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再創世記 ~その特徴は『天使の血筋』にあてはまらない~  作者: タナカデス
第3章 第一学院
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104 授業⑨





3の日の昼休み、またもや食堂である出来事があった。



「おい黒髪!」



後ろを振り返るまでもなく、誰が話しかけてきているかわかる。俺はため息を心の中で零しながらも凛とした笑顔で立ち上がり礼を取った。


「おはようございます、エベル王子。」


俺の挨拶に返事を返すでもなくニヤッと笑い、自分の後ろに付いていた学生の1人に目で何かを合図した。合図を受けたその学生は俺に何かを差し出した。


「ほらこれ……落ちてたぞ?」


その学生は鍛冶場にあるはずの俺のハンマーを持っていた。

そしてエベルは両腕を組んで、見下すような笑い方をした。


「ん?この俺がわざわざ拾ってやったんだぞぉ〜?」


「…エベル様の心遣いに感謝申し上げます。」


俺はまた丁寧に頭を下げながら礼を言った。



ゴン!!!!



ハンマーが足元に落とされた。辛うじて足に直撃はしなかったが、結構危なかった。周りの生徒が息を詰めて俺とエベルらのやりとりを見ていた。


俺は落とされたハンマーを拾い上げ、爽やかに笑った。


「返してくれてありがとうございます。以後、持ち物の管理を徹底しようと思います。」


「……最底辺の平民が。隅で小さくなってろ!」


エベルは最後の捨て台詞を吐いて、自分の昼食を取りに行った。俺はやっとため息を吐いてまた席についた。毎度毎度同じことを繰り返してそろそろ飽きてきた。


『………アグニ、早急に小屋に鍵を付けておけよ。』


コルネリウスが厳しい顔で俺に忠告した。


「持ち物にまで手をつけ始めたか……俺の父に頼んでいくつか鍵を送ってもらおうか?」


カールも険しい顔で提案してきた。


「あぁ、いいよ。今度公爵から貰ってくるから。」


「アグニ…大丈夫か?」


カールが心配そうに聞いてきた。


「え?何が?」


「いや、ほら……毎回の暴言も…今回は私物も盗られてたじゃないか。」


「え??なんで?……もしかして大丈夫じゃなくなるものか?」


「えっ………」


カールが不審そうな顔で見てきた。隣に座るコルネリウスも不思議そうな顔をしている。


「いや、あんなこと言われて気分悪いだろ?しかも毎回こんな大勢の前で……」


「え?……大勢の前だと何か違うの……?」


「は??」



   やばい。何か致命的なミスをしてるかもしれない

   俺の対応は間違ってたのか??どういうことだ?



「何か俺、変だった?」


「いや、そうじゃなくて……辛いだろ?」


「辛い……?」



   え?主にどこで辛いんだろう?

   やっぱ対応をミスってたってことか?



コルネリウスが俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。


『アグニ、正直に答えてね。今までのエベル王子殿下の事、アグニはどう思ってるの?』


「え?………どうって……別に何も…?あ、めんどくさいとは思ってるけど……」

   

周りで話を聞いていた他の生徒も目を見開いた。そしてコルネリウスが確信したような表情になった。


『アグニ……君は少し…ズレてるかもしれないね。』


「え?ズレてる?」


コルネリウスは深く頷いて真剣な顔で説明を始めた。


『うん。ほとんどの人はあんな風に失礼な態度を取られると嫌な気持ちになるんだよ。自分のことを侮辱している言葉だから。傷ついたり、悲しくなったりするんだよ。』


「ほぉ。」


『エベル様は皇太子ではないとはいえ、一国の王子だ。権力のある人物が自分のこと侮蔑している、それも大勢の目の前で。そうなるとみんな、まるで自分だけが間違ってるような、孤立してしまったような気になって精神的に辛くなるんだよ。』


切り離された空間(ここでいう学院)で自分だけが攻撃されると、まるで世界全てが敵になってしまったかのように感じてしまうらしい。特に社会性が何よりも重要な貴族社会では、よくその考えに陥りがちとのことだった。


カールも前のめりになって小さい声で教えてくれた。


「学院に入る前に通う私学校で、エベル王子が女子生徒に対して『黒髪は学校の品位を落とす』って言ったんだ。その子はもうそれから学校には来なくなった。」



   すげぇな情報網!!

   てかみんなそんな前から一緒にいるのか?!



『つまりね、』


コルネリウスは俺にきちんと向き直って告げた。


『アグニは自分の事を大切に思ってない、もしくは相手の言葉を深く感じない可能性があるんだよ。』



   ほぉ………なるほど?



自分が大切で良い意味でプライドが高ければ、言われた言葉に傷つく。だから言われた言葉をそのまま受け止めてしまうってことはある意味自分を過小評価してるってこと。


もう一つの可能性が、そもそも他人の言うことを深く感じない、どうでもいいと考えてるってこと。たしかにそう考えていればどんな言葉も風の音のように耳を通り抜ける。



『もし後者なのであれば…僕は悲しいよ。今まで僕たちが言ってきた言葉は何も届いてないってことだもん。』


コルネリウスの顔が曇った。本当にショックを受けているっぽい。


「いやたぶん前者!もちろん自分のことは大切なんだけど…プライド?とかちょっとよくわかんないし……俺……長い間人と接してこなかったからさ、何か言われても『へぇ〜こういう考えの人もいるのか〜』って思っちゃうんだ…。」


俺は一生懸命言葉を重ねたが、2人はあまり理解していないようだった。



   それに皆には言えないが年齢もだいぶ違う

   俺にとってみんなは4、5才程度だ。

   そんな子どもの台詞に傷つきようがない。


   え、あれ………


   でもこれって後者……なのか…?



俺は二人の言葉を反芻しながら考えた。



俺は何が大切なんだ?


  命…は大事だな。死にたくないし。


じゃあなんで死にたくないんだ?


  世界を見たいから。知りたいから。

  だからまだ、今死ぬわけにはいかない。


じゃあ世界を知ったら、死んでもいい?


  んー……わかんない。知った後なら…いいかも…?


じゃあ他に大切なことは?




  ………………わかんない。





  俺は何が大切なんだろう





・・・・・・







「つまり芸獣が人や他の動物を襲うのは、他の個体から芸素を手っ取り早く摂取しようとしているわけです。常に芸素不足の飢餓状態にあるのです。」


生物の授業では芸獣のことを説明していた。


「また芸獣には若干の知性があります。自身の強さをきちんと理解した上でより確実に狙える方を相手に選び、攻撃します。そのため芸獣は相対したグループの中で自身とレベルが最も近い個体、もしくは最も芸素量の少ない個体を選び攻撃します」


つまり芸獣はより簡単に殺せそうな方を選んで攻撃しているってことらしい。だから俺とシリウスが一緒にいる時はいつも俺が狙われてたんだと今更ながら知った。


学生の1人が挙手をして質問をした。


「芸獣は他の個体から芸素を奪う方法しか自身の芸素を補充することはできないのですか?」


その問いに対して先生は首を振った。


「芸獣に関しての研究は遅れており、まだ確かではありませんが、最近の帝都軍部の研究で芸獣を隔離した実験が行われました。」


先生はそのまま説明を続けた。


「隔離した芸獣はウマ型のものでした。隔離期間、通常の馬が食する飼料を与えていたところ、その芸獣は強い飢えを感じているようでしたが死ぬことはなかったそうです。そのため芸獣は通常の食事や休養等からでも芸素を取り込めることがわかりました。」


つまり芸獣も人やほかの動物と同じように芸素を取り込めるってことだ。



   ん?なら……



「先生、質問があります。」


俺は挙手をして質問の許可を求めた。


「はい、アグニさん。どうぞ。」


俺は起立し質問をした。


「芸獣と神獣の違いはなんでしょう?両者とも「生活の中で芸素を得て芸ができる動物」というのなら、どこが異なっているのでしょうか?」


俺の質問に先生が大きく目を見開いた。他の生徒も焦ったように俺の顔を見てきた。



   え?これ聞いちゃだめなの?

   え、なんで?



「アグニさん……」


先生がゆっくりと確かな声で俺を呼んだ。


「は、はい……。」


「芸獣と神獣は、大きく異なります。」


「………と、いうと?」


先生は若干の怒りを滲ませながら説明した。


「芸獣は人を襲います!神話の中で描かれる神獣は天空の神々を守護する存在です!ただ空中の芸素を消費するというだけで同一視されては困ります!」



   ………つまり大した違いはないってことか。

   じゃあ人を襲う神獣がいたら?

   それは芸獣と呼ばれるのではないか?

   人を襲わない芸獣はいないのか?



まだまだ疑問は尽きないが、学院での答えに限界を感じた。残念だがこれ以上の答えは得られなさそうだ。



   残念だけど……

   帰った時にシリウスに聞くしかないな

   何か知ってたらいいな

   あとすんなり教えてくれるといいな…







・・・






「アグニさっきの意見面白かったよ。」


授業終わりにカールが声をかけてきた。


「ははっありがと。けどなんかダメな質問だったっぽいな?」


「いや、そんな事ないよ。ただ今まで芸獣と神獣を重ねて考える人がいなかったから予想外の質問だったんだろ。というか神獣の存在は知ってたんだな。」


「あーまぁねぇ……」


俺は煮え切らない返しで愛想笑いをしてしまった。


旅を始めてすぐ、シリウスに連れてかれた森で会った青銀色の巨大な竜の『リュウちゃん』。



   たぶんだけど……あれ、神獣だよな?



リュウちゃんは綺麗な金色の目で(芸獣は赤い目)、芸ができて、妖精の森に住んでいる。



   うん。絶対神獣だよな?



先程先生が言っていたように、神獣が神話の中でしか描かれていない存在ならば……俺も黙っていたほうがいいだろう。少なくともシリウスに確認してからじゃないといけない気がする。


「神獣について書かれている記述は少ないから先生もよく違いがわからないんだろう。文学研究会で神獣のこと、詳しく調べてみるよ。」


「え?わざわざいいのか?」


「ああ。ちょうど新しいテーマが欲しかったところだからな。原点回帰……ってのとは少し違うけど、もう一度神話を振り返ってみてもいいだろ。」


「助かる!何かわかったことがあったら共有してくれるか?」


「もちろん。」


「ありがとう!」



そして俺たちは寮へと戻っていった。いつものように夕食を食べ、寝る支度をして……


そして久しぶりに夢をみた。


いつかの頃の祖先の記憶だ。




地上に降りる場面だった。




   








リュウちゃんは「3 森の旧友」で出てきてますね。

アグニはまだ自分という存在がなんなのかわかっていません。自分の気持ちや考えがわからないんです。思春期………ですかね!笑


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