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28、初めての舞踏会 5(誕生祭は閉幕)

 ダンスが終わり暫くして、王子の誕生祭は無事幕を閉じた。

 アルベラ、キリエ、スカートンは会場内で解散して、それぞれ保護者と合流し馬車へと向かう。

 アルベラの父ラーゼンは、キリエの父ムロゴーツと話していたので必然的にアルベラとキリエは会場を出るまで一緒となった。

 ご機嫌なムロゴーツは、去り際にアルベラへと向かい、「じゃあな、アルベラの嬢ちゃん。またキリエを頼む」と挨拶をしていく。そして、その後ろに控えるエリーへも向かうと、その手を握り「エリーさん、あんたの馬さばきは素晴らしい! ディオールにウンザリしたら是非我が家で雇わせてくれ!」と熱いオファーをし去っていった。その後にキリエの母がラーゼンとレミリアスへ「うちの主人が申し訳ありません。今日はありがとうございました。失礼いたします」と夫の尻をぬぐうような挨拶をして去っていく。そんな二人の様子にキリエは苦笑いを浮かべアルベラに手を振り馬車に乗り込んだ。

「まったく。相変わらず賑やかなやつだ」

 ラーゼンはアルコールのお陰もあってかご機嫌な様子で笑っていた。

 アルベラの視界の端に白い集団が見えたので目を向けると、スカートンが馬車に乗り込むところだった。恥ずかし気に手を振る彼女へ、アルベラも手を振り返す。周りのシスターたちもディオール家に一礼すると、スカートンは馬車に乗り込んでいった。

 デュオール家も父と母が馬車に乗り込もうとしたところ、城の扉の前で客人たちを見送っていた王子が声をかける。

「デュオール公爵。今日はありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ、こんなめでたい席に出席出来て光栄ですよ。娘もお世話になりました」

「そんな。こちらこそです。アルベラ嬢、いつでも遊びに来てくださいね。王都をご案内いたします。………なんなら僕らが遊びに行っても良いくらいなんですけどね」

 悪戯に王子が笑う。

 王子との対面にいい加減慣れたいところだが、アルベラは平静を装うのがやっとだった。

「ありがとうございます。けど王子に手間を取らせてしまう訳にはいきませんので、お言葉に甘えるタイミングはよく考えさせていただきますね。ジーン………様、も。ありがとうございました。今日は色々と勉強になりましたわ」

 父と母。そして警備兵や他の貴族等、大人の目が多いため、呼び捨てため口になりそうになったのをアルベラは急いで切り替えた。 

「はい、ディオール様。ありがとうございました。気を付けてお帰りください」

 ジーンの外行きの対応を始めて見たので違和感しかない。

 ぶっきらぼうな姿しか知らないので、ついニヤついてしまうアルベラを、ジーンはお辞儀の際にじろりとにらみつける。

「では、皆さんお気をつけてお帰りください」

 王子も軽くお辞儀をする。ラーゼンがそれに感謝の言葉を返し、ディオール一行は馬車へ乗り込み城の敷地外へと出ていった。

 他の貴族たちのことも見送りながら、ラツィラスはジーンへ話しかける。

「今日は楽しかったね」

「ああ」

 王子の声が隣のジーンへしか聞こえないトーンなる。

「アルベラ嬢、僕の事たまに困ったような顔で見てたよね」

「………そうかもな」

「ねぇ、どう思う? もしかして気づいたかな? それか知ってるとか」

「知らなそうだけどな。『ニセモノ』って言葉知らないくらい世間知らずだったし」

「血筋の事聞かれたの?」

「大体そうだな」

 ラツィラス王子は気遣うような顔をジーンに向ける。

「大丈夫だよ。お前が考えるようなことにはなってない。さっき、あいつも言ってただろ『勉強になった』って」

「そっか。……………………何かアルベラ嬢変わったなぁ」

「そうなのか?」

「うん。けど前に会ったのは二年前にほんのちょっとだけだったから、あんまりちゃんと覚えてないんだけどね」

 その頃のアルベラを思い出し、ラツィラスはクスクス笑った。

「何かね、前の方がしっかりした感じだったんだけどもっと子供っぽくて、今の方が大人っぽいのに面白くなってる」

「なんだそれ」

「ね。僕もよくわからないや。けっきょく変わったのか変わってないのか、よくわからないね」

 「…………けど、そっか」と、更に小声で王子は溢す。

「気づいては無さそうか。残念。………………ふふふ。皆、自分の事なのに何で分からないんだろ。笑っちゃうね」

 後半は自嘲ぎみな空気をにじませ、隣のジーンも耳を澄ましてようやく聞こえる位の声の小ささだった。返答を求めてなさそうな、独り言ともとれるそれへ、ジーンが若干憐れむような目を向ける。

 王子はにこりとジーンに笑い返す。

「ねえ、さっそく今からストーレムの街へ遊びに行っちゃう?」

 ガラリと変わった楽しげな声音。ジーンは呆れて息を吐いた。

「だめだろ」

「だよねぇ。………あっち、もう始まってるよね。あーあ。本当残念だな」

「明日には行ってた奴らの話も聞けるだろ。今日は諦めろ」

「だね。あーあ」



***



「そういえばザリアスとは何話してたの?」

 城内、ラツィラス王子を部屋に送る際にそう聞かれ、ジーンは「あ?」と気が抜けた返事を返す。

「ほら、舞踏会が始まる前、丁度ディオール公爵と挨拶してた時。やけに盛り上がってたよね?」

「ああ。あれか………」

 ジーンの脳内に、その時の会話が再生される。



『おい、ジーン。あの子とかどうだ?』

『は?』

『ダンスだよ。誘うか?』

『………さあ』

『なんだ。つれない奴だな。せっかく殿下が気を利かせて、俺を会場内に配置してくれたってのに。いいとこ見せて親孝行してやろうとか思わないのかぁ?』

『やめろ、髪が乱れる』

『お、ディオール公爵じゃねーか。レミリアス様、相変わらずお美しい。………ん? あのメイドも随分レベル高いな』

『ザリ———』

『―――父さん。父上。お父様。多めに見ておやじも可だ』

『………オトウサマ。ディオール公爵と知り合いなの?』

『ああ。北北東の件。お前の生まれる前だが、王子と勉強受けてんなら知ってるだろ? あの頃お手伝いしたんだよ………レミリアス様の方をな』

『へぇー』

『ん? よく見たらあれ娘さんか? レミリアス様によく似てるなぁ。おいジーン、あの子誘え』

『は?』

『お前があの子と仲良くなればレミリアス様とお話する切っ掛けになる』

『相手、公爵でしょ』

『ああ。だが友として、親としてだ。パパ友から始める。下心なんてあろうが無かろうが分からんもんさ。あの子と踊るの不服か?』

『はぁ………。公爵令嬢だからな。マナー的にもラツィラスが声かけるよ』

『お前、王子任せも大概にしろ? お、あの子こっち見てるぞ』

『………だな』

『なんだぁ? 王子のあの様子。お前ら知り合いか?』

『………少し前に公爵令嬢の誕生日会があったんだよ。その時あいさつした』

『なぁんだ。しっかりお知り合いになってんじゃねーか。このマセガキめ』

『あいさつしただけだ』

『ああん? 照れてんのか?』

『照れてないだろ』

『照れていいんだぞ? 可愛いくない奴だなぁ、がっはっはっは………おっと』

『おい。静かにしろよ』



 一通り思い出したが、王子にわざわざ伝えるような内容は全くなかった。

「いつものアホみたいな会話だ。ザリアスが調子に乗ってうっかりでかい声だした」

「へぇ。ホール内に配置されて嬉しそうだったもんね、ザリアス長。ジーンが踊るの見てやけに面白そうにしてたし」

「急な移動。あれお前の仕業だろ?」

「………? 何が?」

 全く覚えないよ? という王子の声に、ジーンはため息をつく。なんでこう俺の周りにはふざけた奴が多いのだろう、と。


 ***


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