331、惑わしの建国際 5(取り巻きたちのうっ憤)
ジーンが不安になりながらも自室のドアノブをひねった翌日。
第一クラスの魔法の授業では、二つの炎がぶつかり合い爆発音を起こした。
辺りを熱風が吹き荒れ、熱気が地面を這ってなめ上げる。
講義中の生徒達は自分達のペアに集中しようと努める。……も、嫌がおうにも煌々と輝く赤と人並み外れた魔力は気を引いた。彼らは手を止めないよう気を付けながら、視界の端でチラチラと問題の二人を盗み見ていた。
迷惑にも彼等の集中力を散らす犯人は全力にも見える魔法をぶつけるウォーフと同じく全力にも見える魔法でそれを受け止めるジーンだ。
ウォーフの雄叫びと炎の燃え盛る音が混ざり、轟音となって辺りを震動させる。
「―――止め!」
キビシ教諭が片手を挙げて声を張り上げる。生徒たちが魔法をぶつけ合うのをやめる。
「注意散漫で手を抜くとはいい度胸だな」
教諭の言葉に図星の生徒たちの肝が冷える。
「今の自分の相手に集中しなさい! 戦場では命とりだぞ! ―――ベルルッティ、『死ね』はいかん!」
「ハイ、すみません」
(『死ね』ていったこと否定しないんだ……)
ウォーフの謝罪がペラペラな事にも、どさくさに紛れて「死ね」と叫んでいたことを否定しない事にも周りの生徒達は呆れた。
(相変わらずエグいな……)
二人のぶつけ合いを盗み見ていたグレッダは内心で感想をこぼす。そして歩きながらに説明をしている教諭を目で追っていると―――同じく教諭を目で追っていたジーンと教諭越しで目があった。
もしかしたら目があったと思ったのはこちらだけかもしれない。そんな間が流れたのち、すっ……、とジーンが目を逸らした。
グレッダの頭が熱くなる。勿論怒りでだ。
(な、なんだあいつ!? なんだよあの顔、どういう感情だ!! まさか『やってやった』とか思ってんじゃねーだろうな! 逸らそうと思ったのは俺が先だっつうの!! ―――……ま、まぁ、あんな奴の顔何て見たくもねーし。あっちが逸らしてくれんなら都合がいいよな!)
(……)
ジーンは一瞬、教諭の話も忘れて頭の中に響き渡るトラウマに意識を奪われてしまった。
グレッダと目があったのだ。キビシ教諭の後ろの彼に気づいてしまった。
―――好きだぁぁぁぁぁぁぁぁ!
(……)
目を逸らすも、もう遅い。グレッダの顔を見た瞬間にあのトラウマは蘇っていたのだから。
頭の中に焼き付いて離れない苦い記憶。表情が薄いながらも気分が悪そうな彼に新しくペアになったミーヴァが気付く。
「どうしましたジェイシ様、顔色悪いですね」
「いや……少し胸焼けが……」
「え、なにか食べたんですか?」
ミーヴァは辺りを見回す。
(胸焼け……もしかしてグロビエの実とか。それかマラナッカダケによく間違えられるバヤダケ……いや、けどこんな整備されてる所にあるはず……)
(まさか拾い食いしたとでも思われてるのか?)
自分はそこまで食い意地が張ってるようにミーヴァから思われてるのだろうか、とジーンは少しショックを受ける。
―――『あいつと話すとか……どきど……色々あって緊張するようになってしまったので。謝罪とか……もう一生無理です』
(……どきどき? どきどきしてるの?)
キビシ教諭を中心に顔を背けあっているグレッダとジーン。他の生徒達は真っ直ぐ教諭に顔を向けていたタイミングだけに、二人のその視線は気づいてしまえば露骨だった。
目を逸らしあっている彼等に気づいてしまったアルベラは、なぜか自分も気まずい気持ちになりながらその二人を視界の端に教諭の話に集中しようと励む。
(てかミーヴァの奴は何キョロキョロしてんの。気が散るわね)
***
「おい、嬢」
「ウォーフ様、何か?」
午前の授業を終えて昼食に向かおうとしていた彼女は足を止めた。
公爵家の令嬢とそれを引き止めた令息の図だ。辺りから様子を伺うような、聞き耳を立てるような視線が向けられるのは仕方のない事だった。
ウォーフは親指をクイっと持ち上げ自身の後方を示す。実際後ろに何かある訳ではない。ここではない場所に人を誘う時の一般的なジェスチャーだ。
「お呼び出しだ。行くぞ」
誰がともどこへとも言わないそれに、アルベラは十二分の心当たりがある。
「今から昼食なんだけど」
不服を隠さない彼女の言い方にウォーフはニヤリと笑った。
「俺もだった」
「でしょうね……」
アルベラとウォーフを呼び出したのはスチュートだった。
呼ばれた部屋に焚かれた香―――それはそれは美味しそうに焼けた肉の匂い、まだ湯気のたつ出来立てパンの香り、籠き無駄に積まれたフルーツの完熟した甘い香り。どれもすきっ腹に効く忌々しくも魅力的な香だ―――を体に纏い、アルベラは内心苛立って授業に向かっていた。
(ったく、なんで急に……! おかげでお昼抜きじゃない! まだぎりぎり育ち盛りの体になんて拷問おしつけるわけ!?)
用件が済んだアルベラとウォーフは昼休みが終わるタイミングで解放された。
呼び出した本人は見せつけるように食事をし、アルベラとウォーフには水の一杯もなかった。
悔しくも口の中を涎でいっぱいにしながら、アルベラはその苦痛をすまし顔でやり過ごした。
「エリー、御令嬢方に手紙を。今日のお茶会、私用で三十分遅らせて欲しいってお願いしておいて」
「はい。『お願い』、皆さん喜んでお受けくださるでしょうね。何が食べたいですか?」
「ステーキ。お茶会もあるしほどほどでいいから。半人分……いや、三分の二人前で」
「了解です」
アルベラは胃袋をくすぐる香りを体から払い退こうとする。柑橘系の香水で誤魔化すも、空腹の今その香りも効果薄だった。
今日の授業は五限目までだ。この五十分を耐え抜けばおやつの時間を前に解放される。遅めの昼食はそれまでの辛抱だ。
(あの迷惑王子! 自分だけ美味しそうに食べやがって。宿泊学習の報告!? そんなの現状だけ見たって十分わかるじゃない、でなくても人使って見張るのも容易いお立場なんだから概ね把握済みでしょ!? ―――けど残念でした!! あんたの握った第五王子様の情報は偽物ですぅ! ざまあ見ろ!!!)
空腹なせいで感情が暴走気味の思考。滲み出る性悪な笑顔を浮かべるお嬢様。それをエリーは満たされた表情を浮かべ堪能していた。
一階の一室。窓の外には咲き誇った花花。窓枠が額縁にも見える美しい景観が自慢のその部屋で、六人の女生徒が優雅な茶会を開いていた。
(あぁ……なんて上品……)
(なんて優雅……)
(知的なお姿……)
(どこをとっても欠点がない……)
(これぞ王妃の器……)
うっとりと五人の令嬢が本日の主催である令嬢に見惚れる。
ユーリィ・ジャスティーア(デフォルト名)が主役の乙女ゲーム。その悪役とも好きライバルキャラともなりえるアルベラ・ディオールの「取り巻き」と称される令嬢五名。
これはその取り巻きの彼女らとアルベラとの茶会だった。
(―――ごはん、美味しかった……)
今日の授業から解放され、遅めの昼食も無事叶ったアルベラは穏やかな気持ちで紅茶とお菓子と令嬢たちを前にしていた。
彼女たちとの茶会は先週ぶりだ。
先週は倒れたラツィラスの状況が分からず、落ち着かない心境で時間を埋めるような感覚での「雑務の消化」を行っていた。
彼女らの茶会もその「雑務消化」の一つとなってしまい、あまり身が入らないまま「伝えておきたい一点」を伝えてからは全く身が入らないままに時間を過ごし解散してしまったのだ。
(けど、伝えなきゃいけない事―――)
―――『アルベラ・ディオールの名をかたったニセモノがいるようです。私から来た手紙の一切を無視して下さい』
(―――はちゃんと前回伝えてたし、彼女達ちゃんとあれを守ってくれてたみたいでよかった)
前回の茶会はこの話に入る前にベッジュのケアから始まったのだった。とにかく「貴女は悪くない」「貴女も被害者よ」と耳触りのいい言葉や慰めの言葉をかけ、彼女が落ち着いたところで「皆さんにお願いがあります」と話しに入ったのだった。
茶会の前の下調べから知ったことなのだが、予てより彼女達はディオール公爵の業績に心酔派の家門だった。
心酔する相手からの「お願い」だ。令嬢たちは喜んでその願いを受け入れた。
これは先週のエリーとのやり取りである。
『ディオール公爵の功績を非常に評価していて、中には感謝をしている方々もいるそうです。ホワイトローエ家は使えていた領主の家門が先王の時代から痛み始めていたようで、ディオール公爵の活動の影響で領主が代替わりするまで不満を隠しながら仕えていたようですね。ブルティ家とグリンデ家はその傘下の貴族だったようで彼らも同じく前領主には参っていたようです。ベッジュ家は……経営している事業をとある不埒者達が脅かし傾いていたそうなんですが、』
『不埒者?』
『ヴィラギーン領 (以前のストーレム周辺の領主がヴィラギーン伯爵)がディオール領に変わった折にその被害が無くなり事業の立て直しができてとか』
『ディオール領地(旧ヴィラギーン領地)と関係のある不埒者たち……ってまさかツーファミ―――』
『貴族も大変ですね。定められた財産が保てられなくなったらポイ、貴族としての威厳が保てないとみなされたらポイ。城から不必要とみなされると、一年の猶予期間はあれど爵位を落とされて今までの立場も仕事も全部他の“相応しい人材”に挿げ替えられてポイですものね』
『ねえ、だからベッジュ家を傾かせてたのってツーファミリーじゃって』
『ちなみに、ルビレット家は北のディオール公爵とブルガリー伯爵との“腹食いの魔族”―――あのクソ魔族が言うには“濤炎の魔徒”だそうですが、その件でディオール公爵の思想に深く感銘を受けたとか。そちらはその件に全く関りはないそうですので、いわば熱狂的なファンですね。スレイニー先生と同じと思っていただければいいかと』
『おいこら、ツーファミリ―の話は掘り下げさせない気か』
(ベッジュ家……何かとディオール家がらみで飛び火しているように思えて不憫……。―――けど、この子たちがディオール家の偽物に目をつけられたのは、自主的に行ったっていうユリへの嫌がらせがもとだし。私がユリになんかしてるって話から勝手に手助けだか気を利かせたんだかの行動が相手の目について都合よく思われたんだろうな……)
仲良くなりたい者と敵を同じくすることで距離を詰める。誰かの悪口で花を咲かせ仲良くなる、という幼い人間特有の歪んだとも低俗ともとれる関係の構築法にアルベラは嫌気がさしていた。それは他人事に軽蔑するというよりも過去の幼い自分も通った道だからこその自己嫌悪から……。
「あの、アルベラ様」
ワンテンポ反応が遅れて「はい」とアルベラは返す。
「手紙の件ですが、あれから進展はありましたか?」クラウネ・ホワイトローエが尋ねる。
五人の中で彼女はまとめ役のような立場らしい。
ベッジュが耳飾りを受け取るよりも前。アルベラ・ディオール名義の手紙が始めに届くようになったのは彼女からだった。
―――やり取りは手紙でのみ。
―――学園では直接的な話はしないように。
―――私も貴女たちと話すときは何も知らないよう接しさせていただきます。
―――いつも頼りにしています。アルベラ・ディオールより
「いつも頼りにしています」の言葉に舞い上げっていたのだろう彼女は今までどこの誰とも知れない輩に良いように転がされたと知って憤っていた。
「今はまだ何も。ですので皆さんも変わらずお気をつけていただければと」
穏やかな笑みと共に返すアルベラに、クラウネは他の四人に目配せしなが口を開いた。
「……あの、アルベラ様に前回言えなかったことでご報告が」
「はい?」
「スチュート殿下の誕生日を覚えてらっしゃいますか」
「スチュート殿下の……はい、まぁ……」
まず頭をよぎったのはあの盟約の魔術で味わった脳が揺すぶられるような不快感だった。他には寄生虫の卵入りのグラスと、その罪で打ち首になったというボーイの顔。他に何かあったか、と考え―――こそりとクラウネが耳打ちした。
「あの……ユーリィ・ジャスティーアがトイレに行った際ですが……」
「え? ユ、ジャスティーア?」
「はい。実は、あの魔獣の瓶も……その、アルベラ様を名乗る者から送られたもので……」
(前期休暇に入る前から私の名前を使った誰かから手紙が来てたとは聞いてたけど……なんでそいつ、ユリに嫌がらせを? 嫌がらせの罪を私にかぶせて陥れるにしても何でターゲットがユリ? 私は役割的にユリに執着しなきゃいけないわけだけど、そいつが執着する理由って……?)
―――『“ディオール様にもよろしくお伝えください”だと』
ガルカがユリを助けに行く前に、犯人であろう令嬢たちとすれ違ったと言っていた。その際の言伝だと彼は言っていたのだが……
「もしかしてあの日、うちの『顔だけは良い男の使用人』とすれ違いまして?」
「はい。軽くご挨拶を交わさせていただきました」と令嬢たちが頷く。
(あぁ……『よろしくお伝えください』ってそういう事か……)
アルベラは手のひらに額を乗せた。頭の中では褒めてと言わんばかりに尾を振り新聞紙を咥える犬の姿が浮かんでいた。
「そうでしたか……。それで、その件は学園からは何も? 一切ばれずに今に至っていると?」
「そ、それが……特に私たちの方には何も……」とクラウネ。
「はい! それなら私がちゃんと足がつかないように処理しましたから!」と誇らしげに身を乗り出したのは明るい青髪を左耳の横で一本細く編み込んだ令嬢、シー・ブルティだ。
「シーはお家柄隠すのが上手なので。おかげであの件では私たちも命拾いしました。……まさか瓶の中身がレッドモスでなくレドモスだなんて、予想もしていませんでしたから」
とクラウネが補足し苦笑する。軽く首をかしげる姿からは「正直、平民の生徒一人どうなろうと気にしない」という内心が垣間見える。
アルベラは令嬢たちの顔を見渡しそれぞれの家の生業を思い返していた。
(ブルティ家は情報操作を任されてるんだっけ。グリンデ家はホワイトローエ家の家周り全般の補佐。ベッジュ家は観賞用の植物の生産や開発が主軸。ルビレット家は王都内、特に西地区のお役所役所仕事だっけ。ベッジュとルビレッドは普通の令嬢って感じだけど、長年貴族に使えてきた貴族家のブルティとグリンデは既に家の教育なのか一芸教え込まれてきた感があって……いざという時予想外の一仕事してきそうで怖いな……)
―――『慕ってくれるご令嬢方です。この際ですしがっつり垂らし込ん……友情を育んでいざという時力になってもらいましょう♡』
今日の茶会の前にそう言っていたエリーと目が合う。彼女は体の陰でグッと親指を立てた。
(……)
息をつき、少しおいて冷静な頭で考えてみる。
(ユリもあの後ちゃんと回復したし、なにも聞かなかったことにして借りに使わせてもらうのも手か……)
「あ、あの、アルベラ様? もしかしてご不満が?」
不安そうに名を呼ぶクラウネ。続いてサンドーレ・ベッジュが胸の前で懺悔するように手を組んで言う。
「も、もしかして……私たちに反省をお求めですか?」
「あの件に関して、私たちから学園に申し出て処罰を受けることをお望みで?」とシー・ブルティ。
「そんな……あんな平民一人……些細な悪戯で処罰を受けるなんて……―――ですがアルベラ様が言うのなら私は……」とトマテ・ルビレット。
「確かに、誰とも知らない人間の指図で私たちが余計なことをしてしまったらな、アルベラ様がそれに対する謝罪や罰をお求めになるのも納得できます……」とリーフィ・グリンデ。
いつの間に自分が彼女らに自首を求めたような流れになっている。アルベラは「私はそんなこと求めてないのだが……」と口を開きかけたが、声にするのはクラウネの方が先だった。
「で、ですがお待ちを。そもそも平民の分際であのスノウセツ様やウォーフ様と気安く接したり、殿下ともダンスをしたりと、身をわきまえないあの子がいけないと思いませんか?」
(おぉー、この子たち。ユリへの罪悪感は本当に全くないんだな……て、)
「え……、殿下とダンス?」
ぼそりと口に出してしまったアルベラに彼女たちは口々に言った。
「そうなんです、あの平民、スチュート様の誕生日ではルーディン様と、アルベラ様のお誕生日ではラツィラス様とも踊っていたんです!」
「それになんなんですか、あんな平民が我が物顔でスノウセツ様と親し気に……。スノウセツ様と話したい人たちは沢山いるのに、きっとあの子が何か吹き込んで女性を避けさせてるんです!」
「しかもあの子、平民という立場でありながらウォーフ様を説教していたんですよ! 三国から同時に攻め込まれた過去最悪と言われた戦で、見事他国軍を打ち負かし内二国を制圧したあのベルルッティ家のですよ!? 王が『王家の月となりし剣』と謳うあのベルルッティ公爵家ですよ!? そのご令息であるウォーフ様に平民ごときが説教ですって!!? ウォーフ様が女性に寛大なのを、自分が特別だとでも勘違いしてるんじゃないでしょうか!!!!!????」
「この間なんて平民でありながら、先生に任された授業の後片づけをフォルゴート様とキリエ様に手伝ってもらっていたんです! 平民なら片付けや掃除ぐらい手慣れているでしょう!? なのに手伝いなんて! なんてうらまや……コホン……なんて図々しい!」
「か弱いふりして色目を使って……殿方の気を引くのが上手なんです、あの女!!」
「は、はぁ……」
アルベラは令嬢たちの勢いに押され身を引いた。
(これ私怨ありきじゃない絶対……。てかユリ、いつの間に王子様たちとダンスを。それは確かに令嬢方の反感も買う……―――ていうかあのスノウセツの人気に納得いかないんだけど。あいつ男爵家でしょ。そこらの男爵家の令息が誰と話そうと皆気にしないでしょ)
「それにアルベラ様、聞いてください!」
カタリ、と椅子を鳴らして腰を持ち上げたのはベッジュだった。と同時、外から大きな爆発音が上がる。窓ガラスが振動し、細かな砂が降り落ちてパラパラと小さな音を上げた。
六人は突然の出来事に放心したまま窓の外を見つめる。
どうやら爆発したのは今アルベラたちが使用している棟と同じ校舎のようだ。上の階のいずれかの部屋で起きたのだろう爆発に、庭の向こうに居合わせた生徒たちが上を見上げ問題の場所を指さしているのが見えた。
アルベラが扉の前のエリーに目を向ければ、彼女は主の意をくんで扉を細く開いて外の音を招き入れた。
外に居合わせた生徒たちが楽しそうに騒ぎ立てる声が聞こえる。
『―――はぁ!? まじかよ! ―――おい! ジェイシの机が爆発したらしいぞ!』
***
「ぶっ……!!! ―――……っ、っ、っ」
ラツィラスはジーンの報告に声もなく肩を揺らし爆笑していた。
「―――な、なんっ……ふ、ふふふっ……机が爆発って……―――っ……ぶふふっ、っ、っ、っ……」
学園での爆発騒動を片付け、残った時間は訓練に充て、その後学園に戻る前にと寄ったラツィラスの「見舞い」の席でジーンは笑いこける主に目を据わらせる。





