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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第4章 第一妃の変化(仮)
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386、新たな手駒 2(オローラ・カメオーレンの事情)



「――そうです! だから私にはもうウォーフ様しかいなかったのに! このままだとあの変態に嫁がされて……お父様もお母様も全然話を聞いてくれないし……もう、もう私なんてここで死ぬしかないのよ!!」

 アルベラの部屋、この学園の制服を着た少女が「うわーん!」と声を上げて泣き始めた。

 丁度その場面に遭遇したガルカは少女を取り囲む面々を眺めて「貴様らはまた変な事をしているな」と呆れ交じりに呟いた。

 ガルカの訪問に気づいたアルベラはパッと顔を上げる。

「閉めて、早く」

 この鳴き声を外に漏らしたくないのだろう。言われてガルカは扉を閉じる。

「で、何をしてる?」

 部屋の中央に行き、ガルカはアルベラの隣に立った。部屋にはアルベラ、エリー、ニーニャ、ビエーがそろっていた。部屋の隅には勿論スーもいる。そして影の中にはコントン。

 折角面白い話を持ってきたというのに、今はまだそれをお披露目するタイミングではないようだとガルカは見覚えがあるようでないような今の主役の少女を見た。

「なんだコレは」

「オローラ・カメオ―レン先輩よ」

 アルベラが答える。アルベラの視線の先で、カメオ―レンはエリーにすがり付き涙を流していた。

「――あらあら、可哀そうに。じゃあオローラちゃんは殿下の婚約者候補だったから引き延ばせていた婚約を、候補から落ちたことで引き延ばせなくなっちゃったのね。その事で焦っていたタイミングでウォーフちゃんと仲良くなって、建国祭でお父様に紹介すると話していたのにウォーフちゃんは約束の時間に来てくれなくて……。結局そのお金持ちの男爵様の四番目のお嫁さんになる事になっちゃったと……。それでお嬢様を襲ってこんな目に……」

 よしよしとエリーがカメオ―レンの頭をなでる。

「なんだあのわざとらしい説明は」

 ガルカは呆れる。

「あんたへの説明が省けて私は大助かりよ」とアルベラ。

 エリーの言葉を聞いて確かにあの少女が何者かは分かったが、前半の説明と最後の台詞との間に大きな抜けがあった。それが気になりガルカはまた尋ねる。

「あの女、何であのデカ猿に振られたからと貴様を襲った。手紙を無視したのはあの猿だろう」

 「絶対外でウォーフを『猿』呼びするんじゃないわよ」と先に言いアルベラは答えた。

「彼女、誰かから聞いたんだって。ウォーフと約束したはずのその日のその時間、彼が私と居たって。あとその前に殿下の婚約者候補から外されたのも私のせいだって聞いてたみたい。それで最近、婚約の話がまた動き出しちゃって……婚約日の日程が決まったり、男爵と顔を合わすことになったりとかが一気に来て感情が爆発しちゃったんですって」

 彼女が初めてアルベラにナイフを向けた日。あの時持っていたナイフや、姿が見えなくなるくらいに人の認識をずらす魔術具は、人からのもらい物だと彼女は話した。最近、彼女は誕生日をむかえたのだ。その際に親族や友人から色々とプレゼントが送られた。装飾が美しいナイフも気配を消す魔術具も、送り主は分からないがその中に入っていたものだとか。どちらも別々の箱に入れられ、まったく別の地から送られてきていたという。

 アルベラからそれを聞くとガルカはすかさずまた尋ねた。

「ナイフと魔術具は回収したか?」

 「はい」とアルベラは膝の上に置いていた包みをガルカに渡す。

「さっき預かったの」

 その包みを受け取るとガルカは移動しいつものソファーに腰を下ろした。

 薄いハンカチの緩い包みを開けば、そこには妖精や花のレリーフが美しい銀のナイフと魔術具の首飾りが姿を現した。魔術具からは当然だが、ナイフからも僅かに魔力を感じガルカはそれを手に取る。



「あんな変態絶対嫌ぁぁぁぁ! ディオール様が責任取ってこの婚約を取り消してください! じゃないと私も目玉をくりぬかれたり片腕や片足を失ったり――」

「だからカメオーレン先輩、婚約者候補の件もウォーフ様の件も私は何もしていないんです」

 「ですので責任という言い方は違うかと」と淡泊に答えている様子のアルベラだが、内心婚約者ガチャに大外れした令嬢の話は哀れに思っていた。

(婚約解消の手助けくらいならしてあげなくもない……)

 聞けば聞くほど彼女も被害者だった。

 婚約候補の件は誰かによるものか正式な審査の結果か知れないが、ウォーフの件もあの魔術具やナイフの件も――

「おい」

 ナイフを片手にガルカがアルベラへ向け声を上げた。

「こいつ、魔術がかけられてるぞ」

「ええ。エリーとビエーも教えてくれた」

(あとコントンも)

 もうすでに他の人間が嗅ぎつけていたと知り、ガルカはふてくされるように「ふん」と鼻を鳴らした。

 ――そう。魔術だ。ナイフにも魔術がかけられていた。それはオローラ・カメオーレンへ向けて。

 装飾用にも見える美しいナイフには、衝動を駆り立てる魔術がかけられていたのだ。

(自分の不幸は私のせいだと吹き込まれて、道具も与えて。仕込んだ誰かさんはいつか彼女の怒りが爆発するのを待っていたみたい)

 エリーに泣きつくカメオ―レンを眺めながらアルベラは考える。

 魔術具とナイフから同じ匂いがするとコントンが教えてくれた。魔術具とナイフに使用された魔力を解析すれば魔力の持ち主を探すことも可能だ。指紋の持ち主を探すようなものでその作業は地道なものになってしまうが、指紋を探すよりかはいくらか容易い。魔力は指紋の様に本人の手を借りずとも確認できるからだ。

 魔力解析の費用も魔力の持ち主を探す労力も全て金があれば解決できる問題。――すなわち、「すばらしき金の力」である。

 アルベラは金のありがたみもそこそこに思考を戻す。

(にしても……魔力の解析とその魔力の持ち主を見つけるまでは良いけど、その人が黒幕かどうかは別だよな。そのまま犯人なら楽なんだけど……)

 自分であれば、そして同じように力を持つ貴族であれば、己は動かず人にやらせるのが基本だ。そしてその直属の手下も、彼らが痕跡を残せば自分の主は簡単に暴かれてしまう。だから彼らはさらに人を使い、簡単に尾っぽ切りする。

(マリンアーネって子も馬車の刺客も……それに()()()も……)

 彼らは皆良いように誰かに使われた駒だ。

(さっさと黒幕突き止めて黙らせないとまた被害者がでる……――はぁ……黒幕、一人(同一犯)だと良いな)

 アルベラはカメオーレンの相手をエリーに任せ、彼女が落ち着くまでその様子を眺めていた。

 この短い時間でカメオーレンはエリーに懐柔されており、何の疑いもなくその腕に抱かれていた。どこからか感じる嫌な臭い(加齢臭)にだんだん顔色が悪くなってきている様子だが、その匂いの元が目の前の美女だとはまだ気づいてい居ない。

 そして、話している最中に飲んでいた紅茶に自白剤が盛られていたことも彼女はその後も気づくことは無かった。


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