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瑠璃色の徒花  作者: 吉柳月狼
零章
1/8

零 胎動 零

以前投稿していた「死を積み上げて~」および「後ろの束縛」の改稿版になります。

実在人物と名前が被るキャラクターがいたため、旧作は消去いたしました。

 私の心は満たされていた。


 毎日が楽しかった。毎日を笑顔で過ごせていた。確かに幸せばかりではなかったけれど、それでも涙を拭いた。頑張って、乗り越えた。また楽しい日々を過ごすために、明るい未来を掴むために。




 そう思っていたのに、巨大な杭が心に穴を空けた。


 世界が終わったような気がした。いや、確かに私の世界は終わりを迎えた。以来、私は光を避けるようになった。影が、自分を受け入れてくれると囁いていた。救われるなら、影に身を投げよう。そう思った。




 その頃、確かに心は空っぽだった。


 心に空いた穴から、何もかもが零れていった。嬉しいや楽しいは流れていくくせして、悲しいや苦しいは引っ掛かる。辛かった。ただひたすら、辛かった。




 いつの間にか、また心が満たされていた。


 空いた穴は塞がれた。修復……というよりも、穴に粘土を詰めたような……いわば、補修。それでもよかった。今までのように笑えるなら。




 けれど、またすぐに穴が空けられた。


 神はいない。それを確信した。もしくは、いたとしても地球上の誰よりも性格が歪み、性根は腐りきっていることだろう。恋愛シミュレーションでわざと悪い選択肢を選ばせるみたいに。その末に酷い結末を迎えた主人公を嘲笑うみたいに、遊び感覚で。




 でも、今度は空っぽにはならなかった。


 現実はゲームではない。キャラクターには意思があり、自我があり、命がある。恨むことができる。憎むことができる。神を……運命を。




 やはり心は満たされていた。


 残念なことに、神には、運命には触れられない。存在すら証明できないし、存在したとしても実体はない。精々恨み憎みをぶつけることができる相手は……運命に操作された、同じ人間。




 それ以来、心が空っぽになることはなかった。


 心の中で恨みは育っていった。周りの人間が、頼んでもいないのに恨みに栄養を与えてくれた。大半は水を与えるだけだったけど、一部の人間は肥料と日光に加えて、間引きや害虫駆除など徹底的に『恨み』の世話をしてくれた。育てるつもりはなかったのに、勝手に育っていった。




 そして、今。




 部屋が暗い。


 電気を点けていないから? カーテンを閉めてるから? 日が沈んだから? 言えるのは、あの頃と同じだということだけ。




 視界が暗い。


 わかった。電気も点けてないし、カーテンも閉めてるし、日も沈んだから暗いんだ。夜になったんだ。……いつの間にか。




 世界が暗い。


 おかしいな。電気も点けた。カーテンも開けた。太陽はどうにもならないけど、明るくするには十分なはず。それなのに、まだ暗い。光はあるのに色がないような……。あの頃と同じ。また、世界が終わろうとしている。




 わからない。


 わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。




 腹の中で何かが蠢く。


 胸の中で何かが渦巻く。


 喉は何かに締め付けられる。


 口からは何が零れた?


 目は何を見つけてしまった?


 耳は何も聞こえない。


 頭の中で──。




 何かが弾けた。

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