1話めんどくさい異世界転生
ーーめんどくさがり屋の俺は今、なんだかめんどくさいことに巻き込まれています。
「ちょっと聞いてるの!?」
めんどくさいことになりそうな原因を作り出したのはこの目の前にいる自称女神を名乗る変な女だった。
「きいてるきいてるー」
「ちょっと! なんなのよその態度は! 私は女神なのよ! もっと敬いなさいよ! 」
この女、何度も何度も自分を女神と言って偉そうにしてくる。正直言ってすげーめんどくさい、が俺にはこいつを無視することは出来なかった。なぜなら…
「私は忙しいのよ! 説明が終わらないと次に進めないんだからしっかりと聞きなさいよ!」
そう、俺が話を聞いてないと何度も何度も同じ話を繰り返して言ってくるのだ。この自称女神が言うには俺にしっかりと説明をしないと次に行けないのだと言う。このしっかりと説明をしないといけないというのはただ女神が説明をしたらいいのではなく俺が理解するまで説明をするって言うのが決まりらしくそのため話を終わらすためには俺はこの自称女神の話を無視し続けることができず耳を傾ける必要があったのだ。
「はぁ~何度同じ説明をしたらいいのよ! 私は忙しいのよ! 一度で理解しなさいよ!」
そうして自称女神は何度目になるかは数えていなかったのでわからないがおそらく両手の手では数え切れないほど説明したことを再び説明するのだった。
………
……
…
「わかった!? もうこれでおしまいにしてよね!」
「わかったー」
「本当にわかっているの?……あら、本当に理解したのね…ようやく次に進めるわね!」
すげーめんどくさかったけどそろそろ俺も同じ話を耳を傾けてはいないとは言え近い距離で大きな声で言われていては嫌でも耳に入るし何より耳が痛かったので今回は左から右へと流すのでなくしっかりと頭の中にとどめてあげることにした。
自称女神は俺が一度聞いただけで理解できたのか疑うような目を向けてきたがどうやら勝手に自己解決したようだ。
「それじゃ理解した内容を言ってみなさい! そこで理解の違いがないかを確かめるわ!」
自称女神には俺が理解したかしていないかがわかる不思議な力があるようなんだけどなぜか相互理解の確認を取るといい始めたのだ。
おそらくこれは決められていることなのだろう、あんなに忙しく忙しいと言っていた自称女神が俺のためにこんなことを言いだすはずがないからだ。
「俺はこれから異世界に転生する。
そしてそこで俺は生活する以上」
まぁこれが自称女神が何度も説明してきたことを大雑把にまとめるとこうなる。
「何でそんな……嘘でしょ! これでおっけーなの!? それじゃ私が何度も説明した意味が…」
「ないね!」
「うるさいわ! あんたが無視しなきゃ一回で終わってたのよ! それを何度も何度も…」
女神は俺の説明が理解不足として文句を言って来ようとしたがどうやら大丈夫だったらしく心底驚いた表情を浮かべていた。
「でもこれからこの説明だけで大丈夫って分かったんだし結果オーライかも…」
「早く続きを説明してー」
「うっさい! 自分の時だけ急かすな!」
こうして俺は自称女神の説明を聞いては理解したかの相互確認を行っていく。
そしてこの自称女神から言われた内容を簡単にまとめるとこうなった。
・俺は異世界に転生する。
・転生する際に特典として一つスキルを与えられる。
・異世界で俺がやらなければならないことはなく、強いて挙げるならすぐには死なないこと。
大雑把に纏めるとこうなる。他にも細かいことはあったけどそこはもう特に考える必要もないことだったので意識する必要はないだろう。
「これからあんたがいく異世界はファタンジーに溢れた剣と魔法のありふれた世界よ」
まぁこれは先程も言っていたけど再度確認のようなものだろう。
「その世界はファタンジー世界の定番であるモンスターも存在するわ! そのためあんたがすぐに死なないようにするためこれからスキルを授けるわ!」
どうやらこの流れは再度確認を含めたスキル授与だったらしい。
「それじゃ私からはスキルの元となる力を授けるわ! それはあんたが望むモノをスキルとして表してくれるわ!」
女神の手から種のようなものが浮かび上がってきて、それが手を離れ俺の元へとぷよぷよと浮かび飛んできた。
「さぁ! 想像しなさい! 願いなさい! 貴方が望むがままに!」
自称女神が何か偉そうなことを言っているがこれはどう反応したらいいのだろうか? すげー優越感に浸っているので放っておくのが正解だな。
「………………………」
あ、種が俺の体の中へと吸い込まれた?まぁ特に体に異常は感じられないし気にしなくてもいっか。
「………………………」
てか、いつまでこんなことしなくちゃならないんだろう? なんでもいいから早く終わらないかな。
「…………………………」
あれ?何も言わなくなったってことは終わったってことでいいのかな?それじゃ少し……
「……っていい加減にしなさいーーー!」
この自称女神とのやりとりが終わったのかと思い俺は眠ろうかと横になって……って時になぜか急に叫び始めた。
「なんだよ、急に叫んだりしてよ、目が覚め……てねーし寝てもいい?」
「いい訳ないでしょうが! それよりあんたなんで願いを言わないのよ!」
寝ようときた時に近くで急に大声とかあげられたら眠気が覚めるって話を聞いたことがあったけど俺の場合はそれに当てはまらないようだ。今も眠たい。
「って寝ようとするな! 起きなさいよ! 大事な話をしているでしょうが!」
くっそ!俺の数られる特技の一つ立ったまま寝るを発動しようとしたがバレてしまい方を揺らされて眠らせないように邪魔をして来やがった。俺にはまだ型を揺らされながらも寝られるという特技は持ってはいない。
「私が『さぁ! 想像しなさい! 願いなさい! 貴方が望むがままに!』って言った時になんであんたは願いを叫ばなかったのよ!」
「え?それ叫ぶ必要があったのか?それならそうと言ってくれないとわからないだろう?」
だって願いを叫べって言われていないのにどうやってそれを理解できるんだろうか?
「なんでわからないのよ! あんただけよ! 前に来た奴らは『俺は世界一の剣豪になる』とか『誰も見たことのない世界を見てみたい!』とか『童貞卒業したいー!』とか皆んなが願いを叫んでいたのよ!」
「ま、まじかよ…」
さっきのやりとりでなんで願いを叫べって言われていないのに叫んだのか全く分からないんだが……え?俺がおかしいの?そんなこと…ないよね?
「はぁ~もういいわ、せっかくの私の唯一の楽しみだったんだけど、はぁ~」
「えーと、ごめん?」
別に俺が悪いとは思っていないけどこうもあからさまに落ち込まれるとついつい謝ってしまう。まぁ別に相手もいいって言ってくれてるのでそこまで気にしなくてもいいだろう。
「まぁあんたが何を望んだかは知らないけどスキルの確認は異世界に転生した後しか分からないから」
え?スキル授与ってもう終わってたの?まぁどんなスキルが授与されたのか気にはなるけど確認する手段がないようなのでこれは異世界へと転生した後の楽しみとして置いておこう。
「伝えることは全て伝え終わってるわね…よし、それじゃこれからあんたを異世界に転生させるわ」
とうとう俺は異世界へと転生するらしい。すげー長かったな。
「……何か思い残すこととかある?」
「いや、ない」
「だよね、そういうと思ってた」
俺は特に前世?って言うのかな、生きていた頃の世界では特に何かを思い残したこともないし、まぁ何より異世界に行くのだ、なにかやり足りないこととかあれば異世界ですればいいだろう。
「それじゃ転生させるわね」
自称女神が手を振りかざすと俺の足元に魔法陣が現れ俺の体が徐々に吸い込まれていく。
「あ、言い残したことがあったわ♪ あんたが転生するのは森の中だから! 危険な場所じゃない…と思うわ!」
俺が最後に見たのはいたずらが成功した悪ガキのような笑顔を浮かべた女神だった。