一 当惑 一
十一月十四日 午前十時 群馬県館林市
目が覚めて、すぐに気が付いた。冷たい雨が降っていた。
度重なる同級生の自殺。見つからない動機。突然の別れ。脳裏に焼き付く死体。
冬陽の精神は酷く疲弊していた。眠りも浅く、とてもだるい。涙のひとつも流れてこない。
とにかく今は体を休めよう。
冬陽は布団を被り直し、目を閉じた。
愛海達三人の飛び降り自殺によって、冬陽の大学は一週間休講となった。大半の学生にとっては棚からぼた餅だろうが、冬陽にとってはいらぬお節介だ。
いつも通り通わせてくれれば気が紛れるというのに、こんな状況下では能動的に遊びに行く気にはなれるはずもなく家でぼうっとするだけだ。そうなれば自然と同級生の死について考えてしまうではないか。
眠れない。
体も頭も重い。目の奥で睡魔が渦巻いているのがわかる。それでも、瞼は下りてくれそうにない。外の明かりも鬱陶しい。雨模様だが、夜に比べればかなり明るい。
冬陽は眠ることを諦めて体を起こす。隣には畳まれた布団が置かれていた。同棲している叶恵のものなのだが、その叶恵が見当たらない。トイレかシャワーにでも行っているのだろうと冬陽は思ったが、すぐに違うとわかった。
叶恵と誰かの話し声が、玄関の方から聞こえてきた。
「叶恵、お客さん?」
「あ、トウくんおはよ。えっと……警察の人」
「碓氷冬陽さんですか」
来客は二人組の刑事だった。壮年の刑事は古泉、若い刑事は今西という名前だそうだ。
胸元で警察手帳を掲げるというドラマでよくみる動作を終えて、古泉が不躾に口を開いた。
「今起こっている、二年前に船西高A組を卒業した、六人の卒業生の連続自殺について話があります」
*
「あの……移動とかしないんですか?」
お茶を出しながら、恐る恐る冬陽は聞いた。
修二達の自殺について話があると言われた際、てっきり警察署にでも連れていかれると冬陽は思った。だが、何故か二人の刑事は家に上がり込んでいた。
「その、あんまりじろじろ見られると……」
険しい目付きで部屋を見渡す古泉を、叶恵が諫めた。
刑事相手に肝が据わっていると素直に感心した冬陽だが、古泉は思いの外柔和な人物らしく、こちらも素直に非を認め謝ってくれた。
「あ、これは失礼。いやぁ、悪い癖でね。人ん家入ると不審な点を探しちまう。すみませんね」
冬陽と叶恵の愛の巣とも言える室内には二人の仲を象徴するもので溢れている。
冬陽が叶恵に送ったスノードーム。叶恵が冬陽に送った写真立て。二人で購入したお揃いの品々。
赤の他人に見られれば、当然恥ずかしい。
「で、移動……ですか。移動はしませんよ。話はここでします」
「どうしてですか」
「刑事ドラマとか見ませんかね? 見てたらわかると思いますが、取調室は隣室の窓から中の様子が見られるんですよ。もちろん、取調室側からは隣室の様子は見られませんがね。
まぁつまり、誰にも聞かれるわけにはいかない話ってことですよ。確実に我々だけになれる空間でなきゃならない」
この四人だけの空間が欲しくて、部屋にあがったのか。
冬陽は盗聴機について重箱の隅をつついてみたのだが、さすがは刑事というべきか、すでに調査済みらしい。盗聴機がその家にあるかどうかは、外からでも調べられるのだとか。
「……結論から言って、我々警察も彼らの死には不信感を抱いていました。それこそ一人目の乾修二から。これはただの自殺じゃない、とね。
最初は乾修二の自殺を調べていき、当然遺族や学校にも話を聞きに行きました。しかし、あなた方に話を聞きに行こうと思っていた矢先、二人目の死者が出た」
「リョウ……ですか」
「リョウ? ……ああ、そうです、賀集涼一。そういえば、第一発見者だそうで。なら、話は早い。
自殺した六人。特に最初の二人。彼らの自殺方法は特に常軌を逸していた。まさに変死だ。あのような死に方は、ある意味、強い精神力がないとできない。わかりますか? 自殺というのは、受け身なんです。変な話、踏み出すのは一歩でいい。たった一歩踏み出せば、後は道具や環境がきちんと命を終わらせてくれる。
自殺する人は、精神的に追い詰められている。だが、五感は正常だ。まだ生きられる体で自ら死に向かえば、凄まじい痛みや地獄の苦しみ、想像を絶する恐怖を味わいながら死ぬことになる。それがわかってるから、後戻りできない方法を選ぶ。途中で生に戻ってしまわぬように。
それを考えれば、誰がどう見ても最初の二人は狂ってる」
古泉が今西に合図を送った。
それを受けて、今西は横に置いていた鞄から大きな茶封筒を取り出した。原稿用紙を入れるような大きさだ。
中から出てきたのは束になった書類。角がホチキスで留められていて、真っ白な無地のコピー用紙が表紙を飾る。
「どうぞ、一枚捲ってください」
書類を手渡された冬陽は、古泉に促され表紙を捲った。
二ページ目にも真っ白なコピー用紙。表紙と違う箇所といえば、紙の中央に刻まれた無機質な味気ない文字。
「司法解剖記録……」
そう書かれていた。記憶の中、桐生での出来事が引っ掛かる。
「これって、もしかして修二の……」
「おや、よくご存じで」
「その……修二の実家に行ったとき、修二のお兄さんから」
「なるほど。ならば、そのときに乾修二の自殺方法についても聞かされているとか?」
冬陽は「ええ」と頷いた。あの日、桐生で啓太郎から聞かされたのは修二の自殺方法についてと、修二が司法解剖に回された事実。ゆえに、書類の文字を目にしても、驚きはなかった。
「彼らの常軌を逸した自殺方法について、警察は最初に薬物乱用を疑いました。過剰摂取によって正気を失った上での狂行であると。それを確かめるために、司法解剖を行いました」
予想はしていたが、この資料をさらに捲れば解剖の写真が出てくるようだ。古泉が「グロテスクに耐性はありますか」と聞いてきたのだから間違いない。
生憎、冬陽にはグロテスクの耐性はなかった。そしてそれは叶恵も同じことで、二人は紙を捲ることができなかった。
「……少し、話をしましょうか」
「え……」
冬陽の手元から資料が抜き取られた。
古泉は抜き取った資料を懐に置くと、今度は手帳を広げる。
「そもそも、なぜ我々がお二人のもとに来たのかわかりますか?」
「それは、その……事情聴取的なやつじゃ……」
修二達の自殺に心当たりがないか。それを聞くために来たのではないのか。
「まぁ、違うとも言い切れませんが。我々がお二人のもとに来たのは、連続自殺についてあることがわかったからです」
手帳をなぞりながら古泉は話を続ける。
どんな内容なのか、冬陽はある種の期待から息を飲んだ。
「まず、乾修二。彼は自殺する直前、電話で碓氷さんと話している。そうですよね? 通話履歴はあなたが最後だ。その後、彼が他に誰とも会っていないのは調査済みです。
次に、夏川朝妃。船西高で彼と会ってますよね? 彼が自殺した、その日に。しかも、別れ際に碓氷さんと二人きりでなにか話していたとか。
最後に、恋塚愛海、朱藤雀、新村千咲の三人。お二人は、この三人と同じ大学に通っていたそうで。当然、碓氷さんと話す場面もあったでしょう? それこそ、自殺の当日も」
古泉が静かに手帳を閉じた。話が一段落ついたのだろうか、一息ついてお茶を呑気に飲んでいる。
反して、落ち着かないのは冬陽だ。
今の話は一体何なのだ。まるで自分を疑っているような言い草だった。確かに古泉の言ったことはすべて正しい。訂正箇所など一切ない。それゆえに、反論できないことが酷くもどかしい。
「トウくんが、なにかしたって言うんですか」
口をまごつかせるばかりで声を出せずにいる冬陽に代わり、叶恵が口を開いた。
彼女の古泉に対する確かな敵意に気付き、冬陽の肌がざわつく。普段ならまず聞くことのない低いトーンの声だった。
しかし、牙を向けられている古泉は焦る様子もなく再び手帳を開き、次に彼が発した台詞は冬陽に怒りや困惑を忘れさせた。
「いえ……むしろ碓氷さんが何かされている可能性があります」
「……は?」
冬陽の頭に疑問符が浮かぶ。
何かされているといっても、何をされているのだ。
冬陽にはまったく心当たりがない。知らぬ間に叶恵に寝顔を撮られているなど、くだらない発想をしてしまうほどに。
「今度は見られますかね」
再び、資料が目の前に置かれた。冬陽がそれを手に取ると、「捲れ」と古泉の手が指示を送ってくる。それに従い一枚捲る。先程も見た『司法解剖記録』の文字。もう一枚捲ろうとして、手が止まった。
「トウくん……」
紙の端をつまむ冬陽の手に、叶恵の手が励ますように添えられた。
彼女の手に勇気が湧いたのか、それとも古泉の目が「次のページに答えがある」と語っていたからか。どちらにせよ、冬陽は意を決してページを捲る。
「うっ……」
新たなページに、冬陽は反射的に口を押さえた。胃と食道が普段とは異なる動きを見せ、込み上げる吐き気に口蓋垂が揺れた。
たとえ冬陽に耐性があったとしても、その写真はかなりショッキングなものだったに違いない。
解剖により頭部が開かれた遺体の写真。枚数は、自殺したA組メンバーと合致する六枚。撮影時の角度の関係で顔は見えず、代わりに脳が露になっていた。
だが、肝心の脳はその姿を隠されていた。
絡み付く、大量の毛髪によって。
体液によって妖しく光沢を放つその髪は、まるで一枚の膜のように見えた。或いは海苔のように。現実逃避をしてやっと直視できる写真。画質が向上した現代が恨めしい。
「先程言った通り、最初は薬物中毒を疑って解剖を行いました。しかし、体内から薬物等は一切見つからなかった。違法なものはおろか、市販のものでさえ。その代わり、脳の萎縮の調査をしているときに、これらの毛髪が見つかった」
「何なんですか……これ」
言葉が続かない。冬陽は必死に声を紡ぐが、聞きたいことが喉で支える。我先にと口から出ようとする問いを、別の問いが引き摺り落としてしまう。
「見ての通りです。脳に絡み付く髪の毛としか言えません」
見たままに理解したとして、何になる。それは思考を捨てたも同義だろう。何一つ過程を得られやしない。
無理矢理にでも理解しようと、冬陽は過程の構築を急いだ。
「これ……逆方向に髪が生えたとか、そういうやつじゃ……」
「頭蓋骨内部に髪が生え、脳全体を覆い尽くす……とでも? 仮にそのような病があったとしても、何百万分の一のような低確率で罹患するものでしょう。それが短期間で六人、しかも同級生。偶然では、とても片付けられない。
とにかく、この短期間で自殺した六人は、全員が二年前に船西高A組を卒業したクラスメイトだ。そして、彼らの共通点。一つ、自殺であること。二つ、誰も遺書を遺しておらず、また自殺するような動機もなかったこと。三つ、脳に絡み付く毛髪が見つかったこと。
これを……呪いと言わずに何と言う?」
「呪い……?」
「碓氷さん、あなたは呪われている」
馬鹿げた話だと、冬陽は笑い飛ばせなかった。古泉の気迫に気圧された。それは違う。もっと別の理由がある。
「呪いなんて……そんな──」
「叶恵」
「トウくん?」
「少し、考えさせてくれないか」
「え……いや、でも……」
先程から言葉を詰まらせがちな冬陽にとって、はっきりとものを言う叶恵の存在はありがたかった。
だが、何故か複雑な気分でもあった。
「まぁ、普通は有り得ないと思うでしょうな、呪いなんて。ましてや、警察が言い出すもんじゃないからねぇ。しかしね、長いこと刑事をやってると遭遇するんですよ。そういう事件に」
古泉が何かを話し出した。
冬陽はそれを意識の隅で聞く。その間も思考の波は抑えはしない。
古泉は言った。呪われているのは冬陽だと。
呪いそのものの根拠は、理解不能な自殺と解剖で見つかった毛髪。
冬陽が呪われているという根拠は、自殺した六人中五人が死の直前に冬陽と関わっていた事実。
「そういう事件って……」
「呪い絡みの事件ですよ。わかりやすく言えば、道路で死んでたのに死因が溺死……のようにね」
呪いの否定はするべきか。この先一年間誰も死ななかったとしても、二年目に誰かが死ぬかもしれないのだ。呪いによる死のインターバルは、まだはっきりしていない。
──って……これじゃ呪いだって認めたようなもんだな。
実際そうだった。冬陽が、相次ぐ同級生の不可解な自殺に対して、呪いの可能性を一切考えなかったといえば嘘になる。ちらっと頭を過り、それを冬陽は真っ先に否定したのだが、以降「呪いかもしれない」という考えは常に思考の隅をちらつくようになった。ずっと見ない振りをしていたのだが、現在その可能性が目の前で笑っていた。
──でも、仮に呪いだとしても……。
自分だけが呪われているとは、冬陽は思えない。 ──俺と関わったやつが呪いで死ぬのなら、叶恵はどうなる? 真っ先に死んでもおかしくないだろ。
叶恵が冬陽を呪っている。
違う。当然、すぐに選択肢から除外だ。一瞬でも考えに入れてしまった自分が嫌になる。
──なんかもう……わかんねぇな。けど……。
まとまらない考えの中で唯一はっきりしていること。それは、警察が六人の自殺を不審に思ってくれていたということだ。もしかすれば、丁寧な捜査を行ってくれるかもしれない。
──それなら俺は……。
「解剖で見つかった髪の毛って……俺たちを呪ったやつのものってことですか」
「ちょ……トウくん、呪いの話信じるの?」
「……ぶっちゃけ、なんにも理解できてないよ。考えだってまとまんなかったし。けど、あいつらが自殺じゃないって証明できるなら、どんな可能性でも追ってみたいって思った。たとえそれが、呪いだとしても」
妙な爽快感を、冬陽は感じた。涙が溢れそうな感覚が目の奥で疼いた。停滞していた感情が動き出したのだ。最終的な真相が何であろうと、冬陽は友人達の死からようやく一歩を踏み出せたのだから。
「それに、あいつらが自殺じゃないってことは、あいつら自身が一番よく知ってるし、あいつらが一番そのことを伝えたいって思ってるはずだろ?」
「それは……そうかもしんないけど、でも……」
「まぁまぁ、二人とも。こんな空気にした張本人が言うのもおかしいですが、呪いの話はまだ不確定です。それに、調べていけばもしかしたら、ただの殺人事件かもしれませんし──」
「そんなこと言ってるんじゃないんです!」
「……し、失礼」
「叶恵……?」
叶恵が机を叩いた衝撃でお茶が溢れた。
冷たい液体が冬陽の足とカーペットを濡らし、染み込んでいく。部屋には、叶恵の荒い息遣いだけが充満した。
「そ……それで、髪の毛って……」
「あ、ああ。毛髪は、DNA鑑定に回そうとしたのですが、消えてしまったんです」
「消えた?」
「ええ。目線を外した隙に、一本残らず」
目を離したわけではないと古泉は言い訳のように語る。
一瞬たりとも目を逸らさないことは当然不可能だ。それは冬陽にもわかる。古泉の話では、摘出した毛髪はトレイに置かれていたが、ちらりと遺体に目を向けたところ、次に見たときにはトレイは何も乗せていなかったらしい。
「綺麗さっぱりってわけじゃないんだ。トレイは遺体の体液でべったりだったから、確かにそこに毛髪を乗せていたのは間違いない。それに、なぜか写真は残ってるしなぁ」
何にせよ、謎の毛髪が鍵である可能性は高い。しかしそれは、視界から外せば即座に消えてしまう。
冬陽がわかりもしない原理を考えていると、先の怒号から落ち着いたのか、叶恵が新しく用意したお茶を古泉と今西に差し出していた。
「あの、さっきはすみません」
「いえ、我々の方こそ配慮が欠けていました」
「……呪いって、よくあるんですか?」
「いやぁ、数は少ないですよ。私が最後に呪い絡みの事件出くわしたのは、五年前ですからね。まぁそれでも、累計で十件くらいは呪い絡みだったかな」
叶恵が「そんなに」と驚く中、冬陽は古泉に聞いてみた。「呪い絡みの事件は、普段はどう対応しているのか」について。
「今回のような捜査は、まず有り得ない。普通なら、何でもいいからこじつけられる原因を探しだし、当たり障りのない着地点を設けて事件を終わらせる」
「じゃあ、なんで今回は……」
「現在の警察組織は、オカルトでは動けないし、動こうともしない。捜査したところで、どうにもならない。仮に呪いの『犯人』が見つかったとしても、そいつがやったのは、例えば丑の刻参りみたいな儀式だけだ。何らかの手段で、呪っていることをターゲットにわざと知らせて、不安にさせて死に追い込む……だったら可能性はある。だが、そうでないなら。ただ家の中で儀式を行っただけなら、まず罪には問えない。原因が心霊スポットにあったりしたら、それこそお手上げだ。
わかるかね? なにもできないんだ。調べていけば、法則もわかり、法則がわかれば次に死ぬかもしれない人がわかる。だが、その人を守る術はない。呪いによって死んでいくのを、ただ見ているしかできない。それが酷く悔しかった。なにもできない自分と組織に怒りが沸いた。
五年前は、まだ自分の人生が可愛くてなにもしてやれなかったが、今は違う。私は、あと二ヶ月で定年だから、勝手な捜査をしてクビになるのも怖くない。
だが、最初に言った通り警察はオカルトでは動かない。協力できるのは、我々二人だけです。今回の一連の呪い事件、かなり無理に頼み込んで担当にさせてもらいましてね」
先程投げた問い。思っていたより長い話に、胸にしまっておくべきだったと冬陽は少しだけ後悔した。だが同時に、古泉と今西がとても頼もしく思えてきた。
解雇を覚悟の上で古泉と今西が動いてくれるのであれば、自分もそれ相応の動きを見せなければならない。
では、どうするべきか。古泉は言っていた。まだ呪いかどうかは不確定だと。
本当に呪いかどうかを調べるのが先か。それとも、呪いであると仮定した上で、呪いの解き方を探るのが先か。
仲間が必要だと、冬陽は思った。
*
「では、我々はひとまずこれで。なにかあれば、遠慮なく連絡してください」
古泉と今西が帰り、重苦しい空気だけが取り残された。
「ねぇ、これからどうするの?」
リビングに戻るやいなや、叶恵が聞いてきた。
「何人かに話してみようと思ってるけど……」
「本気で、呪いのこと調べるつもりなの?」
「呪いっていうか、真相かな。呪いなら解かなきゃだし、人為的なものなら犯人見つけなきゃだし」
「それさ……下手したら、トウくんが危なくなったり……」
「叶恵、それでさっき──」
叶恵の目から溢れる大粒の涙に、冬陽は言葉を詰まらせた。
呪いより何より、最優先すべきことがある。
それに冬陽は気付き、叶恵をそっと抱き寄せた。やはり、起きてから一度シャワーを浴びていたようで、シャンプーの良い香りがふわりと冬陽の鼻腔をくすぐった。
「大丈夫だ。危ないことはしないから」
「……絶対だよ。約束」
「ああ、約束だ」