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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第4章 第一妃の変化(仮)
407/411

407、地下水路にて 4(出口)



 アルベラは子供を抱えたまま後ろへ下がる。

「あつまった」

 抱えていた子供が言った言葉にアルベラが「え?」とこぼす。

 目を覚ますもぼーっとしていた子供は、その言葉を最後にまた目を閉じて気を失ってしまった。アルベラの手を掴んでいた手からも力が抜け、子供の両手は操り人形の糸が解けたように垂れ下がる。

「ちょっ」

 アルベラはバランスが崩れた子供の体を抱えなおす。そこまで重くはないが、やはり軽かろうと重かろうと人を抱えて走る以上制限が生まれる。思うように動くことはできないだろうと、何かあればガルカが守ってくれることを祈った。



 ビエーはというと腰に差していた長剣で相手の剣を正面から受け止めた。

 警備兵達の鎧なら今までさんざん見てきたし自分も彼らを装い同じものを着たこともあった。

 彼らの鎧は動きやすさと急所への防御を重点に置いたものだ。体の中心部分のプレートは厚く、腕や脚を覆う鎧は動きやすさに重きをおき軽い素材で作られている。小手から肘までは数枚のプレートが連結され、間に鎖帷子くさりかたびらを覗かせ、また二の腕から肩部分をプレートアーマーが覆う。脚部分も腕と同じような感じだ。太ももは腰当が覆っているので鎧は省略され、膝下から足首、踵へかけて鎧が覆っている。――そして、顎下でベルトを止めるタイプの帽子のような簡易的な兜。

 兵士の大ぶりな動きの隙間を縫うのは簡単だった。兵士が剣を持つ方の肩、右肩のプレートの間にズルリと剣を差し込み抜き取る。

「うぉぉぉぉ! ふっざけんなぁぁぁ!!」

 一応痛みはあるようだ。相手が肩の痛みに動きを鈍らせてる隙にビエーは兵士の兜を蹴り上げた。靴との衝突とは思えない金属同士がぶつかりあう高い音を上げ、兵士の兜は首紐を軸に後頭部側へずり落ちる。それとともに兵士の額に赤い線が走った。靴の仕込み刀だ。あまり深くは切り付けられなかったようだが、額の血で視覚の邪魔程度にはなったようだ。

 兜を蹴り上げるとビエーはすぐに後方へと下がり兵士と距離を作る。持っていたロングソードを腰にしまい、片腕をぶら下げながら走ってくる兵士を数本の短剣で向かい入れた。

 兵士は利き手ではない方の手で握った剣を大きく振り上げる。

「金貨ぁぁぁ! 金貨は俺の オッ――」

 ――タン

 ――トッ

 ――トッ

 小気味良い軽い音が聞こえたかと思えば兵士の体は前へ傾ぎそのまま倒れこんだ。

 兵士の肩と頭部から、真っ赤な血が流れだし地に広がる。

「三つもいらなかったか」

 ビエーは兵士の眉間と左頬と、兜がずれ堕ちて露わとなっていた耳下の首筋から短剣を抜き取りながら相手の死を確認する。まだ気を抜けない。そう本人も意識しているも、予想外の出来事というのは防ぎようのないものだ。

「さて……――な、んっ」

 短剣を拭いて腰にしまう間もなく、ビエーは一瞬で真っ黒な靄のような塊に包まれて倒れた。

 薄暗い中で目立つ一際黒い黒。

 離れた場所から見守っていたアルベラは、それが兵士の体から抜けビエーを通り過ぎこちらへと向かってくるのを認めた。

 アルベラは言葉なく咄嗟に子供を下ろし後方へ逃げる。なんとなくあの靄は自分目掛けて飛んできている気がしたからだ。

 ガルカはと言えば、「来たな」と呟き、つい前に出た体を片足を踏み出し堪えた。アルベラが金貨を拾った時、あの靄が金貨から出てアルベラの手へと吸い込まれるのを目にしていた。だから、あの金貨をまともな人間が拾っていたならどうなるか、拾いに拾い、集めるだけ集めた人間がどうなるか想像はできていた。そしてその人間が死んだとき、あの靄はどこへと流れだすかも――今目にしている通りだ。

 アルベラは全力で後方へ走るも靄は人の脚の数倍早かった。あっという間にアルベラへ追いついたそれは、加速したまま彼女の背中から入り込んでいった。

「――!?」

 その時アルベラが感じたのはちょっとした振動だった。痛みや苦しみは全くない。饅頭のように柔らかい何かが連続して背中に衝突し、視界が揺れる感覚。数メートル走り、あの黒が全く視界に入ってこなかったことに違和感を覚え脚を止めた。

 振り返り確かめるも、そこにあの黒はなく、床に寝かされた子供と何をするでもなく壁に片手をつきこちらを眺めるガルカ、床に倒れ泡を吹いているビエーと、ビエーに倒されてこと切れた兵士の遺体があった。

 彼らのもとへ戻り、アルベラは問う。

「ガルカ」

「なんだ」

「いま、黒い靄の塊がこっちに来てたでしょ?」

「あぁ。お前の中に全部入った」

「全部?」

「あぁ」

「ビエーは?」

「あれを正面から浴びて気絶したな。目を覚ましたら気が触れてるかもしれん。気をつけろ。ダークエルフをやった時と同じだ」

「それって、ビオさんの」

 アルベラはビオから聞いた話を思い出す。黒い靄の塊、その一片に触れただけで耐えきれないような絶望を感じたという話。彼女は耐えきれなくなって自決を選ぶも幸いミミロウに止められたのだ。

「あの女は自決を選んだが、全員そうとは限らんからな。念のため拘束できるならしておけ」

 ガルカは兵士の遺体をまさぐり、そこから捕縛用のロープを引っ張り出し「ほれ」とビエーの体の上にほうった。

 アルベラはしばしそれを呆然と眺め、「いつ起きるかわからんぞ」というガルカの促しにより我に返る。

「あんた」

「なんだ」

「もしかしてあれが来るのを見てるだけだった?」

「あぁ。俺まで気が狂ったら貴様は処理しきれるか?」

「……いえ」

「そういう事だ。あれは人を狂わす。考えなく触って自滅するより、霧を飲み込んだ貴様をどうにかする方が建設的だろう。どうせ貴様はアレの影響を受けないんだ」

「そうだけど……ねぇ。私の目どうなってる? あの時みたいに見るからにおかしい? あと霧も。見た感じ漏れ出てはないみたいだけど」

「ふっ、いいだろう。確認してやる」

「え?」

 アルベラが顔を上げると目の前には既にガルカがいた。

 音も気配も一切なく、いつの間にと驚いているアルベラの両頬をガルカの両手が包み込む。

 ずい、と迫る金色の両眼。

「――ちょ、……ま」

 「ふむ」とガルカは指先で目元を撫でる。口元が嬉しそうな弧を描き、その片手の親指がアルベラの唇に触れた。

「っ、わああああああああああああああ!!!!!」

 アルベラは両手で目いっぱいガルカの体を押し身じろいだ。アルベラの大声が水路内に反響し、アルベラ自身の耳の中にもぐわんぐわんとその余波を残す。

「どうした、気でも触れたか?」

 ガルカは両手を上げてアルベラから離れクツクツと笑った。

「この変態! セクハラ! 近寄らないで!」

「もう離れているだろう」

「けどもうああいう風に寄らないで! あ、あんた、ついに――キ、キ……キスしようと……」

「汚れがついていたからぬぐってやっただけだ。自意識の強いやつめ。被害妄想も程々にしろ」

 アルベラはぐっと唇をかみしめる。ガルカはアルベラを嘲笑したまま続ける。

「幸いにも、霧はあの時よりも大分少なかったいみたいだな。目の奥をよく見なけらばわからないだろう。それでも多人種の鼻はかなり刺激されるだろうが……ここにいるのは殆どヌーダだ。人目を気にするほどの量じゃないだろう」

「……じゃあ、ビエーも体をすり抜けられはしたけど」

「さぁな。それはあの男とあの霧の相性もある。相性が悪ければさっきの霧でも十分精神がやられてるだろう」

「そうね……」

 アルベラは息をつき、目の前のガルカを大げさに避けてビエーのもとへ行った。

 兵士から盗ったロープでビエーの手足を縛り、起きた時錯乱して舌を嚙まないようにとハンカチを口にくわえさせる。

 ビエーへの対策を終え、「さて」と立ち上がると、アルベラは死んだ兵士の体を調べた。引っ張り出し集めたのは例の金貨だ。

「はっ、貴族が追い剥ぎとは笑えるな」

「他の人が触ったら危ないんでしょ。何かに使えるかもしれないし。これが何なのか調べたいし」

「調べるも何もそれはもうただの金貨だ。それに宿っていた ”負” はすべて貴様が吸収した」

「そうなの?」

「あぁ。見たところな」

「そうなんだ……じゃあ」

 とアルベラは数枚の金貨を抜き取りほとんどは死んだ兵士の懐へと戻した。

(帰る途中道に落ちてたら回収しておけばいいか)

「なんだ、せっかくの金貨だろう。いいのか?」

「……思ったけど、ここを出た時この人たちの遺体の回収を頼まないといけないでしょう。その時、この人たちが金貨を奪い合って仲間割れをしたっていう証拠が必要じゃない」

「別に、金貨じゃなくともただ錯乱して喧嘩をしだしたとでも言えばいいだろう」

「そうだけど、できるだけ怪しまれる芽は摘んでおきたいと思って」

「金貨があろうがなかろうが変わらないと思うがな。ところで、少し調べたいくらいなら一枚でもいいだろう。貴様今、何枚懐へしま――」

「あー! そういえばコントンはまだかしらー?」

 白々しく声を上げたアルベラ。それを待ってましたと言わんばかりに、先ほどの靄とは別の真っ黒な塊が、地面からものすごい勢いで飛び出しアルベラの上にのしかかった。



 ***



 皆が錯乱した兵士に注目していた中、ガルカだけが他の音を探し、よそ見をしていた。

「コントンか?」

 ――バウ!

 道のどこからでもない。少し離れたどこかから、コントンの帰る声があった。

 少しの間をもって、走ってきた勢いのままという様子でズルリと地面からコントンの鼻先が飛び出る。ハッハッハと呼吸を繰り返すコントンは少々興奮しているようだ。

「出口は見つかったようだな」

『ミチ グチャグチャ。 ケド ニオイデ デレタ。 アト カゲノナカ グチャグチャジャナイ』

「ほう、影の中は正常か。流石にそちらにまで術をかける手間は取らなかったようだな。だがその道は他の奴らは出られんだろう」

『チョット トケルカモ?』

「ハハッ、いいな。試しにあの傭兵と子供だけ通してみるか」

『アルベラ オコラナイ?』

「さぁな」

 ――「金貨ぁぁぁ! 金貨は俺の」

 ――タン

 ――トッ

 ――トッ

 兵士にとどめが刺されたようだ。

 コントンはスンスンと鼻を動かし額の目を開いた。黄色い白目の中で赤黒い瞳がぎょろりと開き倒れた警備兵の方を見ている。口端が嬉しそうににたりと持ち上がる。

『アスタッテ様――!』

「だめだ。後にしろ」

 じゃれつきにでも行こうとしたのか、地面から踊り出ようとしたコントンの額をガルカが踏みつけて抑える。

 なんで止めるのかと、コントンから怒り交じりの唸りが上がった。

「いいから今は待て。あいつに呼ばれたら出てこい」

 ――ガウゥ……

 不満の唸りを残しコントンは影へと沈む。

 そうやって影の中から愛しい ”負” の匂いと楽しそうな混乱や血の匂いを嗅がされながら、まだかまだかと待ち続ける事暫く。

「あー! そういえばコントンはまだかしらー?」

 と彼女が自分を呼ぶ声を聴き、コントンの我慢の糸はぷつりと切れた。

『アルベラァ!!』

 ――ワオォォォォォォォォン!

 「地の底から響く亡者達の声」とも例えられる幾重にも重なる声と狼のような遠吠えを上げコントンはアルベラへとしがみついた。

 狭い水路の中コントンの後ろ脚は水に浸っているがそれはどうでもいいことだった。

『アルベラァ!! アルベラァ!! アスタッテ様ァ!!』

 ――ワオォォォォォォォォン! オォォォォォン!

 ハッハッハッハ、と大興奮でコントンはアルベラを舐め、大きな鼻を擦り付ける。

「うっ、コント……ちょ……まって……」

 普通の犬のように唾液でべたべたになることはないが、重たい霧が全身にまとわりつき、体温が奪われていく感覚にアルベラは恐怖を覚える。

「いい加減にしろ、そのままそれが死んでもいいのか」

 ガルカに言われ、コントンがはっと動きを止めた。

『アルベラ シヌ ヤダ』

「ならさっさとそこをどいてやれ」

 「クゥゥゥゥン」と悲しげな声を上げ、コントンはアルベラの上からしぶしぶ降りる。

 アルベラは解放されて起き上がろうとするが、耐えきれず摺り寄せられたコントンの鼻に押されて倒され、押されて倒されを数回繰り返しようやくまともに立ち上がれたのだった。



「よし。じゃあいきましょうか」

 水路には他に人の気配はなく、子供も気を失っているのをいいことにアルベラは子供とビエーをコントンに運んでもらっていた。

 コントンが全身を出すにはようやくという広さなので、コントンは頭だけを出しそこに二人を乗せていた。

「魔獣が入らないよう整備されてるって言ってたけど、コントンは大丈夫?」とアルベラ。

 ――バウ

『デグチ イヤナシルシ アッタ。ナカニモ スコシ。 ケド ヘイキ』

「出入口に魔獣除けの強い魔術を施し、中にも魔力制御の物と合わせ軽いものを施しているのだろう」とガルカ。

「コントンはへっちゃらってわけね。凄い」とアルベラ。

『ヘッチャラ ヘッチャラ』

 ――バウ! バウ!

 いつもよりご機嫌なコントンも可愛いものだ、とアルベラは思う。しかし、あの人を食べてしまいそうなほどの興奮は身の危険を感じた。早くアスタッテの墓へ行き、体内の靄は回収してもらう必要はあるだろう。

(ここを出たらすぐに王都から一番近い塔へいかないと。セキレイ園へ戻るのはその後)



『マッテ ミチ カワル』

 見た目には分からないが、アルベラはコントンに言われるがまま分岐する道の前で足を止めた。

 ガルカはコントンの言葉の後に道の先から聞こえてくる水流の音がわずかに変化するのを感じ取る。

『カワッタ コッチ』

(外の匂いをたどるか。助かるな)

 アルベラの前をするすると地面をすべるように進むビエーと子供。その下の黒い後頭部がなんとも頼もしい。

 コントンについて歩く中――

(……?)

 アルベラは何かを見た気がした。

 通り過ぎようとした左手へ伸びる道の奥、見覚えのある背丈と――真っ赤に輝く双眸。

 アルベラの脚がぴたりと止まった。

 見間違い……ではない。確かに道の先にローブを着た人物がおり、その人物は目を真ん丸と開きこちらを見ていた。赤い瞳に照らされたフードの下には、あの見慣れた金色の癖毛――

(なんであの子がこんなところに)

 それに、ここでは魔力が抑えられているというのになぜ瞳が灯っているのか。だとしたら、あれは果たして瞳だろうか?

(どう見ても目にしか見えないんだけど……)

「……で」

 殿下? と問おうとして、他にもいるかいないか分からない人目を気にしアルベラは言い直す。

「ケブ、ですか?」

 その人物はそっと後ろへ身を引いた。フードに手をかけ目を隠すように深くかぶり直し、彼は水路の奥の闇へと溶けていく。

「……なんで。ねえ、ガルカも今の見た?」

「あぁ」

「あれってどう見ても殿下だったわよね」

「赤目に金髪ではあったが……どうだろうな」

「どういう意味?」

「あのガキ共が普段鼻が曲がるほどに漂わせてる神の匂いが感じ取れなかった。単純に距離や場所の問題か、それとも ”負” を吸った貴様の匂いが強すぎるせいか。これくらいの距離、外なら簡単に判断できるところなんだが」

「そう……」

(学園であったら聞いてみればいいか)

 後ろ髪をひかれる気分だがアルベラは大人しく出口を目指す。お使いから帰る予定の時間から、もう一時間以上は立っている。まずはあちらへ戻り無事を知らせなければ。

(コントンの力を借りればエリーとブレントさんもきっとすぐ見つけられる)

 コントンに案内されるまま地下水路を進むと、入ってきた場所と同じ出口に出ることができた。これもコントンの鼻のおかげだ。外に出てすぐは分からなかったが、どうやら少々の騒ぎにはなっていたらしい。

 ――「……おい、あんたたちそこから出てきたのか?」

 堀の上から誰かがそう声をかけてきた。水路沿いに店を構える店員のようだ。

「はい、そうです!」とアルベラが答える。

 ――「大丈夫か? さっきそこで水が噴き出して、数人が流されたんだ。警備兵も数人流されたかもしれないって、今下流で捜査が――」



 ***



「まじか……」

 ブレントの口元は嬉しそうに歪んだ。アルベラたちの様子をヘビの目を通して傍観していたのだ。だから金貨へ込められていた瘴気がすべてあの少女の体の中に流れ込むのも、そのうえで彼女が何ともない様子であるのもすべて見ていた。

「普通のヌーダならとっくに頭おかしくなって暴れまわって死んでる量だぞ」

 ブレントの死んだ瞳が嬉しそうに輝く。

「あんくらいじゃ全然なんともなさそうだナ。ヴェラー・ニエ(ダークエルフ)の奴の時は感情の起伏で溢れ出てたってのニ」

「へぇー。なるほどな。マンセン、術の方はもういいぞ。俺もあの男だか女だかわからねえ奴と合流してここを出る。お前らの話も確認できたし十分だ」

「あいヨ」

「ダタのやつ、同胞をやられたらキレるかな」

「大丈夫だロ。あいつ自身今まで散々同胞も手にかけてル」

「だが借りがあるんだろう」

 マンセンはブレントの皮の下のズーネをじっと見上げ、まとっている葉を震わせた。なにをいっているのか、と首をかしげるように体ごと傾く。

「オメー、あいつが止めたとしてそれを聞くカ?」

「いいや。ははは……気にするだけ無駄だったな」

「アア。止めたきゃ止めるだろうが、そん時は強い方の勝ちダ」

「はは、あいつに邪魔されないことを祈るさ。それより城のあたり、ほかにも何か居ただろ。そっちは大丈夫だったか」

「ン。何かコソコソやってるヌーダどもは居たガ、問題ネー。あいつらとは反対の方向へ向かってったからナ。合流したところで瘴気の餌食だったろうシ」

「ふーん。そいつらは何やってたんだ?」

「遺体を運び出してたようだナ。最近地下から出てくる奴らをたまに見るんダ。どっからとは思ってたケド、あいつらあそこかから出てきてたんだナー」

「遺体?」

「アァ。城のアレの餌ダ」

「あー、噂の女王様か」

「ちげーヨ、それを言うならお妃様ナ」

「そうだったな。――道具で生きながらえてるなんて哀れなもんだ。せいぜい悔いのない残りの生を、ってな」

「それオメーのことか?」

「馬鹿いえ。俺は皮が無くたって生きていける。あった方が楽だってだけだ」

「ケケケ、瘴気が流れ出てっちまうハ、瘴気が無さ過ぎても弱っちまうハ、面倒な体だナー。んじゃあマ、せいぜい頑張ていい皮手に入れてくれヤ。オレはそろそろこの息苦しいとこからでてーんでネ」

「ははは。木が無くて息苦しいってか。木霊らしいところもあるもんだな」

 ぴょん、とマンセンはブレントの頭を踏みつけ灯篭の上に飛び乗る。彼が大きく身を震わせると黒い葉が四方八方へと舞出て水路の中を駆け抜けていった。人知れず、水路の中は正常な空間へと戻り、程なくしてブレントとエリーは合流した。



 ***



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