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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第3章 第一学院
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114 双子の成長確認




朝日が今日の始まりを告げ終わり、陽の光が世界へ拡がった頃、俺らは訓練場へと戻った。



「レベッカありがとな。お前も!ありがとな!!」


俺がレベッカとレベッカの芸獣…プラムに礼を言うと、レベッカはにっこりと可愛い笑顔を見せた。プラムはもちろん無言だ。


そしてレベッカが爆弾発言をした。


『わたし、アグニと喧嘩したい!!』


「ぬ?!!喧嘩?!………試合のこと?」


俺が問い返すとレベッカは大きく頷いた。


『強くなったの見てほしい!!だからアグニ、わたしとレイと、試合して!』


急に喧嘩とか言いだしてびびったぜ。けど確かに、2人がどんだけ強くなったのかは見てみたいな。


「いいよ、試合しようぜ。ちなみに俺もちゃんと強くなってるからな!」


「僕も強くなったよ!」


『私も強くなったもん!!』


『ふむ。アグニが戦うところも観れるのか。ならば少し待ってくれ。着替えてくる。』


後ろにいたシャノン大公がそう言って再度ギャラの芸獣に乗った。ギャラは特に不審がる様子もなく、そのまま笑顔で大公に聞いた。


「直接王宮の自室に飛んで行ってもいいですか?」


『ああ。それで良い。3人とも、すぐ戻るから体を慣らして待っていてくれ!』


そう言い残して大公とギャラは再び飛んでいった。地上では置いてきぼりにされた護衛兵があわあわしている。大公はよくギャラに自分の移動を頼むらしい。確かに芸獣での移動の方が断然楽だし早い。やっとギャラが天使の血筋に慣れている理由がわかった。


『じゃあ3人とも、てきとーに準備体操でもしてなね』


シリウスはそう言うと、大公が付けていた護衛兵数名に喉が渇いたと駄々をこねていた。兵士たちは再びあわあわとしながらも急いで椅子や飲み物を準備し始めた。


まじでこいつの自由さはすげえ。





・・・





「では、レイ・レベッカ 対 アグニの試合を始めます!!」


「『「 よろしくお願いします!!! 」』」


レイとレベッカはそれぞれ芸獣に乗っている。武器はレイは槍で、レベッカは弓。それぞれ練習用の先が尖ってないものを使っている。俺はいつも使っているお手製の剣を鞘ごと使うことにした。



そして 双子の目が一気に変わった。



   …さすが戦闘民族だ。闘いへの慣れが違う

   闘いへの昂りと、仕留めるという覚悟。

   このレベルの殺気は第1学院にもいない。



双子は笑っていた。じーーーっと俺を見ながら、本気で仕留めるつもりで笑っている。



   俺も……見せつけなきゃな!!!



ぐんと芸素の放出量を増やす。まぁ軽い「威嚇」だ。しかし双子は俺の芸素を受けて、笑顔を深めた。


「はじめ!!!!!」


ヒュ~ロロロロ!!!!!


開始と同時にレベッカの芸獣プラムが美声を響かせ、レイの芸獣ダリアが俺の前に炎の壁を作り上げた。そしてその炎の壁に向かってレベッカが数発の矢を放つ。するとその矢は火矢に変わり、俺に向かって飛んできた。


「ギフト 水鏡 」


俺は敢えて炎の壁を壊さなかった。双子の次なる動きが見たかったから。するとほんの一瞬のうちにレイが単身で炎の壁を飛び越え、俺に飛び掛かるようにして降ってきた。


「おおお!!!!」


「はぁっ!!!」


芸獣の飛ぶスピードに加えてレイの身体能力が合わさったからこそ、こんなすぐに次の攻撃に移せたのだろう。俺じゃきゃこの一撃で試合は終わってたかもしれない。


そして、ここからはレイと直接対決だ。


槍を突くように何度も攻撃を繰り返すレイは、もう相当に実力者だ。俺よりも槍の扱いは長けている。とても相手にしにくい。


俺を挟んでレイの向かい側にはダリアがいる。ダリアからも火の球の攻撃が襲い掛かってきた。俺はその攻撃を避けようと上に大きく飛んだ。すると・・・


『やぁっ!!!!!』


「っ!!! 」


空中ではレベッカが待機している。俺とレイとの距離が取れたらレベッカに攻撃されるわけだ。剣でレベッカの矢を弾いた俺には次の攻撃に対応する余裕がなく、下で待ち構えているレイの槍に吸い込まれるように落ちていった。



   すげぇ……。

   ほんとすげぇよ、2人とも。

   本当に、本当に強くなったんだな……


   なら俺も 本気を返すよ



「ギフト 樹根凍伝(じゅこんとうでん) 」


バリバリバリバリリリリ!!!!!!


ビュービューロロロロロ!!!!!

キューキャウゥゥゥゥ!!!!!!!


『キャァァァァ!!!!』


「うっ!!!!!な、なに…?!!」


レイ、レベッカとプラム、そしてダリアが、それぞれ氷の彫刻のように動きを封じられた。それはまるで、巨大な根を張る氷のリノスペレンナのようにも見える。


樹根凍伝(じゅこんとうでん)……シリウスがトラの芸獣を退治する際に用いた解名だ。もう俺も、この解名ができるようになったんだ。


人よりも睡眠が短いため、休日も合わされば練習する時間はたくさんある。俺を常に負かし続けるシリウスに、いつかぎゃふんと言わせたい。言わせてやる。その思いはとても強い目標にもなる。


この場は、シリウスへのお披露目会でもある。

俺が成長していること、俺がお前に近づいていることを見せつける場なんだ。


俺が意図的にシリウスの方を見ると、嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。



「……どうだ?レイ。動けるか?」


俺がレイの槍のすぐ近くへと舞い降りて問うと、今までに見たことがないくらいに悔しそうな顔をしていた。



   …そうだ、レイ。それでいい。

   その悔しさは必ずバネになる。

   


『ふん!ふん!………動けない…!!!』


レベッカもこれまた悔しそうにもがいていた。


解名の威力は絶大だ。特にこの解名は動きを封じることに特化している。身体能力の高い2人でもそう簡単には破れない。


『……今の()で十分首を落とせるね。この勝負、アグニの勝ちだ。』


シリウスが宣言をした。


「……よし!ありがとうございました!待ってな、今溶かすから…」


『溶かさないで!!』


俺が2人に礼をいい、それぞれを氷の中から解放しようと思っていたらレベッカが俺に制止をかけた。俺は少し驚きながらも2人を交互に見ていると、シリウスが2人に優しく微笑んだ。


『わかった。自分たちで頑張ってみなさい。アグニ、向こうでお茶でも飲んでよう』


「お、おう………わかった……。」


俺はシリウスの後に続いてその場から少し離れた。2人は真剣な顔で色々もがいているようだった。






・・・





『お疲れ。すぐに出れたね。』


『…………うん。』


「…うん。」


双子は1分ほどで氷の樹から脱出した。まだ俺は紅茶を一口だけ口に入れただけで飲み切ってもない。もっと時間がかかると考えていた。やはり2人とも能力が上がっているのだろう。


「お疲れ様!2人とも本当に強くなってるな!まじでびっくりして「やられる!!」って思ってつい芸に頼っちゃったよ。ははっ。」


俺は2人を褒めるが……2人は嬉しそうな顔をしない。まだ悔しそうな様子だった。するとシリウスがゆっくりと丁寧に説明を始めた。


『まずレイ。随分と槍の扱いが上手になったね。凄く驚いたよ。自分の芸獣とアグニを挟み撃ちにする手もよかった。そしてレベッカ。君も上手く芸獣を操っていた。弓もきちんと狙ったところにいっていたし。』


『うん……』


「……うん。」


『今回、相手がアグニじゃければ2人は勝っていただろう。』


「『 …………。 』」


『じゃあ何が敗因か?』


『「 …………。 」』


『簡単さ。経験値と切り札不足だよ。』


2人ともシリウスの話をきちんと聞いている。じっと目を見て、教えを無駄にしないようにしている。俺はそんな2人の様子を見て、その成長にもう泣きそうだ。


『2人は芸獣とペアを組んでどれくらいになった?』


「………半年…くらい。」


『うん…。』


『まだまだだ。もっとよく君らの芸獣のことを知りなさい。芸獣の持つ特徴は、本来は武器になる部分のはずだ。炎を吹く以外にできることはない? もっと芸獣と打ち解けて、頑張ってみなさい。』


「うん……」


『わかった。』


返事をした2人に対しシリウスはニコリを笑ってから、双子の後ろにいる2匹の芸獣に向かった呟いた。


『プライドの高い芸獣は完全に打ち解けた人間にしか、自身の能力を示すことはない。君らがまだ人間を見下していることは……見ればわかるよ。』


2匹の芸獣はじっとシリウスを見ている。言葉はわからないはずなのに双子と同じようにしっかりとシリウスの言葉を聞いているように見えた。


『アグニ、君も頑張ってるね。見事な解名だったよ』


「まじ?!! よっしゃぁ!!!!」


『目下の課題は人に慣れることだね。あとやっぱり芸と比べると武術がどうしてもお粗末に見える。武芸が同じレベルになるよう励みなさい。』


「はい!!!!!」



   珍しい!!ホメラレタ!!!!

   うわ~今日は天気が荒れるかぁ?!

   ……ん?人に慣れることが課題?

   やっぱ俺の対応、変だったのかな?

   


俺が今言われたことを考えていると、2人がおずおずと俺に抱き着いてきた。


「お?どうした?」


『…戦ってくれてありがと。けど……』


「次は勝つからね。」


2対の黒の瞳には強い意思が見えた。



   あぁ…よかった。大丈夫だ。

   2人はまだまだ成長する。



「…そっか。けど俺は、次も負けないよ。」





・・・




俺らの様子をずっと黙って見ていた大公にその後昼食に誘われ、俺らは王宮の美しい庭園で昼食を取った。


そしてその後の数日間、街を見ては双子と練習をし、アルダの練習を見学しってことを繰り返して………もうそろそろ帝都に戻らなければならない。


「じゃあ2人とも、元気でな。大変だろうけど頑張れ。けどもし何かあったら、いつでも俺らのところに戻ってきていいからな。」


「うん!」


『アグニ!また戦ってね!』


「おう!もちろんだ!」


『レイ、レベッカ、また見に来るよ。頑張って。』


「うん!シリウスありがとう!ばいばい!」


『シリウスばいば~い!!』


俺らはアルダの訓練場を後にし、王宮にいるシャノン大公にも別れを言いに行った。


『おおそうか、また学院が始まるのか。ならばまずアグニは学業を大切にしろ。それと学院が一番良い人慣れの練習場でもあるからな。』


シャノン大公も人慣れが大事だという。俺ってそんなに無神経なことしてる?してないよな?なんでみんな同じ意見なんだよ?


『シリウス、リノスペレンナのこと、どうもありがとう。』


『ああ。』



あの時やはりシリウスは、リノスペレンナの中の芸素を動かていたらしい。そしてそれを定期的にやり芸素の流れをよくすることで、世界に2つとない大きさと寿命を持つ樹になったとのことらしい。リュウの扱いが長けているシリウスにしかできない芸当だ。まぁ俺もできるけどな。


「では、大公。失礼します!」


『あぁ。2人とも、道中気を付けて。』


「はい!!!!」




こうして俺らは帝都へと戻った。

来週は(らい)の月 9の週。


また、学院が始まる。














樹根凍伝、トラの芸獣と戦った際にシリウスが使った技ですね。「39 トラの芸獣」に記載されてます。アグニがこの解名で、シリウスと自分の力の差を大きく感じたシーンでもありました。

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