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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第4章 第一妃の変化(仮)
319/411

319、初めての宿泊学習 15(懐かしい感じ)



 身を整えたアルベラは「すぅ……」と静かに息を吸った。

「な、なんでお前……そのカッコなんだよ」

 と驚いているミーヴァ。その胸倉を遠慮なしにアルベラの拳が掴み上げる。

「あんた、よくも人を葉っぱだらけに……!」

 相手の胸倉をつかむお嬢様と、いまだ驚きの余韻に引っ張られ動きの鈍ったミーヴァ。

「ア……え、……あの……ご、ごめんなさい、ディオール様!」

 ユリはにらみ合う二人を見て思い出したようにあわあわと声を上げた。

 衝動的にミーヴァをつかみ上げたはいいかどうしてやるかまで考えていなかったアルベラは、ユリの存在を思いだし突発的な怒りを収め手を離した。

 アルベラの注意がミーヴァからユリへと移る。ユリが両手で抱きかかえる塊にアルベラは目を細めた。

(―――あれが聖獣の卵)

「あ……えーと……大丈夫、ですか?」

 向けられた視線に緊張を覚えつつ、ユリは遠慮気味にアルベラの傍へ寄る。

「アル……でぃ、ディオール様、なんで寝間着……なんで裸足で……」と彼女はうわ言の様につぶやいていた。アルベラを葉で押しつぶしてしまったこと、そもそもアルベラがここにいること、その異常な軽装。ずっと森をさ迷っていた疲労からか頭がうまく回らないようだ。

 アルベラはといえば―――

「あ、そうだ。とりあえず私の靴を……」

「やめろユリ。靴を履いてこなかったのはこいつだろ。なんでユリが裸足になる必要があるんだ」

「けどミーヴァ、このままじゃ()()()()、屋敷に戻るまでに足怪我しちゃう」

「わかった、わかったから靴を履いてくれ。俺が守りの魔術と軽い硬化の魔術を施しとくから。―――ほら、これで茨の上だって余裕で歩けるよ。安い靴を履くより数倍も安全だ」

 ―――アルベラはといえば、二人のやり取りを傍観しながら出かたをうかがっていた。

 相手はヒロイン。彼女をいじめる役を担っているアルベラ的に、多少なりとも身構えてしまうのは仕方のないことだった。

(なんかよくわからないうちにバフ(防御系の魔術)かけてもらってるし……。ありがたいことこの上ないけど……)

「あの、()()()()……大丈夫?」

(ここは……とりあえず戻るまでは大人しくしておくか。……立場的にフレンドリーにとはいかないけど)

「大丈夫なわけないじゃない。まぁ、魔術をかけてくれたことには感謝してあげる。ありがとう」

 髪を払いながらツンと言い放ったお嬢様に、ミーヴァが「お前、」と何かを言いかけるがそれをアルベラが遮った。

「けど、人を突然魔術で襲うなんてどういう教育を受けてるのかしら。あのアート様のお孫様が魔術で暴力だなんて信じられないわね」

「なっ……、それはお前がこんなところで一人でこそこそしてるから……。ていうか暴力じゃなくて自衛だ! 少し身動き取れない程度に抑えただけだろ!? どこも怪我してないくせに大げさな言い方はやめろよ!」

「あら、じゃあ怪我してたらどうするつもり? 葉で切ったりひっかいたりしていない保証はおありかしら?」

「それは……!」

「怖かったわぁ……、誰かが来たと思ってとっさに身を隠したら突然押しつぶされて。一人だし真っ暗だし……なんの備えもなくほとんど身一つの状態で……。このまま魔獣に食い殺されるのかと思った……」

 大げさに同情をあおるような言い方をするアルベラへ、ミーヴァは口を開きかけ、何も言わずに唇を引き結んだ。彼の瞳には葛藤があり、その決着がつくといからせた肩が脱力して下がる。

「―――……悪かったよ」

 と彼は視線を落として言った。

(あら、やけに素直……)

「まさか一般人が……お前がこんな時間に一人でいるだなんて思いもしなかったんだ。知り合いだってわかってたらあんな乱暴な魔術使わなかった……」

 はぁ、と小さなため息が漏れた。ため息の主はミーヴァだ。彼はおもむろに片膝をつき片手を胸にあてた。

(な……)

「アルベラ・ディオール様に心からの謝罪を。私の確認不足と浅はかさからご迷惑をおかけいたしました。申し訳ございません。このミネルヴィヴァ・フォルゴートに償いの機会をいただけますでしょうか」

(―――やたら形式ばった謝罪……どこで覚えたんだか……)

 アルベラからも小さなため息がこぼれた。頭痛が起きそうな感覚に顔をしかめながら、彼女は「いいわ、今回は特別に許してあげる。立ちなさい」と手を払った。

「ありがとうございます」

「『貴族にバカ丁寧なフォルゴート様』……―――最悪に気持ち悪いわね。……あぁ、もう……本当最悪。嫌なもの見せられて気分が悪くなったわ。早く帰って心も体も清めなおさないと……」

「人が折角膝までついて謝ったのにその言いようか!?」

「もとはといえば貴方達がいけないんだから、謝罪は当然でしょ?」

「はぁ? 謝罪は当然なのに謝罪されると気持ち悪いって……どうしろっていう―――あ、おい!」

「さて。私はこんなところで無駄な時間を過ごすつもりはないの。先に行ってるわよ」

 そっけなく返してアルベラが屋敷のあった方角へと歩き出す。

 先ほど風から落ちた木の上にいた際、屋敷の位置とその方角にある星の並びを確認していたのだ。

 空を見て目印にしていた星座を見つけ、彼女の足はユリたちと出会う前より堂々と地面におろされた。

(優秀な魔術研究家見習いの魔術。心強いな。これでいざとなったら遠慮なく走れる)



 ミーヴァと軽い言い合いをしてさっさと先に行ってしまうアルベラ。そんな彼女へ、ミーヴァが「もう少し警戒しろよ。あいつ一人で帰る気か?」と怒こったように呟き髪をかき乱した。

 「ユリ」とミーヴァが振り返れば、自分たちのやり取りを黙って見守っていた彼女は、卵をぬいぐるみかなにかのように抱き寄せて楽しそうに口元を緩ませていた。

「ユリ、何笑ってるんだ? 俺らも行こう」

 「へへ……ううん、なにも」と誤魔化し、ユリは「そうだね」とミーヴァの隣に並び歩き出す。

「アルベラを追うの?」

 と首を傾げた彼女はやはり楽しそうに笑っていた。

「あぁ。一人で行かせるわけにいかないだろ。あいつが魔獣や獣に襲われてみろ。偶然居合わせただけの不運な俺らの首が飛ぶかもしんないんだぞ。迷惑な話だ」

「そうだね。せっかく会ったんだし助け合わないと」

「助け合い? 俺たちが一方的にこき使われるの間違いだろ」

「もう、ミーヴァってば相変わらず素直じゃないなぁ」

 ―――少し懐かしかったのだ。

 ユリはお嬢様の白い寝間着を見失わないように視線の先に捉える。

 ―――幼い日の危機一髪の大冒険の思い出。悪い大人たちを出し抜いて、皆で協力し合って逃げ延びたあの日。一緒に手をつないで帰った夕暮れ。

(……なんか……もしかしたら皆、実はあの時からそこまで変わってないのかな、なんて……)

「おいユリ、さっきからにやにやしてどうしたんだ」とミーヴァが怪訝な顔をする。

 あのお嬢様もこの魔術大好きな友人も、やはりなんとなく天邪鬼なのだ。人に対し口では強気に出るのに、その行動はあの頃も今も相手を思ったものとなっている。

 だから彼は自分の非を受け止めて謝ったし、彼女の身を案じて魔術を使った。彼女も彼の謝罪を受け入れ(おちょくり付きではあったが)、道に迷った自分たちを置いて行く事もできただろうに、一定の距離を保ち先導してくれている。

(……といっても、やっぱりアルベラは出会った時の方が素直で優しかった気がするけど)

 苦笑をこぼし、ユリはミーヴァの手を取った。歩調を早め少し前に出て彼を振り返る。

 学園に入ってからの事を忘れたわけではない。あの頃より他人行儀になっていたり、突然水をかけられたり、気づかないうちにもらった人形(正直不気味でどうしようとおもっていた代物)を捨てられていたり、たまにほかの貴族たちの様に高圧的になっていたり。

 それらはユリを戸惑わせるには十分なものだった……のだが―――何となくだが今は大丈夫なのだ。

 先ほどのミーヴァと彼女とのやり取りを見ていて、学園で出会う時より砕けたアルベラの表情や声音がユリには「一時休戦」を告げているように感じられた。

(ほどほどの距離感……ほどほどの距離感……よし)

「何でもないよ。ねえ、もう少し早く歩こう。()()()()からはぐれちゃう」

 本人に聞こえないよう小声で告げて、ユリは悪戯っぽく笑った。

 ミーヴァはわずかに頬を染め「お、おう……」と頷く。



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