2話
ーー目がさめると俺は森の中にいた。
そう言えば意識を失う前にあの自称女神が転生場所は森の中だと言っていたな…
「でもこうしてみるとここが前にいた世界と違うことは明確だな」
辺りを見渡すと前の世界では見たことも聞いたこともない人型の…おそらくあれはモンスターと呼ばれる存在がいた。
「うん、逃げよう」
俺はモンスターに見つからないように後ろに振り返り一目散に走り始めた。俺はめんどくさがり屋だが死にたいわけでもないし、痛い思いを喜ぶような特殊な性癖を持っているわけじゃない。そのため身の危険が迫ってくると言うのであればいくらめんどさがりだと言えど全力で逃げるだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
と言ったもののめんどくさがり屋である俺に体力なんて物はなく10秒もしない内に足が止まり、地面へと倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、姿は、みえな、くなった、し、これ、ぐらい、でいいか」
数秒ではあるものの全力で走っていたため距離を取ることに成功していて辺りにモンスターの影は見当たらないので息が整うまで少し休憩することにした。
「はぁ、はぁ、ふぅ~~、これからどうしたもんかな~」
呼吸を整え、万が一モンスターと出くわした時のためにすぐに逃げられる準備だけはしておく。と言っても俺は身一つで異世界に転生させられているので荷物などはなく先ほど見たモンスターがいる場所に逃げてしまわないようにするための逃走ルートの確認だが…。
そうしてしばらくして落ち着いた俺はこれからについて考え始めた。俺は別に異世界に転生したいと願っていたわけでもなく、ただあの自称女神に突然異世界へと転生させられただけだ。そのため異世界にきてやりたいことなど考えたこともないし、今考えても特に思いつくことはない。だがだからと言って死にたいわけでもないので俺はこれからこの世界で生きていくことになる。何も目標や夢をなくなんとなく生きていくでもいいちゃいいんだけどせっかくだしなにか目標や夢を決めてそれに向かって生きていくなんてことをしてみたいと思った。
「んー世界一の剣豪とかはどうだろう?」
まず目標や夢を決める際にどんなものがあるか考えた時に自称女神が願いを叫べよ!と言っていた時に例えとしてあげていた世界一の剣豪を思い出した。
「んーないな」
自問自答した結果答えはないだった。特にやりたくない理由もないけどやりたいという理由もなかった。
「どうせなら異世界でしかできないことをやってみたいな」
俺は夢や目標を異世界ならではのものにしたいと考えた。それならば世界一の剣豪も異世界ならではであるがなるたいという思いや気持ちがわかないので仕方がない。
いくつもの異世界ならではの仕事や職業を思い浮かべては沈んで思い浮かべては沈んでを繰り返した結果……
「うん、領主になってみるか」
俺は領主になってみることに決めた。まぁ領主というのはなりたいと思ってなれるものではないので今現在の目標として領主になると決めたのだ。
そうと決まれば俺は領主として何が必要なのかを考えてみることにした。
「領地に領民? 後……何が必要なんだろ?」
俺が領主になるとして必要なものは何かと考えた時に思い浮かんだのは領地と領民の二つだけだった。領地は領主が治める土地でなにより領地がなければ領主になれないので領主として領地は必須になってくるだろう。そして領民だがこれもまた 領主に必要になるものだろう。だがこの2つはあくまでもほんとうに必要最低限な物でしかない。実際に領主になるために必要になるもの、もしくは領主になってみて必要になるものがまだまだたくさんあるだろう。そのために俺には足りていないものが沢山あった。
「そういえば俺この世界のこと何にも知らないな」
俺はこの世界について何も知らないことに気がついた。俺がこの世界について知っているのは自称女神から聞いた内容だけだ。しかも実際に見て体験したわけじゃなく他人から聞いた話だけ。聞いた相手も自称女神と俺とは価値観とか視点が違う相手なのだ。
「まず大事なのはこの世界のことを知ることだな」
百聞は一見にしかずということわざがあるように他人から聞いた話などよりも自分が実際に体験した方が何かを知るには確かだということ。この世界のことを知れば俺が領主になる時に必要なものがわかってくるだろうし、もしかすると他に目標や夢ができるかも知れない。
そのためにもまずはやらなければならないことがあった。
「森を出ないことには始まらないな」
そう言って俺はおろしていた腰を上げた。長いこと考えていたのだろうか、体感的には数分ぐらいしか経っていないと思っているのだけど辺りは暗くなりはじめていた。
「…と思ったけど今日は野宿だな」
森は暗くなり始めると危険度が高くなると聞いたことがある。このまま森を出るために歩き回って抜けられたらいいのだがその可能性は極めて低いと思う。だってどの方角に街があるのかが分からないのだ、もしかしたらどの方角にも街がないって可能性もある。無闇に歩き回って体力を消耗して街が見つかりませんでしたでは命の危険が高まることだろう。そのため完全に暗くなる前に野宿の準備を行い少しでも身が休める場所を探した方が生存確率が高くなる……と思う。野宿の経験や知識がないので確実なことは言えないし何が正しいのかは分からないがなんとなくそう思う。
「はぁ〜なんか幸先悪い気がする」
と俺は文句を言いながらも時間は刻一刻と過ぎ去っていくのですぐに行動へ移すことにした。