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6、始めの一歩 5(ここは3番目の時計塔がある街)



「ありがとうございます」

 アルベラの世話係で共に街へと下りてきた使用人ルミアは、戻ってきた騎士の二人に礼を告げた。

 騎士達は今しがた、お嬢様とルミアが乗ってきた馬車と、自分達の乗ってきた馬を店に預けてきた所だ。

 使用人一人と護衛の騎士三人。

 それが今日のアルベラの外出のお供であるメンバーだった。

(騎士十人から三人にまで削ってやった私、よくやった)

 出なくても一人で当たり前に時間構わず外出していた前世の記憶があるのだ。屋敷の中なら兎も角、外で人をぞろぞろ連れて歩くのには妙な抵抗があった。

(でなくても私個人で外出したことなんてなかったし、単に護衛の人数の塩梅が分からないってのはあるんだよな……。けど、お母様もスレイニー先生も騎士三人は妥当だって言ってたし大丈夫だよな)

 スレイニーについては多ければ多いほど安心だとも言っていたがそこはもう人の好みだろう。

 興味深そうに街を見上げるお嬢様。

 その姿を隣から眺めていたルミアは息をついた。

 彼女は屋敷を出てくる直前の事を思い出す。

(大丈夫よ、何事もなく散歩して帰るだけ……)

 と思うも、このお嬢様が平民相手に面倒なことを言い出さないだろうかという不安がよぎり、胃が不自然に収縮するような痛みを感じる。

 ルミアの不安を仰ぐ記憶。それは公爵の執務室にて、屋敷を出る直前に公爵から直接受けてきた「娘を預ける父親からの忠告」だった。



『遂に来てしまったか……』

 と、公爵は重々しい空気で自室の机に肘をつき、組んだ手の上に額を沈めるように乗せていた。

『昨日にも頼んだが……君達、娘を頼むよ』

 はい! と騎士達がびしりと返事をする。そこには使用人であるルミアの声も掻き消され気味に混ざっていた。

『もしもの時は……何かがあれば……、彼等もあの子には手を出しはしないだろう……持たせた紋章を見れば保護くらいしてくれるだろうが……いや……だがそんな事で借りを作るのも…………。いいや、そんな事だと……? そんな事とはなんだ。娘の一大事だぞ。奴らに借りを作る事が何だというのだ…………――』

 ぶつぶつと独り言をつぶやく公爵に、騎士達は顔を見合わせはしないもののそれぞれ表情に不安の色を浮かべていた。

 ルミアも余計なことを言わず、公爵が自分達を解放してくれるのを黙って待つ。

『……まあいい。君達がしっかりしてくれていれば、何も起こらないだ』

 明るい緑の瞳が、ギラリと輝き今日娘と共に外出する騎士と使用人に向けられた。

『君達、良いね。もし娘に何かあれば……』

 ――何かあれば、首も容易くはねてやる。

 とでも言うような眼光。四人の背筋に悪寒が走る。

『は、はい! お任せください!』

 騎士の一人が声を上げ、それに続いて二人が敬礼する。

 ルミアも額に冷や汗を浮かべながら深く頭を下げた。

『任せたよ』



 ぎらついた公爵の視線は、思い出すだけでも背筋を凍らせた。

(だ、大丈夫よルミア……。四人もいるんだもの。それにこのお嬢様の性格なら、『下々の使う道や店なんてやっぱり低俗ね』とか言ってすぐに飽きて帰りたがるかもしれないし)

 ルミアは自分を落ち着かせるために胸に手を当てる。数回深い呼吸を繰り返すと、お嬢様へと視線を下げた。

「お嬢様、昼食は街でという事でしたね。お店ですが幾つか……」

「そうね。アレが食べてみたいわ」

「え……」

 公爵夫人に、きっとここがいいだろうと聞かされていた店を幾つか上げて案内しようとしていたルミアは言葉に詰まった。

 アルベラが指さしたのは大通りに展開された露店の一つだった。アルベラの示す露店では庶民向けのリーズナブルな軽食が販売されていた。

(えっ……!? わ、私は良いけど……)

「あ、の……お嬢様……本当にあちらで……?」

「ええ、あれ食べる。ほら、貴方達はどうするの? 一緒に食べる?」

 アルベラが振り返ると、騎士達は首を横に振る。

「私達は済ませてきてますのでお気にせず」

 普段屋敷でアルベラとあまり関わりのない騎士達は、彼女の要望に素直に答えただけだった。

 だが、ルミアは高級店でなければお嬢様が駄々をこねるだろうと思っていたために、予想外の希望に面食らっていた。

「……わ、分かりました。ではあちらを」

「ええ」

 アルベラとルミアが屋台を目指して歩き出す。

 その後を騎士達が続く。



 ***



(ふふ……ふふふ……、子供扱いって楽だなぁ。ちょと愛想振りまいただけで『可愛い』『可愛い』って言ってくれる)

 串にささったラップサンドの様な軽食を頬張りながら、アルベラはご機嫌に表情を緩ませていた。

(気分がいい。ついこの間(前世)までは『可愛い』なんて言われたってただの社交辞令だとか世辞としか受け取れなかったところだけど――というか可愛いなんて言われる歳でもなかったし――けど自分が子供だって自覚あると誉め言葉も言葉の裏表を気にせずに堂々と受け止められるなぁ。――けどまぁ、)

 アルベラは自分の食事が終わるのを待つ護衛達を見やる。

(……騎士三人連れてれば嫌でも接客は良くなるか)

 アルベラはつい先ほどの店主の顔を思い出す。自分とルミアが来た際には普通に接客の笑顔を浮かべていた彼は、後から騎士三人がやってきて一瞬明らかに驚いていた。すぐに取り繕っていたようだが、気軽だった接客態度は明らかに丁寧すぎるものに変わっていた。

 そしてその前に覗いた雑貨屋では「失礼があれば殺される」とでも考えていたのか、店主は顔を青くしながら笑んでいた。

(――……ま、仕方ないか)

 申し訳ないだなんて思っても無駄だ。

 だって身の安全のためにも今後の外出のためにも、この護衛達を外すことは出来ないのだから。

(うん、これも金持ちの家の子の特権……存分に楽しもう)

 アルベラは行く先々から向けられる「可愛らしいお嬢様ですね」等の言葉を「本心だろうがご機嫌取りの世辞だろうが知った事か」と引き続き有難く受け入いれる事にする。 



 食べた事のない庶民の軽食。それらの店を幾つかはしごして腹を満たした。

(そういえば食べ歩きなんて生まれて初めてね。この人生ではの話だけど。小さい頃お父様にねだったら『汚い』『危ない』『絶対不味い』って言って止められたっけ。『腹を壊すから駄目だ』『下手したら死ぬぞ』だなんて脅されたりしたし……)

 とかなり幼い頃の記憶を掘り起こし、アルベラは懐かしさに浸る。

(『我が家を敵対視する貴族が多いから、外での食事は警戒するように』……だっけ。要はお母様が言ってたあの言葉が真意だったのかな。小さい子供に小難しいことを言うより、怖がらせたり脅かしたりして遠ざけようとしたのか)

 父が本当にそういう考えで庶民の食べ物を『汚い』といったかは定かではない。だが結局は「百聞は一見に如かず」だ。

 今こうして自分の口で食べてみて「美味しい」と感じたのが真実である。 

(これからはもっと自分の目で見て確かめないと)

 生きていくうえで情報は貴重な武器だ。それはいつどこでも変わらないはずである、とアルベラは町を見渡し気になったものを見つけてはルミアや騎士達に「あれは何」と尋ねて回る。

(アクセサリー店?)

 と、次は装飾品の並ぶ出店に興味を持って足を持ち上げたアルベラをルミアは慌てて引き留めた。

「お嬢様、お待ちを!」

「……?」

「あのお店も、今日は……その……」

「なに? ダメなの?」

 唇を尖らせるアルベラに、ルミアは覚悟を決て頷いた。

「はい。公爵様から危険物には近づかないようにと」

「危険物?」

「はい。あちらに並んでるのは魔術具です。手頃なものほど制御にばらつきがあり危険なので、今日街に出たら特に気を付けるようにと仰せつかっています」

(ここで駄々をこねられてもダメなものはダメなのよ。騎士もいるし、力づくでも止めるんだから。でないと私たちの首が飛ぶ……!)

 ルミアははっきりと「今日はどうか我慢を」と告げた。

「魔術具に興味がありましたら公爵様かレミリアス様にお話しを。そうすれば質のいい安全なものを……」

 さぁ……、自分の意見が通らず機嫌を損ねるか? 駄々をこねるのか? 

 ルミアは覚悟した。しかし――

「はぁ……、そう。ならいいわ。お祭りでもやってるみたいだしあっちに行きましょう」

「え……」

(魔術具か……。ふん……。どうせお父様に言ったって『駄目』の一点張りなんだから。今まで何回頼んだことか……)

 大通りを道なりに進むお嬢様の後を、少し遅れてルミアも歩き出す。動きが鈍った彼女に騎士の一人が「大丈夫ですか」と尋ねた。ルミアは「大丈夫です」と答えてお嬢様に追いつく。

(……『今度』とか『そのうち』とか適当に言って流すんだもん……――いいわ。そのうち自分でタイミングを見て……それかお母様にもう一度頼むか、授業で扱ってもらうとか――)

 お嬢様の反応にルミアは拍子抜けしていた。

(駄々……こねなかった……あのお嬢様が……?)

「ルミア」

「――! はい!」

「何? もしかして眠いの?」

「いいえ……」

「そう。で、あれは? 時計塔の方、何かのお祭り?」

「あぁ……、はい。花祭りです」

「花祭り……。あれは見ていいわよね?」

 まさかあれもダメなの? と疑うように見上げてくる緑の釣り目。いつも通りの生意気な視線にルミアはどこか安堵していた。

「いえ、あちらは大丈夫です。ですが人が多いので十分をご注意を」

 「そう」とお嬢様は満足げに道の先へ視線を戻す。

(けど、駄々だけじゃない……。あのお嬢様が庶民の食べ物を口にした。そこらに置いてある椅子に嫌がることなく腰掛けた)

 そして今は――あんなに「汚らわしい」「野蛮だ」と貶していた平民たちのごった返す庶民の祭りに興味を持っている。

(皆が聞いたら驚くわね……。信じてもらえないかも)




 時計塔へ近づくにつれ、店や人の数も比例して増えていった。

 普段は飾られていないであろうカラフルな旗や花々がそこかしこに飾り付けられていた。一時的な物だろうに、民家の窓の近くに張られた旗には、無遠慮に生活臭漂う洗濯物が干されていた。よく見れば野菜や果物干しにも使われているようだ。

(逞しい……)

 人々の生活感を感じさせる景色も楽しみつつ、アルベラは時計との広場へとたどり着いた。

 もともと大きな通りに居たのだが、広場に着くと更に視界は開けた。広い空間が現れ、その中央にはいつも部屋から眺めていた時計台の根元があった。

 アルベラは無意識に「わぁ……」と感嘆の声を漏らした。

「久しぶりに来た。この広場、こんなに綺麗だったっけ?」

「……? 塔や広場の整備や清掃は定期的に行われているそうですが、特にここ数年大きく改装をしたり何かを変えたりとしたことはなかったと思います」

「そう」

 なら見る側の視点か。とアルベラは納得する。

 馬以外の荷を引く生き物。変わった植物。広場に舞っているよく分からない光の粒子等々、アルベラの目の前に広がる光景は新しいものだらけだった。

(今まで当たり前と思ってたものまでなんか異様だし新鮮だし……なんか素敵だし……。……あのドラゴンみたいなのだって、前見た時はもっと汚くて醜く見てたのに、今は不思議と可愛げがある) 

 人が増え、物が増え、見たいものが増え……。

 視線が定まらず歩く速度が遅くなったアルベラの横、ルミアが一応解説してくれる。

「国外からも商人が来るらしく、毎年見たことのない面白い植物がみられるんです。この時期は薬剤師や研究員が王都からも訪れて来るんですよ。北には北の、南には南の、西には西の花祭りがありますが、どれも集まる植物の種類が異なるので、その地域の花祭りでしか手に入らない薬草なんかも結構あるそうです。……あ、あと、広場の近くに美味しいと話題のパフェのお店がありまして、そちらは貴族の方のお口にも合うようです。庶民には少しお高くておしゃれなお店です」

「へー。パフェかぁ。そっちはご飯食べたばかりだし、寄るなら帰りね」

 お嬢様のその言葉にルミアは内心で拳を握る。

(言ってみて良かった。あそこのパフェをタダで食べられるチャンス)

「――時計塔、近くで見るとやっぱ大きいわね。国の中で三番目だっけ」とアルベラが問う。

「はい。一番高い塔は南にあります」

「その塔、貴女は見た事ある?」

「私もまだ見たことないです。けど少し前に親戚がその街で宿を始めまして」

「ん……? うん」

「そこで働くことも考えた事があったので、コレを見ると『あの時あちらを選んでいたら今頃私はその時計塔のおひざ元にいたんだな』とたまに思います」

「へぇ。なんでそちらは選ばなかったの」

「こちらの方がお賃金が良かったので」

(正直か)

 彼女のこういう部分には前々から気づいてはいたが……、とアルベラは目を据わらせる。



 ***



 露店に並ぶ花々をアルベラは興味深々に眺めながら歩いた。

 そんな彼女へ、ルミアは珍獣を前にしているかのような視線を向けていた。

 聞くかどうか悩んでいたルミアだが、我慢できずに遂に尋ねる。

「お嬢様……」

「何?」

「お嬢様は、こういった俗物はあまりお好きではなかったですよね」

「そうね。汚くて臭くて野蛮だわ」

 アルベラは即答する。

 その答に驚きつつ呆れつつ「じゃあもうお帰りになりたくなりましたか?」とルミアは返す。

「いいえ」

「……?」

「最近屋敷の中にも飽きて来てたの。もっと見るわ」

 と、お嬢様は先ほど露店で買った飲み物を口に運んだ。

 その何の抵抗もない姿がやはり異様で、ルミアの表情は無意識に歪んだ。

「お嬢様……――は、本当にアルベラお嬢様ですよね……?」

 その尋ねる声も、無意識に潜めるように小さく低い物となっていた。

 アルベラはじっとルミアを見あげ、生意気に目を細め首を傾げた。

「何を言ってるの? 他に何に見えて?」

 とアルベラは胸を張り片手を添える。

「入ってきた当初の貴女のお茶に文句をつけ、朝の起こし方や洋服の着せ方、髪の毛のすき方をバカにした挙句『あなたの親の躾や出生やその村もロクなもんじゃないわね』と言ったアルベラ・ディオールよ。――ごめんなさいね。あの頃は紅茶の荒さによって蒸らす時間を変えなかったり、ましてや沸騰したお湯をすぐ注ごうとする人がいるなんて知らなかったの。それもこれも私が一般的な家庭の生活レベルを理解していなかったせいだったのよね。今ではあなたがどれほど貧しく惨めな家庭環境の中で育ってきたか、事情や気持ちにまで想像力を回すことが出来なくて済まなかったと思ってるわ」

「……」

(あ、今『このクソガキ』って思った)

 というアルべラの予想は的中である。

 恥ずかしさを堪えてか、怒りを堪えてか、ルミアの目元はぴくぴくと震えていた。

 つらつらと並べたアルベラの言葉に、共にいた騎士たちはそれぞれ聞かなかったふりでもするように視線を泳がせていた。

 高慢なお嬢様らしい態度をとれて満足しつつ、「ほら、あっちも見たいんだけど」とアルベラは彼女を促す。

 ルミアは深く息をついて頭を振った。

「分かりました……」

(私が物分かりが良くなって怪しんでた? けど悪いわねルミア。いくら疑われても私は私なの)

 さぁ、もっと広場を見るぞ、と進もうとしたアルベラの肩を捕らえ、ルミアはエプロンを差し出す。

「……?」

「お嬢様、この先さらに人が多くなるので、はぐれないようにこれを握っていていただけますか」

 アルベラは「あぁ……そう……」と頷き、差し出されたエプロンの端をじとりと睨んだ。そしてむんずと掴む。

(こいつ、今は腹立ってるから手は繋ぎたくないってか……)



 アルベラは好奇心に誘われるまま足を進め足を止める。そんな中、今アルベラが品を物色している屋台、その店主が軽快に声をかけてきた。

「ほら嬢ちゃん。この花、嗅いでみ。凄いいい匂いなんだぞ」

 屋台に並べた色とりどりの花の中から、店主は一つの鉢植えをアルベラへと差し出す。

 店主の人懐っこい笑顔に無警戒にアルベラは店主の差し出した鉢植えにさす花――ハイビスカスに似た大きな赤い花――へと顔を近づけた。

 後ろで見ていた騎士の一人が、「あ、お嬢様それは」と言いかけたが間に合わなかった。

 ――すぅ……

 なんの疑いもなく匂いを嗅ぎ、アルベラはパッと息を止め吐き出した。

(――くさ!)

「な、なにこれ……ちょ、なにこれ……!!」

 目が潤むほどの悪臭にアルベラは鼻を抑えた。

「かっかっか! 良い吸いっぷりだったな嬢ちゃん!」

 店主は悪戯が成功し豪快に笑った。

「エリグランジェって花だ。俺らはエリーなんて呼んでるんだが、どうだい? 庭に植えときゃ人避けになるよ、臭くて泥棒も近寄らねぇ」

「そんなものを植えたら家主の鼻も曲げられてしまうではありませんか」

 ぴしゃりとルミアが抗議する。

「すまんすまん。今のは冗談だ。――けどこいつは本当に凄い花なんだよ。根も葉も花びらも、あますとこなく薬になる。開花期間も短いからこの臭さも一瞬だしな。明日にはしおれて、次はこっちのつぼみが開いてるだろうよ。珍しいから結構値が張るんだぜ」

「ああ……へえ、そう……」

 アルベラはハンカチを鼻に当て、目をそらして素っ気なく返す。

 まんまと騙され拗ねる少女。店主は頭を掻き苦笑する。

「騙して悪かったな……ほら、お詫びに持ってけ」

 彼がアルベラに差し出したのは小さく膨れた布の小袋だった。

 アルベラは警戒しつつもそれを受け取る。

 手触りで中に石ころの様な物がいくつか入っているのが分かった。

「エリーの種だ。このサイズまで育てるには結構コツがいるが、興味があったら試しに植えてみるといい」

(臭い花のお詫びが臭い花の種……)

 それはお詫びの品として正しいのか、と思いつつアルベラはそれをポケットにしまった。

「いいの? 珍しくてお高い花なんでしょう?」

「まぁな。特別だぞ、嬢ちゃん。本当なら一万リング以上の買い物をしてくれた人だけに配ってる品だ」

 店主は店に置いていた看板を示す。

 そこには「三千リング以上のお買い上げで〇〇の種プレゼント、五千リング以上のお買い上げで〇〇の種プレゼント、一万リング以上の買い上げで――」とおまけの品について書かれていた。

「あら、商売上手」

「へへへ、だろう?」

「ありがとう、おじ様。けど、さっきの『全部薬になって高価』て話が嘘だったらただじゃおかないから」

「おう、安心しな! あれは本当だ!」

 悪びれた様子もなく「かっかっ」と笑う店主に、神経の図太さを感じた。アルベラは「流石商人」とその図太さに感心し彼の店を後にした。

 



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