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エピローグ

揺れ動く雲のような、もこもことした地面の上で、ゆらゆらと揺れ動くモヤのようなものがあった。


 何もかもが不確かなその場所に於いても、とりわけ理解の及ばないそれは、ただその場にあるだけなのだが、不思議となにかを見つめているようにも見えた。



 そこに、もう一つ。最初に存在したモヤよりも強く光るモヤが現れた。




「どうかしたかの? 女神」



「あ、神様! また来られたのですね。まだ100年しか経っていませんが」



「今は主も神であろうに。それで、どうじゃ? 神器に人の魂を宿す実験とやらは」




「はい。ご協力頂いた手前良い報告をしたいのですが、あまり芳しくありません」




「ふむう?」




 モヤ同士の会話。


 後からやってきた力強いモヤは、初めからいたモヤと同じように、佇むように揺れる。




「……ほう。魔力の過剰使用により自壊寸前、か。また妙なことになっておるな」



「使い手が意識を失い、それを守る為に自律行動をとったのです。相手はイレギュラーであったことを思えば神器の目的を果たした、ともいえますが……」



「結果が相打ち、か……悪くはない、が。痛いキャラまで演じたにしてはやや損、といったところか」




「思い出させないでください……」




 最初からいたモヤは恥じらうようにくねる。




「女神よ。問題ないな?」



「人を疎んでいないか、ですか? 問題ありません」



「神に人の理が通らぬよう、神の理も人には通らぬ。イレギュラー共に対抗する為の神器を、人同士のくだらん争い事に使われてしまうのもそうじゃ」



「はい……」



「まあ、歩み寄ろうとするのは悪いことではないがな。主の、神器に抑止力として人の魂を宿す、というアイデアも面白いものであったしな」




「ご協力頂きありがとうございました。しかし魂の選定に定着と手前が掛かりすぎます。別の方法を探すべきでしょう」



「うむ。励むがよい。何かあれば呼ぶと良い。ワシもそう忙しくなければ大抵のことは手伝ってやるわ」



「はい。遠慮なく」



「ところであの神器はどうするのじゃ? このまま放置しておくのかの?」



「そうですね。一応説明したとはいえ実験に巻き込んだわけですし、直接修復することはできませんが、その手助けくらいはしておこうかと」



























 暖かい。


 意識が戻って最初に感じたのがそれだった。


 これもかなり不思議なんだが、俺には触覚もある。温度も感じるし、柔らかいとか硬いとかも分かる。


  なのでモンスターに突き刺されたりするのが軽くトラウマになったこともあるのだが、今は昔の話だ。




  それはさておき今の状況だ。まだ視界が安定しないからよく分からないが、意識ははっきりしている。じきに視覚も聴覚も戻るだろう。





 ゆっくりと周りの光景が浮かんでくる。


 白いシーツ。窓から差し込む日の光。朝か?


 揺れるカーテンと……俺を抱きしめて眠るルミナがいた。





  ?



 ルミナ? だよな?

 背が伸びて顔も少し大人びているが、この胸の無さは間違いない。


 雷帝で居られなくなったんじゃ?



 というかなんで剣抱きしめて寝てるんだ?





 パチリ、と音が聞こえそうな勢いでルミナの両目が開いた。


 もともと農家の生まれであるルミナは覚醒が凄まじく早い。目を開けた瞬間通常通りの性能を発揮できるのだ。



 

「ライディーン? ライディーン! ライディーンんんんんん!!」




 ルミナは覚醒するや否や俺を抱きしめ……おい! 抜き身の刃物を抱きしめるな‼︎ 怪我するだろ‼︎




「ライディーンライディーンライディーンライディーン……」




  こらっ! 頬ずりもダメ! 顔切るから‼︎




「ちゅばっちゅばっちゅばっ! ふふふふふふふふふふライディーン……」




 なんということでしょう。前世ではキスなど縁のなかった俺が魔剣になった瞬間に3回も……おい、誰か止めろよ。




「ねぇ、ライディーン……私ね、ずっと、ずっとずっとお礼が言いたかったの」




 急にルミナが真面目な顔をする。


 その真剣な眼差しは、口元からよだれが垂れていなければ劇の一場面のようにさえ見えただろう。




「私が戦えるのはあなたのおかげ。私の家族が国から援助を受けられるのもあなたのおかげ。


 ありがとう。雷帝剣」




 それは、幾度となく聞いていた、しかし初めて明確に俺に向けられたルミナからの感謝の気持ちだった。




「あなたが眠りについてから1000年経った今では、平民でも能力があれば政治に参加できるようになったのよ。それに、亡者の大平原も三国連合で完全に制圧して、今では交易の中心になってるわ」

 



 ちょっと待て今なんて言った。




「それもこれもあなたがいたから。あなたは私に、みんなにお礼を言ってくれたけど、感謝するのは私たちの方なの。ありがとうございます雷帝剣」




 いや、嬉しいけど待って? 1000? 1000年って言った?




「私、どうしてもあなたとお話ししたくて、魔法の練習をして、不老不死になったのよ。これでずっと一緒にいられるわね‼︎ 」




 ちょっと待てぇぇぇぇえええ⁉︎


 さらっと不老不死になったのよとか言いやがった!




「……ねぇ? ライディーン? 何か喋ってくれない? なんでもいいのよ? ねぇ? ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ……」




 ……だから、俺は口がないから喋れないんだって。

 


 とりあえず俺はどこか電流で焦げ目を作っても平気そうな場所を探し始める。






 その後の話は、まあ、蛇足になるだろう。

 

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