10 洞窟②
この洞窟にいるアリの芸獣は赤黒い硬質な体に包まれていて、口から酸を吐き尻部から粘液を出す。
アリの芸獣の巣に放り込まれた感想は
「あいつまたやったな」である。
どうにも指導の仕方がお下手な気がする。
けれど頼れる知り合いなんかいない。
しゃーない。つまりやるしかない。
俺はすぐに諦めて、アリの群れに剣を向ける。
今俺にできる芸は「剣越しに火を出す」と「ちょっとした突風」だ。
こんな洞穴で火を出したら自分が危険な気がする。
よし、風で行こう。
・・・もしかして剣に風を乗せることもできるか?
そう思い自身の体の芸素を意識する。
風の吹き始めを想像し、その空間の芸素を意識し…
「よぉし。はぁ!!!」
剣を振った時に風も生じ波がアリの芸獣にぶつかる。
数匹吹き飛ばされ、洞穴の壁に激突した。
「おおお!できたできた!シリウス見たか?!」
俺は振り返ることなくシリウスにそう問いかける。
しかしシリウスが返事をするよりも早く、他のアリがこちらに酸を飛ばしてきた。
「うわあああ!あっぶな…って、え?」
アリの吐いた酸が壁に当たるジュ~という音とともに溶ける。
は?ガチヤバ系の酸じゃん。
『頑張って~というかここで火出しても平気だよ?』
「え。ほんと?」
『うん。大丈夫だから次は剣に火と風を乗せてみて』
俺はシリウスに言われた通り剣に火と風を乗せ、振り切った。
すると火の波がアリの芸獣に向かっていった。
何匹かのアリが火の餌食となり燃え上がる。
しかし何匹かは、粘液で身体を覆い防いだ。
「あの粘液燃えないのか」
『そう。この巣の内側に粘液ついてるから、巣全体は燃えないんだよ』
後ろからの答えを聞きつつ、内心焦る。今ので生き延びた数匹が明らかな殺意を持ってこちらに襲い掛からんとしている。
やっべぇ。どうする?どうするのがいいんだ?
よし!思い切って、もう攻めてみよう!
俺は数匹のアリを自らの剣で斬ることにした。
そしてアリに向かったが…
地面の粘液に足を取られ、両手を地面に着く。
剣が転がってしまった。
まずい!やられる!!
しかしもちろんアリどもは待ってくれるわけもなく、3方向から大量の酸が降りかかってきた。
「ごうぐわぁぁぁぁ!!!!!!!」
痛い。物凄い痛い。やばいやばいやばい!
自分の体に激痛が走り、煙が上がる。
けれどアリは酸で溶ける俺を待っていたかのように近寄ってきた。
『んで?どうすんの?あぶないよ?』
吞気な声が後ろから聞こえる。
こんな状態なのにあいつは助けてもくれない。
カーン
もう痛くて動けない。
カーン
けどあいつは助けない。
カーン
やばい。
カーン
やられる。
カーン
けどここでやられるわけにはいかない。
カーン
……やられるわけにはいかない!!!!!
必死に体中の芸素をかき集め体の周辺から炎を出した。噛む寸前だったアリが悲鳴を上げ、燃え上がる。
体回りが熱い。けれど頭は冷静だ。
鉄を打つ音が聞こえた。
・・・・・・
アリの芸獣を全て仕留め、落とした剣を取る。
『お疲れさーん。じゃあ上の道に戻ろうか?』
俺は拾った剣をシリウスに向ける。
『…あはははは!な~に?どうしたの?』
どうしたの?どうしたのって?
「どうして助けなかった?」
できるだけ冷静にシリウスに問いかけると、
花が綻ぶような笑顔で言った。
『え?あれで本気だったの?ならもう諦めて死ぬしかないよね。』
そうか。
こいつはこうやって人を切り捨てれるのか。
「俺が対処できなかったらそれまでってことか?」
そう聞くとシリウスは申し訳なさそうに微笑んで
『そうだね。とても残念に思うよ』
「……お前は俺を殺したいのか?」
『?……あっはは!全然!是非僕より長生きしてね』