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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第4章 学院間交流と社交
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133 第3学院:波乱の予感

さぁ、第3学院の登場です!


青香(あおかお)る2週間ももうすぐ終わる。夏は直前だ。

今週は第3学院の生徒が第1学院へとやってくる。1の日に一緒に昼食を食べてから学院間交流がスタートする。


なので今日は昼までに食堂に集合すればいいはずだった。


『あ、アグニ!おはよう!』


「よ!コル!おはよう!」


寮から出たところでたまたまコルネリウスと出会った。俺の寮の前の道が校舎まで続く道なので、コルネリウスも今から食堂へ向かうつもりなのだろう。俺もそのつもりで寮を出たので、そのまま一緒に歩いていくことにした。


『僕の寮に誰も人がいなかったからてっきり遅刻したかと思って焦ってたんだ。アグニがいてよかった~!』


「え?別に遅刻じゃないよな??けど確かに、俺の寮にも誰もいなかったな……」


『ね、何か準備あったっけ?はぁ…よかった。寝過ごしたかと思った……』


「え?今まで寝てたの?」


『うん、さっき起きた。僕やっぱ起こされないと寝続けちゃうんだよね……』


コルネリウスが頭を掻いて恥ずかしそうに言ったが、貴族の子女にはよくあることなのだ。基本、邸宅の中では侍従や侍女に起こしてもらうため、寮で誰も起こしてくれないと寝続けてしまうのだ。


けど俺はそれよりも、昼近くまで寝続けられるほうに感心してしまう。今日俺は陽が昇る前にはもう起きていた。いったいどうやったらそんなに寝れるんだろう。


そんな風にくだらない会話をしつつ食堂に入ると、


   モワアァ・・・・・


「うっ!!くっさ!!!なんだこりゃ!!」


『うっ……香水だ。髪や肌に塗る油と、服に炊きつける香も……色々混ざりあってひどいことになってる…!』


まだ食堂には2年生の男子と3年生の一部男子しかいなかった。交流会参加人数の半数以下しかいないのにこんなに匂うのは異常だ。


「お、やっときたか2人!」


遠くの方でパシフィオが手を振っている。


「え……お前どうした?」


「え?なにが?」


「髪の毛、ギッタギタじゃねぇかよ。」


パシフィオの栗色の髪の毛がビッカビカに光っていた。


『パシフィオ……油をつけすぎだよ。なんなら少し不潔にみえるよ?』


「へ?!!!」


コルネリウスの言葉にパシフィオはショックを受けた様子だ。けどよくみると……周りの男子全員、いつもより油の量が多かったり、髪の毛を遊ばせていたり、いつもは閉じている第1ボタンを空けていたり、めっちゃ香水臭かったりする。


「え?みんなどうしたんだ?気合の入り方が半端ないぞ?」


「バカかお前は!」


俺の疑問にカールがすぐ反論した。カールからも香水の匂いがしている。


「アグニ、今日この学院に来るのは誰だ?!」


「え?第3学院だろ?」


「そうだ!女子生徒のみの華の第3学院!それに彼女らは侍女や側付き、()()()()の子が多い!」


「おう、前に聞いたことあるぞ。」


「はぁ?!!なんでここまで言ってわからないんだよ!!!!」


「ええ???」


男子勢の情緒が不安定だ。今までまともだと思っていたカールすら壊れている。けれどコルネリウスが何かを理解したようで、ポンっと手を打って言った。


『だからみんな、こんな早くから集まってたのか。……じゃあ僕、もう少し寝ててもよかったんだね。もっとゆっくり支度したかったな‥‥』


「なぁコル、どういうことだよ?」


『みんな、女の子にモテたいってこと。』


「………へへぇ~。」


「『「『 なんだその態度は?!! 」』」』


男子陣、圧が強い。「モテたい」か。生まれてからこの60数年、持ったことのない感情だ。そうか、モテたほうがいいのか。


「ん?コルは?モテたくないのか?」


こんだけ皆がモテたがってるなら、コルネリウスの態度の方が変なはずだ。率直に疑問をぶつけると、コルネリウスは申し訳なさそうに微笑んだ。


『僕は……ん~別にモテたいとかはないかな』


「コルネリウスリシュアール!!それはお前がモテるからだからな?!!!」


「そうだそうだ!そんな金色の頭しやがって!!」


「こいつが全員取ってくんだ!!!だから今日コルネリウスには声をかけなかったのに!!」


貴公子然とした態度と笑顔、天使の血筋のような金色の髪と青空のように美しい青の瞳、性格も良く、リシュアール伯爵家の三男、文武両道。たしかにコルネリウスはモテそうだ。


『え、そんなことないよ。僕そんなダンスしないし、話しかけられることも少ないよ?』


「それはお前が伯爵家の人間だから声かけられないだけだからな?!」


「1回のパーティーでお前の前で転んだり物を落とす女性は何人いるんだ?!ああん?!!!」


「アグニ!こいつの嘘を信じちゃだめだぞ!!」


「なぁ、それよりもなんでみんな俺には声かけてくれなかったんだよ??」


「「「「「 寮にいなかったから。 」」」」」


…そっか。俺は朝からずっと小屋で鍛冶をしていた。自分のせいかいっ!


『けどみんな、さすがにこんな匂いが強いと女性は嫌がるんじゃないかな?それに「無理してる感」が否めないよ…。とりあえず食堂を換気をして、髪の毛は元に戻そう。僕も芸で協力するからさ。』


コルネリウスの意見で結局みんな服を変え、髪を通常通りに戻した(水や風の芸で急いで頭を洗って乾かしたのだ)。急に何かを始めると、大体の場合は上手くいかない。その具体例を間近に見たようだった。






・・・・・・








お昼の時間になり、第3学院の生徒がやってきた。


  ふわぁっ・・・


第3学院の生徒の入場とともに花のような良い香りが広がった。全員が同じ香水をつけているのかと思えるほど雑味が無い。そして一瞬で香りの姿が消えてしまうくらいの濃さで、食事場所の邪魔にならないようにしている。


「ふぁー!!いい香りだ!」


「おおお!ここは花畑か?!」


さっき盛大にミスってた奴らが口々に褒め始めた。こういうことだよ男子!!というか、第3の女子たち強ぇ!


以前のパーティーで見た通り、制服は赤色がベースだ。赤と緑、赤と茶、赤と濃赤、赤と黒など、それぞれが自分が似合うと思う色を合わせている。

第1学院ではネクタイやリボンを付けているが、第3学院ではジャボといわれるレースの首飾りを付けている生徒が多かった。



第2学院の時と同様に、まず互いの学院の総長が挨拶を行う。シルヴィアが先に挨拶をして、その後第3学院の総長が前に出た。


この前のパーティーで俺は一度挨拶をしている。


「第3学院総長、アイシャ・ブリッジと申します。この良き日に学院の交流が叶いますこと、誠に光栄に存じます。どうぞ皆さま、よろしくお願いしますね。」


アイシャは綺麗なカーテシーをしたあと、その青い瞳でにこっと笑った。金に近い茶髪をハーフアップにした姿も美しい。自分の見せ方をとてもよくわかっている。


「綺麗だ……!」


「アイシャさん………!!」


『ブリッジ子爵の娘か?…良いじゃないか!!』


「これは……戦争が始まるぞ!」


みんなもうアイシャさんに射抜かれている。この調子で一週間やっていけるのか心配だ。


昼食会が始まると女子生徒の声が通常の倍聞こえた。俺はその時やっと、本当に第3学院の生徒が来たことを認識できた。


……そんでちょっとドキドキした。









・・・・・・









初日の午後は授業がない。その代わりに学院にある最も大きい談話室でお話し合いだ。各自交流を深めようというものではあるが……ほとんどの男子は()()()状態だ。女子生徒を遠巻きに見てチャンスを伺いながら茶を飲んでるだけだ。


けれど……俺は違ったのだ!!!!


「アグニさん、お久しぶりでございます。アイシャです。私のこと、覚えていらっしゃいますか?」


なんとなんと!!アイシャさんが話しかけてくれたのだ!

まぁたぶん、俺がバルバラと喋ってたからこっちに来てくれたんだろうけど。

…まぁたぶんバルバラを紹介してほしくて俺に声をかけたんだろうけどっ!!


「はい、アイシャさん。お久しぶりですね。総長、大変そうですが頑張ってください。」


「まぁ、ありがとうございます!精一杯努めますね。……そしてこちらは…?」


「あ、紹介します。バルバラ・クレルモンです。」


俺は隣のバルバラを紹介した。するとすぐにバルバラがカーテシーをして挨拶を始めた。


「第1学院第2学年、バルバラ・クレルモンでございます。」


「アイシャ・ブリッジでございます。どうぞよろしくお願いします。……お2人はどのような研究会に所属していらっしゃるのですか?」



「俺は武芸、技術発展、文学の3つです。」


「私は女子文学研究会ですわ。」


「お2人とも文学研究会ですのね!私も第3学院にて同様の研究会に所属しておりますの。」


アイシャの言葉でバルバラが一気に前のめりになった。


「まぁっ!アイシャ様はどのような本をお読みになりますの?」


「騎士英雄譚が好きですわ。もちろん恋物語も。」


「私もですわ!最近騎士同士の恋を…っあ。」


バルバラがミスったっというような顔で俺のことを見てきた。しかし残念ながらバルバラがどこをミスったのかわからない。好きな本の内容とかをあまり人前で喋ってはいけないのだろうか?


しかしアイシャはにっこりと笑顔を深めてバルバラに言った。


「よろしければ放課後、研究会にお邪魔してもよろしいかしら?バルバラさんとは気が合いそうですの。」


「っ!!!…えぇ!是非!!」


どうやらバルバラとアイシャは仲良くなれるらしい。

まぁ、よかったよかった!


 ドワアッ ハハハ・・!!


遠くからたくさんの笑い声が聞こえた。


「………あちら、賑やかですわねぇ。」


「えぇ、ほんとうに。」


バラバラとアイシャが『うるさい』という意味でそちらを確認した。俺もその方向を見てみると、エベル王子らと2人の第3学院の生徒が騒いでいた。


「あれは…。アイシャ様、あの場にいる第1学院の生徒はブガラン公国のエベル王子と()()の方々ですわ。」


「あの場にいる我が校の生徒は2年生のカミーユとドロシアですわね。2人とも帝都に住む商家の娘です。苗字はございません。」


バルバラとアイシャがすぐに情報を共有した。たぶん両学院の『要注意人物』がドッキングしたんだろう。


パリィンっ!!!


騒いでる所の机から茶器が落ちて割れた。ふざけあっている途中で机を揺らしたっぽい。この音でほとんどの生徒がエベル王子らを見たが、当人らは構わず大声で喋り続けていた。


「………バルバラさん、お話できて光栄でしたわ。それではまたあとで。」


「えぇ!こちらも光栄にございます。では後ほど。」


「はい。アグニさんも、また。」


「あ、はい!」


アイシャが俺とバルバラに挨拶をしてから騒いでいる卓の方へと向かっていった。そしてエベルの前で綺麗なカーテシーをしたまま停止した。エベルの方が身分が高いのでアイシャからは声をかけられないのだ。


アイシャの様子に気づいたエベルが鼻をフガフガさせながら興奮気味に言った。


「おぉ?!お前は第3学院の総長だな?顔を上げてよい。挨拶を許す!」


エベルの言葉に表情一つ変えず、アイシャは美しい笑顔のまま挨拶を始めた。


「寛大なお心遣い、痛み入ります。ブリッジ子爵が次女、アイシャでございます。ブガラン公国の更なる発展と栄光を・・・。」


「あれぇ?ブリッジさんじゃないですかぁー。どうしたんですかぁー?」


エベルの隣に座っていた女子生徒…赤茶のショートヘアに茶色の瞳の少女がアイシャの挨拶の途中に割って入った。アイシャはにこっと笑った後、その女子生徒の方を向いた。


「カミーユさん、この学院の方々と随分と打ち解けられたようですね。楽しそうな声が遠くの方からも聞こえましたわ。けれど淑女としての振る舞いを忘れずにね」



   おおう……。アイシャさんすげぇ。



アイシャは今、「お前らうるせぇよ。振る舞いに気を付けろ。」と言ったわけだ。エベル王子は何を言われたのかわかっていないようで、うんうんと頷いている。しかしカミーユには言われたことの意味がわかったらしい。嫌そうな顔をしながらエベルの腕に自身の腕を通した。


「お~こっわ!ねぇエベル王子?子爵と王子ってどっちのが偉いんですかぁ?」


「もちろん私の方が偉いに決まっているだろう?私は公爵家の家格だぞ?」


「ですよねぇ?なら私はエベル王子に従わなきゃっ!」


「あはははは!良い良い!!」


カミーユの胸がエベルの腕に当たっている。そしてエベルが明らかに鼻の下を長くしている。こんなわかりやすい画はなかなか見れるものではない。

そしてカミーユは今アイシャに「お前の言うことには従わん。」と言ったわけだ。アイシャの笑顔が深まった。なんだか笑い方が少しシリウスに似ている。


『公爵家の者しか口を出すことができないのですね?』


「私に意見する者などここには………っ!!!シルヴィア…様!!」


エベルの背後からシルヴィアが声をかけた。


『エベル王子、学院は身分を問わず同世代の学生達が共に学び、交流を深められる場です。そして、ここは学院です。学友の意見に耳を傾けてみてはいかがでしょうか?』


「っ!………は、はい。」


「えー?じゃあ私も天使の血筋サマに意見ができるってことですかぁー?」



   えっ…………まじ?!



カミーユが、シルヴィアに意見した。


俺やエベル含め、周りの生徒はみな驚愕している。まさか天使の血筋に食ってかかる人がいるとは思わなかった。けれどたしかに、今シルヴィアが言ったことを通すならカミーユの意見は間違っていない。


シルヴィアはカミーユを一瞥してからゆっくり頷いた。


『えぇ、もちろんです。ここは学院ですから。』


「へーそうなんですねー」


カミーユはエベルの顔を一度伺った後、立ち上がってシルヴィアに片手を差し出した。


「んじゃあ、シルヴィアさん。これからよろしくー」


シルヴィアはカミーユが差し出した手を取った。


『えぇ、どうぞよろしくお願いします。』



   ま、まじか………カミーユすげぇな!!



初日はこうして幕を下ろした。

第2との交流会の時よりも、断然波乱の予感がした。




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