼むぞ。』
オズムンドの様子にため息を吐いたシドは申し訳なさそうに俺を見た。
『アグニも、オズムンドが苦労をかけただろう。申し訳ない。』
「なっ!!!シド様が謝るようなことなんて」
「いやぁまじそれな。苦労しっぱなしだったよ。もっと厳しく言わないとオズムンドには伝わらないぞ?」
「貴様がシド様に命令するな!!!」
「してねぇよ。」
『オズムンド、もう向こうに行ってなさい。………まだ少し幼いところがあるんだ。許してやってくれ。』
なんだかんだでシドは人に甘い。それは良い点でもあるけど、言い換えれば強く出れないって欠点にもなる。なんとか自分でそこの線引きを見つけていってほしい。
『シド様、お久しぶりです。』
『おぉ!シャルル!アルベルトも!2人とも息災か?』
次に来たのはシャルルとアルベルトだった。シドもシャルルもアルベルトも、学院交流会には参加していないので会うのはたぶん前のパーティー以来なのだろう。
一通りまた挨拶が終わると、リカルドが今年の交流会のことを説明し始めた。
隣にいるセシルはすでに少し眠そうだし、デボラは全身カッチカチで直立不動で立っている。デボラの様子に気づいたリカルドがまだ挨拶回りがあると言ってデボラとその場を離れた。
「あっ……」
セシルが右の方を向いて小さく声を漏らした。その方向を確認するとイサックがこちらを見ていた。たぶんセシルと話したいのだろう。
「セシル、イサックのところ行ってきていいよ?」
「………うん、じゃあ…行ってくる。」
「うん、行ってらっしゃい。イサックと離れないようにね!」
「うん……!」
セシルがイサックに話しかけるのを確認して安心していると、アルベルトが肩を震わせていた。
「アグニ、お前まるでセシル殿の実の父のような振る舞いだぞ?」
『ああ。そんなに心配しなくとも大丈夫だろ。セシル殿だって護りの芸石を付けているだろうし。』
シャルルもそう言うが心配なものは心配なんだ。それにハーロー男爵からも離れるなときつく言われているしな。
「シド様、大公閣下がお呼びです。」
一旦離れていたオズムンドが再びシドを呼びに戻ってきた。シドは一度頷くと俺らに向き直った。
『では、そろそろ失礼する。もう社交シーズンに入るからすぐにまた会うだろうがな。』
「ええ。」
『また、パーティーで。』
「またなシド!」
シドとオズムンドがいなくなるのを見ていたら、コルネリウスとカールの姿が見えた。たぶんこっちに来ている。
「おーい!コル!カール!」
俺が2人を呼ぶと、2人はすぐにこちらにやってきてシャルルとアルベルトに綺麗に礼を取った。
『2人とも構わないよ、楽に話してくれ。……アグニ、俺はいいが他の天使の血筋と一緒にいる時に別の人間に話しかけてはだめだぞ?』
「え?まじ?」
俺がコルネリウスとカールの方を見ると2人はちょっと怒ってそうな笑顔を見せた。
『アグニ、天使の血筋が御前におられるのに、会話を中断したらダメに決まってるだろう?』
「ましてやアルベルト様も一緒じゃないか。お2方が寛大でよかったな。」
会話は天使の血筋に主導権を持たせなければならない。なので俺が他の人を呼び止めたり、天使の血筋を放置するのはまずいらしい。
「あ~なるほど……おう、わかった!次は気を付けるわ。」
「まぁアグニにそういうところがあるからこちらも変に気負わずにいられるんだけどね~」
『ああ。俺もそこはアグニの長所だとは思うが、他の人には気を付けといたほうがいい。』
アルベルトとシャルルが俺を慰めるように肩にポンと手を置いた。
言うまでもなく、この中で最高位なのはシャルルで、次位がアルベルトだ。2人とも王子という役職を背負っているがゆえに親しい友達はできにくい。俺に身分も何もないからこそ、2人は親しみを持って一緒にいてくれるのだろう。
『それにしても…カールは少し大人っぽくなったか?』
「そうだねぇ。なんだろうな、貴族らしくなったというか…大きくなったというか…」
シャルルとアルベルトがカールを不思議そうに見ている。
茶色の髪に茶色の瞳、顔は整っており好青年であることはすぐにわかる。貴族として鍛えられた立ち振る舞いや表情はもちろん美しいが、同時に「力強さ」も出てきたように見える。
2人の会話を聞いて、カールはちらりと俺を見たがすぐに明るい笑顔をみせた。
「身長が伸びたのでそのせいかもしれませんね。」
『ほぉ、そうか……』
「ふーん……?」
シャルルとアルベルトが少し探りを入れるようにカールを見ていたが、カールに答える気がないとわかるとすぐに聞くのを諦めた。
『ん?あれは……シルヴィア殿とお父上か?』
シャルルの目線の方を見るとシルヴィアとシルヴィアにとても雰囲気の似た男性が別の人と喋っていた。
『……すごいな。交流会前のパーティーにもいらしていたのに、今回もいらっしゃったのだな。』
「だな。俺らの親は遠いからって来ないもんな。」
シャルルの言葉にアルベルトが同意する。2人の両親、つまり国王夫妻は各々の国にいる。帝都から馬車で3週間近くかかるので来ないらしい。
俺たちの目線に気づいたのか、シルヴィアがこちらを向き、俺と目があってしまった。シルヴィアは一言自分の父に声をかけるとすぐこちらに向かって歩いてきた。
「アグニ、礼を…」
「お、おう。」
俺とアルベルト、コルネリウス、カールは礼をした状態のまま待機だ。シャルルのみ顔をあげている。
『皆さん、ごきげんよう。顔を上げてください。』
『シルヴィア殿、総長の務めご苦労だった。今年は例年以上に大変だったらしいな?』
シャルルは去年の総長なので大変さがわかるのだろう。結構影で色々やらなきゃいけないことがあるらしい。
シルヴィアは少し言葉に詰まったようだったがすぐに首を横に振った。
『…いいえ。学びある大変有意義な交流会でした。皆さん、アグニさんを連れていってもよろしいでしょうか?』
「え、俺?」
シルヴィアの指名に、何か用があったっけと考えるが特に何も浮かばない。
『私の父とまだ話したことはありませんよね?』
「え、うん。………え???」
シルヴィアの言葉に俺を含めここにいる全員が驚いた顔をした。
「え、どうして御父上に紹介を???」
アルベルトの質問の答えを聞き漏らさないように皆が静かにシルヴィアを見る。
『……同級生ですし、その…友達……ですと紹介を、と、思いまして…』
シルヴィアがぎこちなく言葉を繋いでいるが、こちらからしたら大ピンチだ。今まで天使の血筋と会う時はシリウスか公爵が一緒にいた。一人で天使の血筋に挨拶をするのが実はこれが初めてなのだ。そしてまだ俺は礼儀作法に自信がない。
「……なぁ、それって今度じゃ…っいって!!!!!なんだよ?!」
挨拶は次の機会に回してもらえないかと提案しようとしたらカールに後ろからどつかれた。後ろを見るとカールはシリウスみたいな笑顔で俺に圧をかけてきた。
「バカか?今すぐ行ってこい。」
「そんな……ひどい…!!」
『お~お~こんなことになってたとはなぁ…』
「うん。びっくりだな。」
シャルルとアルベルトが後ろを向いてこそこそ喋っているが、俺は耳がいいんだ。話聞こえてるぞ。
『アグニさん、私も一緒にいますし父は優しい人です。怖がらずに、ありのままのアグニさんを紹介させてください。』
シルヴィアは俺のことを安心させようと笑顔を見せた。残念だがもう行くしか道はなさそうだ。
やっと前を向いたシャルルとアルベルトは再び後ろを向いて『笑顔?!』「エガオ?!!!」と小声で叫んでいる。
は~……
礼法の先生に会いたいな……
てか先生と一緒に挨拶したいな…
もう一回おさらいしてから会いたかったが、もう遅い。
俺は覚悟を決め、シルヴィアの後についていった。