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Secret Garden ~小さなの箱庭~  作者: 姫凛
∮???章――始まりを告げる者∮
3/3

絶望の???編



――走る。


 彼女は振り向かずひたすら前だけを見て走る。


 うぉぉぉおおん。


――走る。


 彼女を追う狼に似た獣の遠吠えから逃げるために走る。


 ガサガサと木々が揺れる。

走る彼女の身体が当たり揺れていたのではない。視線だけ後ろへ向け見えたものは。


 ぐるるるぅぅぅぅ。

鍛えられた闘犬とも、または狼の群れのボスとも見える、が、そのどちらでもない数匹の四足獣。

その屈強な肉体はほぼ筋肉だけで造られており、人のこぶしくらいはありそうな筋肉の塊がぼこぼこと凹凸し元の身体の原型を留めてはいない。


 呻き声をあげる四足獣たちが一般的に家庭で飼われたり、自然の世界で自由に暮らす獣と違う点がもう一つ。


 首がない。


 正確には胴体から続く首とその上にあるはずの頭がなく、その代わりに青白く燃える炎が陣取り獣が声を発するたびに炎は形を大きさを変える。

その姿はまるで墓場に現れる《デュラハン/首無し騎士》によく似ていた。


 彼らはナニモノか――化け物=デュラハンと一言で片づけてしまえば問題は簡単に解決したようにみえる。

だが彼らは騎士ではない。強いて言うのであればデュラハンが跨る首の無い馬の方が近いだろう。


 それに一括りデュラハンと言えど《フェアリー/妖精》寄りのものか《アンデッド/死神》寄りのものと大きく二つに分けられる。

彼らはその見た目の醜悪さからフェアリー種ではないだろう。

ならば犬か狼の死体が何らかの方法で突然変異を起こしアンデッド化したか。または第三者が生前の彼らに何か施したか。

そのどちらかだろう。アンデッドを自らの手で生み出す手段を持つ《ネクロマンサー/死霊使い》辺りがこの世に復活させたまたは生み出された《哀れな化け物たち》


「……きもちわっる!」


 そんなことどうでもいい。化け物の生い立ちなど知った事ではない。そんなの自分には関係ない。


 踵を返し彼女は追って来る化け物たちと相対する。


 うううぅぅぅ。

化け物達は想像もしなかった突然の鼓動に驚き足を止め威嚇の呻き声をあげた。


「――おそいっ!」


 声を発すると同時に背負ってた自身の身体と同じまたはそれ以上の銀色に煌めく剣を鞘から抜き取ったと同時に薙ごうた。

間合いに居た化け物達は皆何が自身に起きたのか理解する時間もなく四本の足を失った。


 くぅあ。


 近くに居たため運悪く足を失った化け物。ほんの少し離れていたおかげで運良く逃れた化け物。

数秒後あげられた間抜けな鳴き声はどちらがあげたものだったか。

その更に数秒後、己の足が奪われた事に気が付いた化け物たちは痛みと悲しみと悔しさが入り混じった声をあげた。


 うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉん!!!


 その悲痛な叫び声を合図に仲間の血で黒く汚れた剣を握りしめたまま呆然と何もせず佇む標的に向け同時に飛びかかりその強靭な爪牙で襲い掛かった。

鋭く尖った牙は白桃のように白くすべすべとしたか細い二の腕にずぷりと突き刺さる。

大地を削る爪は大地を踏みしめる馬の皮膚で造られた帆の長い履き物を引き裂き、その下に隠された柔肌を傷つける。

 何もせずただ呆然と立ち尽くす彼女の身体は纏っていたポンチョと相まって紅く染められてゆく。


 喰らう。裂く。これでもかと化け物たちは柔らかい身体を喰らい尽くす。

しょっぱい。肩を喰っていた化け物が感じた。

顔をあげると獲物から水が流れていた。しょっぱい味の水だ。まずい。この水はうまくない。

こんなまずいものを飲ませやがって、このまま肩を喰いちぎってやる。オマエが奪った仲間の足みたいに。


 化け物はぐっと噛みしめ喰いちぎろうとした。だがしかしそれは出来なかった。なぜなら。


 ぎゃあああああああおぉぉぉん。


 肩を喰いちぎろうとした化け物の身体は宙を舞っていたからだ。

何が起こったのか分からずまた反応が遅れた刹那また化け物が吹き飛んだ。今度は剣を持つ腕を噛んでいたものだ。


 何が起こっている。何が起こっている。理解が追いつかない化け物たちはとりあえず噛んでいる《獲物》から離れようとした……できない。喰いちぎってやろうと深々に刺した牙はぷにっとした柔らかな肌に飲み込まれているように抜け出せない。切り裂こうとした爪も同様。


「ふふふっ」


 震える。噛んでいる獲物が声を出し震えている。


「あはっあはははっあーはははははははははっ」


 頭の中に響く声。声。声。狂いそうだ。いや眼前に居るこいつはもう既に狂っている。


 気づいた時にはもうすでに事遅し――軽く。本当に軽く。周りを漂う小蠅を払うかのように軽く剣を一振りされ飛び散った。


悲鳴をあげる暇もなく散った。

宙に放り出され斬られた。肉片と共に臓物が辺りに飛び散った。

真っ二つに斬られた胃からは胃酸の酷い悪臭を放なたれ、ぶつ切りにされた盲腸からは糞尿などが飛び出し酷いアンモニア臭が漂い、ずるりとむき出しにとなった心臓は自身を収納し護ってくれる肉体を失った事に未だ気づかず、どくんどくんと巡回する先の無い血液を回し続ける。


 燃える木々の臭い。香ばしいを通り越し炭と化した動物の臭い。原型を留めないぐちゃぐちゃになった肉塊の臭い。まき散らされた臓物の悪臭。

それら全て舞台の背景だと言わんばかり踊り狂う少女が一人。


「あははっ踊ろう! みんなでもっともーーーとっ踊りましょーーーーーーーーう!」


 あはははははっと乾いた嗤い声をあげ彼女は踊る。

時には観客を魅了する《バレリーナ/白鳥》のように。時には見る者を笑わす《ピエロ/道化師》のように。


 あはははははっと乾いた嗤い声をあげ彼女は剣を振るう。

周りに観客はもういない。いるのはバラバラになった肉片のみ。


「…………」


――と、思われた狂乱に舞う舞台を見据える観客が数名……いや数百名存在した。



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