14 氷の町・エッセン町
ディヴァテロス帝国 南部に位置するシリアドネ公国
そのシリアドネ公国のさらに南部の高地にある エッセン町
別名 氷の町
数年前、エッセン町の東側に討伐不可能な芸獣が棲みついたことがきっかけでその町は凍ってしまった。
芸獣がその町を縄張りにしたため、そこに住む人は度々襲われるようになり、ついに町は氷の中に沈んでいった。
「え?じゃあ今その町の人はみんなどこにいるの?」
『近くの別の町や村に移り住んだようだよ。もう作物も育たないし一年中寒いわけだから住めないよね~』
サントニ町からエッセン町までは意外にも遠い。俺にとっては今までで一番の遠出になる。
野宿には慣れてきたが、やはり道中に点在する村や町を通り、人を見るとテンションが上がってしまう。
当たり前だが人それぞれに生活がある。
それが旅をすることでようやく「当たり前」だと認識できたのだ。
しかもこれから行くのは「氷の町」!!
もうテンションしか上がらない。
けれど、エッセン町の近くまで行くと否が応でも理解できた。ここにはその「当たり前」が無いのだと。
――――――
エッセン町の近くから急に芸素を感じるようになった。
なのにとても静かで、俺ら2人の足音しか聞こえない。
しばらく進むと、道の上に白い膜が張っていた。
「なんだこれ?」
俺が問いかけた直後、シリウスがその上を踏んだ。
すると、パキっと言う音とともに道にヒビが入った。
『ああ、氷だね』
「氷?道に…?あれ?…木も、凍ってる…」
前に続く山道の両端に生えている木はどれも白色をしていた。そういう木の色なのかと思ったがどうやら違うっぽい。俺が木に近づき見ているとシリウスが慎重な声で言った。
『アグニ、ここからが芸獣の縄張りだ。ここで芸獣に見つかると大変だから、芸素を使わないようにしてね』
自分以外の芸素を縄張りで感じることで攻撃してくるのだろう。
「おう、わかった」
そう言って、再び山道に進んでいった。
そして暫くして……『当たり前』がない町に着いた。
――――――
街の中には「当たり前」のように人々の生活がある。
つまり 当たり前とは日常だ。
ならば日常の反対の、非日常
この目の前に広がる非日常のような空間
この異常さは、なんと表現すればいいのだろう
『さあ、ようこそ。エッセン町へ』
シリウスがわざとらしく両手を広げて美しく笑う。
かつて人が住んでいたであろう家は屋根も扉も窓も全てが白色で、家の前に生える木々や花も形はそのまま、穢れの無い真っ白に輝いている。
街を繋ぐ白い道には氷の華が咲き乱れ、全てが白く美しい。まるでこの世界は…
『アグニ、奥に進むよ』
「あ、ああ。」
シリウスに話しかけられ我に返る。
…危ない危ない。しっかりしなきゃ。
静寂の中、街の奥に足を進めていると、
「え…?…!!!!シリウス!!!」
『ああ。さっきの君と同じように、この世界に居続けたいと思ってしまった者たちだ』
そこには、白色のかつては人だった者たちがいた。
街の広場に、一人が噴水の中、一人が木の下、一人が椅子に座っていて、一人が・・・
「…彼らは、どうしてここにいるんだ?」
『いったでしょ?この町の風景を忘れられなかったんだよ。この白い世界に魅了されて、自分自身もこの世界の一部になりたいと思ってしまったんだろう』
「けど!思うだけで…こんな死に方はしないだろう…」
『これが、ここの芸獣の方法さ。いつまでもこの町から出ない人間をこうして集めてしまうんだ』
そう言ってシリウスは、椅子に座る白い女性と同じテーブルの別の席に座る。
けれど白金色の髪と金色の瞳の青年は、この非日常の世界に在っても違和感がなかった。
ジャリ…
「!!…なんだ!?」
何かの音がした。辺りを見渡すが誰もいない。芸獣の気配もない。
静かに耳を澄ませる・・・
「! あそこだ!!」
もう一度聞こえた音を頼りに勢いよく走っていく。
すると、そこには俺と年齢の変わらないくらいの女の子が息をひそめて座っていた。
心の中と、目前に広がる世界の描写が織り交ぜになっています。
皆さまにはこの世界がどう映りますか?