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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第4章 第一妃の変化(仮)
328/411

328、惑わしの建国際 2(嫌がらせその1)



「罰?」

「ええ、この犯人達―――なのか同一犯なのかはまだわかりませんが、その人達の処罰です。お嬢様はどの程度をお望みなのかしら、と」

 朝の準備も早めに整い、アルベラは少しの時間を自室で潰していた。椅子に腰かけ、目の前のテーブルに捕まえたスーを仰向けに転がし、指先で翼を閉じたり開いたりと弄っていた。

 スーはなされるままには飽きうずうずと周りに視線を動かし始めていた。

「罰ねぇ……。まだ捕まってもないのに」

 今日は元婚約者候補のサーグッドが、犯人の手がかりだというボタン(ディオール家の紋章が入ったもの)を見せに持って来る日なのだ。

 それと合わせ、エリーはアルベラの母レミリアスからの手紙を見返した後だった。彼女の質問は手紙の内容があってのものだったのだろう。

 手紙にはダンスト達との茶会で毒を盛った学園に所属する使用人の処罰の報告が書かれていたのだ。

 行動に起こした使用人は、殆ど平民と変わらない生活をしていた貴族の一人娘だったそうだ。彼女はレミリアスの計らいで王都から遠く離れた地へ送られ、今はもうそちらで暮らし始めているらしい。調べた結果、彼女は何も知らない使い捨ての駒だった事が分かったのだ。

 彼女的には手紙とはいえ高位の貴族―――ディオール家に脅され実行したとの事だったらしく、ある意味被害者の面もあり、処罰は島流しにするにとどめたのだそう。レミリアスが紹介状を書き、その地の貴族の下でまた使用人として働いているのだとか。

 そこからエリーはあの茶会での黒幕や、婚約者候補の嫌がらせ、そして少し前の馬車の爆発と、諸々の犯人たちの事を示して尋ねたのだった。

「相応なものならそれで……」

 とアルベラが言い欠けた所でスーが大きく身じろぎ、テーブルの上うつ伏せにひっくり返ると開いている窓へと翼を広げた。

 ばさばさと飛び立っていく彼女の背をアルベラは見届ける。

「婚約者候補嫌がらせの件は、ご令嬢の飼っていた動物たちが殺されたり、人間が毒で倒れたりしてるんだったわね……。なら、それなりにこっぴどくしょっ引いた方が被害者的にも胸が晴れるんじゃない? シンプルに五体不満足にしてやるとか、劣悪な労働環境に閉じ込めるとか。できるだけ残虐で非道で……って」

「本人の反省より被害者の憂さ晴らしですか」

 エリーはくすりと笑う。

「悪い?」

「いいえ、それも大事ですよね。それに悪人が何をどうされようと、それは本人達の自業自得ですし」

「でしょ? 人から恨みを買うような事した時点で報復は覚悟しなさいって話。後から『そんなの考えて無かった』だのなんだの言っても知るかってね。被害者としたら犯人の反省なんてどうでもいいでしょうし……―――他がどうかは知らないけど、少なくとも私はいい。もし私がスーやコントンを虐められたり、大事な使用人―――」

 と、ここで嬉しそうにエリーの表情が輝いたのを見て、アルベラは目を逸らす。

「ニ、ニーニャとか……が傷つけられたら……その犯人はこの先ずっと楽しい思いもせず苦しめばいいって願うもの。その気持ちを晴らせる罰ならどんなに非人道的でも何でもいい」

 エリーは笑顔のまま、聞く者を凍えさせる様な声で「ニーニャ……」と呟く。

 丁度部屋にやって来たニーニャ(宿泊学習後もアルベラの下で働く事となった)は、エリーから沸き上がる黒い空気に「ヒィ!?」と身を強張らせた。

「今の話、貴様そのまま自分に返ってくるのを見落としてないか?」

 ユリ虐めのことを言っているのだろう。ソファで寝そべっていたガルカが身も起こさず視線も寄越さず声だけで参加する。

 アルベラは「あら何のことかしら」とわかっていて知らないふりをする。

「ふん。どう貴様に返ろうがいい話だ……。だが、人の苦しむ姿を見たいなら一度コントンにくれてみろ。怯え足掻きながら闇に溶けていく様を眺めるのはまあまあ愉快いだぞ。アレは見ておいて損はない」 

 「溶か……」と零しアルベラは足元に目をやる。

(魔族が勧める『娯楽』って……)

 ごくりと固唾を飲んだ。

 影が水溜まりの様に揺れて大きな犬の鼻先が水面から浮き出た。

『タベル?』

「それそういう意味なの?」

『クルシミ カナシミ オイシイ』

「腹の中で自分好みの味に調理してると……」

 「バウ!」と一吠えし「はっはっは……」とご機嫌な息遣い。

 沢山の人間の呻き声が重なったようなコントンの声の元。もしかしたらそれは彼の腹に入って溶かされ闇(コントンの体の一部)となった人々の呻きの声なのだろうか、とアルベラは思い背筋に冷たい物を感じた。



 ***



 学園内、掲示板の前を通り過ぎる生徒達が張り出された紙の無いように嘲た笑みを浮かべる。

「魔術具壊れてたんじゃねーの」

「ははは。まさか」

 幾つかの紙が張り出され、整えられた掲示板。そこには宿泊学習で起きた事件の報告が貼りだされていた。

 ―――厳正な調査の結果男子生徒は無罪とする―――真偽の魔術具を使用―――学園は現在女性徒を捜索しており詳細は追って調査中―――根拠のない誹謗中傷は控えるように―――



 ―――「何が厳正な調査だよ。どうせ殿下の口添えだろ」

 ―――「聞いた? 殿下の体調が優れないんですってね。大丈夫かしら」

 ―――「折角同じ授業を取ったのに残念……」

 すれ違っていく生徒達の中から聞こえてくる会話。

 ランチタイムとなり、アルベラは昼食を取りに食堂へと向かっていた。

 前の授業が一緒で共に歩いていたルーラと言葉を交わしていると、ラヴィが合流し二人の会話に加わる。話題は来月の建国際についてだ。

「今年は髪を水色に染めようと思うの。金のメッシュを入れて編み込もうと思ってて。うちの領地で贔屓にしてるデザイナーが王都の流行りを学びにくるんだけど―――」

 楽しそうなラヴィの言葉と周囲のざわめき。

 それが食堂に入った辺りで一つの点から広がる波紋の様に揺らめいて質を変えた。

 ―――「建国際のパートナー決まった?」

 ―――「どうしよう……一人だし声かけるなら今よね……」

 ―――「ねぇ、殿下が参加されるのか聞いてみない?」

 少し浮足立った内容はごく少数の女性徒から発せられていた。そして男女関係なく聞こえる多数は―――

 ―――「殿下って隠れ蓑が無きゃニセモノが際立つな」

 ―――「あんなやつ、殿下が居なきゃただの平民とかわんねーよな」

 ―――「なんであんな人が騎士なんかになったのかしら」

 ―――「赤い目ってだけで気に入られたって話でしょ。何の努力も要らない人は楽でいいわね」

 例の彼の醜聞に乗っかった嘲笑や軽蔑の内容。

 それらの内容が廊下よりも目立って聞こえたのは、食堂の中に話題の人物がいたからだった。

 赤い髪も焼けた肌も珍しくはないが、それら二つが揃っている人物と言えば限られてくる。その中で鮮やかな赤一色の短髪の人物と言えば第五王子の護衛であるジーン・ジェイシしかいなかった。

 ―――「今のうちに殿下の見舞いに行って名を売っとけってお父様に言われてさ」

 ―――「そうそう、面会は禁止だって。俺も品だけ渡して帰ったわ」

 聞こえてきた会話にアルベラは変わらず元気な様子だったラツィラスの姿を思い出す。

(そりゃあ面会何てできるはずもない……)

 席を探し食堂の中を見渡していたラヴィが「あ、」と小さく声を上げる。

「ジェイシ様の席、隣り空いてるんじゃない? 一緒に居るのはベントン家(中伯)とラーヴァン家(男爵)のご子息よね。大伯家として中伯家ならギリギリのライン……。けどジェイシ様も平民上がりの騎士とはいえ殿下のお気に入りだし―――何より見た目が良いし……騎士三人が座る席か……うち二人はまだ見習いだけど……―――よし、あそこにしましょう」

「貴女ホント隠さないわね」

「私、彼女のこういう所が好きなんです」

 アルベラとルーラの言葉など聞こえてないようでずんずんとラヴィがそちらの席へと向かっていく。

 だが、彼女が席に着く前に他の生徒が開いているその席に腰かけた。

「くっ……!」

 ラヴィは悔し気に、その周辺の空いてる席に腰かけ項垂れる。

「ラヴィ、貴女あの噂は気にしないの? 宿泊学習の」

 テーブルに置かれたメニューを開きながらアルベラは問う。

「はぁ……? あの『女を襲った』って奴? 学園が魔術具使って調べたんだから嘘じゃないでしょう。ディオールこそ知らない訳? 学園に嘘は通じないのよ?」

「と、言われてるんですよ。生徒の不正を暴く魔術具や魔術は警非違(けいびい)罪洗所(ざいせんじょ)並に揃ってるって」

 ルーラが補足した。

 警非違はこの国で言う警察であり、罪洗所とはそこの取り調べ室のような物だ。因みに拷問官は大まかな役職では罪洗官と呼ばれている。

「学園はこの国の秩序を守る機関と同等の設備を備えてるって事?」

「と、いわれてるんです。本当かどうかは分かりませんけどね」

「けどパテック理事長は聖女様達と仲いいって言うじゃない。教会の手も借りれるなら人の嘘見抜くくらい容易いでしょ。清めの教会には『審判の神秤シンビン』もあるじゃない」

「ラヴィにしては説得力があるわね」

「ラヴィ……大丈夫?」

「アンタたち失礼!」

 タン! とラヴィが両手でテーブルを叩く。

「宿泊学習中の事は気にしてないのわかったけど、貴女は彼の事差別的には見てないのね」

 アルベラが尋ねる。

「あぁ……初めはちょっとね……。赤い目って見たことなかったし少し怖いとか気味悪いとか思ったのは確かよ。けど実力は確かじゃない。振り分けられてる実技系のクラスがそうだし、何より正式な騎士だし。お父様は第四騎士団の団長、それに殿下の側近。よく見たら顔もそこそこ。十分有望株じゃない。―――あ、当たり前だけど殿下には気味悪いとかなかったわよ。当然よね、レベルが違いすぎるもの。あの方の場合、身にまとう物も体の特徴ももう全部が全部芸術作品以上の域だわ。あの美しさは宝石や花でも例えられない、神が作った奇跡の塊よね」

 ラヴィの言葉が聞こえていた近くの席の令嬢たちがうんうんと深く頷く。

「前半の臆さない素直さに感心してたけど後半も後半ね。……神が作った奇跡の塊……本人に聞かせて差し上げたいわ」

「ラヴィの基準は見た目と地位ですから。その基準の中では『ニセモノ』という差別的なレッテルは些細な問題ということですね」

「地位? 彼女パーティーで、準伯や男爵にも声かけてた気がするんだけど」

 アルベラは疑わし気にルーラへ首をかしげる。

「あぁ、ラヴィはハーレム願望もあるので。将来爵位の低いご令息を数人抱えて弄びたいんですって」

「予想以上にさらけ出してくるわね……大伯の生まれってのを考えると十分身の丈にあった娯楽じゃない。自分をよくわかってらっしゃる、ご立派」

 音を小さく手をたたくアルベラにラヴィは「フーン」と目を座らせる。

「ディオール、気づいてないようだから特別に教えてあげる。あんただって一部からは既に『そういう風』に見られてるんだから。―――確か冒険者の愛人も含めると四人だっけ。ガルカさんは私物のくくりで置いとくとして、キリエ様、ベルルッティ様、ルー様との関係って正確にはどうなってるの? スチュート様にも呼び出されているそうじゃない。生まれの知れない冒険者から王族まで、節操ないわね」

「何? ……え、なんて?」



 アルベラ達がメニューを選んでスタッフに注文をしている間にも、辺りでは盛りつけられたメニューがワゴンに乗せられ其々のテーブルに運ばれていた。

 その一つがジーンたちのいるテーブルへも運ばれ、並べられ、彼等の食事が始められていた。

 届いたスパイシーな香りのスープにスプーンを付け、中の具材を掬い上げては戻す。一通りの中身を見た後、ジーンはスープを掬い直し匂いを確認して口に運んだ。

「これ誰の注文だ? だれかバゲットなんて頼んだか?」

 ジーンの向かいに座るペールが覚えのない品に首をかしげる。その手元に、ジーンとファルドの視線も集まっていた。

「間違いじゃねーの? 適当に人呼んで返せば」とペールの隣に座るファルド。

「危ない物かもしれないし気を付けろよ」とジーン。

「あぁ……―――ん?」

 包みの内側で何かが動いた。それに気づいたペールは「なぁ、開けてみても良いか?」と好奇心のままその包みを引き寄せた。

 ジーンとファルドが怪訝そうに目を合わせ、「ちょっと待て」といって食事を自分達の前から退かす。「いいぞ、」という返事で、ペールが包みを軽く開いて中を覗いた。

「うわっ……。ここのメニューじゃないな」とペールは細く開いた口を抑える。それは中に何かを閉じ込めるような仕草だった。

「見せろ」

 隣のファルドの言葉に、ペールが注意深く包みを緩め隙間をつくって中を見せあ。ファルドの顔が歪む。

「みたいだな……。悪趣味な奴が居たもんだ」

 ジーンも中を見せてもらった。

 シルエットの通り包まれていたのはバゲットサンドだった。―――しかしパンに入れられた切れ込み、そこに挟まれているのはこの食堂のメニューにない品々。干からびたトカゲのような何かと、暗い色味の毛羽立った草、出口を探して蠢く黒く長細い虫。

「ん? あー、俺こいつ見たことある。確か薬になるとかなんとか、この間の授業でやってたぞ。あぁ、この干物ももしかしてそうか? 精力剤に使うって。って事はこの草ももしかして……やっぱ前に授業で見た奴かも……―――あーあーあー、くだらない事にもったいねぇ事するなぁ」

「もういいから閉じろよ。そんなに気に入ったのか」とファルド。

「悪い。もしかして俺宛だったか」とジーン。

 ペールは包みを閉じてテーブルの端に置いた。

「宛名なんて書いてないから誰のでもないだろ。それより飯にしよーぜ。なぁ、これ要らなかったら俺貰って良いか」

「お前逞しすぎだろ。そんなゲテモノどうするんだ」

「市場に持ってったらちょっとした小遣いになりそうだなーって」

「なら東の役所近くの素材屋が良いって前にカザリットが言ってたぞ。コンヤだかコヤんだかって店」

「へぇー、じゃあ訓練の前に行ってみるかな。てかカザリットの兄さん元気か? まだ王都に戻って来てね―の」

「まだみたいだけどそろそろじゃないかな」

「へー、今回は結構長いのな」とカザリットを知るファルドも頷いた。

 三人は何事もなかったように食事を再開する。



 三人とは椅子一つ空けて隣の席に座った男子生徒達が、その様子をチラチラと見てはたまに目を合わせていた。

 四人組の彼等は時折意味深に目を合わせながらたわいのない会話をしながら食事に手を付けていた。そして食べ終えると席をたちぞろぞろと席と席の間を通り去っていった。

 彼等の一人はジーンの後ろを通り過ぎる際に舌を打った。

「―――強姦が良くのこのこと」

 彼の言葉にクスクスと仲間たちが笑う。

「俺達もそろそろいくか?」

 ファルドが空になった手元を見て言った。

「ん? ああ。俺一旦部屋戻ってこれ置いてきたいし」

「コールマン(ペールの同室の生徒)に嫌がられるぞ」

「ははは。ぜってーあいつには見せねー。見つかったら絶対捨てられる」

 去っていった一行の言葉も舌打ちも聞こえていただろうファルドとペールは、それらを完全に無視していた。

「おいおい、騎士様どうした。もしかしてこんなので気分悪くなったか?」

 ペールが包みを自慢げに持って見せる。中ではかさかさと哀れな命が逃げまどっていた。

 ジーンは少し間をおいて呆れた様な顔をする。

「ラーヴァン家の教育って凄いんだな。平民貴族関係なくそれ持って帰ろうなんて思う奴少ないんじゃないか」

「アホか。知識あるからこそ価値が分かるんだろ。こんなもん分からん奴が見たらただのゲテモノ詰めだって事くらい俺にも分かるっつうの。俺の真面目な授業態度を褒めろ」

「お前それちゃんと口閉じただろうな。そこら辺で散らかすなよ」とファルドが念を押す。

「わーってるって」



(なんか良くない物かと思ったら……和やかに去ってった)

 アルベラは去っていく彼らを視界の端に捉えながら残り僅かの昼食を口に運ぶ。

 食事をする中で通路を挟んだ向こう側の彼等のやり取りが聞こえていた。彼等の席の回りの者達は、異変に気付いたようで彼等の方をちらちらとみて伺っているようだったが、あの包みの中身を覗けた者はいないようだった。

 だがかさかさと蠢く包みから、何となくその中身を予想している者も多かった事だろう。

 だというのに三人は大きく騒ぎ立てる事もなく、笑いながら食事を済まし去って行ってしまった。

 あれを送り付けた犯人たちはあまりの手ごたえの無さに肩を落として……いるのだろうか。これで肩を落としてくれている位なら楽だろうに。とアルベラは彼等の座っていた席を眺める。

「―――ちょっと、ディオール聞いてる?」

「なに?」

「あんたどんだけジェイシ様に釘付けよ。熱心に見すぎ」

(―――っ!!!)

 口に入れたものを吹き出しそうになるもアルベラは何とか堪えた。

「そりゃあ建国際も近いし殿下の様態も気になるでしょうけど。それとも次のハーレム要因の一人にとか考えてでもいるのかしら。ガルカさんやルー様、ウォーフ様に飽き足らず殿下の騎士様にまでだなんて呆れちゃうわね。どっちにしたって機を伺ってないで普通に話に行きなさいよ。殿下がいらっしゃる時はそれなりに話してるじゃない。そしてその時は忘れずに私にも声を掛けなさい。殿下無しでジェイシ様と話す機会なんてそうそうなかったし少し興味あるのよね。まー、私が第一妃になればそんな機会幾らでもあるでしょうけど」

「こ、この……黙って聞いてればぺちゃくちゃと好き勝手に……。私そんなに熱心に見てないでしょ? でしょ、ルーラ」

 口の中の物を流し込みアルベラは呻くように尋ねる。

 「はぁ?」とラヴィが目を丸くしわざとらしく驚いて見せる。

「あの包み開く時なんて手止まってたじゃない。瞬きもせずにじっと見て、その後だってチラチラ見てたわよぉ」

「ま……」

(―――まじか……)

 そんなに露骨に見ていたのかとアルベラは視線を落とし反省した。

「ふふふ……、まぁ見てはいましたけど、けどそれはアルベラ様だけではなかったですよ。あの包みに気づいた人たちは殆ど見届けたりひそひそしてましたから」

「そ、そうよね」

「大変ですよね、ジェイシ様。今まで殿下が近くに居た事がいかに抑制力となっていたか、今週に入ってよく分かりました。『この機会に側近の座を』『目の上のたんこぶを排除するチャンス』と考えてる人たちが多く見受けられるようになったので」

「そう、ね……。大変そう、同情するわ」

「本当大変そうよね。あぁ、慰めて差し上げたいわね。私にだけこっそり弱音を吐いてくれないかしら」

「……と、ラヴィの様に考えている令嬢方も少なくないみたいですし」

「なるほど、それは大変ね」

 自分でもどういう気持ちなのかよくわからないが、アルベラは頭を空にしてそう頷いた。

 


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