幕間 炎帝と雷帝
「あら? 貴女は?」
「はっ! 私はっ! せっ、せんじちゅっ⁉︎ せ、せんじつ、国王陛下より、雷帝の称号をたまっ、たまわり、ましたっ! ルミナ・アペナ・ライトニングともうしまぶっ‼︎」
「ああ! 貴女がそうなの! 初めまして。私は炎帝、エムレース・フラム・カー・フレイム。よろしくね?」
「はっ! かしこまりましたっ!」
「……」
「あら、雷帝の……」
「っ⁉︎ え、炎帝様⁉︎ なぜこのようなところに⁉︎」
「私は暇つぶしがてら歩いていたのよ。貴女こそ、どうしてこんな王都の端っこに?」
「そ、その……私は雷帝になるまでは平民だったもので……ちょっと空気になれないと言いますか……あっ! 申し訳ございません! けして、けして貴族様を愚弄する意図はなくて‼︎」
「ふふっ。必死にならなくても分かるわよ。気にしないでいいわ。私だって下から数えた方が早いくらいだし。そもそも貴女養女になったのではなくて? 立派な貴族じゃない」
「は、はぁ……」
「まあ! ルミナ、貴女ボロボロじゃない! どうしたの⁉︎」
「こ、これはお恥ずかしい……少々剣術の指南をして頂きまして……」
「もっと楽に喋っていいのに……剣術の指南って……相手は?」
「はぁ、リベンヌス将軍閣下にお相手頂いております」
「……あのクソ野郎か。ねぇ? ルミナ。貴女さえ良ければなんだけど、私が教えてあげようか? 私は、鉾だけど、共通する部分もあると思うし」
「え、炎帝様のお手を煩わせるわけには!」
「様はやめてって言ってるじゃない。気にしないで。私だって一人で鉾を振るよりよっぽど良いもの」
「はぁ……お、お言葉に甘えて」
「ルーミナっ! 元気そうね?」
「エムレースさん! 聴いてください! この間ついにリベンヌス将軍から一本取れたんですよ!」
「! やったね! ルー‼︎ これも貴女が一生懸命鍛錬したからよ! おめでとう!」
「ルー?」
「ルミナだから、ルー。……その、嫌、だった? 馴れ馴れしい?」
「いえいえ!とんでもない事でございます! どうぞお好きなようにお呼びください!」
「むむむ……次はその堅苦しい言葉遣いかしら……」
「?」
「え、エム!」
「ルー! 聞いたわよ! クラーケンの討伐! それも2体だなんて! 下手をすれば大隊一つ潰されかねない相手よ? 凄いじゃない!」
「あ、ありがとうござっ……あ、ありがとう。それで、その、エムは港町の生まれ、と言ってたよな? それで……」
「うわぁ……魚、魔術で冷凍してあるやつじゃない! 干物じゃない魚なんて久しぶりに見た……懐かしいなぁ……高かったでしょう?」
「エムへの土産を探していると言ったら、漁師の人たちが分けてくれたんだ。エムの故郷の街ではないが……」
「わぁ、嬉しい! ありがとう! ルー!」
「わっ、く、苦しい! え、エム! 息が、息ができないっ……」
「ルー! 演劇、見たわよ!」
「エム⁉︎ か、勘弁してくれ! あれはとんでもなく美化されているんだ! 私は、あんな……あんな煌びやかな戦いはしていないんだっ!」
「『我が雷帝の名と雷帝剣の鋭さにかけて! 貴様には誰一人傷つけさせはせぬ!』」
「やーめーてーくーれー!?」
「あっという間に英雄だもん。ルーは本当にすごいなぁ……」
「何をいう。言葉遣い、礼儀作法、剣技、全部エムが教えてくれたんじゃないか。私がすごいなら、エムはもっとすごいな!」
「……ふふ。ありがとう、ルー」
「エム!」
「ルー。久しぶりね。忙しいみたいだけれど、大丈夫? 無理してない?」
「心配には及ばないさ。これでも農村育ちだからな。頑丈さには自信がある。エムこそ大丈夫か? 少し顔色が悪いようだが……」
「最近アンデッド共が元気よくてね……別に危なくはないんだけど、数が多いから時間も手間もかかるのよ……」
「そうか……やはり私が……」
「え? 何か言った?」
「い、いや? なんでもないぞ?」
「怪しい……それ、こしょこしょ〜」
「ちょ、やめっ! くすぐったっ、あははははは!!」
「エムっ‼︎」
「あら、ルー。どうしたの? そんなに慌てて」
「お前がっ、怪我をしたと聞いて! 無事か⁉︎ 」
「ご覧の通り元気なもんよ? まあ、ちょっと痛かったけどね。深傷じゃなかったから」
「本当か⁉︎ 見せてみろっ!」
「ちょ⁉︎ 人払いもせずに何始めんのよっ!」
「いだっ! わっ、私はお前を心配してだな!」
「……ぷっ」
「?」
「あはっ、あっはっはっはっはっは!」
「な⁉︎」
「アンタなんて顔してるのよ! グッチョグチョじゃない! あっはっはっはっは! もー、鼻水つけないでよ〜……ふふっ、あはははははは‼︎」
「えっ、エム! 失礼だぞ! このっ、笑うなぁ!!」
次で終わります。