15 氷の魅了・その少女
同い年くらいの女の子が小さく座って怯えた顔でこちらを見ていた。
え、俺が怖いん?
そう思って、自分的に最大級の笑顔で話しかける。
「あ、大丈夫。ごめん、なんの音かな~って思っただけだから」
「ひぃぃぃぃ!!!!!」
その少女がものすごい悲鳴をあげた。
え、俺別にコワクナイ・・・
俺も俺でその子の振る舞いに戸惑っていると、隣にシリウスが並んできて話しかけはじめた。
『ねえ、お嬢さん。どうしてここに来たの?』
その子は急に聞こえた別の声に驚き、シリウスの方を見た。
そしてシリウスを見た途端、その子は零れ落ちそうなくらい大きく目を開き息を詰めた。
シリウスの方がビビられてるのウケる。
けどそれよりも……先ほどのシリウスの問いかけは、この女の子は意図的にここに来たということか?
つまり、自殺希望者。
「あの、君、、、名前は?」
「あ……ヨハンネ…です……」
「そう、ヨハンネ。なぁ、なんでこの町にきた?知らずに来たのか?それとも知ってて…きたのか?」
俺がそう聞くとヨハンネは明らかに動揺を見せた。
そうか……わざわざ、来たのか。
「…どうして…きたんだ?」
俺がゆっくり静かに聞くと、下を向いていたヨハンネは、力強い瞳で俺と視線を合わして言った。
「死んじゃいけないんですか?」
「…え?なんだって?」
「私が死ぬのは自由でしょう?死のうとしちゃいけないんですか?」
ヨハンネの言いたいことがわからない。
どうして死にたいんだ?
『ねぇねぇ、ちなみになんで死にたいの〜?』
シリウスがいつものように話しかける。
ヨハンネはまたシリウスを見て驚いた顔をしたが、目を逸らして話し始めた。
「この町に住めなくなって…両親と妹と4人で別の村に移り住んだんです。けど……その村の人は…急に来た別の町の人間になんて、優しくしてくれなかった。」
ヨハンネは立ち上がって街の広場の噴水の方へ歩き始めた。
「こんな寒さの厳しい地域で…食事なんてまともにない。しかも新しい村で、どんなに土が良くても一から農業を始めて成果が出るのなんて何年もかかる。なのに村の人らは…助けてくれなかった!!!もう無理だってなって…だから…私はここに来て、何か売れる物や残ってる食料がないかを見に来たの…」
『ああ…なるほどね。そして君は、元の町がこんな風に変わってたことを知ったんだね』
シリウスがそう言うとヨハンネは頷いて白い人間らを見ながら話し始めた。
「そうです。ここにいる……この白く凍った人たちも見たわ。…恐ろしかった。……けど、美しかった。」
ヨハンネは羨ましそうに噴水の中にいる白い人を見つめている。
「こんな風に美しく…この世界で死ねるならこれ以上に自分の死を誇れることはないだろうって思ったの」
すると、ヨハンネは声を振るわせはじめた。
「そう思ったけど、村に帰ったのよ。私にはみんなが…家族がいる。そう思って帰ったのよ!たった3日よ!!村を出ていたのは!!!」
「……帰ったら、3人とも……死んでた」
そうか。
もう彼女には帰りたくなる人がいないのか…
するとシリウスが楽しそうな声で笑いながら言った。
『すごいねぇ!君1人で村から出たの?あぁ!この町にいる芸獣のお陰でこの辺には芸獣が出ないのか!途中で死ななくてよかったじゃないか!ははっ』
そう言うシリウスに対し、ヨハンネはひどく傷ついた顔をして言った。
「……別に……死んでもよかったわよ!!!なんなの?!そういうことじゃないでしょう?!!」
『え?だって君はこの町で死にたいんだろ?芸獣に殺されるんじゃなくて』
「もう別にいい!!死にたいの!!死ぬのは自由でしょう!?もう邪魔しないでよ!!」
ヨハンネが悲鳴のような声で主張した。
それを聞いたシリウスは笑顔はそのままに、けれど消え入りそうな声で言った。
-いいなぁ 君は、もう死ねるんだね-
「…なに?聞こえなかったわ。……なによ。もういいでしょ…消えて。この町から出てって」
『あれ、僕は一度も死ぬことを止めてないよ。別に死にたきゃ死ねばいい。それは自由だ。けれど…こちらには目的がある。それはここの芸獣を倒すことだ。君の死が自由なように、こちらの行動も自由だろ?』
ヨハンネが眉間に皺をよせ、泣きそう顔をする。
俺はどうやってヨハンネを説得するかを考えていたが
ーーー大きな芸素の波が来た
次の瞬間、町が揺れる。
「なんだ?!もしかして芸獣がきちゃっのか?!」
「!! きゃあぁぁぁぁ!!!!!」
「ヨハンネ!!!」
くそ!噴水の影で見えなかった!
奥の道から現れたのは、
純白の色をした2つ頭のあるヘビの芸獣
片方の頭は噴水の氷ごとヨハンネを口に咥えた。
そしてもう片方は俺とシリウスを威嚇していた。
この子は逃げたい現実があったからこそ、より一層エッセン町に魅了されてしまったんでしょうね