350、惑わしの建国際 24(舞踏会の乱入者)
―――テレレレレレ~ン♪ テレレレレン♪
会場の―――周囲のざわめきにユリは委縮していた。
周りの人々はユリが何者か分からず、少々警戒しているようだった。
名前が呼ばれなかったことで彼女が高位の貴族ではないことは明白だ。
だが本人がそうでなくとも、もしかしたら貴族の関係者かもしれない。
力のある誰かのお気に入りかもしれない。
果たしてアレは……気安く話しかけていい相手なのかどうか―――
(なーんて……一部は警戒してるみたい)
―――テレレレレレ~ン♪ テレレレレン♪
(ほどんどは憧れや羨み、好奇心ってところか……。あとは平民が自分達より良いドレスを着る事を良く思わない貴族の嫉妬の目。警戒している人間は少数だけど……彼等はある意味正解ね。バックにいるのが国の聖女様なんだもの。……下手なことはすべきじゃない……んだけど……――)
はぁ……、と無意識にため息が漏れる。
―――テレレレレレ~ン♪ テレレレレン♪
というのも、先ほどから……ユリが会場に姿を現した時から、頭の中で「例の入店音」が鳴り響いているからだ。
このタイミングでの運営からのクエストのお知らせ(賢者からの指示)にアルベラは嫌な予感を抱かずにはいられなかった。
頭の中で一生懸命「知らないふり」「見ないふり」「聞かないふり」をしてみた所、すぐには内容は開示されず、音はいやらしくなり続けていた。
早く電話を取れとせかされているようで落ち着かないが「見ない、聞かない」の意思が通じているようなのでアルベラはそれを突き通していた。
(八郎曰く、今日はヒロインが王子様の婚約者候補になる切っ掛けになる日……。『見世物小屋から逃げ出した魔族が乱入して、それをやっつけて怪我人を治療する』……か)
そして今いる席は、その様子を見るのに最高なロケーションなのだそうだ。
変わらず開示されないクエスト内容に、アルベラは「まだいけるのか」と無視を通す。
(ヒーロー全員が見ていて、ユリは彼等の興味を引く……プラス現状で好感度が高いヒーローは心配して駆けつけてくれる、と。陛下もその状況を見ていて、その隣には癒しの聖女がいて……―――)
―――テレレ……ざ……レ~ン♪ ……ざざ……レレレレン♪ ……ざ……
入店音にノイズが混ざり音が乱れる。
アルベラは妙なざわつきを覚えそちらに意識を向けた。
―――転生の条件を満たす意思が無い者には死を
―――己の役目を放棄する魂には最終の死を
「―――!?」
頭の中に響く人工音声のような無機質な声。
ガタン、と音を立ててアルベラが立ち上がる。八郎やエリー、ガルカの視線が集まった。
(は!? ちょっ……待っ……)
周りの三人がそれぞれ「どうした」だの揶揄いの声などをかけているが、アルベラは真正面を見たまま口を引き結んでいた。
頭の中での出来事に集中していると、先ほどの声がまた聞こえてきた。
―――最期の選択を
―――テレレレレレ~ン♪ テレレレレン♪
微妙に音程のズレた音。
(やる! やるやるやるやる!! やるから!!!!! ちょっとふざけただけだから!)
―――舞踏会でヒロインのドレスに飲み物をかけて貶す(期限:建国際が終わるまで)
死を免れ安心の息を吐くも、内容を遅れて理解してまたため息がこぼれる。
「ま……」
(まじか……)
脱力するようにソファに腰を下ろした彼女へ、エリーが手を伸ばし頬をつつく。
(―――……そう、こういう警告はあるわ け……―――――――――え……? 私……あのドレスにワインかけなきゃいけないの?)
―――こんな人目の多い……だけでなく自分の両親や祖父母、陛下に聖女までが揃って見ているかもしれない場所で?
アルベラは顔を伏せ頭を抱える。
(お母様……ぶちぎれそう。ていうか陛下の前でそれって大丈夫なの? 私三年生までは婚約者候補でいないといけない筈でしょ? えーと……確か原作ではそうなんだよね? 陛下やその周囲の人からの内申落ちたら候補から外されるんじゃない……?)
エリーは本人が拒否しないのをいいことに頬をつつくのをやめ、軽くつまんだり緩めたりして若い肌の柔らかさや弾力を楽しみ始めた。
ガルカも便乗し何かしらの悪戯をしてやろうと手を伸ばすが、それをエリーが叩き落とす。二人の間に火花が散る。
「アルベラ氏、どうしたでござる? おーい、アルベラ氏ー?」
(……は、ははは……ぽい……、すごい『ぽい』じゃない……舞踏会でワインをかけるとか、これぞ悪役令嬢って感じ……。卵を割って、ヒーローがヒロインへプレゼントした花冠を壊して、舞踏会ではヒロインに飲み物かけろって……? なんでこんなぎゅうぎゅうに詰めてくるかなぁ……!!!??)
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」と長く深い息を吐くアルベラの前ではエリーとガルカが手の叩き落としあいをしている。
その様子を蚊帳の外で眺め、八郎は「うむ」と一人納得した。
「……なんやかんやいつも通りでござるな! はっはっは!」
そこまで気にする必要無し! と結論付け八郎はユリの元へと視線を戻す。
「はぁ……ゆい……」
(結衣の花嫁姿もきっと綺麗だったんでござろうなぁ……)
***
(みんなぁ……どこぉ~……)
「ここら辺で集合しようか!」とリドが言っていてた会場入り口周辺に行くも、親しい友人達はその場所に見当たらず……。あてもなくその周辺を彷徨っているユリを、一人の男子生徒―――しかもヒーローが声を掛けた。
「素敵なお嬢さん、良ければ私と一曲いかがで……」
「え?」
セリフの途中、半泣きで振り返ったユリの顔を見てその人物は「げっ」と零す。
「お……ま……まさか、ちんちくりん……」
片手を出しかけた姿勢でウォーフは止まり、ユリも呆然と彼を見上げる。
そして意外なことに、大抵の人に友好的なユリが相手をウォーフと認めるやいなや、その表情は素っ気ないものとなった。
「あの……踊るんですか……?」
「いや、今のは間違いだ……」
と言いウォーフはユリを下から上へ観察する。
「ちっ、孫にも衣装か。じゃあな」
「有難うございます、では」
お互い顔どこか冷え冷えとした空気で言葉を交わすと、ウォーフは姿勢を正しその場を離れていった。
ユリも何事もなかったように……むしろ不自然な程ウォーフとの出会いをなかったかのように友人探しに戻る。
「おや、そこの美しいお嬢さん、私と一曲いかがですか?」
「みんなぁ~、どぉーこぉー……」
頭を抱えつつも一階を見ていたアルベラは、彼らの切り替えように「なにあれ……」と呟いていた。
「おぉ、戻って来たでござるかアルベラ氏」
「ずっとここにいたけどね。で、なに? ウォーフだけならまだしもユリもなんかよそよそしかったけど」
「あぁー、この間街で出くわしてるからでござるよ。まぁ、これもフラグの回収でござるな」
「フラグ?」とアルベラ。
「フラグ回収ってなんだ」とガルカ。
「人が仲良くなるために踏む段階の名称みたいなもんよ」
ガルカの問いに答えつつ流しつつでアルベラは話の続きを八郎に促す。
「で、それってどんな?」
「ずばり、夜遊びしてるウォーフ殿にユリ殿が遭遇したんでござるよ。ユリ殿が持っていたお使いの荷物から野菜だか果物だか……とにかく何かが落ちたでござる。それをウォーフ殿が連れていた女性の一人が拾ってあげたんでござる。で、相手がユリ殿だったことに気付いたウォーフ殿がユリ殿を揶揄って……こう、でござる」
八郎が拳を握り、片腕を振り上げてテーブルに下した。加減した拳は「とん、」と優しい音を上げてテーブルにぶつかる。
暴力を連想させるその動作に、アルベラは目を据わらせた。
「まさか、ユリがウォーフを叩き潰した……?」
「ちがうでござる。ハンマーゲームでござるよ」
「ハンマー?」
「そうでござる。ウォーフ殿に嫌味を言われてもユリ殿は言われるがまま受け流したでござる。相手は公爵家でござるからな。で、ユリ殿はその場では我慢して」
「我慢して?」
「ウォーフ殿と別れてから、そのイライラを帰り道に偶然あったハンマーゲームの出店にぶつけたでござる」
「まぁ……この時期は射的やボール迷路みたいなゲーム系の出店も多いものね……」
「で、その店の最高記録、実はウォーフ殿が打ち出してた物なんでござるが」
「……? え?」
「ユリ殿、ウォーフ殿の記録を塗り替えたでござる。機材はギリギリ持っていた感じでござったな。ユリ殿の力を受け止めた瞬間、こうバチバチっと魔力が走り火花が飛んでいたでござる。店主は顔を真っ青にしてたでござるよ」
「待って、ユリってそんなに怪力なの?」
「ほう、あのユリと言うガキ、どこかのオカマゴリラと同じだったか」
「―――どこのオカマゴリラかしら?」
ガルカとエリーのじゃれ合いを流しアルベラと八郎は会話を続ける。
「違うでござるよ。ハンマーゲームと言っても純粋な腕力ではなく魔力を乗せられるものでござる。流石のユリ殿でもウォーフ殿には腕力では勝てないでござるよ」
「けどそれって、魔力でならユリちゃんはウォーフちゃんより上って事?」
もはや常人の目では捉えられない拳の付き合いをガルカとしながらエリーは尋ねる。
エリーとガルカの殴り合いは椅子に座ったまま、どちらもリラックスしてるような姿勢で行われているため一見ただ座ってるようにしか見ない。だがたまに双方の髪や服が揺れたり、「パシ、」「パンっ」と拳を受け止める音が上がっており、見ているアルベラは「ポルターガイスト」や「ラップ音」という言葉を思い浮かべていた。
「そういう事でござる。ユリ殿の生まれながらの魔力量に加え毎日のお祈りでござる。ため込んだ魔力量は相当でござるよ」
「ユリちゃん……結構大変なのね。けどあの学園に居るし、魔力の扱いについてはちょっとは安心なのかしら。教わる機会があるのと無いのとじゃ雲泥の差だものね」
「そうでござる! しかも教会でのアルバイトでしごかれてる故、リアルユリ殿は原作とは非に……おっと―――入学当初とは非にならない位成長してるでござるよ!」
ぐっ、と親指を立てる八郎。
アルベラは「あ……また頭痛くなってきた……」と額を抑える。
「それででござるな」
「え? 何、続き?」
「そうでござるよ。ただユリ殿が記録更新しただけじゃウォーフ殿がああいう態度にならないでござろう」
「……?」
「見たんでござるよ、ウォーフ殿。自分の記録が塗り替えられているのを。それで店主に『いつどこの筋肉だるまがこれをやったんだ』って訊いたんでござる。それで返って来たのが『二時間ほど前、都立学園の制服を着たオレンジ髪のこれくらいの背丈のお嬢ちゃん』と……」
「つまりユリって分かったって事ね……」
「で、ござる。密かに好感度アップでござるよ」
「あの猿も趣味が悪い。あんな臭いガキの何がいいんだか」
「普通のヌーダは聖気の方が心地いいんだから当然でしょ」
(私と八郎は捉えようによっては特別であり異端なわけで……。この例外の状況、ちゃんといい方向に活かせられるといいんだけど)
―――オォォォォォォォン!
「―――?」
遠くから聞き馴れた遠吠えが聞こえた気がした。
アルベラは顔を上げ八郎を見る。
「どうしたでござる?」
エリーも「何か?」と言う顔をしている中、ガルカだけが頭上を見上げ「来るぞ」と言った。
一か所、ガルカが視線を向けた先の窓から星が消える。何か大きなものが窓の外に居る―――とアルベラが理解した時には、ガルカの言葉から事を察していた八郎が、何処からともなく取り出したポスターサイズの紙を開いて魔術を展開し防壁を張った。
ガラスが割れる音とともに辺りからは悲鳴が上がり―――
「キタァーーーーー! キタキタキターーーーー!!!!!」
―――アルベラの隣からは歓喜の声が上がっていた。
***
『―――ラツィラス、少し良いか』
『―――お待ちください、殿下』
言葉がかぶり、第二王子ダーミアスと癒しの聖女が目を合わす。
癒しの聖女は一歩下がると、ゆるりと首を垂れる。
『申しございません、殿下。私の方は急ぎの要件ではありませんので。ラツィラス様がよろしければ、時間を改めて伺わせていただきます』
『そうですか。ラツィラス、聖女様はこう仰っているがお前はどうだ』
『ええ。僕も聖女様がよろしいのならそれで』
そうか、とダーミアスは頷き聖女へ視線を戻した。その表情にはラツィラスやルーディンのような微笑みは無く、どちらかと言えばスチュートと同じような他に媚びない固さがある。
『癒しの聖女様、譲っていただき感謝いたします』
『こちらこそ。ではラツィラス殿下、改め使いの者に時間と場所を伝えさせます。殿下のご希望がありましたら使いの者にお伝えください』
―――建国際開催の会場ではダーミアスとの話を終え、舞踏会では舞踏会会場の個室で癒しの聖女との話を終え、ラツィラスは聖女と話した一室を礼と共に去るところだった。
「―――では……貴重なお話を有難うございました」
「いいえ。じゃあね、ラツ。舞踏会を楽しんで。あと、仮にも病み上がり何ですからそれらしく、ね。無理はしちゃ駄目よ」
「はい」と苦笑し、ラツィラスは部屋から出る。扉が完全に閉まると小さく息を吐いた。
「お待たせ」
「聖女様なんだって?」
「あの件でね。『どこかの小国にでも攻め入る気か』って色々聞かれて念を押された。全くの二人きりなんて久しぶり過ぎて緊張しちゃったな」
「それで、話は丸く収まったのか」
「うん。聖女様は純粋に心配してくれてるだけだから。―――僕も、彼女がああなったからには、迂闊に手は出せないからね。暫くはまた様子見……けど、あちらが牙を剥いてくるようなら―――どう?」
「あぁ。その時は変わらない。お前が満足するまで付き合うよ」
ジーンは不服そうに目を逸らした。髪を掴もうと片手が持ち上げられたがセットされている事を思い出し下ろされる。
「無理強いはしないよ。気が変わったらちゃんと言ってね」
「全然、変わってない」
廊下を進み、ラツィラスとジーンは会場へつながる扉へ向かう。騎士が達が開いた扉の右手には玉座が設けられているが、そこにはもうニベネント王は座ってはいなかった。
「さて、挨拶は散々したしね。僕らも好きに回ろうか。お腹減ったなぁ。何か食べる?」
「ああ」
二人が―――特にラツィラスが会場の奥から現れた事に貴族達は早くも気づいた。ラツィラスが会場の奥から中央へと歩みを進めれば―――
「これはこれはラツィラス殿下、もしよければ私の娘も来ていますのでご挨拶させて頂けないでしょうか」
「まぁ、殿下。ずっと体調が悪いと伺っていましたが、もうよろしいんですか?」
「殿下、良ければまた私の店にいらしてください。特別なお部屋を準備させて頂きます」
―――と顔見知りの貴族達が話しかけてくる。
ラツィラスは彼等を邪険にする事なく「御機嫌よう、ヒューレネ伯爵。ではご令嬢が一緒に居る時にまた改めて挨拶を。繁栄を願って」「ハケセ夫人、ご心配おかけしました。もう大丈夫です」「イクス卿、そのうちまた伺います。繁栄を願って」と人の良い笑みと共に捌いていく。
ジーンは「よくやるな」と感心しながら主の後ろに続く。
「食べ物なら俺が持ってくるから、お前は何処かに座ってたらどうだ?」
「僕が一緒だと歩きずらいって言ってるのかい?」
「誰もそんな事言ってないだろ。……けど、確かに歩きやすくはなりそうですね。殿下、少しお待ちいただいていても」
「ふふふ、主を邪魔にするなんて不遜な従者だなぁ。これは減給問題だ。ちゃんと覚悟してね」
「おい……冗談っぽく言ってるけど本当に減給する気じゃないだろうな……」
「さぁ、それは今日の君の働き次第―――おや」
前方を見て足を止めるラツィラス。ジーンもそちらを見て一歩下がる。
「こんばんは、ラツィラス殿下」
クラリスがドレスを摘まんで挨拶する。
「これはこれは……今晩は、クラリス嬢、オリヴィア義姉様。シンイェ様はご一緒では?」
「シンイェ様なら先ほど、宮殿の中を一人で回ってみたいと、騎士を連れて会場の外に出られたんです」
「そうですか。シンイェ様は相変わらず好奇心旺盛ですね」
「はい。それより殿下……今日はまだ一度も踊られてませんよね?」
ラツィラスはクスリと笑い「そうなんです」と返す。
「実は夕食を食べるタイミングを逃してしまって。なのでダンスよりエネルギーの補給をと考えてたんです」
「まぁ」とオリヴィアがほほ笑む。
「育ち盛りなんだからちゃんと食べないとね。じゃあラツィラス、ご飯を食べてからでいいからクラリスと一曲踊ってくださらない? この子、ずっと貴方の事を待っていたのよ。建国際のファーストダンスは絶対にラツィラス殿下とって……他の殿方を断るのが大変だったんだから」
「オ、オリヴィアお姉様……!」
驚いてオリヴィアへ顔を向け、クラリスはチラリとラツィラスを気にし顔を赤くした。
「ふふふ、良いですよ。喜んで。折角待ってもらってたんです。ご飯はクラリス嬢とのダンスの後にします」
「で、殿下……」
「クラリス嬢、よろしければ僕と一曲」
ぱぁ、と花開くように笑んで、クラリスはラツィラスの手を取った。今のこの場の流れが、全てが、彼女の胸を高揚させ満足感で満たした。
―――さぁ、曲が変わる。時期王が、この建国祭の一回目のダンスを自分と共に……
最高な気分で足を踏み出そうとしたクラリスだが、彼女の手を取ったラツィラスが動かない。
「ラツィラス様?」
どこかを見つめている彼は、クラリスに目を向けないまま読めない表情で唇を動かした。
「……クラリス嬢、下がって」
―――バァァァァァァン!
破壊音と風が会場に舞い込んだ。
会場の入り口周辺からは悲鳴が上がり、誰かが「魔物だ!」と叫んでざわめきの波が大きくなっていった。
「魔物……?」
突然の出来事に呆然としているクラリスを、誰かが優しく押して誰かが優しく包み込んだ。
「義姉様、クラリス嬢と奥に」
「ええ。ラツィラス、貴方も」
「僕らは大丈夫ですから、早く避難してください」
「分かったわ。外の騎士達にもここの事を伝えるから……お願いよ、危ない事はしないでね」
「はい。―――ジーン」
二人は人の波に逆らって騒ぎの中心へと駆けつける。
そこにはガラスの欠片や破壊された柱を受けて怪我をしている人々や気を失っている人々がいた。咄嗟に魔法で防御壁を張った者達は、警戒の目を天井へと向けていた。
そしてその中には白く輝く人物が―――白銀のドレスをはためかせ、天井付近に浮遊する魔族を見据えていた。
「ユリ嬢?」
ラツィラスがその人物の名を呟く。





