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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第4章 第一妃の変化(仮)
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397、ピクニックとおふざけ 2(三人の悪戯)



 ぽちゃん、と放られた餌付きの釣り針。

 マディソンが「どうぞ」とアルベラにその竿を渡した。

「あ、いっけね。竿四つしかないんだった。シャロウ、お前も釣りしたいんだったらなんか適当に棒拾って来いよ。換えの糸と針ならあるから」

 ケイリーにそういわれ、シャロウはなんとなく予測していた展開とはいえ小さく肩を落とした。

「いいわ、私は本を読んでるし」

「お前って本当本好きだなー。なら邪魔にならなよう少し離れてろよ。気が散るから」

 静かに本を読んでいる人間にどう気を散らされるのか、とアルベラは疑問を抱くが子供たちの動向が気になるのでシャロンにはあえて少し離れてもらおうと思った。

(コントンさんのおかげで貴方達が何か企んでるのは分かってるんだから。セキレイ園ではまだしばらくお世話になるし、この先舐められたままにならないよう釘を打っといてあげなきゃ)

「そうね。水が飛んで本が汚れるのも悪いし、シャロウはそこの椅子で座っていたほうがいいんじゃない?」

 アルベラは東屋からそう遠くない場所にあるベンチを指さす。

 シャロウは「でも」と心配の目を向けてる来るが、アルベラは「いいからいいから」と竿を置き彼女を促した。シャロウの肩に手を置き一緒にベンチまで向かうなか、仲良し三人組は何かこそこそと話をしていた。

「べ、ベーラ様。私不安で」

「何かあったら私の護衛がどうにかするから、あなたは気にせずみまもってて。気遣ってくれるなら本読むふりをして、いつでも人を呼べるよう準備してくれてればいいから」

「は、はい……」



 シャロウが見守る中釣りが再開された。

 特に何も起きず時間が経つ中、小魚がぽつぽつと釣れて行く。

 まだかまだかと待っていたアルベラの釣り針にも、ようやく”彼ら”は食いついた。それはアルベラが予想していた形と少々異なるものだった。

「わあ! ドブガエルだ!」

 とマディソンが声を上げた。

 彼は釣り上げた獲物を東屋の中におろした。ケイリーは逃げようとする黄色に黒斑模様のカエルを抑え咥えた針を取り出そうと格闘している。

 チェルシーが「くさーい!」と鼻を抑え東屋の外へと逃る。

 確かにそのカエルは生臭い匂いを放っていた。

 そんなに頻繁に見ないとはいえここら辺では珍しくない蛙だ。アルベラもストーレムに居た頃、魔法の練習やスーの散歩(水浴)のため訪れていた池で何度か見たことがあった。とはいえわざわざ捕まえることもないので、こうして目の前でじっくり見るのは初めてだし、生臭いと噂のその匂いを嗅ぐのも初めてだった。

(いままでで一番の大物ね)

 とバケツの中のジャリガニや小魚を見ていると、マディソンが突然「ケイリー、まずい!」と驚いたような声を上げた。

 ケイリーはウシガエルのような大きなカエルを抱えそれをバケツに入れようとしたまま止まる。

「そいつ……そいつドロガエルじゃないぞ! 鼻の模様を見ろ! モウドクオオガエルだ! そいつの粘膜に触ったら死ぬぞ!」

 「ひっ!」と口を抑えるチェルシーに、状況が飲み込めず「え? え?」と戸惑う様子のケイリー。カエルを抱えたままのケイリーの顔には、見る見るうちに青い斑点が浮き上がっていった。

 アルベラもその様に驚いて目を見張ってしまう。

「ど、どどどどどうしよう……うっ、うぅ……くるし……苦しい ――――――うわぁー! 助けてー!」

 カエルを抱えたまま、ケイリーが突如アルベラの方へと走って来た。

 東屋はそう大きくない。あって五畳ほどだろう。走ればすぐに間を詰められるその距離で、ケイリーは隠しきれなかったニヤニヤ顔を浮かべ、カエルをアルベラの顔目掛け投げつけた。アルベラはカエルを拒むように片手を突き出す。

「うわぁぁぁぁ、たすけ――ごっ……ごぼぼぼ……?」 

 カエルも泣き叫ぶケイリーも、アルベラの元へは届くことは無かった。なぜならその二者はアルベラが展開した魔法で水に包まれ宙に浮いていたからだ。

 そのままだと窒息してしまうので、アルベラはすぐにケイリーを東屋の反対側へ――マディソンやチェルシーの元へと押しやって水の制御を解いた。

 ケイリーと蛙を閉じ込めた水はマディソンとチェルシーの上で盛大にはじけて散った。

 事を企てていた三人には一瞬の出来事だ。予想してない展開だっただけに、何が起きたのか分からず三人は暫し呆けていた。

 ケイリーは体制が取れないまま地面に落ちた。水を多く飲んでしまったようで、苦しそうにむせっている。

 驚いて尻もちをついたマディソンの顔の上にはべしゃりとドロガエルが降り落ちた。

 一番被害が少なかったチェルシーが唯一叫び声をあげる余裕があったのだろう。自分に水が降りそそいだと気づくや否や、彼女は大きく口を開けた。



 ――きゃーーーーー!!!!

 近くから叫び声が聞こえた。

(子供?)

 出店で買った昼食を適当な公園で食べようかと街をさ迷っていたラツィラスは、ついそちらへと馬を引いたまま脚を進めていた。

 ――「うぇぇぇぇ! ぺっぺ! くっせ!!」

 ――「うあー、いってぇー……鼻に水入ったぁー」

 ――「お、おおお前たち! いったいなにを! ケイリー、なんだその姿は!?」

 ――「え、えっと……これはちょっと……屋台で見つけた変身薬で……」

 ――「お前たちときたらまたおかしな遊びをしていたようだな!」

 どうやらそんな大事ではなさそうだ。

(ふざけてて池にでも落ちたのかな)

 そして聞こえてくるやり取り的に子供たちは皆無事なのだろう。

 辺りを見れば何かの団体できているのか年齢層がばらばらの子供達の姿があった。引率しているのであろう大人たちが心配げに事が起きた方を見ていた。ラツィラスの近くに居た子供たちは「またマディソン達かな」とこそこそ話している。

「ベーラ様に悪戯でもしてるのかな」

「前に来た人は急に鳥嫌いになったよね。一体何したんだろう」

「ちっちゃい鳥みて『食われる、食われる』て怯えてたんだって。ちょっと怖かったな」

「今日はシャロウ姉ちゃんが一緒だったよね。何があったか後で聞いてみよう――」

 通り過ぎ際に聞こえた会話に耳を傾ける。

 ここまで来たら野次馬根性だと、ラツィラスは引き返すことなく公園を通り抜けるつもりでそちらへと向かった。



 背の高い草に囲われる東屋に二人の大人と五人の子供。

 一人は園長と呼ばれているので、養護施設か私営の学び舎でピクニックにでもきているのだろう。ラツィラスは見えてきた人影をじっと眺めそう考えた。

 ――「おさわがせしてすみません。彼らが濡れているのは……少し魔法を教えていただけなのでご心配なく。私のミスで彼らに水がかかってしまったんです」

「ん……?」

 聞こえてきた声は良く知る物だった。

 ――「お前たちが魔法を? 本当か? ――ベーラ様、もしこの子達が何かしたのなら遠慮せずに言ってください。それもこの子達のためですので」

 「そうですね」と知る声は笑い交じりに頷く。

 ――「でしたら、ケイリー君が捕まえたカエルで驚かそうとしてきたので、レディにそんな事をすべきでないとよく言ってあげてください」

 この声の主は確かに「レディ」なのだが、その本人が自分で自分をそういうのに対してつい笑みがこぼれてしまった。

 見れば今、彼女は普段と異なる装いで異なる名前を使っていた。そして池の反対側には、群生した草の合間から様子を見るように新人のあの護衛が顔を覗かせていた。かの人物かどうかの確認はこれで十分だろう。

 二人の大人たちは子供たちの服を乾かし始めた。何やら小言を言って聞かせているようで、もう少々時間を取りそうだ。

 ラツィラスは辺りを見回し開いているベンチをさがす。ベンチに腰掛けると、先ほど買ったばかりの紙に包まれた昼食――薄いパンで肉や野菜を包んだケブバという料理を食べながら東屋での光景を眺めた。

 ラツィラスが昼食を食べ終わるのと同じころ、あちらの小言も済んだようだ。

「よし」

 空になった包みを丸め手の中でそれを燃やし灰にすると、ラツィラスはぱっぱと手を払って立ち上がった。することもなく退屈そうに草を食んでいた馬は、主に手綱を引かれ「ようやくか」と歩き出した。



「お前! ずるいぞ魔法なんて!」

「そうだそうだ! 死ぬかと思っただろ!」

「非力な平民相手に情けなくないの!?」

 わーわーと騒ぎ出した三人を前に、アルベラは体の前に両手を持ち上げその上に水と風の渦を作って見せた。彼らの後ろではシャロウが胸の前に本を抱え安堵に息をついた。

「あら、文句があって……? 先に仕掛けてきたのはあなた達じゃない」

(さっきの園長の小言をきくに……この三人は魔法が苦手な上勉強嫌いがたたってこうもひねくれたのね。――つまり)

 この三人が魔法で自分に歯向かうことはないという事だ。お嬢様の不敵な笑みにマディソンはぞくりと寒気を感じた。

「くそ……! 脅しのつもりか!?」

 分が悪いと悟って唇を噛むマディソンだが、チェルシーはまだ諦めていないのか「こっちにはまだこれがあるのよ!」とケイリーを振り仰いだ。

「も、猛毒だぞ!!」

 ケイリーは両手でつかんだカエルをずいっと前に突き出した。カエルは逃げることをあきらめているのか、はなからこの状況を危機だと思っていないのか暢気に喉をふくらませてゲコと鳴く。

「ケイリー、その斑点は変身薬だってさっき言ってたわね? もし猛毒ならそのカエルの息の根を止めてあなたと一緒に病院へ突き出しましょう」

 偶然か否か、アルベラの言葉の後カエルはじたばたと暴れて池へと逃げていった。

 空になった両手をそのままに、ケイリーは「カ、カエルが可哀そうだろ!」と喚く。「なんて残酷なの! 鬼!」とチェルシーも異を唱える。

「あら……またずぶ濡れになりたいようね。そしたら次は私が乾かしてあげる。風は得意なの」

 アルベラの掌の上の水と風が威力を増す。

 ケイリーとチェルシーも後ずさり、これ以上の反発は諦めたようだ。 

(ふふ……力こそすべて……)

 大人しくなった三人を前にアルベラは満足げに両手の魔法を解いた。

「やぁ、ベーラ。楽しそうだね」

「……?」

 東屋の外から声がかけられる。その声に五人の視線が集まった。



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