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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第3章 第一学院
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110 教えてくれる人



「ただいま~!!!!」


「おかえりなさい!」


『おかえり~!!』



勉強会を終え、家に帰るとシーラとシリウスが大きな声で返事を返してくれた。


「勉強会、どうだった?」


シーラが俺の隣に座って今日の事を聞いた。


「楽しかったよ!勉強もたぶんばっちり。その後みんなでレストランに行ったんだ。」


「あら、そうなの?なんて言う名前のところかしら?」


「あ、わかんない……。ヨード男爵のレストラン?」


遠くに座るシリウスがヒュウと軽く口笛を吹いた。


『最近できたやつかな。2番街のところでしょ?』


「そうそう!すげぇな、よく知ってるな!」


『まぁね〜!!!!!!!』


褒められたことが嬉しかったのか、シリウスはものすごいドヤ顔で笑っている。そんなシリウスに見向きもせず、シーラは俺に微笑んだ。


「どうだったの?美味しかった?」


「まじでほんとに美味しかったよ!それにレストランの中も綺麗でオシャレだったし。けど皆ところどころ残してたな……。」



   皆は美味しくなかったのかな?

   俺的には美味しかったけど……

   貴族出身だとやっぱ違うのかな?



俺の言葉を聞いてシーラは大きく頷いて説明した。


「アグニそれはね、どれが美味しくてどれを改善すべきかを伝えていたのよ。」


「………残すことで?」


「えぇ。美味しくてメニューを変えなくていいと思うものは全て食べる。改善すべきと思うものは残す。そのレストランは営業を始めたばかりなのでしょう?」


「え、うん……。」


遠くに座っていたシリウスがごろんとソファに横になって言った。


『貴族の御子息たちの意見が聞きたかったから、そのヨード男爵の子は皆んなを連れて行ったんだろうね。皆もそれをわかってたから意図的に残したんだろう。』


「そ、そうだったのか………」



   じゃあ俺も何か残した方がよかったかな?

   けどどれも美味しかったしな。残せない。

   というか………



「なんで皆、教えてくれないんだろう……」


俺は1の日のことも思い出した。たぶんシーラのことをエベル王子が何か言った日。あれも結局誰も何も教えてくれなかった。シリウスが俺の落ち込み様を気にせずに言った。


『皆、説明する必要もないほど当たり前だと思ってるからじゃない?』


「うるせぇな。んなことわかってるよ……。なんで俺はこんなに物事を知らないんだよってこと!!」


俺は少し苛立ちながらシリウスに怒鳴った。けど本当は自分の無知さに苛立っていた。それでやっぱり、俺はその苛立ちを人にぶつけてしまう程度には子どもだった。


けれどもシリウスは嫌な顔一つせず、なんともなさげに言ってのけた。


『そりゃあ知らない事なんだからわかんなくて当然でしょ。皆も最初は誰かに教えてもらってるって。』



   …………そっか。


   確かにそっか そうだよな?

   知らない事がわからないって…別に普通か!



シリウスがため息をつきながら小さい子を諭す様に言った。


『あのねぇ、君は学院という社会に入ってまだ1年にもなってないの。周りの子は10年目くらいなの!敵うわけないでしょ。君が彼らと同じレベルになるのがそんな簡単なわけないでしょ?だから別に、わかんなければわからないでいいんだよ』



   そっか 別にいいのか

   わからない事をわからないって言っていいのか



隣を見るとシーラが優しそうな顔で俺の頭に手を置いた。手のひらから温かさが伝わった。


「わからなかったらいくらでも聞きなさい。聞くのは恥ではないわ。いい?人が知らないことを馬鹿にする人間は決して成長しないわ。人から教えてもらうことを恥だと思う人に、未来はないわ。」


皆、今回のことは教えてくれなかった。けどその他のタイミングで俺が何かを質問した時、皆は決して俺を馬鹿にしたことはない。…やっぱ皆、凄く良い家で丁寧に学びを受けた一流の貴族の子女なんだな。


「あ、嘘。エベル王子以外は、だな。」


「エベル王子?ブガランのかしら?彼がどうしたの?」


俺の心の声が漏れていたらしい。隣に座るシーラが少し眉間に皺を寄せて俺に問うた。まずい。このまま1の日の事を話しちゃいそうだ。


「んえ?!!!いや、別になんでもないよ?!」


俺は大慌てで誤魔化した。けれど遠くの方でシリウスの口角が最大限に引き上がったのが見えた。


『なになになに?!何があったの?教えて教えて!!』



   こいつ…!!めちゃくちゃ楽しんでやがる!!



「いや、なんでもない!言っちゃだめなんだって!」


シリウスとシーラが楽しそうに顔を合わせた。そしてシーラは俺に向かって悲しげなため息を吐いて、困った様子で言った。


「実はね?私困っていることがあるの。」


「な、なに…?」


「ここ最近何十通もブガラン王からパーティ―の付き添いを申し込む手紙が届いてて、いい加減困ってるのよ。」


夏に『社交会』ってのがあるらしくて、それにブガラン国が主催するパーティーの付き添いをしてほしいと再三手紙が来ているらしい。


「シーラはなんで了承しないの?」


「私が付き添うってことは、つまり私が他のみんなにお薦めする人ってことなのよ。……あの男はお薦めできないわ。」


手紙の時点でもう上から目線らしい。それにあの国王の政策やらもよくないらしく、今あの国家の側にシーラが付くって思われる意思表示はよくないらしい。


「あぁ!だからエベル王子は『ブガラン公国の誘いを無下にするようなら容赦しないって伝えとけ』って言ってたのか!」


『なになになになに?!!そんなこと言われたの?!ねぇ他には他には?!』


シリウスが俺の真ん前まで来てキャッキャ笑いながら聞いてきた。


「だから言えないんだって!シャルルに言うなって言われたんだよ!」


『えーほんとにぃ?でもアグニは知りたいんだよね?アグニよく思い出して。シャルルになんて言われた?』


俺は数日前の会話の記憶を思い出しながら答えた。


「『今聞いた話を屋敷で絶対にするな。シーラの耳にこの話が入らないようにしろ』って言われた。」


俺の答えを聞いてシリウスがニヤァと笑ってシーラを見た。シーラが憎々しげにシリウスを睨み返してる。


『つまりシーラには絶対言えないけどぉ〜この屋敷から出て、僕に話すぶんにはいいってことだねぇ〜?』


「え、そうなのかな?」



   そういう解釈で合ってるのかな?

   けど屋敷でするなって言ってたし…そうなのか?



『じゃあアグニ、森の家に行こうよ。そこで僕にだけ何があったか教えてよ。』


「なによそれ!ずるいわよ!」


シーラが声を張り上げて抗議するが、もうこうなるとシリウスは止まらない。


『ずるくないも~ん!仕方ないんだよ~だ!ほらアグニ!ダッシュダッシュ!』


「うえぇえ?!!!」


「こら待ちなさい!シリウス!アグニ!!」


後ろからシーラの声がするがシリウスに腕を掴まれているので俺もそのまま走り続けるしかない。前で高笑いをして楽しそうな様子の自称最年長はどこまでも幼い性格だった。





・・・






『んでんで?なに?何があったの?エベル王子に何か言われたんでしょ?』


森の家まで結局走っていき(初めて人の家の上を飛び走って移動した)、森の中に置いてある木の椅子にそれぞれが腰掛けると早々にさっきの話を切り出された。俺はもう観念して素直にシリウスにあったことを伝えた。


俺の話を聞いたシリウスは爆笑しながら席を立ち、歩き始めた。


『なんだ~そういうことね!あはははは!!それ、別にシーラが聞いても大丈夫なやつだよ!』


「え、まじ?」


俺は遠慮がちにシリウスの後に続いていく。シリウスは笑いすぎて出た涙を吹きながら説明を続けた。


『シーラに直接聞いた方がアグニもわかりやすいでしょ?大丈夫。シーラは優しい子だよ。』


「う、うん……」


森の家に戻るとすでにシーラは待っていた。少し不貞腐れたような態度で腕を組んでいる。


「なぁに?もう男同士の話は終わったわけ?」


『あぁいや、君から説明するのがいいと思ってね、戻ってきたんだ。シーラ、ブガランの子が君のことを売女(ばいた)って言ったんだって。あと金で買えるのか…だっけ?』


シリウスが俺に確認する。俺は素直に頷いて答えた。


「うんそう。よくわかんなかったんだけど…誰も教えてくれなくて…」


俺の言葉を聞いて、シーラが含み笑いを見せた。


「なるほどね。ふふっ…アグニ説明するわ。まぁ簡単にいうとその子は私のことを侮辱したのよ。私が『踊り子』って自称しているから、そこを切り取ったのね。」


シーラに手招きされて森の家の前に広がる芝生に3人で腰を下ろした。


「どういうことだ?踊り子だと侮辱されるものなのか?って、え?あいつ天使の血筋のことを侮辱したのか??」


俺が驚いて声を張り上げるとシーラは優しく微笑みながら言った。


「踊り子っていうのはね、私が自称するまでは卑下される職種だったのよ。お金がなかったり、国に属していなかったり、決まった収入がなかったりするからね。あとは馬鹿でも踊れるとか、身体しか使えない女ってイメージが強かったのよ。」


「なのにどうしてシーラはその職種を名乗ったの?」


俺の答えに、彼女は本当に美しい笑顔で微笑んだ。


「格好良かったの。とても素敵だったの。私に踊りを教えた人が。」


「シーラに、踊りを教えた人?」


「えぇ。それとね、最底辺の扱いを受ける『踊り子』という職業を天使の血筋(わたし)が名乗れば…いえ、名乗るだけで、踊り子の扱いは世界中で変わるの。例外をたった1人作るだけで、踊り子は普通の職種と同等の扱いを受けるの。」



そうか


天使の血筋だからこそ、最底辺と言われる人たちの味方ができるんだ。


シーラは自分が天使の血筋であることをきちんと理解している。そして天使の血筋だからこそ成せることがあるって知っている。


もしかしたら、このシーラの姿こそが今の天使の血筋の真のあるべき姿なのかもしれないなと思った。






・・・・・・






「そういえば今週は2人、何してたの?」


あの後、3人で暫く話し込んで、夕方ごろにクルトが迎えにやってきた。けど、帰るのめんどくさいよねってことになって俺たちは結局森の家に泊まることにした。


クルトの隣で夕飯を作るのを手伝いながら2人に聞くと、すでにお酒を飲み始めたシリウスとシーラはソファで気持ちよさそうにしながら言った。


『シーラと妖精の森に行って竜ちゃんの様子見てきたよ!』


「えっ……と?」


俺は急いでクルトの様子を伺った。けれどクルトは驚く様子もなく淡々と作業をしている。すでに妖精の森の中に竜がいることは知っていたようだ。


「竜ちゃん元気だった?」


「えぇ。生きてたわよ~」


「そ、そっか………あ、そういえばさ……竜ちゃんって神獣だよな?」


『おお!よくわかったね!』


「やっぱりか!!!」


シリウスがケタケタ笑っているが、こちらは伝説だと言われる生物にあったのだ。笑えない。そしてもう一つ、聞きたいことがあるのだ。


「なぁ、芸獣と神獣の違いって何かわかる?」


俺とカールがずっと探してる答え。けれど未だ見つかっていない。俺の問いにシーラが色気たっぷりの怖い顔でシリウスを見た。シリウスが答えるのを待っているようだ。


『そうだねぇ……アグニはどう思ってるの?』


「俺?俺は……よくわかんない。聞いてる限り、神獣と芸獣は色と……あと芸獣はずっと芸素に飢えてて、神獣は飢えてないって感じかな。」


『うん、まぁそうだね。それで正しいと思うよ。他には?』


「他?うーん………あっ!!そうだ!神話の時代に芸獣はいなかった?!」


俺は前に視た過去の記憶のことを思い出し、その説明をした。記憶のことを聞いたシリウスは冷水のように綺麗で冷えた笑顔を見せた。


『そう。そもそも神話の時代には、芸獣はほとんどいなかった。芸を扱えるだけの芸素が地上にはなかったんだ。』


「………どういうこと?芸素が…ない?」


芸素がないなんて…信じられない。毎日当たり前のように芸をする。芸をしなければ日常が普通に働かない。けれどもシリウスは驚くような顔で言った。


『別に芸素がなくても問題ないだろ?君だってほんの数年前までは芸素の存在を知らなかったじゃないか。』


「あ、そっか………」


そっか。確かに芸ができなくても俺は生きていけてた。本当に特に不自由はなかった。そっか。忘れてたけど、別に生活はできるのか。


「でもどうして芸素がなかったんだ?」


『アグニ、ここから先は自分で考えてみなさい。』


シリウスがいつもの笑顔で言った。


「教えてくれないの?」


『あぁ。そこから先の答えは自分の中にあるはずだ。』


「……記憶を視ろってこと?」


『あぁ。もしまだ視てないのなら、()()()()ってことだ。』


シーラもシリウスの意見に異論はないようだった。俺は仕方なく頷いた。


「わかった。じゃあまた何かヒントを視たら、その時は教えてくれる?」


『………しょうがないなぁ~』


「ふふっよかったわね、アグニ。」



いつか、2人と同じものを視れたらいいなと思った。


早く2人と同じ世界を見たい。


2人にはどんな世界が見えている?視えている?



「これが大人になりたい、って感情か……」


俺の呟きに隣のクルトが急に噴き出した。その後、シリウスもシーラも噴き出して笑い始めた。俺は笑うなと3人を咎めたが、結局自分でも笑ってしまっていた。


やっぱりここはあたたかくて気持ちの良い場所だった。




こうしてまた夜は更けていった。







やっぱりシリウスとシーラはアグニの保護者なんですよね。アグニも疑問を解決できました。語彙と世界が広がってよかったです。

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