409、ブレントの行方 1(蟒蛇の呪い)
「そう……、お嬢様とブレントが水路に……。……警備兵が……そう……分かったわ。しっかり弔ってあげて。私からも水路の事と王都内の警備については上層に一報入れておくわ。で、ご令嬢の様子は? ……ふぅん。何も無いようなら良かったけど。……けど随分図太いものね。……はぁ。明日は園に行く前にここ(癒しの教会)に立ち寄るよう伝えて。そうね、相手の立場も立場だし、聞き取りは白光から……――はあ? 貴族が苦手だからなぁに? そんなんで時期聖女の候補ともあろう白光が勤められるの? これも修行と思って――」
『でででですが……お言葉ですが、聖女様……! この癒しの教会で”時期聖女”が聖女になったのはメイク様以降一人も』――プツ!
「長いこと健在で悪かったわね!」
相手が言い終わる前に通信機を切り、癒しの聖女メイク・ヤグリーチェは「ふん!」と大人げなく鼻を鳴らす。
子供の姿のままの彼女は、子供さながらにぱたぱたと椅子からぶら下げた足をふった。
「あーやだやだ! 王子様といい公女様といい、なんでネズミみたいなことを! 好奇心が高すぎるのよ! 怖いもの知らずね! もうっ! 関わってる人間の首が飛びかねないっていうのに、好き勝手しないでほしいものだわ。聖女だから首が飛ばないとはいえこっちにも名誉ってものがあるのに」
片や人の目を盗み自分から水路へ潜り込み、片や事故で巻き込まれ数人で流された。と、前者については自身の目により、後者については報せをうけてメイクはそれらの出来事を把握していた。癒しの教会の敷地内を舞う蝶の中には、常に癒しの聖女の目が混ざっており、その目の一つが水路へ入るラツィラスの姿を捉えていたのだ。
(……あの子ったら、私にばれてないとでも思ってるようね。けど残念でしたー! 聖女様はぜーんぶお見通しなんだから! 一体この私が何十年王都の平和を見守ってきたと思ってるのかしら!)
一人の部屋で、ころころと表情を変える彼女は子供のように誇らしげになったかと思えば、息をつく間にがらりと大人びた顔つきとなる。指先で机を叩きながら、小さい頃から見守ってきた第五王子の成長を脳裏で追っていた。
(――……邪魔なんてしないわ。復讐であなたの憂いが晴れるなら、それもきっとこの国にとって必要な事)
メイクに彼の目的を――多分これから近いうちに、彼が行おうとしている事を止めるつもりはない。
(私はただ、事がどう転ぼうと見守るだけ。――でも……けど――だ け ど ! こっちはどういう訳かしら)
蝶は水路へ入ると直に消滅してしまった。あの場所では魔法で作られたものは解かれてしまうのだ。一部、肉体の強化などで人の体内にて展開されている魔術等はまだしも、魔力の塊がむき出しの状態で漂っているような聖女の目(蝶)は水路に掛けられた魔術との相性が悪い。だからメイクが水路の中のすべてを蝶の目で見ることは不可能なのだ。今回ばかりはその相性を恨めしく思った。
(あのご令嬢の周りでいったい何があったの?)
神の祝福の一切を受け付けない公爵のご令嬢。そんな人物を、神に仕える聖女が信用するにはまだ色々な材料が足りていない。
聖女見習の少女に嫌がらせをするという罰当たりな所業に加え、迷い込んだ水路の先で彼女に親しい者以外が全滅してしまったのだ。しかも金貨を奪い合ったなどというくだらない理由で。金銭の価値を馬鹿にしているわけではない。だが、今まで訓練を共にしてきた仲間たちの命が、一時の欲求で金銭より下に覆ってしまうわけがない。
(まさか狂わされたんじゃないでしょうね……)
ある人達は「厄物」(ヤクブツ)と呼び、ある人たちは「不吉の匂い」と呼ぶ哀れな器――または魂。神に見放され、その隙間を負に付け込まれ、魅了された彼らは自身を破滅させながら幾度となく周囲に災いを振りまいてきた。言わば生きた呪物だ。
あれらに関わって、普通の人々が幸せになることはない。
聖職者、または聖女の本能がそう知っているからこそメイクが見るアルベラの目は慎重だった。
(園から悪い報告は聞かない。けどあんなの、見ていて不安でしかない。不吉……とは言い切れないのかもしれないけど、けど、園に行かせた私の判断は正しかったのかしら。もし警備兵達のようなことがあの園でも起きたら……)
「あーあ。やんなっちゃう」
天井を仰ぐメイク。不安が混雑する彼女の頭の中、古くから聖女たちが保ってきた古の陣が浮かんだ。
先人たちが描いた守護の陣。その更新の代に、神の寵愛や加護を受ける子供たちが例年より多く王都に集まった。それだけならまだ安泰だったものを、そこに紛れ込む一粒の不純な種……。これは偶然なのか。それとも神の思し召しと、神に反する何かの策略の結果なのか。
(守護を途絶えさせるわけにはいかない……。可哀そうだけど、ユリには早く成長してもらわないとね。まずは魔力のコントロールなんだけど――)
***
水路に閉じ込められるという事件に巻き込まれた翌日も、アルベラの養護施設でのお勤めは変わらずだった。
「はぁ……」と洗濯物を干しながらため息をつくアルベラへ、共に今日の洗濯当番であるシャロウが心配そうに声をかける。
「ベーラ様、大丈夫ですか?」
「えぇ。ちょっと寝不足なだけ」
というのは嘘で、この心労は教会からの呼び出しによるものだった。昨晩のうちに便りが届き、午前中に癒しの教会にて昨日の出来事の説明を求められたのだ。
アルベラにとって災難だったのは、ついでにと祈祷のようなことまでされた事だ。「神の祝福による浄化」だとその日アルベラの聞き取りを担当したシスターは言っていた。シスター的には気を利かせたつもりだったのだろう。それは短い祝詞と共に、草花をはたきのように払い、水を数滴かけられるというものだった。とても簡易的な儀式で、アルベラも何度か過去に受けてきたことがあるのだが、それは昔から変わらずアルベラにとってあまり好ましいものではなかった。
(朝から何て不運……。けど昨日のうちにあの靄を片付けておいてよかった。あのまま今日まで持ち越してたらどうなっいたことか)
「もうー! 寝不足だからー! 私の手紙の返信ー! あるのに忘れてたりしてませぇーんー!?」
アルベラとシャロウとブレントが洗濯物を干す中、それを手伝いもせずにチェルシーが木陰からふてくされた声を上げる。
(あの子ったら、手は貸さない癖に口はしっかり出すんだから……)
アルベラは呆れる。
「あなたね、」
高位の貴族のもとで働きたいなら、低位な相手にもこういう時にしっかり媚の一つも売っておくものよ。とでも言おうとしたが、暗い瞳に見下ろされ言葉を止めた。
「やっぱり昨日のことが堪えたんじゃありませんか?」
「え……、あ、ブレントさん」
「疲れたら無理せず言ってくださいね」
高く上った日を背に、こちらを見下ろすブレント。
「ありがとうございます。けどお気にせず」
アルベラから見る彼の表情はいつもの柔和なものだ。だというのに、なぜ彼の瞳の光が以前より失われているように感じるのか。彼のあの茶色い髪は、こんなにも乾いてぱさついていただろうか。それになんだか……
(嫌な匂い)
たまに、うっすらと顔をそむけたくなるような匂いがしていた。彼は前からこんな匂いを漂わせていただろうか。
「ブレントさんこそ大丈夫ですか? 気分が悪そうに見えます」
そうだ。よく見れば顔色だってどこか悪いように――
「私がですか?」
アルベラに問われ彼は軽やかに笑った。
「とんでもない。とても気分が良いんです」
「何かいいことでもあったんですか?」とシャロウが彼の後ろで使い古されたシーツを干し、広げながら尋ねる。彼女には見慣れた彼がどう映っているのだろう。
「あぁ。最近いい上着が見つかってね」とブレント。
「わぁ、新しい上着を買ったんですか? いいですね」とシャロウ。
「いいや。まだ購入はしてないんだよ。ちょっと手入れが難しそうだからさ。少し準備してから手に入れようと思ってるんだ」
二人のやり取りをどこか遠くで聞いているような気分でアルベラは眺めていた。
彼の艶のない爪が気になる。柔らかさを感じない頬が気になる。暗い瞳の奥で、なぜか生き生きとしている彼の感情が見え隠れしているようで――
「……夏も手前に、上着が欲しいんですか」とアルベラが呟くように話に乗る。
「あぁ」
ニタリ、と彼は今まで見せたことない笑みを浮かべた。
「防寒用じゃないからね」
アルベラは肌が粟立つのを感じ己の腕を撫でた。
『ブレントさんですか? いつも通りに見えましたが……。――顔色? 確かに……言われてみたら悪かったような……? また妹さんの体調が悪いんでしょうか? ――え? あ、そうなんです。ブレントさんには妹さんがいて、もともと体が弱いらしく、たまに体調が悪化するそうなんです。お兄さんと一緒に看病しているそうなんですが、妹さんの体調が酷いときは寝ずに看病することもあって、そういう時はあくびを沢山してるんですよ。そういう日は園長さんも休んでいいって言ってるそうなんですが、真面目な方なので』
魔法学の実技の授業。アルベラは先日のシャロウとの会話を思い出す。
(本当にそういう事だったのかな)
なんとなく次のお勤めでブレントに会うのが怖かった。
「アルベラ? どうしたの?」
いつの間にか授業も終え、無意識に歩いていた道中、スカートンがアルベラの前で手をはらはらと振っていた。
「考え事をしててもあんなに動けるなんて。アルベラの運動神経が羨ましいわ」とスカートン。
実技の授業が終わると、皆そのまま後の授業は運動着のまま受けるのが常となっていた。アルベラとスカートンも同じく、運動着のまま食堂へと向かう。
スカートンとアルベラが歩いていると、そこに特待生のイチル・ニコーラが加わっていた。「これから昼食ですか? ご一緒しても?」と尋ね、アルベラとスカートンの了承を得て彼女は一緒に並んで歩く。最近、イチルからアルベラに話しかけることが増えていた。例の迷惑な令息の手紙の件をたまに報告しに来る延長で、当たり障りない会話も増えていったのだ。
「私はお弁当なので、席取っておきますね」とイチルが先に席へと向かう。
「どうしたの? まだ考え事?」
メニューを眺めるアルベラの、心ここにあらずな視線に気づいたスカートンが尋ねる。
「ちょっとね。例の養護施設で気になることがあって」
アルベラは声を潜め、メニューを眺めたまま答えた。
「そんなに大変なの?」
「……大変じゃない……ような、大変なような……。と言っても一般的な雑用とか家事みたいなことしかやってないんだけど」
仕事内容が問題ではないのだ。会いたくない人がいる。生まれながらに高貴な立場だったこの人生で初めてかもしれない感覚だった。行きたくない。けど行かなければいけない。普段のアルベラなら実家の太さを盾に、嫌な人間がいればその者を排除すればいいだけの話。
だが、今回は聖女の関わる施設にいる人材だ。彼の空気が妙だからと、園長に訴えでもすればそれは聖女の耳にも届き、我儘認定の上余計なお小言をもらう羽目になるかもしれない。
(ブレントさんの件は、次に行った時にまた確かめてもいいかも。そこでもやっぱり様子がおかしかったら、園長に言うかこちらで彼について調べるか――いや。もう調べておけばいいのか)
「――あぁ、そうだ」
「なぁに?」
「友達が見学したがってるって話したら、園長が快諾してたよ。スカートンの都合がつく時にいつでも来てくれって」
「本当? わぁ、ありがとう。お母さんに話してみるわ。最近あんまりアルベラと遊べる時間もなかったし、学園外で一緒に何かできるの嬉しい」
お花の妖精が微笑んでいる。
スカートンの眩い笑顔をそんな風に例えながら、アルベラは頭の片隅でブレントのことを考えていた。
***
「誰もいない?」
数日後。次のお勤めを翌日に控えたアルベラは、自室でビエーの報告を受けていた。
「一昨日に依頼した情報屋は? あいつら前払い分を持ち逃げしたって事?」
腕を組み方眉を寄せるお嬢様に、ビエーは首を振る。
「いや。そこのボス曰く担当の奴はまだ戻ってきてないそうだ。そいつにはまだ一銭も払われてないらしい。逃げたところで特は無いだろ」
「妹や兄がいるって話だったけど」
「形跡はあった。確かに三人で生活してたはずだ。けどその形跡がちと古いな。食品が全部痛んでた。数週間は空いてたはずだ」
「じゃあ、ブレントさんはここ数週間その家は使ってないと。ついでに妹と兄も消えたと」
「そういうことだな」
「……どういうこと?」
「さぁ」とビエーは肩をすくめる。
「せめてあの兄ちゃんが見つかったならな。そいつを付けて帰る場所くらいは突き止められただろうが」
「ブレントさんも消えたの?」
「らしい。俺らが人を雇った日を最後に園に顔を出してないそうだ」
「は……」
訳が分からない。余計にもやもやが積もった。あの何とも言えない不快感が、得体のしれない恐怖が皮膚の内側にへばりつくようだった。
「気味が悪い……。けど仕方がないか……」
アルベラはしばらくして口を開いた。
「明日も変わらず園へ行くけど、ビエーとエリーは絶対私の傍を離れないで。何もなきゃいいけど、園の子達にも目を配って」
厄介な空気は察しているだろうビエーが「あぁ」と重々しく頷く。エリーも「勿論です」と警戒を孕んだ笑顔で答える。
「ガルカも、明日は私の近くで見張ってて」
「くくっ、気が向けばな」
「はいはい、頼もしわ」
当然来るだろうというアルベラの返しに、ガルカは気に入らなそうに舌を打つ。
「コントンは……今はお散歩中か」
(水路を見に行ってくれてるのかな。あれからできるだけ水路を見に行ってほしいて頼んだら、散歩のときに行ってくれるみたいだし。コントンには帰ってきてから明日は一日一緒にいてもらうようお願いしよう)
「はぁ……。じゃあもうかいさーん」
アルベラの掛け声でビエーがのそりと立ち上がり「お疲れさん」と挨拶を残して部屋を出ていった。
エリーはというとソファーの上で動く様子のない奴隷をニコニコと眺めている。
「いいわよ。持ってって」
「はい」
どたばたとガルカとエリーが攻防を繰り広げ、無事ガルカも部屋から引きずりだされていくのを見送る。
「はーい。おやすみー」と廊下の奥へ手を振りアルベラは扉を閉めた。
(私も明日の準備をしておこう。できるだけ防犯用の道具を服に仕込んで――そうだ。水路の件、八郎からの返事、まだ確認してなかった……)
窓際の勉強机のもとへアルベラが向かうと、ぱたたた、とスーがベッドの天蓋から窓際へと移動した。彼女はカーテンへ紛れるようにぶら下がるとアルベラを見下ろし首を傾げた。アルベラがスーの動きを目が追う中、視界の端、窓の外に細い影が映ったような気がした。
改めてそちらにピントを合わせば、つるりとした輪郭が月に照らされ「あぁ、蛇か」とアルベラの脳が理解する。
幸い窓は閉じているのであれが部屋に入ってくることはないだろう。と、眺めていると、ヘビのつぶらな双眸に視線が釘付けになった。
どこかで見たような、暗い色――
(――そうだ、ブレントさんと同じような乾いた)
『残念だったな。俺の方が早かったようだ』
「は? ――っぐ!!」
だん! と背中から倒れこみ、アルベラの背に痛みが広がる。風を感じ、とっさに「誰か、」と口を開くも直ぐにそれは塞がれる。
冷たい何かが、アルベラの頭部を覆い、そのまま腕を抑えるようにぐるりと胴体に巻き付いて締め付けた。力の加減も知らないようで、アルベラの体の中で骨がきしむ。
目も覆われているはずなのに、視界は完璧に閉ざされてはいなかった。
だから半透明な蛇腹と鱗、シュー……シュー……と聞こえる、必要もないはずの息遣いに、アルベラは自身を抑えるものが何なのかを目で理解した。
蟒蛇だ。大きな蛇が、アルベラの上半身に巻き付き押さえつけていた。しかも本物の動物ではない、魔獣か魔法・魔術による蛇の形をした何かだ。
「ぐぅ……ふっ……」
『おっと。死なれたら困る』
締め付ける力が弱まる。だがアルベラの腕力で引きはがせる代物ではない。
声は窓の外から聞こえていた。多分あの小さい蛇だろう、とアルベラが視線を動かすが、位置的にその蛇を捉えることはできなかった。
『魔法を使ったらもっと苦しむことになる。大人しくしてるんだな。――はぁ。俺はいつでも良かったんだぜ。けど丁度、お前らが明日から準備万端でくるって話を聞いたもんだから。どうせなら警戒が強まる前に仕掛けたほうが楽だろ?』
悔しいがその通りだった。
アルベラにはブレントという人物の正体が、目的が何なのかわからなかったから。だからまさか、あちらがここを訪ねてこようなどは全く予想していなかった。もしも相手が自分を狙っていると、はっきりそうわかっていたなら、こうして彼女は一人になることはしなかっただろう。
『うーん。これじゃあ駄目だな』
「う……ぐ……」
一体これは誰なのか。どんな用があってこんなことをしているのか。尋ねるどころか考えることも叶わず、アルベラはただ首を絞めつけられる。苦しさのあまり、噛みしめられていた口元が開いてくると、ヘビは『よし、こんなもんか』と呟いた。
アルベラを見下ろして蟒蛇は、細く開いた彼女の口を鼻先でこじ開け、その体をずるずると口の中へと押し込んでいった。
蛇の形をした何かが体に入ってくる。そのあまりの苦しさに、アルベラの目に涙が浮かび、体が反射的に抵抗する。何かを考える余裕さえもない。
「――!? ――!!!」
バタバタと脚が藻掻くが、残った蛇の下半身はしぶとくまだ彼女の胴体を締め付けていた。
嚙み切ろうにも嚙み切れない。自分よりも強すぎる相手の力に、アルベラはただ耐えるしかなかった。
ずるずると得体のしれない何かが自分の喉を通っていく。それは腹にたまるでもなくどこかへ消え、だが確かにその存在を体の中に残している。
『無事全部入りそうだな。本当に、器は良いくせにその他は全くか。哀れなもんだが妬ましいね』
ずるずる……ずるずる……――
(うるさい――苦しい――気持ち悪い――)
体の中にヘビが這う音を聞きながら、アルベラは長い時間を耐えた気がした。
ぐったりとし、意識が朦朧としているアルベラの口に、半透明の蛇の尻尾がしゅるりと消えていく。
『よし。ひとまず用は済んだ。準備ができたらまた来る』
そう言って窓の外にいたヘビは何処かに消えてしまった。
苦しさから解放されアルベラは薄く目を開き沈みかけた意識と戦っていた。蛇の締め付けが無くなったというのに体がとても重かった。朦朧とした意識の中、何度か体が起き上がろうとするもついた手は自身を支えきれずに頽れる。
気づけば彼女は夢の中におり、終わったはずの苦しみが、体の中で蛇の這う音が、終わらない悪夢となって彼女が眠りから覚めるまでうなし続けるのだった。





